CINRA MAIL MAGAZINE連載コラム『全裸』

CINRA MAIL MAGAZINE連載コラム『全裸』2009年11月配信分(vol.249〜252)

vol.249 札束オッサン、日本海(2009/11/2)

全裸

ひたすら日本海沿いを揺られるボックスシートの向かいに女二人旅行と思しきロングヘアーとショートカットが並んで座っている。ショートカットは眠たそうで、パンフレットを最初から順にめくろうとするロングヘアーのアクティブさに、異を唱えるタイミングをうかがっている。対面する自分の横は空いたままだ。ある駅から地元のオッサンが乗ってくる。缶チューハイを何本もビニール袋に詰め込み、片手には既に飲み干した缶チューハイ。自分の横に座る。「おいおまえら、これはお茶だからな。ガハハ。」「ずいぶんと買ったんですね、お茶」とオッサンにもアクティブなロングヘアー。「今、病院の帰りでな、韓国海苔があるんだよ」と、とんでもない言葉の繋ぎで韓国海苔を三人に分け与える。「おまえはあれだな、オッパイが大きいのう」、寝に入ったショートカットの膝小僧をさする。飛び起きたショートカットは、顔を引きつらせながら「そんなことないですよ」と遮る。「遺伝か」とオッサン。「いやまあどうなんでしょう」とショートカット。「青年はどう思う?」とオッサン。「どうなんでしょうね」と自分。チューハイの空き缶をショートカットの膝に置く、という地味なセクハラを行なうオッサン。黙り込む三人。

唐突に性生活の詳細を問い詰め始めたオッサンに誰しもが答えあぐねていると、オッサンは「君たちに、俺の秘密を教えようと思う」と切り出した。ウエストポーチに手をやったオッサンは、中から札束を取り出した。200万くらいはあろうかという厚さだった。韓国海苔の空ケースからこぼれた海苔の欠片が札束に振りかかってしまっている。どうしたんですかそれはと問いかけると、「俺には銀行に預けられない事情がある」と遠くを見つめる、トンネルの中だったけど。しばらくしてトンネルを抜けると海浜公園が広がっていた。海浜公園の高台にあるベンチを指差して、「あのベンチで夜を越すこともある」と呟くオッサン。「今日はこれからどこへ行くのですか」と問うと、「それを教えることは絶対にできないけど、これから隣町の居酒屋へ行く」と、息つく間もなく教えてくれる。ショートカットが、「人前でウエストポーチを空けちゃダメですよ」と諭すと、「いいんだよ、これだけあるんだから」と、引き続きズレた回答を寄越す。オッサンは、降りていった。

ショートカットとロングヘアーの見解を、寝たフリをして聞いていた。ヤクザではないか、家を追い出されたのではないか、たぶんそのどちらかのような気はしたのだが、本当の所はどうでも良くなっていた。札束は年季が入っていたように見えたから、ただ単に出かける時はウエストポーチに全財産を、という人なのかもしれない。まあどうでもいい。ショートカットとロングヘアーがその追究を諦めたころに目を開けると、車窓に、「国産ネジ」という大きな看板が見えた。ネジの工場のようだ。それからずっと、国産ネジについて考えていた。国産野菜とか、国産米とか、あるけども、ネジが国産である必要はどこにあるのか、と考えれば考えるほど、あの「国産ネジ」看板の主張とは何だったのかを見つけ出さなければならない気がしたのだ。結局、よく分からなかった。

ショートカットとロングヘアーは終点の2つ前の駅で降りた。オッサンが、大きい、と選定したおっぱいが目の前を通り過ぎる。意識しないようにしようとして、意識してしまう。海辺の終着駅に着く。折角だから地元の魚でも食おうと寿司屋に入ると、カウンターに、本店は全て国産です、と書いてあった。ネジも国産ですか、と問いかけそうになったが、「うちはネジも国産に決まってるじゃないですか」と叱られそうな気がして、淡々と日本海の魚に舌鼓を打った。

vol.250 今日で250回、昨日は死亡1名(2009/11/9)

全裸

帰路に通りかかる交番の入り口に掲げられている交通事故死亡者数と負傷者数の数値を見る。死亡者が「0」だとホッとする。日によっては「3」とか「4」だったりして、これは3カ所で3人なのか、1カ所で3人なのかと、問いつめる必要の無い所を考え始めて、玄関までがジットリと重い。あの数値を掲げる意味合いというのはなんなのだろう。「1」とあって、その「1」をどう思うべきなのだろう。報告に対して、情報が欠けている。例えば交番の警官は、そのパネルを「0」から「1」に変えなければならない時、何を思うのだろう。ああ今日も、死者が出てしまったと項垂れるのか、それとも昨日は「4」だったから今日はそれ以下の「2」くらいだとイイなと願うのだろうか。

