流れ星を見に鳥取砂丘へ。雨の鳥取観光旅行に奇跡は起きるか?

満天の星空の下、流れ星に願いをかけに行く、はずが……。

「鳥取砂丘に流れ星を見に行ってください」。それ、本当に仕事ですか? という話をもらった。なんでも鳥取県は、その綺麗な星空を観光などに活かす「CATCH the STAR 星取県」という取り組みを行っており、今年は音声AR技術と夜空に流れる「流れ星」を検知する技術を使って「星取県」アピールを検討しているというのだ。

流れ星って検知できるの? 偶然見るからありがたみがあるのでは? 話を聞いてもいまいちよくわからない。ということで、一足先にそれを体験すべく鳥取県に飛んだ。

せっかくなので鳥取への旅の提案も記事にしようと、時間を前倒して午前中に鳥取砂丘コナン空港に降り立ったわけですが、鳥取は生憎の雨模様。到着した瞬間に「流れ星、見れないわー」と絶望した。

まさかの雨天に気持ちもどんより

気を取り直し、日が暮れるまでに天候が快方に向かうのを願いながら、鳥取で訪れるべきスポットを巡っていく。まずは、神話『因幡の白兎』の舞台といわれる白兎神社へ。

境内の脇にある池でうさぎが傷口を洗って治療したという言い伝えにちなみ、皮膚病や怪我にご利益があると言われる有名な神社だ。また、うさぎが神話に登場する大国主と八上姫の仲をとりもったため縁結びの神社ともいわれている。そのため叶わぬ恋も叶える恋愛成就の神社としても知られる。

白兎神社

『古事記』や『日本書紀』にも記されている、日本で初めてのラブストーリーの発祥地だけあり、絵馬に書かれているのも切なる恋愛の願いばかり。私も白うさぎの恩恵にあずかるべく、気合いを入れて恋みくじをひいた。

小吉だった。「情熱の愛があっても逢おうにも逢えない難所がある」とか書いてある。雨もどんどん強くなってるし、なんかもう最初から難所しか見当たらない。小吉のおみくじは固く結び、集中力を高めて参拝した。

絵馬には恋愛成就の願いがずらり
小吉のおみくじは、固く結んで気を取り直す

続いて、湯梨浜町の湖畔にある書店「汽水空港」へ。2015年に東京から移住した店主が手づくりした店舗は、まるで秘密基地のようなわくわく感と、人懐っこい雰囲気が漂う。

ZINEが豊富に並べられているほか、絵本や写真集、詩集から、哲学、自然、サイエンス系の書籍まで幅広い選書がされており、その審美眼が光っている。余談だが、店主は私に少数民族の本を勧めてきた。理由はわからない。

書店「汽水空港」の店内。無垢の木のぬくもりが温かい

そのすぐそばには、かつて歯科医院だった建物をそのまま使った古着屋「朴訥(ぼくとつ)」も。店内には診察室や待合室の札が残っている。店主は高円寺の古着屋「即興」での勤務を経て、旅で訪れ気に入ったこの地で数年前に独立。レディースメインの古着屋がほぼないという鳥取に新たな風を吹き込んでいる。というかとにかく価格が安くてびっくりした。東京にあったら通うのに、と思ったが、鳥取だからいいのだなとすぐに思い直した。

古着屋「朴訥」店内。「待合室」や「診察室」の表記がそのまま残っている

鳥取の温かくておもしろいお店巡り。雨天に沈んだ気持ちも少しずつ和んでいく

少し移動して鳥取駅方面へ向かう。明治35年から続く和菓子屋で、和風クッキーの「砂の丘」など、鳥取土産の定番商品で知られる「宝月堂」を訪れた。昨年7月にリニューアルオープンし、店内にはイートインスペースもあるので、旅の途中に一息つくのもいいかもしれない。

「宝月堂」店内は上品ながらも、落ち着ける雰囲気

駅付近のアーケード内にある上田ビルは、地元の人じゃないと見つけられないだろうというような佇まい。そのなかにある「ボルゾイレコード」は、店主が量販店での勤務を経て2009年に独立してオープンした小さなレコード店だ。アナログレコードはもちろん、選び抜かれたCD、カセット、書籍などが販売されており、鳥取のカルチャーの発信地になっている。言葉少ない店主だがじっくり音楽談義したいと思わせる柔らかい空気感が素敵だった。

ボルゾイレコード

そのすぐ横にあるのが古道具店の「santana cotoya」。もともと「santana」と「cotoya」という店にわかれていたが、13年前に店主同士が結婚して「santana cotoya」として営業し始めた。「アンティークの原石を見つけたい」と店主が選ぶ国産の食器や家具からは、手作りと工業製品の過渡期に生産されたものならではのチャーミングさが漂う。とっても喋り好きのご主人との会話に夢中になっていたら、カメラマンに置いていかれてしまった。

「santana cotoya」。時間を忘れて店長と打ち解ける

雨やまぬ中、鳥取砂丘へ。そもそも音声ARとはなんでしょう?

