福岡のクラフトビール文化の注目店『BEERSONIC』ができるまで

いつごろからか、福岡のコーヒーショップや、そのSNSアカウントで、同じボトルのクラフトビールを何度も見かけるようになった。 「このビールは何なんですか?」と聞くと、「『BEERSONIC(ビアソニック)』というクラフトビール屋さんのオリジナルビールなんですよ」と、全員が「応援したくてしょうがない」という口ぶりで教えてくれた。 2018年4月、福岡の高砂エリアにオープンした、クラフトビール専門の酒屋『BEERSONIC』は、オーナーの深堀成吾(ふかほりせいご)さんが23年間勤めた公務員を辞めてはじめたお店だ。いわくありげな深堀さんの人生をひも解きながら、オリジナルビール「WESTBOUND」ができるまでのストーリーを伺ってきた。

※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

「ポートランドのブルワリーで、みんなが楽しくビールを飲んでいる光景が印象的だった」

深堀さんが『BEERSONIC』を開業したのは47歳のとき。独立としてはかなり遅めのデビューになるが、どういった経緯でクラフトビールのお店をはじめたのだろうか?

深堀:20年以上勤めていた公務員の仕事に行き詰まっていた時、アメリカ在住の友人に「そんなに面白くないなら、気分転換にこっちに来たら?」と言われて、ロサンゼルスに遊びに行ったんです。

深堀:もともとコーヒーやカフェに興味があったので、クリエイティブなコーヒーカルチャーに触れたくて、ポートランドにも足を伸ばしました。そのときに、20軒くらいコーヒーショップを見て回ったんですね。

帰国して、そういうものに触れたから余計に「何かやりたい」「いまの仕事は厳しい」「精神的に嫌だ」という思いが強くなって、カフェをやる計画を立てたんです。

でも、これまで事務職をやってきた人間が、いきなり飲食店なんてできるわけがないと思って、企業や商工会議所のセミナーに出たりしていました。そんなときにふと頭に浮かんだのが、ポートランドで1軒しか見ていないビール屋さんの光景だったんですよ。

深堀:覚えてるのは、日曜の昼下がりにビール工場の裏で、みんながダラダラとビールを飲んでる光景。ぼくは公務員時代に、あまりいい飲み方はしてなかった。酒はストレスを発散するためのもので、酔ったら悪酔いする、みたいな。

でも、ポートランドでみんなが楽しくビールを飲んでるのを見て、ぼくが知ってる飲み屋さんのイメージとは全然違った。そこで「あ、クラフトビールだ」と思ったんですよ。

―それからすぐにクラフトビールの酒屋さんをはじめようと?

深堀:「クラフトビールだ」と思いついたその足で福岡のブルワリーの門を叩いたら、「近々ビアフェスティバルがあるから、そこに行けば知り合いが増えるかも」と教えてくれたんです。

そのビアフェスにボランティアとして参加して、そこで初めてビールを注いだら、やっぱり楽しくて。それまで公務員で役人の顔色ばかりうかがっていたのが、ダイレクトに「美味しい」という笑顔がくるから、やっぱりこれなのかなと思ったんです。

そして、ビアフェスの4日目に、日本ならではのオリジナルクラフトビールを製造・販売する「Far Yeast Brewing(ファーイーストブルーイング)」の代表・山田司朗(やまだしろう)と出会ったんです。

「山田司朗との出会いが、ぼくの人生を完全に変えてしまった」

Far Yeast Brewingの代表取締役社長・山田司朗さんは、某IT企業に勤めた後、ケンブリッジ大学にMBA留学。そこでクラフトビールの魅力に出合い、起業したという経歴の持ち主だ。

深堀:ビアフェスの最初の3日間で出会った人たちは、ビールをつくっている、いわゆる「ビールが大好きなお兄ちゃんたち」という感じだったんです。

でも、山田さんだけはすごく地味で、この人だけ雰囲気が違うなと思った。彼ももちろん他の人たちと同じようにビールを愛してるんだけど、ビジネスとしてビールをとらえているから冷静なんだよね。クールで頭がいい。

しかも、そんな彼がつくったビールが、そのフェスのなかで一番美味いビールだった!

そのときのことを思い出しながら、興奮気味に深堀さんは語る。当時は自社のビール工場を持たず、ベルギーや国内の工場に委託してビールを製造していたFar Yeast Brewingは、日本のビール業界では異端の存在だった。

しかし、ベルギーで製造したクラフトビールを日本に輸入する一方、国外の富裕層に流行らせたり、その先の海外展開の戦略もすでに練られていたり、これまでの日本のメーカーとは違う視点でビールをとらえている山田さんのビジョンに、深堀さんはすっかり魅せられた。

深堀:山田さんと話しているときに「ぼくはこの人について行くべきだろうな」と思ったんですよね。この人についていけば、ひょっとしたらクラフトビールの世界でやっていけるかもしれないって。

それで、最初は福岡でビアパブをやろうと思ったんですけど、飲食店経営のノウハウがまったくない状態で、45歳でビアパブをはじめるのはリスクでしかないと思うようになったんですよね。そんなときに、山田さんから「酒屋はどうですか?」と言われたんです。

