「主婦のカレー」流儀でつくるアート 豊嶋秀樹の仕掛けかた

手芸といえば乙女の専門領域? そんな思い込みを覆す男前な手芸で知られるのが「部長」こと石澤彰一が率いる押忍!手芸部だ。「一つ、余計なことは考えない」に始まる七つの教訓を胸に、自由に編むべし、縫うべし、包むべし。不器用上等! をモットーに生み出す個性派手芸は各地での「部活」で話題を呼び、その創造の姿勢に美術館も注目、異色の展覧会が実現した。その空間構成を託されたのが、奈良美智とのコラボレーションなどで知られる仕事師・豊嶋秀樹。常に遊び心と出会いの場づくりを大切にする彼は、押忍!手芸部ワールドをどう読みといたのか? 金沢21世紀美術館で11月23日から2012年の3月20日まで開催される「押忍!手芸部 と 豊嶋秀樹『自画大絶賛(仮)』」展の会場で話を聞いた。

「部長と一緒にやってみよう」と思えた瞬間があったんです

―(インタビュー部屋に入り)押忍!

豊嶋:(苦笑)…オッス!

―スミマセン、一応やるべきことはやろうと思いまして。さて、今回の展覧会「押忍!手芸部 と 豊嶋秀樹『自画大絶賛(仮)』」はタイトル通り、押忍!手芸部と豊嶋さんのコラボレーション展ですね。出会いの経緯は?

豊嶋:今回が初顔合わせで、去年の冬に金沢21世紀美術館さんに引き合わせてもらったんです。館側からは「押忍!手芸部の創造性を生かした展覧会をしたい。そこで豊嶋さん流に彼らの面白さを読みときながら、一緒に展覧会の空間づくりをしませんか」と相談されました。

―押忍!手芸部はふだんデザインに携わる「部長」こと石澤彰一さんが、手芸の未経験者の「男前部員」と結成したとのこと。女性もいるそうなので、男前=手芸への姿勢ということでしょうか。「財布に顔があってもいいじゃないか!」と生まれた作品『顔パス』など、シンプルかつ豪快に手芸を楽しむことで、各部員の個性が出る感じですね。

豊嶋:僕から見ると、部長はけっこう乙女な部分もあると思いますよ(笑)。何ていうか、とても繊細なところのある人ですね。

『顔パス』
『顔パス』

―いっぽう豊嶋さんは、美術家の奈良美智さんやダンスカンパニーの「珍しいキノコ舞踊団」など、多彩な表現者とのコラボレーションでも知られていますよね。押忍!手芸部もかなり独特な世界観の持ち主だと思いますが、当初の印象は?

石澤彰一(押忍!手芸部)
石澤彰一(押忍!手芸部)

豊嶋:作っているものも面白いし、自分とは違うことをしているけど「わかるわかる」という部分がありました。例えば、僕はまず場をつくってみて、そこに集まったみんなとやったら何が見えるか? という方法が好きで、それは押忍!手芸部とも共通していると思うんです。とはいえ金沢21世紀美術館での展覧会となると、ハードルはけっこう高い。大きなプロジェクトをいきなり知らない人とうまくやれるか自信もなかった。それでまずは部長に会って話し合ってみることにしました。


―そこから展示のアイデアが泉のように…。

豊嶋:いや(苦笑)、しばらくは月イチくらいで特に展覧会の話をするわけでもなく…といった進め方でした。面白かったけど、そんなこんなでモンヤリしている間に数ヶ月が経ってしまって。でもあるとき「一緒にやってみよう」と思えた瞬間があったんです。

―それはどういうシチュエーションで?