さて、一通り鳥取観光を終えたわけですが、ここまで雨は一度も止むことはありませんでした。やばい。流れ星どころかふつうに星が見えない。このままだとただ鳥取のイケてるスポットを回っただけの記事になってしまう。本来の目的を遂行できそうにない状況に折れかけた心をなんとか自力で支えて鳥取砂丘へ。

今回のプロジェクトを進める鳥取県観光戦略課の井田さん、バスキュールのリードエクスペリエンスディレクター原さんと合流する。開口一番、「雨ですねえ」と全員の虚しい笑いが鳥取の空に消えた。

冒頭にも書いたように今回体験する「CATCH the STAR 星取県」のプログラムにはバスキュールの「音声AR」が導入されている。なぜあえて「音声」を使うことになったのか。

「ARって一般的には視覚を拡張するイメージが強いですが、本物の砂丘の上で視覚情報を出したらせっかくの景色を楽しめない。目の前にある本物は肉眼で楽しんでほしいから、音声ARで聴覚情報を拡張します」と、原さんは説明してくれた。いやいや、その音声ARってなんでしょう?

「位置情報で音声を出し分けるっていう単純な仕組みなんですけどね。GPSを使って、アプリで簡単に楽しめるものにしたいと思っています」と、原さんが音声ARの説明をしてくれているうちに、なんと、雨が止んだ……。

奇跡。まだ雲は厚いが、この勢いで流れ星が見られるのではないかと期待に胸が膨らむ。さっそく、ある女性の砂丘を舞台にした恋の物語を追想するという、デモの音声ARを体験させてもらった。

ついに晴れ間が。流れ星に願いを託せるか

体験する物語は、失恋して訪れた白兎神社と鳥取砂丘で運命的に出会った、名前も連絡先も知らない素敵な男性に再会できたらと、彼と初めて出会った鳥取砂丘中心部の丘である「馬の背」に登っていくという内容。砂丘の入り口に差し掛かると音声がスタートし、馬の背に向かって砂丘を登っている間に、物語が展開していく。

白兎神社の伝説とは別にもうひとつ。
最近流行ってる噂。
この砂丘を願い事をしながら歩いて、
馬の背に向かっている間に流れ星が流れると、願いが叶うって。
よし、とにかく登ろう。
(音声ARデモより)

今日、さっき白兎神社には行ったばかり。そしていま物語の舞台である砂丘が目の前に広がっているというシチュエーションから、とてもリアルに物語が入ってくる。

晴れていれば大きな空に星空が瞬く

「流れ星を見たい!」という自己願望まるだしの思いでここまで来たが、あまりの臨場感に「彼女の恋を成就させるためにも流れ星を見なければ!」という使命感が生まれつつあった。一度物語はストップし、もくもくと真っ暗な砂丘を登る。

馬の背に到着すると急に風がぬけ、潮騒と海の香りに包まれた。それと同時に物語が再開する。GPSの位置情報から、歩行時間と物語の長さが計算されているため、自分の足取りとストーリー展開が一致するのが新鮮だ。「流れ星は、流れたかな?」というセリフのあと、しばしの沈黙。

誰もいない
そんなうまい話ないよね
でも、いつもと変わらない砂丘と海は優しく私を包んでくれる気がするよ
(音声ARデモより)

流れ星、流れず。悲恋の結末になってしまった。白兎神社の恋みくじに書かれていた「情熱の愛があっても逢おうにも逢えない難所がある」という言葉がリフレインする。実体験とARがゆるやかに溶け合い、本当に悲しくなってきた……。

ちなみに流れ星が流れる場合は、ハッピーエンドへと続く物語が展開される。星空を24時間観測して流星を検知するシステムが、音声ARのシステムと連動し、物語の行方を決めているというのだ。

満天の星空の下、無数の流れ星が降り注いだ

音声ARを体験したあとには、砂丘の空に無数の流れ星を見ることができた! さすが星取県。文字どおり満天の星空の輝きに吸い込まれそうになる。もしこの瞬間に馬の背に登っていたら流れ星が流れて、彼女の恋物語はハッピーエンドになったかもしれない。

肉眼では吸い込まれるような満点の星空が広がっていた

流れ星も恋も、一瞬のきっかけで運命が動く。この音声ARでは、いま立っている場所でしか生まれることのない、あなただけの物語を体感することができるのだ。

体験した音声AR恋愛ストーリーは今回の実証実験を経て今後物語もアップデートされるという。鳥取県観光戦略課の井田さんは「鳥取の海は透明度がかなり高いので、このプロジェクトがスタートする夏には海も星も楽しんでほしいです」と語ってくれた。

鳥取砂丘を舞台にした、鳥取砂丘でしか体験できない物語。日本で初めてのラブストーリーが生まれた地で、星空に新たな物語を乗せて願いを預けてみてほしい。

プロジェクト情報
CATCH the STAR 星取県

流れ星をつかまえて、恋愛成就を祈願する。日本で初めてラブストーリーが生まれた地”星取県”で恋の行方を占う。



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