DAOKO、水カン、ネバヤンのアートから、時代の特徴を読み解く

アートと音楽の相互作用から生まれる作品が、時代の「証拠」となる

横尾忠則とYellow Magic Orchestra、アンディ・ウォーホルとThe Velvet Underground、ロバート・メイプルソープとパティ・スミス、山本寛斎とデヴィッド・ボウイ……アートと音楽の相互作用が、人の脳裏に焼きつく作品を生み出してきたという事実は、歴史によって証明されている。もちろん、現代の日本においても、後に語られるだろう「伝説的な作品」というのは着々と生まれていて、そこにもミュージシャンとアーティストたちのコラボレーションによる「魔法」が介在している。

2016年3月4~6日、渋谷space EDGEにて、スペースシャワーTV主催イベント『MUSIC ART EXHIBITION』が開催される。「現在の音楽表現に欠かすことが出来ない、視覚に訴えるアートワークにフォーカスした展示会」というテーマのもと、写真家・太田好治が大判フィルムカメラ(8×10インチ判)で撮影したBRAHMANのポートレートや、クリエイティブユニット・magmaによるゆず“終わらない歌”のミュージックビデオ用美術セット、飯嶋久美子が手がけたきゃりーぱみゅぱみゅのステージ衣装など、普段近距離では目にすることのできない作品の数々が展示される予定だ。

BRAHMANポートレート(撮影:太田好治)
BRAHMANポートレート(撮影:太田好治)

先人たちが生み出してきたアートと音楽の相互作用は、ポップカルチャーを変革し、世の中を揺り動かしてきた。今回のエキシビションで展示される作品群が、現実さえも変容していくような存在になるかどうかは時の経過が明らかにするだろうが、現代の音楽シーンを取り巻く状況を語る上での「証拠」として読み解くことはできる。

作品にとって「物語」の重要性を証明する、DAOKOのポートレート

1990年代~2000年代にかけての、日本の音楽マーケットの爛熟と衰退。あらゆるコンテンツビジネスのど真ん中に音楽があった時代は終わり、今や売り上げ1万枚でオリコンチャート1位を取ることも不可能ではなくなった。エンターテイメントコンテンツの多様化が進む今、受け手の判断はシビアになったと言えるはずだ。だからこそ、ミュージシャンの作る作品とアートワークの相互作用が、何よりも重要なのだと言えるだろう。いうならば、相互作用とは「物語」を付け加えること。コンテクストを配置し、より意味のあるものとして作品に重みを与える。

例えば、顔出しを制限してきたDAOKO。彼女はそのミステリアスな存在感で人気を得てきた。1stシングルをリリースするタイミングで素顔を公衆の面前に晒した時、おそらくアーティスト側が恐れたのは、その「謎」という魅力が薄れることではないだろうか。カメラマンの神藤剛が撮影したDAOKOのポートレートは、リアリティーとフィクションの間を漂う彼女の魅力を見事にとらえ、彼女の物語を強固にし、より拡張していく役割を果たしている。青みがかった彩度の高い風景の中で、彼女は悠然としている。何があっても揺るがない、そんな強さを彼女は感じさせる。神藤剛は、音楽家が描こうとする物語に潜り込み、その一番濃いエッセンスをすくい出し不敵にも世界に表出させているのだ。

DAOKOポートレート(撮影:神藤剛)
DAOKOポートレート(撮影:神藤剛)

現代におけるミュージックビデオの価値を最大限に活用した、水曜日のカンパネラ

今、音楽リスナーが初めて新しい音楽に触れる機会は、圧倒的にミュージックビデオという形が多い。携帯デバイスからのアクセスが容易で、無料で視聴できるという点で、ラジオやテレビよりもはるかにアドバンテージが高い。この優位性を巧みに利用して、インディーズのままメジャーの舞台さえも食ってやろうと野望を燃やすアーティストが、水曜日のカンパネラだ。

彼女たちのポピュラリティーを一層高い位置に押し上げたのが、『カンヌ国際広告祭』の受賞経験もある映像ディレクターの児玉裕一。水曜日のカンパネラとは、最新アルバム『ジパング』収録の“ラー”でコラボ。古代エジプトをイメージさせるCGを多用した映像は、豪華絢爛。「日清カレーメシ」とのコラボレーションをど真ん中に据えながら、水曜日のカンパネラの魅力を十二分に伝えるという点で、攻撃的な作品に仕上がっている。『MUSIC ART EXHIBITION』では、児玉裕一が手がけた絵コンテが展示されるだけでなく、コムアイ(水曜日のカンパネラ)と児玉、そして“ナポレオン”のミュージックビデオを手がけた山田智和によるトークショーが開催される。「ミュージックビデオ」が今の時代において、どれほどアーティストの知名度を左右するコンテンツであるか、彼らの口から語られることになるだろう。

