つくることで初めて見えるアートの世界

ゴミがアートに生まれ変わる? 2月の終わり、現代アートのさまざまなプラットフォームを展開するNPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ(以下AIT)主催のワークショップ「FOUND AND MADE」が代官山で行われた。スコットランドのグラスゴーから3人のアーティストを招き、身の回りにある素材で彫刻作品と展覧会をつくろうという今回の企画。子どもから大人までが身体や頭をフル回転させて、アーティストやキュレーターに初挑戦した2日間で、どんなことが起こったのか? 全ての参加者と関係者に、思いもよらぬ貴重な経験をもたらした、エネルギッシュで刺激的なワークショップの様子をレポートする。
NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ

1日目 DIY精神あふれるグラスゴーの3人組

ワークショップの初日。雨にもかかわらず、代官山の会場の一室には、合計21名の参加者が集まった。AITが開講する現代アートの学校「MAD」の受講生もいるが、多くは一般参加者。年齢層も未就学児から60代女性までと幅広く、主婦、デザイナー、OLなどバックグラウンドも様々で、これまでアート作品をつくったことなど、もちろんない。メアリー・レッドモンド、ケイティー・ウェスト、ニック・エヴァンス、アーティスト3人の自己紹介と併せて、グラスゴーという街の紹介からワークショップがスタートした。

ケイティー・ウェスト
ケイティー・ウェスト

ニックとメアリー、ケイティが住むグラスゴーは、インディーズ音楽やサッカーなどスポーツが盛んな、若者が多く集まる都市。路上にはライブやサッカー観戦で熱狂した人々が落としたカップやビニール袋、さらには家具までが捨てられていて、アーティストがそうしたゴミを使って作品をつくることも日常的な街だ。そんなDIY精神あふれるグラスゴーの制作環境の中で、街を歩いて何かを発見する楽しさや、異なる視点でものを見ることの大切さについて、豊富な事例を交えて話がおこなわれた。

割り箸を折るブレイクスルー

壁に貼られた大きな紙

とはいえ、まだ何をどうやってつくったらいいのか、みんなぎこちなく不安げだ。そこで続いて制作のレクチャー。壁に貼られた大きな紙には、切る、貼る、結ぶ、吊る、積む、たらす、など、誰もがわかるシンプルな言葉が書かれている。こうやって改めて人の動作を書き出すことで、ものと空間に対する彫刻のアクションの基礎をわかりやすく説明していく。そして知識だけでなく体験として、参加者の固定概念の殻を壊すために行われたのが、割り箸を使ったウォームアップだ。


制作の様子

制作の様子

まず、みんなで割り箸をポキンと折って、シンプルなアクションを体験する。次に折った割り箸をみんなで床に並べて共同作業を行い、彫刻作品を組み立てる。「割り箸という身近なものを使い、ほんのささいな行為で、そのかたちと意味を全く変えてしまう体験でした。このウォームアップのおかげで、参加者は凝り固まった価値観を自ら壊し、ものをつくるための思考の準備が整ったのかもしれません」と、今回のワークショップを担当したAITの堀内さんは振り返る。


そして、いよいよ実制作へ。当初のアイデアは、「街へ出かけてゴミを拾って作品にしよう」でも、グラスゴーと違い代官山にはゴミが落ちていない。おまけに雨。そこで「ゴミ」を「日用品」に変えて、ダンボールや土のう袋、紐、いらないチラシ、ビニールシートなど、日常的な素材をいろいろ用意し、参加者それぞれが使いたい素材を選んで制作を開始した。

ワークショップ「FOUND AND MADE」風景

ウォームアップの勢いをそのまま持ち込んだような参加者の自由溢れる制作意欲に圧倒されていると、気がつけば、吊り下げるオブジェ、土のう袋の洋服、空間を満たすもの、帽子、今日初めて会った人との共作など、それぞれのアイデアが湧き出てどんどん形になっていく。みんなペースがもの凄く早い。初日にしてすでに完成形が見えるところまでたどりついた人も多かった。