とても嬉しいことがあった日に「3」だったり、やってらんねぇよったくとふてくされた日が「0」だったり、今日を終わりにかかろうとするタイミングで見かけるその数値は、自分のテンションと反比例する場合が多い。その度に、心ん中がチグハグする。或いは、ふてくされた日に「3」だったりすると、あれもうなんかイヤだな全部とぶっきらぼうになる。交通事故で人が死んでしまう、というのは、最も残酷な遮断だ。自殺は少なからず自分の意志である。死に至る病は自分や周辺に少なからず予測が含まれる。ただし交通事故は、違う。遮断する。突然プチッと、主電源から切られてしまう。14歳の時に、小学校時代の親友が交通事故で死んで、それからもうその14年と同じくらいの月日が流れたんだと、突然に気がついてしまった。気づいたり、思い出したりしてる時点でやや失礼だと思いつつ、そうはいっても、毎日「1」を記憶の前面に持ち出しておくことはなかなか難しいとなだめてしまう。それはどこかで、警官が「0」から「1」に変えるときの態度に似ているのかもしれない。悔しいが、記憶の中で、ややのっぺりとしている。

その親友の死に顔をあんまり覚えていない。克明に覚えているのは、自宅にそいつを見に行って、家に帰ってテレビをつけたときに、ダウンタウンがものすごいテンションで歌番組の司会をやっていたことだ。何て不謹慎な奴らだと、僕は思った。友達が死んでいるのに、なんでおまえらはゲラゲラ笑いながらトークしてんだよと、そう思ったのだ。その時の苛立ちと、一晩経ったら「すぅっ」と苛立ちと悲しみが抜けていた「不自然な自然状態」をはっきりと覚えている。

交番の、「0」とか「1」とか「3」とか「4」とか、掲げるのをやめてほしい。「3」と「4」では全く違うのに、あれでは「3」も「5」も変わらない。「3」から「5」へ、その「2」はとてつもなく大きいはずなのに、その「2」を、自分の今日のできごとにふりかける程度で活用しちゃいけないと強く思う。

おっと、今回で250回。ひとまず、1500回くらいまではやろうと思っております。もうしばしお付き合いを。

vol.251 女子とトランプ(2009/11/16)

全裸

あれは中学2年生だったか、修学旅行的なイベントがあって、その宿舎にエロ本を置いてきてしまったことがあった。エロ本といってもたまにそれなりのものが露になるだけの、基本的にはビキニ姿が中心の「もう少しでエロ本」程度のテンションである。2段ベッドの上段にその本を忘れてきたのだった。寝静まった後、センセーにバレないように二段ベッドの上で見ようぜ、と夕食時に話し合った小声同士。男子のイケてるグループが「女子の部屋に遊びにいってくる」という、たいそうハレンチな冒険に勤しんでいる間、次々とやってきては二段ベッドの階段をミシミシ鳴らしながら上段に集った軍団の前に登場する秘宝。

ソファーに寝そべっている女の子は、なんにも身につけていなくて、こっちへ来てもいいのよ、というような顔をしていた。ってか、そんな感じの顔じゃんかと誰かが言ったのだ、確か。ベッドの上段は揺れた。具体的にウォーと声を上げた誰かが、天井に頭をぶつけた。その時誰かが言った。こっちのほうが、女子の部屋に行ったやつらより興奮するよな、と言った。あったりめぇよと、挑発を止めない女の子を前に鼻息は荒いままだ。続けて彼は、今ごろ女子とトランプしているんだろうけど、と言った。その瞬間、ベッドの上に静寂がおとずれた。えっウッソーだまされたぁまさかそっちがババだったなんてずるいよぉ。そんな声が聞こえてくるようだった。キャピキャピしていた。

ベッドの上は、一斉に、その挑発女の卑猥さに萎えた。女子とトランプしてる同級生がいる中で、動かない挑発女の挑発に乗るというのは、さすがに屈辱的でしかなかった。閉じて、布団の下に隠した。なぜならば、その中の誰かが、もしかしたらアイツらが女子を連れて帰ってくるかもしれないと呟いたからだ。根拠が無いのは分かっていた。しかし、わずかな可能性を見つけ出したそいつに、ある一定の感謝はあった。日付をまたごうとも、帰ってこなかった。待ちこがれたくせに、みんな寝てしまった。朝起きると、女子の部屋からいつの間にか帰っていた誰それが寝息をたてていた。

