SPIRAL DELUXEの実態に迫る ジェフ・ミルズは今なぜジャズを?

ジェフ・ミルズには、ジャズドラマーを志していた過去があった

「私は高校時代、ジャズ・フュージョンに夢中だった。ビリー・コブハムやスタンリー・クラークら、本当のマスター・ミュージシャンたちにだ。DJをとても徹底的に、集中して行うやり方は、こうしたタイプのミュージシャンから基本的に学んだのだ」(『WIRE』誌、2009年2月号のインタビューより)
「私はドラムを演奏していた。ダブルキック、タムロールにシンバルもたくさん使って、とても騒々しかった。いくつかのバンドに在籍したが、DJをするようになって、すべて捨て去った」(同上)

近年はクラシックのオーケストラとの共演に力を入れ、テクノという範疇を超えた活動を見せるジェフ・ミルズだが、彼のプロフィールの多くはThe Wizardの名前でまずラジオDJとして注目され、やがてマッド・マイクとUnderground Resistance(UR)を結成するあたりからスタートする。DJ以前の高校時代、熱心にドラムを叩き、複雑なリズム、ビートの研究をし、ジャズドラマー / パーカッション奏者を本格的に目指していたことは、本人の口から少しずつ明かされてきた(大学の奨学金を得られず失望し、ドラマーの道を諦めてDJ活動へと移行した経緯はここに詳しい / 外部リンクを開く)。

SPIRAL DELUXE(左から:ジェフ・ミルズ、ジェラルド・ミッチェル、大野由美子、日野“JINO”賢二)

ジェフ・ミルズ率いるエレクトロニックジャズカルテット、SPIRAL DELUXEのライブを観て、まず強く感じたのは、ジェフはドラマー / パーカッション奏者だったのだという至極当たり前のことだった。だが、それはSPIRAL DELUXEのアルバム『Voodoo Magic』を聴いたときには正直あまり感じなかったことだ。デトロイトテクノとジャズの繋がりについては、既にいくつかの物語が用意されていて、特にアフロフューチャリズムや、アストラルやコズミックな世界観と結びつけた物語は強力だ。だが、その物語から離れてみてもいい時期なのだろうと、SPIRAL DELUXEの演奏は気づかせてくれた。

今、ジェフ・ミルズがジャズに向き合う必然性。キャリアを紐解いて解説

1963年生まれのジェフがドラムを叩いていたのは1970年代後半から1980年代初頭にかけてだ。ウェイン・ショーターやジョー・ザヴィヌルらのWeather Report、チック・コリアやスタンリー・クラークらのReturn to Foreverが人気を博していた時代に、ミュージシャンを目指した若者の典型と言ってもいい。だが、当時はパンクとヒップホップの黎明期でもあり、ジェフがDJをはじめ、やがてURとして活動をする頃には、すっかりジャズフュージョンには背を向ける方向に歩み出した。

つまり、騒々しくテクニカルなドラムが支える音楽とは対極にある、音数も展開も少ないミニマルに反復する音楽にシフトした。モノクロームでインダストリアルなアートワークも伴って、デトロイトテクノはシカゴハウスよりストイックでシリアスなイメージを与えたが、一方でモータウンからPファンク、のちのJay Dee(J Dilla)まで繋がるブラックミュージックの系譜に連なる音楽であることを、グルーヴや音色、サンプルのなかに控えめながら伺わせてもいた。ただ、ジェフは徹底してストイックな方向に向かい、そうした系譜とも距離を保っていたように感じられた。

ジェフ・ミルズ

URが登場した1980年代末、ジャズの世界では、復活したマイルス・デイヴィスやハービー・ハンコックが、あるいはWeather Reportを解散したジョー・ザヴィヌルがシンセサイザーと打ち込みのサウンドを積極的に採り入れ、少なからぬジャズミュージシャンがバンドではなく個人の多重録音に没頭していった。テクノロジーの発展がそのことを促したのだが、ジェフ・ミルズらの音楽も同じ恩恵を受けて生まれたのは単なる偶然ではなかったように思われる(もしかしたら、現在のジェフはそのミッシングリンクを埋めようとしているのかもしれない)。

1990年代に入って、ジェフがソロ活動を充実させ、ミニマルテクノのスタイルが拡がるにつれて、テクノのプロデューサー / DJのなかにジャズフュージョンからの影響が垣間見えるようにもなった。そのコードやハーモニーが引用され、ストイックだったトラックに彩りを加えていった。同じ頃、アシッドジャズの流れで、ミュージシャンとプロデューサー / DJとのセッションも目立つようになり、それは1990年代後半のドラムンベースのバンド化にも繋がっていった。だが、カール・クレイグがInnerzone Orchestraで、マッド・マイクがGalaxy 2 Galaxyで積極的にミュージシャンを加えていったのに対して、ジェフは淡々と自分の制作とDJを続けた。

