椎名桔平が若者に告ぐ 「3年で諦めるのはまだ早い」

60,000コンテンツ以上の音楽や映画が月額490円ですべて見放題の総合エンタメアプリ「UULA」。オリジナルドラマとして、椎名桔平主演のハードボイルドドラマ『RETURN』全8話が配信されている。監督・脚本を手がけるのは『わが母の記』が『モントリオール世界映画祭』で審査員特別グランプリを受賞した原田眞人監督。主演は、原田監督作品の常連である椎名桔平。借金の取り立てにきた暴力団・御殿川組の若社長をはずみで殺害したことから海外へと高飛びし、南米のカジノでクルピエを務めている主人公・古葉完治を演じる。金の力でカジノの女たちを日本に連れ帰っている実業家・狭土萬正の暗殺命令を下された古葉が、震災後の日本で、ヤクザや闇組織の人間たちと追いつ追われつのバトルを繰り広げる物語だ。

今回のインタビューでは、椎名がドラマの領域を超えた劇映画さながらの本作の魅力を語ると共に、自らの無名時代について回想してくれた。俳優としてのブレイクが30歳目前と遅咲きだった椎名が、無名時代の自分自身に与えた10年という猶予期間。夢を追うクリエイターを鼓舞するかのような内容となった。

映画は挑発的な題材を扱うことのできる媒体だから、現代日本が抱えている問題を描くことに違和感はなかった。

―『RETURN』は「UULA」発のオリジナルドラマ作品ですが、映画監督の原田眞人監督が監督と脚本を担っているんですよね?

椎名:そうです。スタッフも原田組なので、普段の映画製作と同じ布陣でした。だから役者としては、ドラマというよりも映画を撮っているような意識でいましたね。

―震災後の日本を舞台にしているだけに、劇中には社会風刺が盛り込まれたセリフが出てきます。ドラマ作品としてはかなり挑発的ですよね?

椎名:最初にいただいた脚本には社会風刺に関することは書いていなくて、稿を重ねていく中で突然入ってきたんです。でも映画は挑発的な題材をあえて扱っていくような媒体だと思うので、現代日本が抱える問題を描くことに違和感はありませんでした。これが民放のドラマだと、変なプレッシャーを感じてしまいますけど……(笑)。

椎名桔平
椎名桔平

―原田監督の作品に出演するのは、今回で4度目ですよね。

椎名:原田監督と初めてご一緒させていただいたのは、映画『金融腐蝕列島 呪縛』(1999)。それまでの僕はアウトロー路線のキャラクターを演じることが多かったのですが、そのときはエリートサラリーマン役で、役者としての幅を広げてもらいました。その後は映画『突入せよ!「あさま山荘」事件』(2002)や映画『魍魎の匣』(2007)に参加させていただきました。ただ、主演として長い時間を原田監督と一緒に過ごすというのは今回が初めてでしたね。

―同じ監督と複数の作品で組む際のメリットはありますか?

椎名:過去に3度ご一緒しているので、現場での理解度は高かったと思いますね。原田監督の表情や少しの言葉から、どういったものを欲しがっているのかわかるというか。

―その一方で椎名さんに対する原田監督の期待値も高いわけですよね? 俳優として前回以上のものを出さないといけないという責任もあるのでは。

椎名:役者として仕事をご一緒する以上、監督の世界観を理解した上で、ベストの芝居をし続けなければいけないという思いは常にあります。それに、今回は出演者の中で、原田組のテイストを知っている人間という立場だったので、現場を引っ張っていこうという気持ちがありました。プレッシャーもありましたが、モチベーション高く製作に関わることができました。

―この作品は「UULA」での配信ですが、原田監督が「若者を映画好きにするための新たな戦略」という意気込みでメガホンを取っているだけあって、すごくクオリティーが高いですよね。こういった作品がスマートフォンで手軽に観られるのは贅沢なことだと思うのですが、椎名さんは映画や音楽が見放題のサービスに関して、どのような考えをお持ちでしょうか?

椎名:決定的にコストが安いので、利用者にとってすごくメリットがありますよね。レンタルするよりも断然お得だし、つまらない作品だったら、途中で観るのをやめてまた別の作品を観ることもできるじゃないですか?

