伝統だって、他人と同じことはしたくない 上妻宏光×長谷川達也

東京都などが主催する東京文化発信プロジェクトの一環として開催し、今年で5年という節目を迎えた『東京発・伝統WA感動』で、津軽三味線プレイヤーの若手第一人者である上妻宏光と、ストリートダンスユニットDAZZLEによる異色のコラボレーションが実現する。邦楽というジャンルを飛び出し、ロックやジャズなど様々な音楽スタイルと融合した「新しい伝統音楽」を模索する上妻。一方、ストリートダンスをベースにしながら枠にとらわれないパフォーマンスによって、観る者を魅了してきたDAZZLE。そんな二組がぶつかり合うステージは、これまで体験したことのないような感動を味わえること必至だ。三味線とストリートダンス。この、一見なんの共通点もなさそうな二つの表現には、実は意外なところで共通点があるという。それぞれの魅力と今回のコラボへの意気込みについて上妻と、DAZZLEの代表である長谷川達也に語り合ってもらった。

海外で三味線を弾いたときに「僕は日本人で日本の楽器を演奏しているんだ」と強く感じた。(上妻)

―お二人とも、それぞれのジャンルから一歩出た活動をされていますよね。上妻さんは津軽三味線と洋楽のセッションをしたり、長谷川さんはストリートダンスとコンテンポラリーダンスを融合していたり。

長谷川:今回初めて上妻さんと共演させていただくのですが、実は、僕が初めて上妻さんの音楽と出会ったのは10年くらい前のことで、自分がちょうどダンスを始めた頃なんですよ。ストリートダンス、あるいはヒップホップダンスと呼ばれるアメリカ発の文化に触れていくうちに、「日本人が誇れる文化を作っていきたい」と考えるようになって。「日本の伝統楽器を使った音楽に、ダンスを付けてみたらどうだろう?」と思い至り、そのときに上妻さんの音楽と出会いました。

―上妻さんの音楽のどんなところに惹かれたのでしょう?

長谷川:古典音楽を聴きやすくしてくれていますよね。いわゆる普通の古典にダンスの振り付けをするのはすごく難しいんですけど、上妻さんの演奏は三味線なのにダンスミュージックとしても聴けるし、ポップやロック、ジャズのような西洋の音楽を融合して新しいサウンドを作ろうとされているところにすごく共感したんです。

長谷川達也(DAZZLE)
長谷川達也(DAZZLE)

―長谷川さんがストリートダンスをやろうと思った、もともとのきっかけはなんだったんですか?

長谷川:中学校3年生のときに『高校生ダンス甲子園』(『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』の人気企画)を観て、こう、沸き上がるものがあって、悔しくなったんです。それで、見よう見まねでダンスをやり始めたんですけど、教えてくれる人もいないし、友達とチームを組んでも長続きせず……。それから時を経て大学生になり、ダンスサークルを覗いたときに、中学生の頃の気持ちが甦ってきて。「もう、これはダンスをやるしかない」と思ったのが、本格的にやり始めたきっかけです。

―プロのダンサーを目指すようになったのもそのときですか?

長谷川:いや、僕が大学生のときは、ダンサーという職業がちゃんと確立されていない時代だったんですよ。ダンスをやっていた友人の誰一人として「将来、ダンサーになろう」と思っている人はいなかったし、当時、僕なんかより上手な人は山ほどいたんですけど、その人たちはみんな辞めてしまった。でも、自分が自信を持って誇れるものはやっぱりダンスだし、それを辞めてしまうのはすごくもったいないんじゃないかと思って。

上妻:僕は、物心ついた頃から三味線をやっているんですけど、日本の伝統音楽ばかり聴いてるかと言ったらもちろんそんなことはなくて、よく聴いていたのは『ザ・ベストテン』や『ベストヒットUSA』のヒットチャートだったんです。当時は音楽番組もたくさんありましたから、それが知らず知らずのうちに自分の細胞に取り込まれて、三味線と混じり合っていったんでしょうね。だから「三味線と西洋音楽の融合」というのは、僕の中では自然な流れでした。

上妻宏光
上妻宏光

―上妻さんは、日本の伝統楽器とギターやベースなど海外の楽器で演奏するインストのロックバンド・六三四Musashiにも参加されてましたよね。

上妻:ロックバンドみたいなところで演奏した方が、古典にはないカッコ良さがあると10代の頃から思っていました。実際、六三四Musashiのメンバーとして海外へ行って、三味線のソロを弾いたときに反応がすごかった。そのときに「僕は日本人で日本の楽器を演奏しているんだ」ということを強く感じて、さらに突き詰めて「自分にしかできない、三味線サウンドを作り上げていきたい」と思うようになっていったんです。

三味線はもともとストリートから始まった。(上妻)