深堀:たしかに、福岡にはクラフトビールを買えるお店が少ない。酒屋であれば一般販売の他に飲食店への卸しもできる。フードを提供したいなら角打ち(酒店内の一角にカウンターテーブルを備え、その酒屋で買ったお酒を飲めるサービス)という手もある。

人生に行き詰まっていたぼくが、ビールに関わることで人生明るくなったんだから、ビールで世の中とまでいかなくても、人の気持ちとか、何かを変えられるんじゃないかなと思っていて。それには酒屋が一番ベストな方法だとわかったんですよ。

「ビールのための人生ではなく、人生のためにビールがあるんです」

すぐに一般酒類小売業免許と通信販売酒類小売免許を取得し、2017年4月に自宅のマンションの一室で酒屋として開業。店舗として理想的な物件も見つかったが、入居できるのが1年後だったため、その間は自転車でビールを売り歩いたり、SNSなどで知り合ったコーヒーショップの店先で小さなビールイベントを開催するなどしてしのいだ。そして2018年4月、現在の場所で『BEERSONIC』をオープンした。

深堀:『BEERSONIC』で扱っているクラフトビールは常時約50種類。固定はせず、店には常に幅広いスタイルのビールがあるようにしています。

ここはクラフトビールのセレクトショップだと思っているので、いつ来ても良質で新しい種類のビールがある、というコンセプトでやっています。

―どんな味か予想はつかないけど、ラベルや缶のデザインを見ているだけでもワクワクしてきますね。

深堀:クラフトビールってラベルを含めてカルチャーだと思ってるんです。そこがこれまでの日本のビールになかったものだし。それに、ぼくはボトルを含めてビジュアルも重視するし、格好いいものはみんな好きだろうということで仕入れています。

最初の1年間で築いたネットワークのおかげで『BEERSONIC』のビジョンも見え、店舗は順調にスタートを切った。福岡でクラフトビールの認知度も上がり、広がる下地もできつつある。でも「何かが足りない」と深堀さんは感じるようになる。それが自分のオリジナルビールだった。

―『BEERSONIC』のオリジナルビール「WESTBOUND」についても聞かせてください。

深堀:こんな小さな店でオリジナルビールをつくるのは不安だったんですけど、山田さんに「大丈夫ですよ、深堀さんの好きなビールつくりましょう」と背中を押してもらって、Far Yeast Brewingとのコラボビールをつくることにしました。これまでに、「WESTBOUND 1st」「WESTBOUND 2nd」「WESTBOUND 3rd」と、3種類のビールをつくらせてもらっています。

コストを考えるなら、近場の九州の工場でつくった方がいいけど、福岡でクラフトビールを流行らせるなら、絶対に美味しいビールじゃないとダメだとわかっていたので、一番信頼のおける山田さんの山梨の工場でビールをつくりました。

深堀:シンプルで格好いいラベルにしたかったので、知り合いのデザイナーチームにデザインしてもらいました。ラベルの丸い形は、それぞれがビールの5つの味の要素(苦味、酸味、甘味、香り、ボディ)で、ビールのバランスを表現してるんです。

深堀:たとえば、2019年4月にリリースした「WESTBOUND 3rd」の場合、華やかな香りが強く、甘味はあまりなくて、ボディはそんなに重くない。そして、マンゴーやパパイヤを感じさせるような心地よい酸味。

1stと2ndのラベルも同じように5つの丸があるんだけど、味とバランスが違うから、丸の大きさがそれぞれ微妙に違うんですよ。1stはキレキレで心地よい苦味があり、2ndは芳醇でボディがやや重く、3rdは甘味をぐっと抑えてドライに仕上げている。

―3rdのラベルにはイラストも加わりましたね。

深堀:福岡で活躍するイラストレーターのToyameg(トーヤメグ)さんが描いてくれてます。クリエイティブなユースカルチャーも大事にしたいと思っているので、「WESTBOUND」シリーズのラベルは今後も福岡のアーティストとコラボしていきたいと思ってます。

20代や若い世代の子たちが、知り合いのクリエイターがコラボしているビールってどんな感じだろう? と興味を持って、今まで飲んだことがないクラフトビールを楽しんでくれたらいいですよね。

売れるかどうかわからない不安の中でつくった、2,400本の「WESTBOUND 1st」は、販売開始約5ヶ月で完売。「WESTBOUND 2nd」はさらに早い約4ヶ月で売り切れた。その時、深堀さんはオリジナルビールをつくり続けようと覚悟を決めた。

深堀:将来的に自分の工場を持つかどうかはわからないけれど、紆余曲折の後に酒屋をはじめて、今ビールをつくっているのは、もっとクラフトビールを広めて、自分だけでなくみんなにもビールで豊かな人生を送ってもらいたいからです。

「No Beer, No Life」と言ったら「人生はビールのためにある」になるけど、僕は「人生のためにビールがある」んです。いつもそう思ってます。

BEERSONIC
住所:福岡市中央区高砂1-18-2 高砂小路103
営業時間:月〜金曜15:00〜20:00 土日13:00〜17:00
定休日:不定休
URL:https://www.beersonic.com/


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