ミュージシャンの「温故知新」に説得力を持たせる、本秀康の存在

近年、東京の音楽シーンを代表するバンドたちをより印象づけるイラストレーションを描いているのが、イラストレーター・漫画家の本秀康だ。ジョージ・ハリソンの熱心なファンとして知られる本だが、若いインディーズバンドのライブにも足繁く通う。ceroも、本が初期からひいきにしているバンドのひとつだ。彼がジャケットを担当した1stアルバム『WORLD RECORD』は、鈴木慶一がプロデュースを手がけたサウンドもさることながら、そのアイコニックなジャケットイラストもひとつの「温故知新」なムードを作り出している。

cero『WORLD RECORD』ジャケット
cero『WORLD RECORD』ジャケット

2014年には、音楽好きが高じて7inchのアナログシングル盤を専門とするレーベル「雷音レコード」を立ち上げ、第1弾として大森靖子の『君と映画』をリリース。そして昨年、本のラブコールを受けて「雷音レコード」からリリースした若手バンドの1組が、never young beachである。本は、楽曲から受けたインスピレーションから、はっぴいえんどや細野晴臣の作品を手がけた岡田崇をデザイナーとして指名し、本自身が描いたイラストと岡田のデザインによってジャケットを完成させた。温故知新をモットーとするミュージシャンたちの台頭と、1990年代からレコスケくん(雑誌『レコード・コレクターズ』『ミュージック・マガジン』にて連載していた音楽漫画のキャラクター)を描いてきた本と彼のイラストの存在は、深く結びついていると言えるであろう。

never young beach『あまり行かない喫茶店で』ジャケット
never young beach『あまり行かない喫茶店で』ジャケット

『MUSIC ART EXHIBITION』で展示されるアートワークの数々は、上記に挙げた以外も、現代の音楽シーンを分析する上での貴重な資料だと言える。また、エキジビション開催中にはトークショーも実施。福田哲丸(快速東京)と富永勇亮(dot by dot inc.)による「音楽×広告<世界を変えるシェアとハック>」では、ソーシャルメディアを活用した発信方法について論じられ、サウンドアーティスト・evalaとアートディレクター・YKBXによる「音楽×アニメーション<デジタル表現の未来予報>」では、人工知能や仮想体験の進化が音楽作品に及ぼす可能性について学ぶことができる。これらのトークショーや展示を自分の目で触れて、体感することによって、音楽の「今」だけでなく未来の姿も見えてくるはずだ。ミュージシャンとアーティストが作り出す芸術に生で触れて、作品や原画から湧き上がるエネルギーを体感してみるのはいかがだろうか。

イベント情報
『SPACE SHOWER MUSIC ART EXHIBITION』

2016年3月4日(金)~3月6日(日)
会場:東京都 渋谷 space EDGE
時間:11:00~19:00(3月5日は20:00まで)
『ART EXHIBITION』参加クリエイター:
飯嶋久美子
植本一子
オオクボリュウ
太田好治
上岡拓也
児玉裕一
サイトウユウスケ
神藤剛
高橋由季(コニコ)
谷口恭介
谷端実
cherry chill will
東市篤憲
西村ツチカ
magma
町田ヒロチカ
本秀康
山根慶丈
YKBX
鷲尾友公
料金:無料

『CREATOR'S SESSION』
2016年3月5日(土)17:00~18:00
トーク:
福田哲丸(快速東京)
富永勇亮(dot by dot inc.)

2016年3月6日(日)15:00~16:00
トーク:
evala
YKBX

2016年3月6日(日)17:00~18:00
トーク:
コムアイ(水曜日のカンパネラ)
児玉裕一
山田智和
※トークは予約制

『TOKYO MUSIC ODYSSEY』

「TOKYO MUSIC ODYSSEY」とは、スペースシャワーTVがプロデュースする、音楽を中心に音楽と親和性の高いカルチャーも巻き込んで開催する複合イベントです。素晴らしい音楽の発信、新しい才能の発掘を通して、音楽の感動を多くの人に伝え、体験できるリアルスペースを提供します。私たちの心を揺らし、人生を豊かにしてくれるアーティスト、クリエイターが最高に輝く場所を創ることを目指します。そして、未来へ続く音楽文化の発展へ貢献していきます。「TOKYO MUSIC ODYSSEY」は5つのコンテンツで構成、イベントを開催いたします。(オフィシャルサイトより)



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