もし、エロ本が発掘され、これ誰のだと学年の話題になれば、僕は、「女子の部屋でトランプ」から最も遠い人間になる。情報が二乗三乗され、「エロエロマン」的なざっくりとしたあだ名がつけられる危険だってあった。当時、女子同士は、授業中に手紙を渡し合っていた。ノートを丁寧に織り込んだものだ。女子同士は離れているから、間にいる生徒がバケツリレーのようにそそくさとまわしていく。僕の席はその経路にあった。テンパっていた。エロ本は見つかってもいないのに、女子だけはその情報を知っていて、この手紙には「ウケるー、キモーい」と書かれているんじゃないかと本気で思っていたのだ。いつかの手紙は折りが甘く、隙間から文章が読めた。覗いてしまった。僕のことなんて書かれていなかった。昨日、琢磨とカラオケ行ったんだけど、とあった。胸に刺さるものがあった。僕は何をしているんだろうと思った。エロ本隠しとトランプにある絶望的な距離を更に広げる放課後カラオケ。琢磨に目をやると机にもたれるように寝ていた。なんとなく真似してやろうと寝に入ったのだが、夜ご飯の後すぐに寝てしまっていたから、寝ることすら出来なかった。

大人になった今、世の男性を、女子とトランプ出来た系か出来なかった系に分けることができる。僕は、出来なかった系を信じるようにしている。

vol.252 満州、血、真央(2009/11/24)

全裸

えびぞうとまお、やましたときたがわ、みさきとしゃちょう、木曜日のドトールはあちこちから豊富な熱愛ネタが降り注いできて、満州から帰還する一代記を読み込んでいた自分の耳には煩わしくって仕方が無い。どうしても祖国へ帰り…浅田真央じゃないよねまさかギャハハ。残留孤児が強いら…カトゥーン?それともニュース?あらやだオバさんね私たち。今、この日本に戦禍は記憶されているだろ…伊東美咲ってスタイルが良すぎて健気な妻役とか出来ないのよね。

満州の歴史がホットなラヴに飲み込まれていく。戦争を知らない子供達がせっかく戦争を知ろうとしているかもしれないのに、戦争を知っていてもおかしくない辺りの人たちは、海老蔵の女性遍歴を連ねて、ひとつひとつ崩壊の原因を論じていく。米倉涼子との破局の原因より、ほら、オバさんたち、歴史の清算だよ、清算。ホットココアを飲む頭は何故だか諸外国へ雑な反省モード。真央は海老蔵に捨てられる、そういう海老蔵原理主義者の宣言を横に、未だ沖縄の基地問題は解決の道を辿らずにいると頭を抱えてみたりしてるぞ、ボクは。ますますこれでお姉さんの、なんだっけ、麻耶さん、影が薄くなりそうね、確か姉妹仲良く同居しているはずだけどどうすんだろうお姉さん、一人で住むのかな、と敗者のケアに進んだ頃、結局はどこかに基地は必要らしい、皆、自分の所に来ないようにしているだけだ、原発と同じだな、と消極的な排他を疎んでいく。

歴史を背負わずして現在を語ることは絶対に出来ないが、オバさんの話は例外。これまでの流れを奇跡的に断ち切って飛躍する。美人女医って、美人でもないし、女医っていうほど診察なんかしてないでタレント業ばっかりやってるわけだからさ、美人女医って何だか、全部ウソよね。内科医か歯医者か知らないけど、そういうのが精神的な部分のことまでアドバイスしたり、なんてのもあるじゃない。困ったもんよね。満州から日本へ帰る手段はもはや無いのかもしれなかった。その日々の活写が胸に迫り来る。現地で、日本人として生きることを選べば選ぶほど、日本への道は遠のいていく。その国の人になってしまえば、誰も注視したりしない。馴染めば、そつなく暮らして行ける。でも馴染みたくない。なぜなら、私は日本人だから。その意志が実って、帰国の途につく。

人はまず、自分が何者かを理解しなければならないのよ。オバさんはそう言った。さすが、戦争を知っているかもしれない人たちから放たれる実直な所だった。満州に残る、という選択、その選択をした自分、それをまず理解しなければならなかった、ということか。生まれ出た所が、結局その人を決めるのよ。いや、それは、どうだろう、僕はそうは思わない。それは非常に旧来の考え方に固執しすぎている。もっと柔軟でなければならない。それがこれからの国際社会じゃないのか。だってさ、あの人って「恋のから騒ぎ」から出てきたような人よ、歌舞伎の世界なんて無理にきまってるのよ。自分がまず、何者だったのかを自分で理解しなきゃダメなのよ。あとはね、最終的には血、血よ。結局は姉の存在が救いになるかもしれない。遠く離れた兄弟が祖国で抱き合うラストのところで、オバさんの「血、血よ、最終的には」って声が入り込んできた。どこまでが満州で、どこまでが小林麻央なのか、なんだか全部ひっくるめて分からなくなったけど、最終的に血だってのは、分かった。凄く。大切だ。血は。



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