―製作側の椎名さんからそのようなお話がうかがえるとは思っていませんでした!

椎名:自分の感性に合った作品に出会うためには、数多く観る必要がありますよね。そういった意味で、こういったサービスは楽しみです。もちろん、製作側は一所懸命作ってるので、『RETURN』は最初から最後まで観ていただきたいですけど……(笑)。

当時はあまり人と会いたくなかった。

―椎名さんにとって、ターニングポイントとなった出演作品は何だったのでしょうか?

椎名:石井隆監督の映画『ヌードの夜』(1993)が俳優としての起点になっていて、その後に『金融腐蝕列島 呪縛』、最近では北野武監督の『アウトレイジ』。この3つの作品が、その後の俳優人生を見つめる機会になっています。特に『ヌードの夜』は無名に近い存在だった僕が、映画関係者に認識してもらえるようになった作品で、竹中直人さん、余貴美子さん、根津甚八さんともがっぷり組んでやらせてもらえました。初めての大きなチャンスだったので、「これで上手くいかなければ、この先の俳優人生は期待できないぞ」というような、伸るか反るか? の気持ちでしたね。

―『ヌードの夜』は28歳の頃に巡ってきたチャンスですが、30代に近付けば近付くほど、夢をとるか現実をとるかの分岐点に差し掛かりませんでしたか?

椎名:そうですね。やはり20代後半のときは焦りがありました。就職している友人たちは仕事にも慣れて、部下もできている頃じゃないですか? そんな姿を見てしまうと、自分は一体何をしているんだろう? と考えてしまうこともありました。だから当時はあまり人と会いたくなかったですね。

―そういった状況の中でも「役者になる」という夢を諦めなかったのは、どこかに自信のようなものがあったからでしょうか?

椎名:役者というのは不思議なもので、才能の有無の判断が難しい職業だと思うんです。顔が整っていなくても素晴らしい俳優になる人もいるし、声が悪くてもそれが個性として活きる人もいる。一概には良し悪しの判断基準が明確なわけでもない。

―確かにそうですね。

椎名桔平

椎名:それに若手時代に芝居の仕事をいただいたとしても、短時間の出演で終わってしまう場合が多く、演じる時間が少ない。役柄を掘り下げたり、キャラクターを演じ分けたりすることが物理的に難しいんですよね。役柄をきちんと演じさせてもらって初めて、自分自身が役者に向いているのか否かを理解することができると思っていたんです。だから、いつかそんな機会を与えてくれる人が現われるのだろうと信じながら、今年がダメなら来年、それでもダメなら再来年と考えながら過ごしていました。でも月日はどんどん流れていき……(笑)。そんな中で、自分自身に10年という期限を与えることにしたんです。

―10年という期限にはどんなルールを設けていたのでしょう?

椎名:21歳から俳優を始めたので、とりあえず31歳までは余計なことを考えず、必要以上に焦らず、人と自分を比べず、生活に必要なお金が稼げないとかも考えないことに決めたんです。

―とにかく、10年間を一所懸命に頑張ろうという心境だったんですね。

椎名:28歳で『ヌードの夜』が公開されてから、ちょこちょこと役者の仕事が来るようになって、29歳でアルバイトを辞めました。ちょうど10年目となる31歳のときに、トレンディードラマの名残が残っていた頃の月9ドラマ『いつかまた逢える』に出演することができたんです。ラッキーだと思ったし、なにより間に合ったという気持ちが強かったですね(笑)。

―ちなみに、下積み時代はどんなアルバイトしていたのでしょうか?

椎名:当時は人と会いたくないという気持ちが強かったので、トラック運転手のアルバイトが多かったですね。それに、客商売のアルバイトをしない方がいいという考えを持っていました。

―それはなぜでしょう?