豊嶋:僕は関西出身で、関東に住んでいる今でも新幹線でよく行き来していますが、一番早い「のぞみ」よりも各駅停車の「こだま」が好きなんです。ゆっくりできるし、同行者とも長く話せるし、それに安いし。ふつうはサービス料って時間に比例するけど、この場合は逆なのも不思議ですね。それである日、別の仕事で新大阪から「こだま」に乗ろうとホームに行ったら部長がいて(笑)。「何でこだま?」って聞くと、「こだまの方が長く乗れて得じゃん!」って。ちょうどお互い缶ビールを持っていたので、ホームで乾杯してそれぞれの席に向かったんです。そのときですね、部長と一緒にやれるかもと思ったのは。

―「こだま」派マインドが響き合った瞬間(笑)。個別の作品アイデアからではなく、価値観に共鳴して参加を決めたというのも、この展覧会を象徴していそうですね。

展示風景:ちょっと暗い倉庫
展示風景:ちょっと暗い倉庫

2/3ページ:押忍!手芸部の教訓は、「人をのびのびさせるため」にある

作品も楽しいけれど、今回は押忍!手芸部の活動そのもの、創造の精神や考え方を伝えたい

―表現者としては、押忍!手芸部のどんなところに共感しますか?

豊嶋:「こうでなくては」より「こういうのもあるよね」という考え方、ですかね。ガチガチにコンセプトを統一するのではなく、皆で一緒にやってみたらどうなるかを楽しむ姿勢があると思う。美術館の担当キュレーターからは「個々の作品も楽しいけれど、今回は押忍!手芸部の活動そのもの、創造の精神や考え方を伝えたい」と話があって、ちょうどそこにも重なります。

―押忍!手芸部と豊嶋さん、そしてキュレーターさんの展覧会での役割分担は?

豊嶋秀樹
豊嶋秀樹

豊嶋:確かにそこが大切で、一番よくないのは互いに遠慮し合ってしまうこと。それを避ける形として、舞台的な役割分担で考えてみました。つまり、美術館は劇場、キュレーターはプロデューサー、主演は部長と手芸部、そして僕が演出家、というような。

―なるほど。今回の会場は、まずレッドカーペットを歩いて進み、その先の展示室で手芸作品に直接触れたり、手を加えたりして楽しめます。実はその場所が、劇場のステージ風になっているんですよね。順路をさらに進んでから振り返るとそれがわかるのですが、知らぬ間に僕らもクリエイションの舞台に上がっているという。

豊嶋:今回は作品をふつうに綺麗に並べただけでは逆効果になりかねない。ならば「出来事」として見せようと、ああいう形にしました。

『代官山の心臓』
『代官山の心臓』

―いっぽうで、部長の作品をアクリルケースに収めてビシっと展示する一角もありますね。梱包に使う結束バンドでつくったバッグがパンキッシュだったり、こちらは見るだけでも楽しくて、その対比も面白いと思いました。

豊嶋:あの展示って、よく見るとアクリルケースの高さや幅はバラバラでしょう? 過去にこの美術館で使われたものを再利用しているんです。全体的に展示空間は「今ここにはコレとアレがあるから、こんなことができるだろう」という手法で作っていきました。

―ほかにも、手芸といえばおなじみのクマたちが浮かぶナイロン生地のテントや、部員たちの作品があふれる「倉庫」、そして創作現場を再現したような「部室」など、ユニークな空間が続きます。

豊嶋秀樹

豊嶋:もちろん作品も大切ですが、「スゴイものができたぞ」って結果を眺めるというより、訪れた人がそこで関わる時間そのものの楽しさ、それが今回は大事だと考えました。

―「部室」に貼られた押忍!手芸部の教訓が、今のお話にも通じそうですね。実はさっき、そこで部長とお話しできたんです。教訓って人を縛る面もあると思うのですが、彼いわく「これは人をのびのびさせるための教訓です」と。皆の個性が出やすいよう、面倒なプロセスを省いても成立するのが手芸のいいところ、とも言っていました。