ワークショップ「FOUND AND MADE」風景

あっという間に終わりの時間が来てしまったので、いったん制作をストップ。最後にアーティストの提案で、参加者同士がお互いの作品について感想や意見を率直に出し合った。それまで制作に没頭していた参加者にとって、はじめて聞く他人の意見は、全く思いもよらぬ反応だったり、とても興味深い経験だったようだ。この批評会のおかげで、それぞれが自分自身の作品を客観的に見直すきっかけとなって、改めて課題やアイデアを再発見し、家に持ち帰ったようだった。

2日目 作品の展示方法を考える

メアリー・レッドモンド
メアリー・レッドモンド

2日目のワークショップは、完成した作品をいかに展示するか、という彼らのミニレクチャーから始まった。自転車やカヌーなど、ものに溢れたV&Aミュージアムのフリーゾーンと、倉庫という空間の特性を活かしたジミー・ハイアンの展覧会、さらにはベニヤ板やダンボールでつくった空間にパフォーマンスの偶然性を取り入れた泉太郎のインスタレーションなど、さまざまな展示空間を映しながら、彫刻作品から空間へと意識を広げるヒントを具体的に示していく。


単にオブジェをつくるだけではなくて、そこに自分の考え方や理由の裏付けをし、その見せ方までも考えて展示までもっていく。レクチャーのあと各自制作に入ると、さっそく吊ったり広げたり、より大きく作品を空間に展開する人が現れて、みんな反応がいい。

ワークショップ「FOUND AND MADE」風景
ニック・エヴァンス

「日本人は細かいものをつくるのが得意だけど、今回は折り紙みたいな作品じゃなくて空間をダイナミックに使って欲しいと思っていたの」とケイティが言った。セラミックデザイナーでありキュレーターでもあるケイティと、彫刻家のニックとメアリー。3人がいろんな視点からアドバイスを与えることで、ひとつのやり方にみんなが集中せずに、多様な表現が生まれていった。

オレンジの紐が結んだ空間

それにしても、制作中の会場の熱気のものすごいこと! みんな床に座ることもまったく気にせずに制作に夢中になっていた。昨日のワークショップの帰り道、渋谷で拾ったイギリス国旗のタグや歯ブラシを作品に加える人、アイデアを変更して、大胆に空間へ吊るすことを試みる人、自然光の差し込む窓際の空間を利用しようとする人、ものと向き合い自分と向き合いながら、制作はいよいよ佳境へ。

ワークショップ「FOUND AND MADE」風景

アーティスト3人は、技術的なこと以外は手を貸さずに、もっぱら話をし、時々具体的なアドバイスを与えるだけ。それで見違えるようにフォーカスが定まっていく。

「みんなの様子を見て、シンプルでベーシックなアドバイスを心がけていたんだ。全体の流れに沿いながらも、みんなが自由にやれるようバランスを常に考えていた」とニック。

お互いのクリエイションがプラスに刺激しあって、心地良いテンションとともに、ハイピッチで作品がとうとう完成した。次はいよいよ展示だ。

ワークショップ「FOUND AND MADE」風景

展示で気を付けなければならないことは、作品同士のバランス、人の導線、空間の印象や特徴などさまざまなポイントがある。ニックとメアリー、ケイティは、3人で相談しながら作品の位置を検討していく。「ここはどう? 君はどう感じる?」参加者にも意見を聞きながら、1つずつ置いては引いて、眺め、また場所を変えては眺め、を繰り返すうちに、やがてこうあるべきという姿が少しずつあらわれていく。マジシャンのように作品を移動しながら、バラバラだった21人の物語がひとつに紡ぎだされていく、ちょっとゾクゾクする瞬間。

ワークショップ「FOUND AND MADE」風景

最後まで作業をしていた一番奥の2人組が彼らに相談をもちかけた。「GOOD IDEA!」と言ったニックは、オレンジ色の細い紐を手に持ち、彼女らの指示に従って奥から部屋の入口横の扉まで、空間をジグザグに横切るように紐を天井に這わせた。ピンと張られた鮮やかなオレンジの直線が、控えめに、でもしっかりと空間を1つに結び、展示作業は終了した。