椎名:客商売はお客さんが第一で、自分の感情よりもお客さんに合わせてサービスを提供するもの。もちろん俳優の仕事も最終的にはお客さんに見てもらうのですが、客商売では自分の考えや感情を他人に合わせないといけないですよね。それは役者を目指す上で、良い作用を与えるとは思えなかったんです。

10年間1つのことに向き合って頑張れたという事実は、自信に繋がる。

―10年と期限を定めて夢を実現させた姿は、多くのクリエイターたちに勇気を与えると思います。

椎名:今の情報化社会のような時代の中では、早く結果を求められてしまうことが多いと思いますが、だからといってかつて10年かかったものが3年でできるようになるわけではないですよね? 10年でのれんわけ、10年で一人前と言われるような職人さんの世界もありますし。もちろん10年経っても夢が叶わなかったという人の方が圧倒的に多いかもしれないけど、夢は一生ものだし、大切に育んでいくべきだと思うんです。例え夢が叶わなかったとしても、10年間1つのことに向き合って頑張れたという事実は、自信に繋がるはず。何かを3年やって上手くいかずに諦めて、また何かを3年やって諦めて、という繰り返しが一番もったいないですよ。

―その10年間は長かったですか? それとも短かったですか?

椎名:長かったかもしれない。上手く行かない苛立ちのようなものも多かったです。絵描きであれば自分一人で絵を描き上げられるけど、役者は仕事を受けて初めてスタートできるものだから、家の中でただ脚本を黙々と読んでいるだけでは、何も生まれませんから。それでも20代というのは大人になるための修行期間と捉えていましたし、自分自身で10年と決めたからには、途中で諦めようと真剣に考えたことはありませんでしたね。

椎名桔平

―猶予期間を決めて夢を追う中で、チャンスをものにしたんですね。

椎名:20代のときにたまたま手に取った雑誌の中で、オノ・ヨーコさんが「10年1つのことを頑張れば、神様はきっとご褒美をくれる」と仰っていたんです。それを見て「そうか、一度はチャンスくれるのか。だったら待ってもいいだろう」と思いました。成功するかしないかは別として、誰にも一度はチャンスがやってくるんだと思います。そしてそのチャンスに乗れるかどうかは、才能も含めて自分の頑張り次第。今から思うと、僕にとってのそのチャンスは映画『ヌードの夜』だったんでしょう。その雑誌を手に取ったのは偶然ですが、誰かに何らかの指南を与えてほしいという思いが心のどこかにあったから、その文章が目を惹いたんだと思います。

―その10年を経て、現在は俳優として成功されています。若手時代に思い描いていた未来予想図があるとするなら、今の姿はそれに近付いていますか?

椎名:20代の頃に抱いた「役者として飯を食う」という夢は叶っています。でもその夢が叶った後に何を求めるのかというと、いい役者になるということしかないですよね。じゃあ、いい役者とは何か? そして誰が決めるのか? と考えるとそれはわからない。自分の中に理想的な役者像があるとするなら、その像に自分が近付いているのか、それともまだ半ばを登っている最中なのか、やはりわからない。でもそれは一定の場所で安心していられない性分ということだと思うし、結局のところ頂点はない、ということなんだと思います。

作品情報
『RETURN』

監督・脚本:原田眞人
主題歌:m-flo“CHANCE”
出演:
椎名桔平
水川あさみ
山本裕典
キムラ緑子
山路和弘
田中泯
高島政宏
土屋アンナ

製品情報
『UULA』

60,000コンテンツ以上の映画・音楽が全て見放題の総合エンタメアプリ、iTunes App Store、Google Playで販売中
価格:無料
※コンテンツ視聴には定額料金490円が別途必要
まずはオフィシャルウェブサイト、またはソフトバンク店頭で会員登録

プロフィール
椎名桔平

1964年7月14日、三重県出身。石井隆監督による1993年の映画『ヌードの夜』で注目を集め、『夜がまた来る』『GONIN』『黒の天使 Vol.1』など石井監督作品に続けて出演。原田眞人監督の映画『金融腐食列島 呪縛』では、日本映画アカデミー賞助演男優賞など、数多くの賞を受賞し、実力派俳優としての地位を確立する。テレビドラマ「Age35、恋しくて」「スウィートシーズン」「アンティーク〜西洋骨董洋菓子店〜」「警官の血」「銭ゲバ」などに出演、舞台俳優としても活躍中。フジテレビ系ドラマ「謎解きはディナーのあとで」ではコミカルな演技で新境地を開拓し、2013年8月3日には劇場版が公開される。



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