「フジワラノリ化」論 第7回 辻希美 「モー娘。」を剥いだママさんの強度 其の二 辻希美が、モー娘。で晒したこと

其の二 辻希美が、モー娘。で晒したこと

「ASAYAN」が次週いよいよ新メンバーの発表ですっ、と川平慈英に言わせた後の一週間というのは、それなりにその話題が色々な場面で持ち出されたものである。モーニング娘。は、定期的に加入・脱退の物語を興すことで、自分たちの枠組みをドラマ仕立てにしていった。そこから漏れること、そこに入ってセンターを陣取ること、下部組織を作ってミックスさせて、グループ同士を群がらせてファミリー化させること、とにかく人材を流動化させることでグループの鮮度を保とうとした。実はこれって、いわゆる会社の人事と同様で、昇格もあれば左遷もある、ポジションを得るために、実力勝負もあれば媚びもある、社会の縮図を若い女子に代用させていたのだ。「抱いてHOLD ON ME!」でオリコン1位を獲得し、企画モノからグループとしての定着が成されたころに加入した後藤真希は、新人でありながらセンターポジションを任され、そのまま「LOVEマシーン」の大ヒットへ繋げていく。不要に体育会系と化していた彼女らに、後藤真希という、“決して素行が定まっていない”異分子が加わることで、グループはむしろ結束を強めていくことになる。そしてドラマは増長する。「ああいう感じなのに、センターなのだ」から。石橋貴明に極端に可愛がられる後藤真希と、邪険に扱われたその他たち。みんな笑顔で仲良しです、ではなく、なんで後藤真希だけフューチャーされるんですかと不満顔を隠さないことで、モーニング娘。という組織に向かう興味を、知らず知らずに与えていく。初期メンバーであった福田明日香が抜け、後藤真希が加入し、完全に軌道を掴んだ所で今度は石黒彩が脱退してしまう。受け手を慣れさせない変動をいちいち細かに繋いでくる。この三段階はモーニング娘。を味合う作法を植え付けたといえるだろう。ったく、誰が残ってるのか分からないねえ、と、サラリーマンが新橋でガヤガヤ漏らすのであった。死んで欲しいくらいに恨んでいる係長はいつまでも係長のままなのに、モーニング娘。は、出入りを淡々と実行していくのだ。それだけで、ドラマなのだ。

「フジワラノリ化」論 第7回 辻希美

2000年4月に4人のメンバーを追加する。それが石川梨華・吉澤ひとみ・辻希美・加護亜依の4人である。10年が経とうとしている今から振り返ると、この4人の加入が、「モーニング娘。を絶頂に持っていく」ためではなく「モーニング娘。を長期的に生き残らせる」ために不可欠な出来事だったと気付かされる。石川というやや旧式のアイドル然とした振る舞いとボーイッシュな吉澤はすぐにグループ内で対向的な位置を築いたし、辻×加護の連係はいうまでもない。個人の人気に走ると、そのグループは長続きしない。個人の失速がグループの失速に繋がるのは、アイドルグループとして懸命な在り方ではない。嵐やSMAPのように人気を分散させられれば、低迷のリスクを回避できる。モーニング娘。は人気を分散させるのではなく、ドラマを分散させた。ドラマが無ければドラマを作ってみせた。保田圭が弄られ、飯田圭織が笑われ、中澤裕子が野次られ、安倍なつみや後藤真希が愛でられる、そんな中に辻・加護という隠し技を注入する。小学校を卒業したばっかりの子どもを踊らせ歌わせることがとりわけセンセーショナルに受け取られる時代だったわけではない。ある程度慣れていた。だからこそこの辻加護の存在も、加入の途端に爆発したわけではない。あれまぁこんなに小さい子が、という認識に留まっていた。

加入して数ヶ月後に、辻加護は矢口真里と共に身長150cm以下のユニット、ミニモニ。を結成する。ごった煮状態だったグループを俯瞰した時に、そこからチビを数人引っ張り出せることに気付いたのだ。チビを引っ張る、そう、こういうコンプレックスをむしろ表に出していくこと、これがつんくの意図だった。その引っ張りによって辻加護のキャラクターは開花し、この2人は女性集団の下に付く「やり口」を巧妙に発露させていく。戦略はない。キーキー騒ぎ、ギャーギャー喚く。プロ意識を見せすぎずに、むしろ引き算で素人のままでいる。それが一人であれば団体から孤立しかねないが(後藤真希/松浦亜弥/藤本美貴が一定期間で終わったのはあのプロジェクト内で終始個人として見られたきたからであろう)、辻加護という近場での連動が可能である以上、引き算の後の「素人」が許容されていく。素人のままの二人が、会社化した組織になだれ込んでいく。この面白さとあやふやさは、ミニモニ。というプチ転職でより明確なものとなっていった。矢口真里というのは、今どこかで見かけても、未だにハキハキしている。イメージとしては、違いますよっ、と誰かに金切り声をあげている感じだろうか。それは辻加護という意識的な素人を引き立てつつ自分も気付いてもらう唯一の方法を彼女なりに見つけたのであろう。

2004年にW(ダブルユー)としてペアでの活動を始めた辻加護は揃ってモーニング娘。からの卒業を発表する。間違いはここから始まる。なぜならば上記に記したように、素人のままの彼女らは、ある会社に所属するからこそ、愛でられたのである。独立してはならなかった。06年に加護の喫煙問題が明らかとなりWは凍結、辻希美は翌年にギャル曽根、時東ぁみとともに新ユニット『ギャルル』を結成するが、その直後に妊娠・結婚を発表する。両人の、雪崩のような去り方はおそらくモーニング娘。という母体では手に負えなかったのだろう。個々人が、それぞれに嫌みを言われ、まさかねえとわざとらしく驚かれ、それではさようならと手を振られた。これでもう、辻は、加護は、市場に上ってくることは無いだろうと確信を持った。時期は忘れたが、安倍なつみがaiko辺りの歌詞をパクって問題になったことがあったが、あの程度で彼女が消えていくとは思わなかった。むしろ辻加護がこれで消えるだろうと思った。しかし、結果的に、安倍はあの些細なネタで生命力を弱め、加護は痛々しくもラディカルに芸能界にこびりついている。そして、辻である。妊娠、そして子どもを産み、ブログを始め、赤ちゃんを産んだ数ヶ月後には、赤ちゃんブランドと提携したベビー服をプロデュースするという素早さを見せる。「こないだまで小学生だったのにモーニング娘。」という驚きで迎えられた彼女は「モーニング娘。だったのに、子どもがいる」という驚きを新たに得て、モーニング娘。を洗い流した(モーニング娘。なのに喫煙、は効かなかった=加護+後藤)。一人だけ、市場を一新させることに成功したのである。その市場こそ、「ママさんタレント」である。元メンバーの石黒彩は引退後、この称号を使い荒らした。しかし長持ちしなかった。なぜならば、そもそも「子どもがいてもおかしくない」からである。辻希美は、「子どもがいるとおかしい」のである。しかし、いる。それを、語る。載せる。ここに大きな需要が生まれたのである。

次回は「少ない『ママさんタレント枠』を奪い取った辻希美」と題して、枠争いが加熱するママさんタレントを考えながら、今現在、辻希美がいかにこの枠を掴もうとしているのかを明らかにしていきたい。



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