押忍!手芸部 教訓
押忍!手芸部 教訓

豊嶋:僕もコラボレーションの大切なところって、任せられることだと思ってます。「このへんにいい感じで」とよく言ってしまうんですけど、自分と違う人が考える「いい感じ」って、新鮮で面白い。そこから変えたければまた話し合えばいいですから。あと部長って、これを機に戦略的にアートシーンに食い込もうとか考える人ではないんですが、そのあたりにも共感します。僕もアートの仕事以外にいろいろやっているし、以前に所属したgraf(豊嶋さんが創設メンバーのひとりだったクリエイティブ・ユニット)は、生活そのものを考える活動をしています。僕らはどちらも、大きな言葉でいえば生き方を扱っている、ということかもしれません。

―そういう感じだからこそ「自画大絶賛」という超ポジティブなタイトルも付けられる、と(笑)。ちなみにこの展覧会名、お尻に「(仮)」がついたままですね。部長によれば「進行形のingみたいなこと」とのことでした。

豊嶋:もともと完成図どおりに収めるのがゴールではないから、最後まで(仮)をとらない展覧会です(笑)。ワーク・イン・プログレスという言葉もあるけど、押忍!手芸部はもっとこう、「断定しないことの自由さ」が常にあるという感じ。押忍!手芸部の存在自体が、部長が育てている作品なんだといってもいいかもしれません。

3/3ページ:「プロフェッショナルにアマチュアをやっている」からこその表現もあるんじゃないかと

技術や器用さとも違うタイプの質の高さ、いわば「プロフェッショナルにアマチュアをやっている」からこその表現もあるんじゃないかと

―少し意地悪な質問ですが、皆で自由を尊重し合ってつくるものが、常に面白くなるとも限りませんよね。豊嶋さんはどう考えますか?

豊嶋:僕も「やってよかった」と思えるのは、あくまでできたもの自体がそう言えるレベルになったときです。例えば、奈良さんとの『A to Z』展に関わったメンバーが中心になって、岩木遠足という企画を3年前から始めました。青森の岩木山周辺で、りんご農家や伝統工芸をやっている方々を訪ねていく遠足です。その1、2年目って、参加者は喜んでくれたけどスタッフがとても大変で、問題点もいっぱいあった。今年ようやく、スタッフもよかったと思える形になってきました。

―その判断基準みたいなものは?

豊嶋:一概には言えないけれど、このときは、3年目にして岩木遠足という「場」ができてきたことですね。それが強い。そうなれば、そこに入るものがなんだろうが問題なくて、各々がその場との関係性を結んでいけるからです。

―押忍!手芸部にとっての場とは「部活」ということですかね。

豊嶋:部長も、現場の空気感をすごく大切にしていると思います。教訓には入っていませんが、部活で手芸作業中に怪我したら退部、という約束もあるらしいんです。それは安全のための厳しさだけじゃなく、怪我人が出たらその日の部活の空気もやっぱり変わってしまいますよね。そうやって丁寧に育てた場に集って、みんな30分なり1時間なり没頭して手芸をやる。そういう環境からは、技術や器用さとも違うタイプの質の高さが出てくると思うんです。いわば、「プロフェッショナルな姿勢でアマチュアをやっている」からこその表現もあるんじゃないかと。

展示風景:部室
展示風景:部室

―豊嶋さんもその部活には参加を?

豊嶋:僕は部長と初めて会ったときに「ロボぐるみ」づくりをしました。既製品の歩く犬の玩具を使って、自分の好きな姿にするんです。作りながら「あ、この感じね。僕もこういうことやってます」という実感がありました。

―「こういうこと」というのは?

豊嶋秀樹

豊嶋:そうですね…例えるなら「主婦のカレー」です。以前、国立民族学博物館での特別展に参加したとき、企画をした研究員の方に言われました。「カレーには、シェフのカレーと主婦のカレーがある。豊嶋さんは後者ですね」って。シェフは選び抜いた素材とレシピで毎回きっちり作る。いっぽう主婦は、冷蔵庫にじゃがいもがある日はじゃがいもカレーに、シチューのルーがあればシチューにしちゃう(笑)。でもそこで大事なのは、美味しいものを大切な人と楽しく食べることです。表現手法としてもそれはアリなんだって気付かせてくれたのが、その展覧会でした。

―『きのうよりワクワクしてきた。―ブリコラージュ・アート・ナウ 日常の冒険者たち』展ですね。ありあわせの道具と材料から何かを成し遂げるブリコラージュは、もともと未開社会の思考法を指す言葉だと思いますが、合理化・標準化し過ぎる現代にもヒントをくれそうです。豊嶋さんはそういう考え方が自然と身についていたのでしょうか?

豊嶋:僕は子ども時代、新興住宅街の中で育ちました。遊具がまだそんなに充実していない公園で、毎日同じメンバーで遊んでいて。飽きっぽいから、今日1日いかに楽しく遊ぶかを考えるんですよね。野球とブランコ遊びを混ぜて、一塁ベースがブランコで、ジャンプして走塁とか。そういう経験も影響しているかな、とは思います。

―ハイブリッドな遊び、してますね(笑)。

ハードルは飛んで越えるだけじゃない、くぐることもできるよっていう考え方

―今回の展覧会に話を戻すと、観に来る人たちはどう楽しむのがおすすめでしょう?

豊嶋:まず「金沢21世紀美術館でこれってアリなんだ?」とは思うでしょうね(笑)。そこから、ものづくりについて批評精神を持って見てくれてもいいし、単にこれイイなと思ったら自分も家で作っていただければと。その意味では逆に、金沢21世紀美術館だからできたとも言えます。美術館として完璧なところだからこそ、こういう試みに可能性があるのかなと。

―会期中は美術館で参加者を募っての「部活」もありますし、部長が音の出る「エレキミシン」を使って即興で作品をつくるライブなどもありますね。

『マッスル』
『マッスル』

豊嶋:あと、ポスターやカタログも展覧会と同じくらい大切に考えています。今回そのディレクションも担当しているんですが、付属物ではなく、料理を違う器に入れて出すような、展覧会と対等な感覚です。実際、ポスター写真のために部長がつくってくれた『マッスル』が出展作品になったりもしましたし。カタログは図鑑っぽいものにできればと思っていて、1月中旬発行を目指していま作っています。


―先ほど、今回は自分にとってけっこうハードルの高い挑戦だという話もありましたが、展覧会が始まった今もハードルに向かって走っている感じでしょうか?

豊嶋:何本かは、越えずに倒しているかもしれない(苦笑)。でも、それこそハードルは飛んで越えるだけじゃない、くぐることもできるよっていう考え方でいますから。あ、いまのちょっと良いですね、記事に使ってくれますか(笑)。

―押忍ッ!

イベント情報
押忍!手芸部 と 豊嶋秀樹『自画大絶賛(仮)』

2011年11月23日(水)~2012年3月20日(火)
会場:石川県 金沢21世紀美術館
時間:10:00~18:00(金・土曜日は20:00まで)
休場日:月曜、12月29日~1月1日、1月10日(1月2日、1月9日、3月19日は開場)
料金:
当日 一般1,000円 大学生・65歳以上800円 小中高生400円(モニーク・フリードマン展との共通券)

プロフィール
豊嶋秀樹

1971年、大阪生まれ。サンフランシスコ・アート・インスティチュートを卒業後、1998年よりgrafのメンバーとして生活全般に関わるデザイン、ものづくりを行う。2001年、チェルシー・カレッジ・オブ・アート・デザイン修了。2003年からはオルタナティブスペース「graf media gm」の企画制作を手がけた。美術家・奈良美智とのコラボレーションチーム、YNGのメンバーとしても活動するほか、各種の美術展や舞台づくりにも参加する。2009年よりgm projectsの一員として活動。作品制作から空間構成、ワークショップ、イベント企画など、多様で柔軟な表現活動で注目される。

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