誰かの役に立ちたい Applicat Spectraインタビュー

存在を証明するための音楽から、誰かの役に立つための音楽へ。初めての取材で「自分のすべて」と語っていた“セントエルモ”と“イロドリの種”のさらに先で生まれたシングル“神様のすみか”。そこに至るバンドの背景を詰め込んだ初のアルバム『スペクタクル オーケストラ』は、つまりバンドが外界とのコミュニケーションをスタートさせるまでを刻んだ、メモリアルな作品だと言っていいと思う。ジャケットを手掛けたのは、「現代の歌う絵師」「絶叫シンデレラ」などと呼ばれる話題の秋 赤音、アルバムの初回盤にはSerphがリミックスを提供し、触って楽しめるミュージックビデオアプリ「マルチ・ビュー・オーケストラ」も配信されるなど、様々なクリエイターがこの門出を彩っている。

バンドの中心人物・ナカノシンイチは前回の取材と同様に、言葉を選びながら、ゆっくりと質問に答えてくれた。その背景には、まず音楽が第一であり、イメージで聴いてほしくはないという音楽家としての誠実な想いがあることは間違いない。その一方で、話の途中で何度か口にした「怖い」という言葉が示すように、コミュニケーションから生まれる摩擦に対し、現在のナカノが戸惑いを感じていることもまた事実だろう。彼自身が言葉で記した「関係性の物語」の中で、バンドがいかに自分たちの物語を切り開いていくか。さあ、本当の始まりだ。

30分間ずっとニコニコ…を超えて、ニヤニヤになってるようなお客さんが目の前にいて、だったらもっと何かしてあげたいなって、そういう風に変わってきましたね。

―2月の『exPoP!!!!!』で初めてライブを見させてもらったんですけど、すごくよくてびっくりしました。前回の取材の中で、ライブは「必要だからやってる」という側面もあるって話があったと思うんですけど、でも楽しそうにライブしてるなって思って(笑)。

ナカノ:最近ちょっと楽しくなってきたっていうのもありますね。

―その変化はどこから来たものなのでしょう?

ナカノ:反応の変化ですね。最初はホントにポカーンと、見たことないもの見てるみたいな感じで、お客さんも「どうしたらいいの?」って感じだったんですよ。「どうしたらいいの?」っていう人に対して、こっちもどうしていいかわからないじゃないですか(笑)。でも、最近はお客さんから「キラキラしたものを見たい」っていう感じがすごく伝わってくるので、だったら僕らのキラキラした部分を見せましょうっていう、わかりやすい構図になってきたなって。

viBirth × CINRA presents 『exPoP!!!!! volume59』 @渋谷O-NEST(2012年2月23日 撮影:前田伊織)
viBirth × CINRA presents 『exPoP!!!!! volume59』
@渋谷O-NEST(2012年2月23日 撮影:前田伊織)

―なんでもそうだけど、相手は自分の映し鏡だったりしますもんね。あの日はお客さんもホントにキラキラしてましたもん。

ナカノ:30分間ずっとニコニコ…を超えて、ニヤニヤになってるようなお客さんが目の前にいて、だったらもっと何かしてあげたいなって、そういう風に変わってきましたね。

―そういうお客さんが増えてきたのは、ライブ自体に説得力があるからですよね。それにアプリキャットの場合、楽曲やサウンドはもちろん、ステージ上に機材が沢山あるっていう、視覚的な強みも大きいと思いました。ライブにおける視覚的要素の重要性って、自分たちではどの程度意識していますか?

ナカノ:最初は偶然だったんです。いろんな音を出すためだったので。でも、今はその偶然を上手く利用してやろうっていう気持ちがあって、動きをつけたりしているんです。そういう目で見て分かりやすい個性って、みんな好きじゃないですか?

ナカノシンイチ
ナカノシンイチ

―うん、好き(笑)。

ナカノ:そういうところを上手くくすぐってる感じですね(笑)。

―くすぐられました(笑)。右手でパッドを叩いてるときなんて、まさにオーケストラの指揮者みたいだったし。

ナカノ:ああ、指揮者みたいな気持ちではいます。

―VJとか入るのも似合いそうだなって思いました。

ナカノ:はい、募集中です。「あて先はこちら」って、書いておいてください(笑)。僕らのことがホントに好きな人と一緒にやりたくて、こっちからお願いしてやってもらうのは何か違うなって思ってるんです。そのためには、自分たちがすごくならないとっていうのもありますね。

2/3ページ:理想郷というよりも、僕が見たままを伝えてるっていう感じですね。

理想郷というよりも、僕が見たままを伝えてるっていう感じですね。

―アプリキャットの持ってるスケール感とか、ファンタジックな側面って、さっきから言ってる視覚的な部分からの影響が大きいのでしょうか? 例えば、映画だったり、アニメーションだったり。

ナカノ:うーん…出てこないってことは多分そうでもないんでしょうね(笑)。あ、『時をかける少女』のアニメ版は何回見ても泣いちゃうんですよ。あとはベタですけど、ジブリ映画とかですかね。

―ジブリは何が好きですか?

ナカノ:最近はポニョが好きです。途中から、「これはホラー映画なんじゃないかな?」とかいう目線で見てたら、色々発見があって。実は死後の世界を描いてるんじゃないかなって。

―ちなみに、ディズニーとかはお好きですか?

ナカノ:ミッキーではテンション上がらないです(笑)。

―つまり、パッと見の視覚的なキラキラ感、ファンタジックな側面に惹かれるというよりも、その背景にあるメッセージ性みたいなものにより惹かれてるわけですね。

ナカノ:ファンタジックな中に隠れてる生々しさ、みたいな感じですかね。

―じゃあ、バンドのキラキラ感のルーツはどこにあると思います? 例えば、今回“神様のすみか”のSerphによるリミックスが入ってますけど、Serphの音もすごくキラキラしてるじゃないですか? Serph自身は、それについて「音である種の理想郷、ユートピアを作りたい」って言ってたんですね。ナカノくんにも、そういう気持ちってあったりしますか?

ナカノ:うーん…いや、どっちかっていうと、そういう風に見えてるんじゃないですかね。世の中がきれいなもので塗り固められてるように見えてるんだと思います。

―そういう風な世の中に対して、憧れがある? それとも、違和感がある?

ナカノ:いや、そういうものだと思ってるだけというか。

―そう見えてるのが、そのまま音になってる?

ナカノ:うん、その分歌詞でわりと残酷なことを歌ったりとか、音の壁のような音圧をわざと出してみたりとか、汚いものときれいなものが混在してるって感じが出したいんじゃないですかね。

―どっちもないとおかしいと。

ナカノ:どっちもないとっていうか、そういうものだと思ってます。だから、理想郷というよりも、僕が見たままを伝えてるっていう感じですね。

ナカノシンイチ

その先の時代にも何か意味を残せるっていう点で、できるだけチャートに入っていきたいです。

―『スペクタクル オーケストラ』は、アルバムとしてのテーマ性があるというよりも、これまでのアプリキャットのベストというか、「これがアプリキャットです」っていうアルバムだと思うのですが。

ナカノ:今に至る背景を見せるアルバムかなって。“神様のすみか”以外は2010年に作った曲なので、“神様のすみか”ができるまでの背景を見てもらいたいなと思って。

―アルバムという形で曲をまとめて聴いて思ったのは、いわゆるロックバンド的というより、もちろんエレクトロニックな要素もありつつ、サウンドトラック的な印象があったんですね。さっきから言ってる、スケール感とかそういうことも含めて。なので、改めて作曲家として尊敬する人、好きな人を知りたいなって思ったのですが。

ナカノ:メレンゲのクボさんとか。バランス感覚が好きです。普通に僕の曲をアレンジしてしまうと、すごく爽やかになってしまうところを、どうやってルールと反対の方向に向かおうかなとか考えるんで。

―さっきも言った、汚いものときれいなものを混在させるみたいな?

ナカノ:それもそうだし、あえてグルーヴを出さないこととか。あんまりグルーヴィにしてしまうと、ホントにただのJ-POPになってしまうので。聴いてもらえればわかると思うんですけど、僕のベースは6曲中ずっとルート弾きをしてるわけなんです。そういうのも、一通りフレーズを考えるんですけど、どうもしっくり来ないんですよね。それよりも、ルート弾きの潔さというか、そういうところでバランスを取ってます。

―それって面白い考え方で、「グルーヴィな方が踊れるじゃん」っていう単純な意見もあるにはあると思うんですよね。でも、そういう機能性とかよりも、変わったバランス感とかの方が大事だと。

ナカノ:そうですね…なんか怖いんですよね、「いわゆる感」が出てしまうのが。

―ああ、ちなみに曲を作ってて1番満足感を得られるのって、どういう瞬間ですか? 思わずガッツポーズ出ちゃう、みたいな。

ナカノ:曲ができたときはいつもガッツポーズしてます(笑)。

―その中でもポイントみたいなのってあります? 例えば、「これはJ-POPのチャートの中にはないだろう」とか。

ナカノ:ああ、でもそういうことですね。「この音楽がチャートに載ったらすごくない?」みたいな、そういうイメージはします。「これがメジャーレーベルのバンド?」みたいな。

―でももちろん、あくまで自分の作りたい音楽を作ることを前提にした上で、チャートという場所にも食い込もうとしてるわけですよね? 自分の満足いく曲を作ることと、自分たちの曲をより広めること、そのバランスに関してはどうお考えですか?

ナカノ:(じっくり考えて)自分たちや自分たちのスタッフがハッピーになる以上に、その先の時代にも何か意味を残せるっていう点で、できるだけチャートに入っていきたいです。

―今だけじゃなくて、音楽シーンというものを先々まで見た上で、そこに貢献ができるのであれば、ということ?

ナカノ:はい、それは絶対に忘れちゃいけないことだと思ってます。

3/3ページ:たぶん、自分のモヤモヤを1回言葉にしたことですっきりして、余裕ができたんだと思います。それで、初めて人の役に立ちたいって気持ちが出てきたんだと思います。

たぶん、自分のモヤモヤを1回言葉にしたことですっきりして、余裕ができたんだと思います。それで、初めて人の役に立ちたいって気持ちが出てきたんだと思います。

―では、最も新しい曲だという“神様のすみか”について聞かせてください。この曲には、今まで以上に満足のいくものができたっていう手応えがある?

ナカノ:そうですね。今までで一番いいものができたとかそういう感じではなくて、「そこにたどり着きました」って感じです。簡単に言えば、前向きになったのかなって。

―確かに、この曲は「願い」や「意志」の強さが描かれてる前向きな曲ですよね。ただ、“セントエルモ”も前向きな曲ではあったわけで、そことの比較で言うとどうですか?

ナカノ:それでいうと同じ方向ですね。“セントエルモ”の先って感じです。

―では、そうやって前向きになってきていることの要因は何が大きいのでしょう?

ナカノ:曲を書いて、歌詞を書く中で、ある程度覚悟ができたというか、「自分はこんなひどいことも考えます」とか、「こんな弱い部分があります」とか、一通り全部言えたので、だったら次にできることをやろうっていう気持ちになれたというか。たぶん、自分のモヤモヤを1回言葉にしたことですっきりして、余裕ができたんだと思います。それで、初めて人の役に立ちたいって気持ちが出てきたんだと思います。

―そういう自分のモヤモヤを吐き出して、さらにはそれが人に受け入れられたっていうことも大きい?

ナカノ:うーん…っていうよりは、結果として裏も表もあるっていうイメージをもたれることが多かったので、その予想を裏切りたかったっていうのもあったかもしれないです。だから、1回100%理想しか詰まってない曲を…ひねくれてるんですかね(笑)。

―(笑)。さっきから言ってるファンタジックな側面って、言葉自体にもあると思うんですけど、言葉のチョイスに関してはどんなバックグラウンドから来てるんだと思いますか?

ナカノ:それもきっと、テーマが重かったりするので、そことのバランスを取ってるんだと思います。軽くなってしまうのも嫌だし、言葉選びはいつも悩んでます。「これだけ本気なんですよ」っていうことを伝えるためには、少し難しい言葉を使った方がそういう印象を持ってもらえると思うので、そういうところも考えたりしてます。

―自分の思いをどれだけ真剣に伝えるか、そのための言葉のチョイスだと。

ナカノ:伝えるかっていうか、どういう風に思われるかですかね。かといって全部伝わっても嫌なので、はっきりとはわからないように濁してる部分もあったり。

―やっぱり、イメージで判断されちゃうことに対する抵抗がかなりあるっていうことでしょうか?

ナカノ:言いたいことをはっきり言ってしまうと、余計伝わらないような気がするんです。歌詞の一文と生活の中で感じたことがリンクしたときに、やっとわかると思うんですよ。そのためには、最初から「こうですよ」って、わかりやすい文章にしちゃうのも怖いなって思うんです。すごく安っぽく聴こえちゃうかもしれないですからね。

僕らのひねくれた部分って、世の中からするとわかりにくいような気がするんです。そのためにも、しばらく続ける必要があるんじゃないかって思うんですよね。

―前の取材のときに「曲を書くスピードが遅い」って話をしてたと思うんだけど、要は歌詞を書くことに今も苦労してるってことですよね?

ナカノ:曲自体はすぐできるんですけど、歌詞を書くのにはすごいエネルギーを使うので、取材の合間に書くとかは無理ですね。ホントにすべてを捨てて歌詞を書くというやり方じゃないと、今までもできなかったんで。

―とはいえ、ホントの最初に比べると、技術的に上達したりもしてるんじゃないですか?

ナカノ:少しずつやり方はつかめてきました。まず日本語で書いて、アプリキャット語に変えるみたいな。

―ああ、まずはダイレクトに書いて、そこからアプリキャットとしての歌詞に変えていくと。

ナカノ:そうですね。あとは音との重なり方とかも含めて。

―もちろん歌詞の部分も含めて、今回のアルバムで結成からこれまでのアプリキャットの背景を見せたということは、ここからが本当の始まりなんだと思うんですね。気の早い話ですけど、今後の展開ってすでに描いてたりします?

ナカノ:予想は裏切りたいです(笑)。

―じゃあ、僕の予想を言わせてもらうと(笑)、これからもっと曲調の幅が出てくるんじゃないかと思ってます。今回のアルバムは「アプリキャットはこういうバンドです」っていうことを提示するために、あえて曲調を寄せたような部分もあったんじゃないかなって。

ナカノ:曲の幅はそんなに広げたくないんですよ。この感じが好きな人をもうちょっと幸せにしてあげたいというか。たぶん、詞の感じとかは色々変わると思うんですけど、音の感じはそう簡単に変えていいものではないと思うんです。それでショックを受けたこととかもありますよね? なので、今の時点では幅広くっていうのはそこまで考えてないんです。

―今のアプリキャットっていうのを、より突き詰めていくと。

ナカノ:それが当たり前になったときに変えるのかなって思うんですけど、まだ僕らのことを知ってもらえてもいない段階だと思うので。僕らのひねくれた部分って、世の中からするとわかりにくいような気がするんです。そのためにも、しばらく続ける必要があるんじゃないかって思うんですよね。

リリース情報
Applicat Spectra
『スペクタクル オーケストラ』初回盤

2012年4月4日発売
価格:1,680円(税込)
A-Sketch / AZCS-1018

1. セントエルモ
2. 神様のすみか
3. クロックワイズ
4. 猫と笑うノスタルジア
5. イミテーションブルー
6. ―Interlude―
7. イロドリの種
8. 神様のすみか(Serph Remix)

Applicat Spectra
『スペクタクル オーケストラ』通常盤

2012年4月4日発売
価格:1,680円(税込)
A-Sketch / AZCS-1019

1. セントエルモ
2. 神様のすみか
3. クロックワイズ
4. 猫と笑うノスタルジア
5. イミテーションブルー
6. ―Interlude―
7. イロドリの種

リリース情報
Applicat Spectra
『神様のすみか』

2012年3月14日からタワーレコード(一部店舗を除く)、TSUTAYA RECORDS、HMV、新星堂で期間限定発売
価格:500円(税込)
A-Sketch / APCS-3

1. 神様のすみか
2. セントエルモ Takeshi Hanzawa Remix

イベント情報
Applicat Spectra ONEMAN LIVE』

2012年4月30日(月・祝)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:東京都 渋谷 WWW

2012年5月12日(土)OPEN 17:30 / START 18:00
会場:大阪府 OSAKA MUSE

料金:両公演 前売2,500円(ドリンク別)

プロフィール
Applicat Spectra

2010年8月関西にて結成。ナカノシンイチ(Bass,Vocal,SamplingPad)、ナカオソウ(Guitar)イシカワケンスケ(Guitar,Synthesizer)、ナルハシタイチ(Drums)の4人組。相反する2つの世界を歌いあげるあどけない印象的なボーカルスタイルとエレクトロとギターロックが融合した独特のサウンドがデビュー前より話題となる。PC同期などを一切使わずメンバーが2つずつの楽器を担当して再現する独自のライブスタイルなど何もかもが新しい新世代バンド。



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