北九州・黒崎のディープな酒場をToyameg×Ryoko Kawaharaが昼から飲み歩く

隣り合う福岡市をはじめ、国内外からの観光客が近年増えている北九州市。歴史ある老舗も、最新カルチャーを感じるショップやカフェも、どこか個性的な店主が営むユニークな店舗が多く、その独特な文化の魅力が知られはじめているのだ。

イラストレーターのToyameg(トーヤメグ)さんも、そんな北九州の魅力に気づきはじめたひとり。SHIPS、JOURNAL STANDARDなどアパレルとのコラボや、韻シストのBASIをはじめミュージシャンのCDジャケットへのイラスト提供など幅広く活躍するmegさんは、4年前に東京から福岡市へUターン。2020年9月に自身のポップアップストアで初めて北九州を訪問した際、北九州発祥の飲み文化「角打ち」を初体験し、そのディープな魅力にハマったんだとか。

そこで、megさんをはじめ福岡市で活躍するクリエイターたちに、北九州の魅力をもっと知ってもらおう! と企画したのが今回のツアー。一緒に参加してくれたのは、横浜出身で、現在は福岡市を拠点に広告やファッションの領域で活躍するフォトグラファー、Ryoko Kawahara(カワハラリョウコ)さん。megさんの飲み友達でもある彼女とともに、ディープな酒場がいっぱいの北九州市・黒崎をとことん飲み歩いてきた。

※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

商店街の角打ちで常連さんと乾杯!『いのくち酒店』

江戸時代には宿場町として栄え、近代からは重化学工業の拠点として発展してきた北九州・黒崎。日本初の近代製鉄所として知られる「八幡製鉄所」の創業以降、三菱化学や安川電機など数々の工場が建ち、駅前が繁華街として発展してきた。そんな歴史から、古き良き老舗の飲み屋からオシャレな酒場まで、レベルの高い飲食店が軒を連ねるエリアなのだ。

JR黒崎駅を出発し、アーケード街のメイン通り「カムズ通り」を歩くこと5分。黒崎ツアー最初の乾杯はやはり「角打ちで!」と、創業80年の老舗酒屋『いのくち酒店』へ。

「角打ち」とは、酒屋で購入したお酒を店の一角を借りて飲む酒文化のこと。24時間を3つに区切り交代制で働く「三交代」の労働者が多かった北九州では、昼夜問わず安価で飲める場所が重宝され、角打ち文化が盛んになったんだそう。

かつては黒崎の商店街にも10軒ほどあったものの、現在は『いのくち酒店』が唯一の角打ちに。戦前から続く家業を、三代目の井口毅さんが受け継ぎ、母・陽子さんとともに、親子で店を切り盛りしている。

店内の雰囲気を探るように、恐る恐るカウンターについたmegさんとRyokoさん。だが心配は無用で、すぐに常連さんが話しかけてくれた。「よく来られるんですか?」と聞くと「はじめてよ」とニヤリ。予想外の答えに驚いていると「はじめてよ、『今日は』ね」とおどけた様子。「この人の言うこと信じたらいけんよ。ほとんど嘘やけん」と井口さんが言うと、店内は爆笑の渦に包まれた。聞けば、お三方はこの時間、ほぼ毎日顔を合わせる常連さんだそう。

meg:毎日仲良しの3人で飲んでるの? 最高じゃん!

ほどなくしてもうひとり、常連の男性がやってきた。御年85歳。生粋の黒崎っ子で、16歳の頃から角打ちに来ているという男性は、「若い人なんて珍しいね。ほら、これ食べなさい」と、ふたりにスナック菓子を奢ってくれた。

つまみ一品40円から、日本酒100mlで170円からと安価で楽しめるのが角打ちの嬉しいところ。あれこれ飲んで食べても1,000円札1枚でお釣りが来るほどだ。

井口:黒崎の街はおおらかな人が多いから、お客さん同士もすぐに打ち解けます。この仕事の楽しさは、個性的なお客さんの楽しいおしゃべりが聞けることですね。

入れ替わり立ち替わり訪れる常連さんを見て「あの人は久しぶり」「あの人、手を怪我しとったね」などとお客さんの変化をよく見ている井口さん。こんな風に人と人が緩やかに繋がり、見守り合う街は強い。角打ちは大人の社交場であり、いまや地域のセーフティーネットのような役割をも担っているのかもしれない。

いのくち酒店
住所:福岡県北九州市八幡西区黒崎2-7-3
営業時間:9:30〜20:00
定休日:水曜
電話番号:093-621-2177

本格北京料理をデイリーな価格で。老舗の町中華『金華亭』

角打ちを楽しんですでにほろ酔いのふたり。そろそろ腹ごしらえを……と訪れたのは、同じく「カムズ通り」にある創業80年の町中華『金華亭』。商店街でひと際目立つアーチ状の看板。黄色い階段を登っていくと、「食堂部」と書かれたレトロな入り口が現れた。