圧巻のプレゼンテーション

ワークショップ「FOUND AND MADE」風景

そして発表。それぞれが考えた作品タイトルを元に、ひとりずつ作品で表現したかったことを発表していった。皆とても堂々と作品のコンセプト、工夫した点などを、自分の言葉で迷いなくしっかりと語る。いやそれどころか早く伝えたくてウズウズしているかのようだ。美大生ですら、自分の作品をちゃんと説明出来ない人が多い昨今、このことはちょっとした驚きだった。アーティストたちは、途中でアイデアを変えた人には、その理由を必ず聞いた。アイデアが発展していく素晴らしい瞬間を覚えておけるようにと。

どの作品にも意味があり、それを伝え合うことでお互いの見方を発見する。人それぞれの表現の違い、それがアートの多様性だ。自分の思いをかたちにし、さらにそれを言葉にして人に伝えることの難しさと楽しさを分かち合った参加者たちは、達成感とともに全員の発表を終えた。そして堀内さんが元気にアナウンスする。

「さあ、いよいよオープニングパーティです!」

何かをつくって伝える能力は、誰にも潜在的に備わっている。

2日間を無事にフィニッシュさせて迎えたオープニングパーティは、達成感と安堵で会話も弾む。

「2日間の皆さんの創造力に驚きでいっぱいです。限られた時間のなかで、こんなにいい反応が戻ってくるとは思わなかったし、アートのバックグラウンドがない人でも、自分なりのストーリーや考えがはっきりしていて、それがきちんと表現に繋がっているのがすごい。個性とエネルギーにあふれた素晴らしい空間になりました」と堀内さん。

堀内さん
堀内さん

ワークショップ「FOUND

AITディレクターの塩見さんは、「AITとしてこういうワークショップは初めてだったのですが、実際に手を動かして自分の力でつくりだす手法を現代アートの学校MADに取り入れていくのもいいかもしれないと思いました。理論やアート業界の声だけから学ぶのではなくて、今回は、子どもから大人までがお互いに刺激し合って、それぞれの創造性を発見しました。新しい学びの形のたくさんのヒントをもらった気がします」と語った。アーティストたちも満足気だ。


私たちはつい現代アートを特別な世界だと考えがちだが、アートは人の営みが生み出すものであり、何かをつくって伝える能力は、誰にも潜在的に備わっているのだと今回のワークショップを通じて再確認した。頭と身体を使って自分なりの発見をかたちにしてやり遂げた体験は、参加者自身のクリエイティビティを刺激しただけでなく、それに立ち会ったアーティストやAITのスタッフ、そして取材していた私たちの心までも突き動かすエネルギーに溢れていた。

ワークショップ「FOUND AND MADE」より

最後にアーティストたちに聞いてみた。今回のゴミや日用品のように、どんなものでもアートになるけど、では、どんな人でもアーティストになれると思いますか? 「すでにみんなアーティストじゃない! どんどんやるべきだと思う。アーティストに定年はないし、目の前にある興味や関心に自分を開くことが出来れば、いつでも誰でもアーティストになれる。アートをやってる人間たちは、いつだって仲間がもっと増えることを望んでるんだから」

イベント情報

ラウンジ・イベント「ミングリアス」
AIT大解剖学!塩見有子とロジャー・マクドナルドによるアート談義 ―フレキシブル? オルタナティヴ? 教育? 日本のアート界にいま必要なものを考える―

2012年3月10日(土)
会場:東京都 代官山 AITルーム
時間:19:00〜22:00(20:00よりトーク)
料金:入場無料
AIT | Future / Archives | 春を呼ぶラウンジ・イベント「ミングリアス」


AIT ARTIST TALK #59
クセニア・ガレイヴァによるトークとワークショップ「写真=フラット・スカルプチャー? ー平面から立体を、立体から平面をつくる写真術ー」

2012年3月12日(月)
会場:東京都 代官山 AITルーム
時間:19:00-21:00(定員12名、要予約、詳細はWebサイトを参照)
料金:一般1,500円(税込)、学生・ベースメンバー1,200円(税込)、ハウスメンバー/サポートメンバー無料(1ドリンク付き)



フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Art,Design
  • つくることで初めて見えるアートの世界

Special Feature

Habitable World──これからの「文化的な生活」

気候変動や環境破壊の進行によって、人間の暮らしや生態系が脅威に晒されているなか、これからの「文化的な生活」のあり方とはどういうものなのだろうか?
すでに行動している人々に学びながら、これからの暮らしを考える。

記事一覧へ

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて