この世にないものを音楽に 石橋英子インタビュー

これまでに発表した3作がそれぞれ高い評価を受けてきた石橋英子が、初のバンド録音による新作『Imitation of life』を完成させた。「もう死んだ人たち」と名付けられたバンドメンバーは、前作『carapace』に続いてプロデュースや録音も担当したジム・オルークをはじめ、波多野敦子、須藤俊明、山本達久という、実に個性的な面々。彼らのバックアップを受け、非常にプログレッシブでありながらも、端正かつ優美な、『Imitation of life』の世界が見事な形で具現化されている。

今回のインタビューはそんなメンバーが勢ぞろいする貴重な機会となったのだが、音源で感じることのできる緊張感とは打って変わって、5人はリラックスモード。合宿で行われたというレコーディングも、ほとんどの時間はお酒を飲みながらトランプをしていたというだけに、この日も和気あいあいとした雰囲気で取材は進められた。それはまさに、わざわざ言葉で語る必要のない、音でつながった信頼関係が、アルバムの基盤となっていることの裏返しだと言っていいだろう。もちろん、ときおり出てくる鋭い指摘には「うんうん」と唸らされる、硬軟のギャップも実に魅力的な5人だった。

このメンバーでやろうと思って作ったアルバムです。デモを作った段階でキャストは決まっていたというか。(石橋)

―今回は特別にバンドメンバー全員にお集まりいただいたわけですが、普段5人でいるときはどんな話をされてるんですか?

山本:…ここで言ってもいいんですか?(笑)

―書けることだと嬉しいです(笑)。

山本:書けないな…絶対。

―書けないようなことばかりしゃべってると。

石橋:基本的に下ネタ多いよね。あとは…好きな音楽の話とか。

ジム:好きじゃなくて、嫌いな音楽の話でしょ(笑)。

石橋:そうですね…悪口(笑)。

―書けないようなことばかりっぽいので、本題に入らせていただきます(笑)。このメンバーというのは、前作『carapace』のレコーディングや、その後のライブで固まっていったわけですよね?

石橋:そうですね。前作以降のライブ活動と、あとジムさんのバンドも今このメンバーなので、そういうのを通じて一緒に演奏して行くうちにっていう感じですね。

―『carapace』は元々「歌とピアノだけでも成り立つように」っていうところからスタートした作品でしたね。でも、それをバンドで演奏して行く中で、次の作品はバンドで録りたいと思うようになったんですか?

石橋:はい、このメンバーでやろうと思って作ったアルバムです。デモを作った段階でキャストは決まっていたというか。ジムさんにPro Tools(音楽編集ソフト)のレッスンを受けまして、いろんな楽器のアレンジを考えながら、ライブの度に新曲を作っていったんです。

石橋英子
石橋英子

―やっぱり、石橋さんにとってジムさんは先生のような存在なんですね。

石橋:そうですね。マイ・チューターです(笑)。

ジム:ジェダイ・マスターです。

―(笑)。ではジムさんにとって、石橋さんはどんな存在ですか?

ジム・オルーク
ジム・オルーク

ジム:英子さんと、英子さんの音楽を尊敬してます。だんだん世界で面白い音楽が減ってると思うので、出会えてよかった、嬉しいです。自分のビジョンを持って、ちゃんと目的に向かっている人は本当に魅力がある。「人が気に入らないかも…」ってコンプロマイズ(妥協)するんじゃなくて、「やろう!」っていうのが大事。

石橋:こういう方が近くにいてくれて、恵まれてると思いますね。自分の求めてるものがあれば、それに関しては色々アドバイスもくださるので。

ジム:ジェダイ・マスターです…でも、映画(『STAR WARS』)は見たことない(笑)。

私にとって石橋英子さんというのは、入口と中が全然違うというか、入ってみると急に景色が変わってくるんです。すごく生理的だなって、そこが魅力ですね。(波多野)

―波多野さんは『carapace』でも1曲参加されていましたが、石橋さんの音楽のどんな部分に魅力を感じていますか?

波多野敦子
波多野敦子

波多野:例えば彼女の拍って、奇数が多かったり、不思議な動きをしていくんですけど、何度か演奏して行くうちにいつの間にか体にはまってて、そうやってはまりだすと全貌が見えてくるんですね。私にとって石橋英子さんというのは、入口と中が全然違うというか、入ってみると急に景色が変わってくるんです。すごく生理的だなって、そこが魅力ですね。


石橋:自分は複雑なものを作ろうと思って作ってるわけじゃなくて…、デモが出来上がって譜面におこすと、譜面書くのがただでも嫌いなので、「ややこしいかな?」と思うんですけど(笑)。だから、私は自然に作ったものでも、他の人は「何拍なんだろう?」って分析しないと再現できない。それがやっていくうちに一緒になれる感じっていうのは、すごく嬉しいですね。そういう意味では、理解力のある方たちと一緒にやれてるんだなって思います。

山本:でも、理解力って意味では、主にこの2人(波多野と須藤)ですよ。この2人はホントに譜面を書くのが速くて、2人が書き終わったら、僕は「(自分も)書いてもらっていいですか?」って(笑)。

―(笑)。須藤さんと石橋さんはいつ頃からのお知り合いですか?

石橋:何気に付き合いは長いんです。まず私が一方的にMELT-BANANAのドラマーとして知ってて、ちょっと一緒にバンドをやってたときもあって、もう12〜13年経つのかな? でも、こうやって密に一緒に音楽をやるのは今回が初めてです。

須藤:昔一緒にバンドをやっていたときに、ライブの日に石橋さんライブハウスに来て、「あ、フルート忘れた」って(笑)。

石橋:フルートしか吹かないのに、フルート忘れちゃって(笑)。確か、中古のを1万円で買いましたね。

(自分は)年代とか関係なく、音楽がタワレコに並列に置いてある世代で、いろんな物をつまみ食いするのが好きな世代だから、いろんなことができるのが楽しいんです。(山本)

―達久さんとは様々な形で共演してきて、もはやパートナーのような関係性だと思いますが、いつ頃からのお知り合いなんですか?

石橋:日にちまで覚えてるよね?

山本:2006年5月20日、秋葉原グッドマンで対バンしました。そのときまだ俺は山口に住んでレコード屋をやってたんですけど、常連のお客さんに「このCDいいよ」って聴かされたのが英子さんのファーストで「すげえいいな」と思ってて。だから対バンしたときに「本物だ!」って(笑)。それから山口にもツアーで来てくれて、一緒にやったり、俺が「東京行こうかな」って思ってたら、そのタイミングで交通費払って(イベントに)呼んでくれて、そこから(東京に)住み始めて。

山本達久
山本達久

―上京のきっかけになったんですね。

山本:いろんな人を紹介してくれて、今ドラムだけで食ってるんですけど、(石橋の)おかげだと俺は思ってるんですよ。

石橋:いやいやいや…腕があったんですよ(笑)。

―石橋さんの音楽の魅力はどんな部分に感じられていますか?

山本:どんどん変わるじゃないですか? ファーストも、セカンドも、サードも、それが面白いなって思いますね。金太郎飴みたいに面白い人もいるけど、(自分は)年代とか関係なく、音楽がタワレコに並列に置いてある世代で、いろんな物をつまみ食いするのが好きな世代だから、いろんなことができるのが楽しいんです。

―このメンバーも、ホントいろんなことができそうですしね。

山本:元々ジムさんとバカラックのトリビュートをやったときに、(石橋が)ライブでオルガンを弾いて、そのとき須藤さんもいたし、そこからこういう感じになってきてるんですよね。

左から:石橋英子、ジム・オルーク、波多野敦子、須藤俊明、山本達久
写真右から2人目:須藤俊明

―みなさん、いろんなところで接点があったわけですね。

ジム:須藤さんと私は(付き合いが)20年ぐらいです。

須藤:初めてアメリカに行ったときにジムに会ってるからね。

―そっか、一番付き合いが長いのはジムさんと須藤さんなんですね。

須藤:ジムはいろんな音楽を教えてくれるから、ホント嬉しいです。昔アメリカに行ったときは、わかりやすい英語で色々教えてくれたし、今は日本語が喋れるようになって、「須藤さん、これ知らない!?」って。

石橋:「知らない」っていうと、ジムさんのスカーフでしばかれるんです(笑)。

―ジムさんは、石橋さんだけでなく、みなさんにとっての先生…

ジム:ジェダイ・マスター!

石橋:ヨーダみたいですね(笑)。でも、ホントひとりひとりキャラクターがあって、ひとり欠けたら全然違う感じになるでしょうね。

英子さんの考えてることを実現させるのが今回の役割で、もちろん、できたものはすごくいいと思いました。(ジム)

―「もう死んだ人たち」というバンド名にはどんな由来があるんですか?

石橋:去年『ライブビート』(NHK-FMで放送されているラジオ番組)でライブ収録があって、ラジオのリスナーには私たちの姿は見えないから、メンバーの名前をでたらめで言おうと思って(笑)。それでふざけて言ったのがきっかけです。

―本当に死んでる人たちの名前を言ったってことですね(笑)。

石橋:ジョン・ボーナム、ジャコ・パストリアス、ストラディバリウス、デレク・ベイリーって紹介して(笑)。それからライブごとに別の死んだ人たちの名前で紹介しています。

石橋英子

―実際のアルバム制作は、さっきおっしゃってたようにPro Toolsでのデモ作りから始まってるわけですね?

石橋:そうです。“fugitive”はギターの弾き語りで作ったんですけど、基本的にはデモを作って、リハーサルに新曲を持って行って、ライブで試してっていうのを何回か繰り返して、レコーディングっていう感じでした。

―一連の作業は、わりとスムーズに進んだんですか?

石橋:デモがスムーズにできたかっていうとそうでもなくて、結構悶々としながら、「今日は何もできなかった…」みたいな日もいっぱいあったんですけど(笑)、でも、できあがってみたら、みなさんのおかげで自分が思ってた以上の素晴らしい曲になったと思いますね。

―ジムさんは『carapace』に引き続き、プロデュースや録音もされていますが、前作との違いというとどんな部分でしたか?

ジム:今回はコンサルタントみたいな感じでした(笑)。前回はベーシックを英子さんと私だけで録音して、一緒にいろいろ試したけど、今回はバンドの録音なので、英子さんの考えを聞いて、それに「いい」「悪い」は言いたくなかった。英子さんの考えてることを実現させるのが今回の役割で、もちろん、できたものはすごくいいと思いました。

―どちらかというと、プレイヤーという意識の方が強かった?

ジム:そうです。でも、あまり自分の演奏好きじゃない。

―“silent running”のギターソロとかすごく好きです。

ジム:あー、それ最低だった!

石橋:素晴らしいですよ(笑)。さっきの話を補足すると、私がデモを作ってて、「今日はダメだった」ってなると、ジムさんは自分の曲を客観視できなくなったときの時間の過ごし方を教えてくださって。気持ちを切り替えるために「映画を見てください」とか、「違う曲をやってみてください」とか、自分の曲を違う角度から見るためのアドバイスをくれるんです。

―コラボレーションじゃなくて、そういう関わり方に変えたっていうのは、「音楽家としての石橋さんをより確立してほしい」っていうジムさんの考えがあったんでしょうか?

ジム:うん、思った。ただ、最後に英子さんがどう決めるかはわかってた(笑)。でも、すぐには教えたくなかった。英子さん自身が決める方がいいと思ったから。すぐに教えると、ジェダイ・マスターから、ダースベイダーになっちゃう(笑)。

ジム・オルーク

デモを聴いてる段階では、とても人が演奏してる音楽には聴こえないんだけど、それを最初から最後まで演奏すると音楽になるっていうか、それが面白いなって。(須藤)

―実際のレコーディングはいかがでした?

波多野:今回は気持ち的にもペース的にも余裕がなくて、必死でやってたんですけど、ずっと一緒にやりながら「これがオッケー」っていうのを、考えるんじゃなくて、自然と覚えるようになりましたね。さっきも言ったように、生理的にわかりだすと、途中からはスッとできるようになっていきました。

須藤:今回思ったのは、石橋さんが作った曲をちゃんとやれば、演奏された音楽になるんだなってこと。デモを聴いてる段階では、とても人が演奏してる風には聴こえないんだけど、それを最初から最後まで演奏すると音楽になるっていうか、それが面白いなって。

須藤俊明

―途中で波多野さんもおっしゃっていたように、中に入ってみて、体験することでわかってくるような感じがある?

須藤:それがレコーディングを通じて形になってると思っていて、それが面白いと思いますね。

―達久さんは今回のレコーディングはいかがでしたか?

山本:僕は準備をしていくタイプではないんです。家で譜面を書いたり、音源聴いて「ここをこうしてやろう」とか、全然なくて。行く車で聴いて「いい曲やな」と思って、そのままスタジオ行って、須藤さんに譜面書いてもらって(笑)、やってたら「わかんねえ」ってなって、一応なんとなくわかってきたなって思ったら、もうレコーディング終わってたっていう(笑)。

―(笑)。

山本:「はい、終わり―」って言われて、「え? もういいんですか?」って言ったら、ジムさんが「お酒飲んでください」って(笑)。ホントにそんな感じで、レコーディングしてる感覚があんまりなくて。

ジム:1曲はホントにそう。練習中に教えずに録って「もう終わったよ」って。本番のときは、多くの人がホントに硬い、正しい演奏をやってる。でも、練習のときは、本物の音楽を出すから、それをいつも教えずに録音してる。もちろん、人にもよるんですけど。

―基本的にテイク数は少ないわけですか?

石橋:少なかったですね。合宿で録ったんで、そういう雰囲気もあったと思うんですけど、「やってみようか」って1〜2回やると、ジムさんが「もう録れてます」って。私たちもプレイバックはそんなに聴かなくて、基本的に信頼してるので、(ジムが)オッケーだったらオッケーかなっていう感じでしたね。

私にとってバンドって括っちゃうとちょっと違う気もしてて、バンドっていうよりは、ジムさんと、波多野さんと、須藤さんと、達久と、一緒に作ったっていう意識が強いです。(石橋)

―今回のアルバムは『Imitation of life』というタイトルで、1曲ごとに違うキャラクターが出てくる、ある種コンセプチュアルな作りになっていますよね?

石橋:そういうのってだいたい後付なんですけど、1年間っていう中で作っていったから、徐々にコンセプチュアルになっていくのも当然かなって。少しSFみたいな感じにしたいっていうのは何となく思ってました。

―1曲目の“Introduction”は「もう死んだ人たち放送局」のテスト映像が流れるという設定で、それと共に曲が大きく展開して行くわけですが、これはどんなイメージで作られたのですか?

石橋:元々ああいう構成の曲だったんですけど、ウォーレン・ビューティー主演の『The Parallax View』っていう映画があって、その映画の中で主人公が映像を見せられるんですね。近未来的な作品で、アメリカの歴史をサブリミナルに見せる映像が流れて、そこにすごくきれいな音楽が流れるんです。そのイメージが残ってて、あの感じでできるかもって思って。それも、ジムさんに教えてもらった映画なんです。

ジム:大傑作です。見てください。

―そういう曲のイメージの話とかってされるんですか?

石橋:あまりしないです。私はそもそも曲を説明するのが苦手というか、「こういう気持ちで作った」とかはあまり言いたくなくて、基本的に歌も歌いたくないぐらいだから。やりたいことを口で説明できてたら、音楽やってなかったと思うし。それに、まず音から何か感じ取れるものを作らなければ、何を歌っても平面的で飽きやすいものになってしまうと思います。

―石橋さんはシンガーとしても十分に魅力があると思うんですけど、ジムさんから見たシンガーとしての石橋さんの魅力はどんな部分ですか?

ジム:シンガーとか、音楽家とか、アーティストとか、そういうことだけでは扱わないんです。英子さんは、強い考え、強い意志を持ってる人。全体として扱うことが大事です。

―ジェダイ・マスター、ありがとうございます(笑)。では、最後に改めて、今回感じたバンドで制作することの喜びについて、石橋さんに話していただけますか?

石橋:私にとってバンドって括っちゃうとちょっと違う気もしてて、バンドっていうよりは、ジムさんと、波多野さんと、須藤さんと、達久と、一緒に作ったっていう意識が強いです。作る前からきっと自分の想像を超えるものができるとは思ってたけど、本物の演奏がついて、本物の音になって、ホントにそれが実現したので、よかったなって思ってます。なので、これからも楽しみですね。

リリース情報
石橋英子
『imitation of life』

2012年6月20日発売
価格:2,625円(税込)
felicity / PECF-1049 cap-150

1. introduction
2. resurrection
3. long scan of the test tube sea
4. written in the wind
5. silent running
6. fugitive
7. imitation of life

プロフィール
石橋英子

茂原市出身の音楽家。いくつかのバンドで活動後、映画音楽の制作をきっかけとして数年前よりソロとしての作品を作り始める。その後、4枚のソロアルバムをリリース。ピアノをメインとしながらドラム、フルート、ヴィブラフォン等も演奏するマルチプレイヤー。シンガーソングライターであり、セッションプレイヤー、プロデューサーと、石橋英子の肩書きでジャンルやフィールドを越え、漂いながら活動中。最近では七尾旅人、Phew、タテタカコ、長谷川健一、前野健太、トンチの作品に参加。



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