丸テーブルに陣取ったふたりはまず、人気の餃子と瓶ビールを注文。さらに、megさんは平日限定の「日替わり定食」を、Ryokoさんは一番人気の「すぶた定食」を。ほどなくして到着した餃子(8個500円)は、もちっとした皮にニラがたっぷりの肉厚餃子。焼きたてを頬張りつつ、再びグラスを交わす。

「純北京料理」を掲げる金華亭。北京料理とは四大中華のひとつで、北方山東省の料理。現オーナーの杉原さんは二代目で、聞けば先代のルーツが山東省だそう。神戸を代表する北京料理の老舗「神泉閣」で腕を磨き、37歳で妻の実家「金華亭」を継いだという。

杉原:北京料理は寒冷地の料理だから塩味の強いのが特徴。素材を生かしたシンプルな味つけで、醤油を使う料理も多いから、日本人には合っとると思うよ。

日替わり定食の「エビと野菜の炒めもの」を食べたmegさんは「しっかりした味つけでビールにも合うし、ご飯もすすむ」と気に入った様子。「すぶたの酸味もほど良く、豚肉もジューシーでおいしかった!」とRyokoさんも完食した。

Ryoko:このレベルの中華が格安で食べられるなんて、地元の人は幸せだね。

meg:本当に。家の近くにほしいお店。

金華亭
住所:福岡県北九州市八幡西区熊手1-1-27
営業時間:11:30〜15:00(LO 14:00)、18:00〜21:00(予約制)
定休日:日曜・祝日
電話番号:093-621-0053

姉妹が母から受け継いだ立ち飲み屋『三四郎』

商店街を出て、駅前から伸びる大通りを越え西側へ。この辺りはスナックや居酒屋など個人店が多いエリア。次に目指すは、創業27年の『立呑処 三四郎』だ。

雑居ビルの2階にある、こぢんまりとした店内で出迎えてくれたのは、3代目女将のみつるさん。母がはじめたお店を妹さんが継ぎ、7年前に姉のみつるさんが受け継いだそうだ。

カウンターの前のショーケースに、手づくりの一品料理が並んでいる。きゅうりとみょうがの酢物150円、ナスのおろしそぼろかけ200円、ハマチのごまあえ350円など、気の利いた酒のあてがずらり。そのうえ、焼きそばやチャーハンなどご飯ものまで充実している。

みつる:日替わりの一品料理は、晩ごはんの献立を考えるような感じで、毎日変えています。うちのは家庭料理の延長みたいなものだから。

早い時間は年配の方、18時くらいからはサラリーマン、遅い時間は二次会の若者などで賑わう店内。女将の気さくな接客とあたたかい手料理、さらに安価で飲めるとくれば、人気が出ないワケがない。

いい感じに酔っ払ってきたmegさんとRyokoさんは薄めのハイボールを注文。女将さんオススメのおでんもよそってもらう。しっかり出汁が染みていい色合いの厚揚げ。やわらかく煮込まれた大根を口に運べば「ん〜! おいしい〜」と至福の声がもれる。

ふたりが舌鼓を打つ様子を「うちの娘みたい」と優しく見守るみつるさんに、「私たちと同じくらいの娘さんがいるんですか!」と驚くmegさんとRyokoさん。きびきびと働きつつもあったかい女将さんの存在は、頼れる姉のようであり、母のようでもある。

meg:こりゃ、人気店なのも納得。癒やされる〜。

Ryoko:うん。女性も入りやすいお店だと思う!

立呑処 三四郎
住所:福岡県北九州市八幡西区黒崎4-6-1
営業時間:17:00〜23:00
定休日:土曜・日曜・祝日
電話番号:093-621-2190

北九州を一望する「新日本三大夜景」。皿倉山で旅の終わりに乾杯!

黄昏時。黒崎の街を離れ、向かうは隣接する八幡東区。「恋人の聖地」にも認定されているデートスポット・皿倉山の山頂で、夜景を満喫しつつ乾杯しようというわけだ。

道中ビールを買い込み、JR八幡駅から無料のシャトルバスで皿倉山へ。標高622mの山頂へは、西日本最長級のケーブルカーで向かう。

9合目から山頂の展望台までは、スロープカーに乗り換え。ガイドさんの解説を聞きながら、天空をスライドするように山頂へ。

meg:あっちが小倉の街だ!

Ryoko:結構遠くまで見えるんだね。

山麓から山頂までわずか10分で、北九州を一望する絶景の展望台に到着! ここでおもむろにビールを取り出して乾杯を交わすふたり。

meg:お〜! 最高のロケーションじゃん。

当日は薄曇りで視界良好とはいかなかったが、それでもうっすら関門海峡が見える。天気の良い日には、山口県下関市や長崎県の壱岐まで見渡せるらしい。

日没が過ぎ、工場群や湾岸施設、高速道路や鉄道の光が浮かび上がる。九州と本州の間に横たわる関門海峡をはじめ、漆黒に染まりゆく海とのコントラストが美しい。さすがは夜景愛好家たちに「100億ドル」と評され、「新日本三大夜景」のひとつに選ばれる夜景だ。

Ryoko:黒崎の街って下町っぽい雰囲気で、人もオープンな感じだったね。

meg:懐かしい雰囲気の街だよね。喫茶店とかスナックの看板デザインが面白くて、イラストの参考になりそうだなって写真もいっぱい撮っちゃった。

Ryoko:角打ちでは地元ローカルの強さを感じたよ。いざというときに助け合えるようなつながりがあるのっていいよね。

meg:福岡の友達を連れて行きたいお店が多くない?

Ryoko:うん。みんな絶対好きになると思うよ!

刻々と移り変わる夜景を眺めつつ、おしゃべりの尽きないふたりなのだった。

皿倉登山鉄道株式会社
住所:福岡県北九州市八幡東区大字尾倉1481-1
上りケーブルカー営業時間:10:00〜21:20(4月〜10月)、10:00〜19:20(11月〜3月)
定休日:火曜(祝日、7〜8月、イベント開催日は除く)
電話番号:093-671-4761
Webサイト:http://www.sarakurayama-cablecar.co.jp/

まだまだある、黒崎のこんなスポット。新たな酒場『いろり まつもと』『文化商店』

飲み屋巡りでは老舗を訪ねたが、最後に黒崎のニューフェイスを二軒紹介しよう。飲食店が軒を連ねる「銀映ビル」1階の『いろり まつもと』は2020年10月にオープンしたばかりのカレー居酒屋。昼は本格スパイスカレー、夜はアジアやエスニック料理に加え、炭火を使った炙りものやお酒が楽しめる。

ランチは日替わりで数種類のカレーを用意。ゆくゆくはパウチカレーの通販や持ち帰りもはじめる予定だ。1種類800円、合掛けは1,200円とリーズナブルな価格で、「カレー好きはもちろん、地元の人にも気軽に来てほしい」と語る。

いろり まつもと
住所:福岡県北九州市八幡西区黒崎1-8-7 銀映ビル1F
営業時間:11:30〜14:30、17:30〜22:00
定休日:不定休(Instagramにて告知)
電話番号:070-8433-6104
Webサイト:https://www.instagram.com/irori.matsu.curry

もう一軒の『文化商店』は、横浜のホテルやレストランで腕を磨いた店主の松本さんが、地元・黒崎でオープンしたワインバル。もともと漢方薬局だった場所を改装したガラス張りの店内は、かつての薬棚を再利用するなどレトロモダンな雰囲気だ。

昼は10食限定で自家製生パスタのランチ、夜はナチュラルワインやイタリアンを中心に、ジャンルレスなメニューを取り揃える。なかでも、おつまみ系のメニューは種類豊富で、店名を冠したピクルスの盛り合わせ「文化漬け」は定番人気メニュー。

ワインの他に、九州では珍しい「金宮」焼酎で割る「ホッピー」や、日本最古のビール「サッポロラガー」、通称「赤星」などひとクセある酒のラインナップにも注目。お好みのドリンクと最高のつまみで黒崎の夜を満喫して。

文化商店 ブンカショウテン
住所:福岡県北九州市八幡西区熊手1-1-19 百草根薬局ビル1F
営業時間:ランチ12:00〜売り切れ次第終了(月曜は休み)、晩酌17:00〜23:00
定休日:日曜
電話番号:093−616−2275
Webサイト:https://www.instagram.com/bunka_info/
プロフィール
Toyameg (とーやめぐ)

POPでキュートだけど、どこか毒のあるイラストを得意とする、いまもっとも勢いのあるイラストレーターのひとり。2016年に福岡市へUターンし、自身の作品や海外のZINEなどを扱うアトリエ兼ショップ『Palm House』をオープン。福岡を拠点に、展示やポップアップストアで全国を旅する。ファッションブランドとのタイアップや、ミュージシャンのCDジャケットやグッズなどのアートワーク、雑誌のイラストなどを手掛け、多方面から注目を集めている。

Ryoko Kawahara (かわはら りょうこ)

1988年横浜生まれ。大学時代に友人の影響で写真を撮りはじめる。2011年より福岡在住。アパレル勤務などを経て、2017年より広告カメラマンのアシスタントとして勤務し、2019年に独立。現在は福岡を拠点とし広告・ファッションなどの商業写真を中心に活動するほか、福岡や東京のギャラリーで写真展を行うなど、自身の作品制作や展示を実施。福岡を拠点に活動するヒップホップクルー「週末CITY PLAY BOYZ」をはじめ、アーティスト写真も撮影している。



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