ジェフの言葉とライブ演奏から明らかになった、SPIRAL DELUXEの特異性

そして2000年代以降、無声映画『メトロポリス』(1927年作、監督はフリッツ・ラング)のサウンドトラックや、オーケストラとの共演で(参考記事:「音楽は言語のようになる」ジェフ・ミルズが音楽の進化を語る)、独自の方向性を模索しはじめ、狭義のテクノの枠から緩やかに外れていくのだが、SPIRAL DELUXEはかつて熱心に学んだジャズに再び戻ることに取り組んだバンドなのだという。ネットラジオ「dublab.jp」で語ったジェフ本人の言葉を少し紹介しよう。

ジェフ:このバンドのコンセプトは長年思い描いていた自分の音楽のルーツに戻りたいという気持ちからはじまっている。ジャズバンドの個々のミュージシャンが自発的にインプロビゼーションをする空間を残す手法をSPIRAL DELUXEは取り入れ、クリエイティブな自由を重視した。個々のミュージシャンが他のメンバーから切り離されて自分自身の世界を探求することができ、同時に全く新しいアイデアを遠慮なく実験できるバンドとも言える。(「dublab.jp」2018年9月1日放送回より)

SPIRAL DELUXE『Voodoo Magic』を聴く(Apple Musicはこちら

11月6日、六本木Super Deluxeのステージには、『Voodoo Magic』と同じく、キーボードのジェラルド・ミッチェル、ベースの日野“JINO”賢二、Moogシンセの大野由美子(Baffalo Daughter)、そしてドラムマシーンとパーカッションのジェフが立った。

左から:ジェラルド・ミッチェル、ジェフ・ミルズ、日野“JINO”賢二、大野由美子 / 撮影:Moto Uehara

アルバムの楽曲をやってはいても、その録音同様にインプロビゼーションの比重が多いようだったが(ファンキーなノリに走ろうとするジェラルドと日野と、クールにキープするジェフと大野の対照的で緊張感もある対比が面白い)、バンドをコンダクターのように変化させ、コントロールしていたのは間違いなくジェフのドラムだった。

ビートの抜き差しや拍子の変化を的確なタイミングで瞬時に行なっていく姿は、ドラムセットこそ叩いていないがドラマーそのものだと言っていい。その指の動き、身体の揺れ、そしてメンバーを追う目線の動きも、アルバムを聴いているだけでは感じ取ることはできなかったことであり、SPIRAL DELUXEにおけるジェフのライブパフォーマンスを目にしたことは、彼がこのバンドでやろうとしていることがはっきりとわかった瞬間であった。

左から:日野“JINO”賢二、ジェフ・ミルズ / 撮影:Moto Uehara

それは、プロデューサー / DJがミュージシャンと対等以上のことをやれることを示していた。と同時に、ジェフがドラマーとしての自分をアップデートした姿を40年近くの歳月を経て目撃した瞬間であった。ジェフが言うように、このバンドが継続し、録音で更なるチャレンジをしてくれることを期待している。

SPIRAL DELUXE『Voodoo Magic』ジャケット
SPIRAL DELUXE『Voodoo Magic』ジャケット(Amazonで見る

イベント情報
『Axis Records presents: Spiral Deluxe “Voodoo Magic” Showcase at Super Deluxe』

2018年11月6日(火)
会場:東京都 六本木 SuperDeluxe

リリース情報
SPIRAL DELUXE
『Voodoo Magic』(2LP)

2018年9月7日(金)発売
価格:4,117円(税込)
AX-076

[LP1]
[SIDE-A]
1. E=MC²
[SIDE-B]
1. Voodoo Magic
2. The Paris Roulette
[LP2]
[SIDE-A]
1. Let It Go featuring Tanya Michelle
[SIDE-B]
1. Let it Go (Terrence Parker Mix)

プロフィール
SPIRAL DELUXE
SPIRAL DELUXE (すぱいらる でらっくす)

エレクトロニック・ミュージックのパイオニアDJ/プロデューサーにして、音楽宇宙を自由自在に行き来するジェフ・ミルズが、長年の構想を形にしたエレクトロニック・ジャズ・カルテット。“素晴らしいスキルを持つミュージシャンを集めて「スーバーグループ」を作りたい”というジェフの構想のもと、2015年、東京・神戸で開催されたTodaysArt JPで現在のメンバー~ジェフ・ミルズ、大野由美子、日野賢二、ジェラルド・ミッチェルの4名が出会い、活動を本格化させる。ジャンルやバックグラウンドの異なる4人のミュージシャンが最高のハーモニーを追求してプレイし、音楽から最高級のスピリットを見つけ出そうとする冒険は、ワールドツアーと2枚のライヴEPを経て深化を続け、2018年9月にはデビュー・アルバム『Voodoo Magic』を発表。同11月には、東京にてスペシャルショーケースライヴを行い、新曲も披露。今後の活動にも期待が高まる。



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