映画『モキシー』を彩るパンクロック。校内の性差別にZINEで抵抗

またひとつ、学園映画のあたらしい形が提示された。3月3日からNetflixで配信が開始された映画『モキシー ~私たちのムーブメント~』は、校内にはびこる性差別に、女性たちが連帯して立ち向かう物語だ。平気な顔で容姿の格付けをしてくる同級生や、権力を自分の身を守るためにしか行使できない学長に立ち向かうため、主人公のヴィヴィアン(ハドリー・ロビンソン)がとった行動──パンクミュージックをかけながら、不平等な現実を訴えるZINEを作る!──を見ていると、こちらまで勇気が湧いてくる。

フェミニズムや先人たちの活動に力を授かりながら、女性たちが協働して不平等に立ち向かう際の、パワフルな姿は魅力的だ。加えて綴っておきたいのは、彼女たちの運動に性別こそ違えど賛同し、さりげなく身体に連帯の印を刻んだセス(ニコ・ヒラガ)の存在について。ごく自然にフェミニズムを支持するセスを「ホットな存在」として描いたことや、そのキャラクターに日系ルーツを持つヒラガを起用したことも『モキシー』が学園映画史に刻んだ成果ではないだろうか。

今回は、さながらセスのように、あっこゴリラが提唱する「GRRRLISM(決めつけられてきた枠組みから解放するパワーの総称)」や、『モキシー』でも楽曲が使用されるバンド、The Muffsのロゴのタトゥーを身体に刻み込む岡俊彦氏(自らが企画する上映イベント『サム・フリークス』では「文芸フェミニスト映画2本立て」などとして「女たちの物語」を数多く紹介してきた)に、『モキシー』で使用される音楽に込められたメッセージや、同作の系譜に連なる映画について紹介してもらった。

性差別が蔓延る現状にNOを。「声を上げられるようになるまで」を描いた物語

祝・Kill Rock Stars設立 30周年! 1990年代初頭のパンクロックシーンで巻き起こったライオットガールムーブメント(音楽とフェミニズム、政治を組み合わせた運動。男性中心主義的で女性を蔑視する傾向にあった当時のパンクシーンに対して女性たちが反抗した)。その中核を担ったBikini KillやHuggy Bearといったバンドを輩出したレーベルとして知られるKill Rock Starsのアニバーサリーイヤーに相応しい映画がNetflixで配信リリースされた。それが『モキシー ~私たちのムーブメント~』である。

『モキシー ~私たちのムーブメント~』予告編

2015年に出版されたジェニファー・マチュー著のヤングアダルト小説『Moxie』を原作とするこの映画は、性差別が蔓延る学校の現状にうんざりしている高校生のヴィヴィアンが、母親が集めていたZINE(=自主制作本。ライオットガールムーブメントでは、そのフェミニズム思想を広めていくという点においてZINEが大きな役割を果たした)にインスパイアされ、自分も学生生活の中で感じている不満や想いを匿名で綴ったZINE『モキシー(「勇気」の意)』を制作。女子トイレにこっそり置いて配布を開始すると、その歯に衣着せぬ内容が学校中で話題となり、大きな変化を生み出すことになる、という物語だ。

本作は主人公の母親役で出演もしているエイミー・ポーラーにとって2作目となる長編映画監督作品である。映画監督としてのデビュー作となった『ワイン・カントリー』(2019年)では自らが主演を務め、さらには自分と同世代の女優陣でキャストを固めて楽しいシスターフッドコメディを作り上げた彼女。『モキシー』では役者としてはあくまでもサポートに回り、若者たちにエールを送るかのように「声を上げられなかった少女(たち)」が声を上げられるようになるまで」を描いた青春映画を届けてくれたのだった。

左が主人公の母親役として出演するエイミー・ポーラー監督、右がハドリー・ロビンソン演じる主人公のヴィヴィアン

『ワイン・カントリー』に続いて『モキシー』でも女性陣はもちろん魅力的に描かれているが、それと同じくらいに魅力的なのが主人公と恋仲になるセス(ニコ・ヒラガ)だ。フェミニズムに共感を示して主人公を見守ってくれる、理想的すぎるほど理想的な男子高校生(自身もスケーターであるニコ・ヒラガは『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』に続いて、またもやスケーター役)。女性に対する性的暴行などのシビアな現実を考えれば、この理想的なキャラクターは「それでも未来は暗くない」と希望 / 理想を謳い上げようとする作り手の真摯な姿勢の表出と考えたい。そして、物語のクライマックスはフランク・キャプラの『スミス都へ行く』(1939年)から連綿と受け継がれている、アメリカ映画お得意の「演説」なのだから、世界中の人々に勇気と力を与えてきたアメリカ文化のオプティミズムがここにも息づいていることがはっきり分かるというものだ。

右がニコ・ヒラガ演じるセス

「わきまえない女」を賞賛するBikini Killの名曲“Rebel Girl”と映画の親密な関係

さて、主人公の母親がかつてZINEを集めていたのは1990年代初頭にアメリカで始まった、ライオットガールムーブメントからの影響であり、当然ながら作中においても音楽は非常に大きな役割を果たしている。その中核となっているのがBikini Killの名曲“Rebel Girl”だ。

Bikini Kill“Rebel Girl”を聴く(Apple Musicはこちら

<堂々と顔を上げる彼女の親友になりたい / 反逆する少女 / あなたは私の世界の女王>いう歌詞で「わきまえない女」を賞賛する、ライオットガールムーブメントにおいて非常にアイコニックな楽曲となったこのナンバーは、かつて『東京国際レズビアン&ゲイ映画祭』で上映された『ちっちゃなパイパイ大作戦!』(2007年)や女性解放運動の歴史についてのドキュメンタリー『怒ればその美しさひときわ輝く』(2014年)などで女性たちの反逆のアンセムとして使われてきた。

それが2018年Netflix配給のアニメーション映画『ネクスト ロボ』あたりからは、(映画でロンドンが舞台になればThe Clashの“London Calling”が流れるのと同じような感じで)かなりポップな使われ方もされるようになってきた印象がある。『モキシー』ではそのメッセージ性とポップさの両方を活かした理想的な使われ方がされていると言えるだろう。

『モキシー ~私たちのムーブメント~』キービジュアル

ちなみに同曲は最近だと『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(2017年)のブルックリン・プリンス主演のテレビシリーズ『レポーター・ガール』(2020年)において非常に強い印象を残したことも特筆しておく。こちらは『キット・キトリッジ アメリカン・ガール・ミステリー』(2008年)や『ナンシー・ドリュー』(2020年)などの系譜に連なる「少女記者 / 少女探偵もの」で、世間から蔑まれている女性たちが共闘して殺人事件の真相を探っていく燃えるシスターフッド展開の上に“Rebel Girl”が高らかに鳴り響く! という最高の作品なので未見の方はApple TV+でぜひチェックを。

“Rebel Girl”が効果的に使用されている作品としては、その他にも女性ロッカー2人の友情と愛を描いた『Trigger』(2010年。主演のトレイシー・ライトが癌に蝕まれていく中で撮影された、まさに「魂の映画」)や、コラム集『女になる方法―ロックンロールな13歳のフェミニスト成長記―』の著者、キャトリン・モランの半自伝的小説をビーニー・フェルドスタイン(『ブックスマート』)主演で映画化した『How To Build A Girl』(2019年)などが挙げられる。

映画『How To Build A Girl』予告編。キャトリン・モランが10代で音楽ライターとしての仕事を始めた頃の思い出を綴った半自伝的小説が原作

音楽を紐解くと見えてくる、未来への確かな眼差し。The Linda Lindasが歌う“Big Mouth”に込められた想い

そんな“Rebel Girl”だが、『モキシー』ではBikini Killによるオリジナル音源のみならず、新進気鋭のパンク・バンド、The Linda Lindas(バンド名の由来は映画『リンダ リンダ リンダ』から。THE BLUE HEARTSの“リンダリンダ”は彼女たちのライブのレパートリーでもある)が出演してこの曲を熱演するシーンまで用意されているのだから至れり尽くせりだ。

The Linda Lindas“Rebel Girl”を聴く(Apple Musicはこちら

The Linda LindasがTHE BLUE HEARTS“リンダリンダ”を演奏する様子

そして、The Linda Lindasが“Rebel Girl”に続けて劇中で演奏するのはThe Muffs“Big Mouth”のカバー!

〈アンタなんて大嫌い / 好きな振りなんてするわけないじゃん〉という歌い出しから始まる“Big Mouth”もまさしく「わきまえない女」についての名曲。1960年代音楽のポップネスを1990年代に爆発させたThe Muffsは現在に至るまで過小評価バンドの最たるもの。バンド結成前にThe Muffsのライブでメンバーが踊り狂っていた姿も写真として残っているThe Linda Lindasが、ALS(筋萎縮性側索硬化症)との闘病の末に2019年に逝去したThe Muffsのボーカル、キム・シャタックの遺志を受け継ぐかのようにこの曲を演奏するのだから感動する他ない。The Linda Lindasのレパートリーには、『ワイン・カントリー』でも大フィーチャーされていたキム・ワイルド“Kids In America”のカバーもあるが、これはおそらく映画『クルーレス』(1995年)のサウンドトラックでThe Muffsが同曲をカバーしていた影響も大きいと思われる。

The Linda Lindas“Big Mouth”を聴く(Apple Musicはこちら

キム・ワイルド“Kids In America”を聴く(Apple Musicはこちら

『モキシー』ではさらにCSSの“Alala”やプリンセス・ノキアの“Kitana”といった21世紀に入ってからのダンスミュージックやヒップホップもBikini KillからThe Muffsの文脈の延長線上でフィーチャーされており、単なるノスタルジーではない、未来への確かな眼差しも感じることができる。そして、The Linda Lindasによる“Big Mouth”のカバーは劇中のみならず、映画のエンディングテーマとしても使用されているのだった。

『ワイン・カントリー』でもプリンス(同作が公開される数年前に逝去)“I Would Die 4 U”の出演陣によるカバーがエンディングテーマとして使用されていたので、エイミー・ポーラーの作品には「故人の遺志を受け継いで、未来への希望を紡いでいく」という隠れテーマもあるのかもしれない。The Linda Lindasも『モキシー』が配信開始された時にインスタグラムでこう書いていましたよ。「#kimshattuckforever(キム・シャタックよ、永遠なれ)」ってね!

作品情報
『モキシー ~私たちのムーブメント~』

2021年3月3日(水)Netflixで配信

監督:エイミー・ポーラー
出演:
ハドリー・ロビンソン
エイミー・ポーラ
ニコ・ヒラガ
アリシア・パスクアル・ペーニャ
ローレン・サイ
パトリック・シュワルツェネッガー
ほか

イベント情報
『サム・フリークス Vol.12』

2021年5月8日(土)

上映作品:
『ミス・ファイヤークラッカー』(監督:ホリー・ハンター)
『ジョージア』(監督:ジェニファー・ジェイソン・リー)
料金:1,374円

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