―ストリートダンスと三味線は、一見なんの共通点もなさそうですが、どちらもストリートから生まれた表現なんだとか。

上妻:ええ。三味線はおよそ400年前に大陸から入ってきたのですが、世界を見渡してみても珍しい楽器だと思います。バチで叩いてリズムを出すという奏法自体もユニークで、これには柏手などと同じで「高い周波数を出して場を清める」という意味があるのかなと思いますね。それともっと前の時代に琵琶法師という盲目僧の芸人がいて、琵琶はストリートで演奏された楽器ですから、道行く人の注目を集めるために大きな音をバーンと出すこともあった。

―その影響も大きく受けているということでしょうか。

上妻:そうです。当時、尺八や雅楽は階級によって演奏できないこともあったんですけど、三味線は一般の人も演奏して良いとされていた楽器で。僕がやっている「津軽三味線」は、もともと新潟の瞽女(ごぜ)と呼ばれる目の不自由な女性が、旅をしながら曲を作っていたものが、青森まで伝わったものなんです。当時、目の不自由な人がなれる職業は、三味線弾きか按摩師で、門付(かどづけ・玄関先で歌を歌ったりして日銭をかせぐ大道芸)に好んで使われているような楽器だったんです。それで、例えばストリートで演奏するとき、同じような人が増えてくると、違うフレーズを弾きたくなるじゃないですか? そこから、他の誰かが何かフレーズを弾いたら、まるでジャズの即興演奏のように、他の誰かが違うフレーズを即興で弾くようになったんですよ。三味線という楽器が、様々な音楽スタイルの中でフレキシブルに使われるようになったのは、そういう歴史があったからだと思いますね。

左から:上妻宏光、長谷川達也(DAZZLE)

―長谷川さんは、ストリートダンスから始まって、様々なダンスのスタイルをどのように取り入れていったのですか?

長谷川:ダンスは大抵は音楽とともにあって、音楽に対してどういう風に身体でアプローチしていくかがストリートダンスの醍醐味で、その解釈の仕方が「個性」になるんです。例えばリズムが強いから、身体のあて方を強くする場合もあるでしょうし、あえて外してみる場合もある。そういう身体の使い方に関し、「既存のスタイルを突き詰めていく」というやり方ももちろんありますが、僕自身は様々なジャンルの良いところを取り入れてみようと思ったんです。1曲の中で、感情表現豊かなジャズダンスの振り付けがあってもいいし、気分を高揚させるヒップホップのリズムがあってもいい。そういったものがいろいろ展開されていったほうが面白いんじゃないか、と。上妻さんは、三味線をロックやジャズと融合させるとき、技術的な部分での試行錯誤はありましたか?

上妻:例えば、東洋と西洋では「間」や「タメ」の解釈が違うので、それを合わせるのはなかなか難しかったです。日本やアジアでは、踊りも格闘技もそうなんですが、「腰を落とせ」ってよく言われるように「下(ダウン)」で間を取るんですね。それに対して西洋の場合は「上(アップ)」で取ることが多くて。

―音楽だと、いわゆる「裏拍」とか「アップビート」って言われているものですね。

上妻:そうです。リズムの取り方ひとつをとっても、音楽の下地に違いがあるので、これまで民謡という畑にいたものとしては、全く違う畑へ移動したことになるわけです。

―上妻さんはもともと「和」の表現に「洋」を取り入れていき、長谷川さんは「洋」の表現に「和」を取り入れていくという、全く正反対の場所から同じところを目指しているように感じました。

上妻:確かにそうですね。伝統音楽の中だけでやっていると、いわゆる「師匠」を頂点とした1つのピラミッドというか組織ができるので、その頂上からさらに越えることはできないわけです。でも音楽って、それ以外の部分もあるんじゃないかと。伝統的と呼ばれる音楽の昔の名人と言われた人たちだって、その時代の「流行歌」をやっていたわけですからね。もちろん、伝統を守っていくことも必要なのですが、同時に今の時代に合わせて改革していくことも必要なんじゃないかと。そうすることで、三味線という楽器の表現の幅も広がる。実は高校を卒業したら、三味線一つ持って海外を回りたかったんです。何か月か滞在して、その国の言葉も少しは覚えて。いずれしゃべられるようになったら、その地元の音楽を取り入れながら自分のサウンドを作るという、昔の三味線弾きみたいなことをするのも悪くないんじゃないかって。結局忙しくなってしまって実現できなかったんですけどね。

「ジャンルとしてどうなのか?」ということよりも、「観ている人がどう感じるか?」という部分を大事にしたかった。(長谷川)

―表現の幅を広げるというお話で言うと、上妻さんは『津軽三味線全国大会』で、他の人が選ばない“津軽よされ節”で優勝されたとか。

上妻:大会で優勝する人はみんな“津軽じょんがら節”を演奏するんですよね。8ビートの派手なメロディーで、音が作りやすいので。でも、大会で優勝した人の演奏を他のところで聴いて“じょんがら”はうまいけど、他はうまくないってことがけっこうあって、それじゃレベルが下がるでしょうと。その流れを変えたいと思ったんですよね。他にいい曲もたくさんあるわけですし。だから1回目は“じょんがら”で優勝して、2連覇するときは、3拍子のような“津軽よされ節”。まあとんがってたというか、若気の至りというか(笑)。

―シーン全体の活性化も考えてのことだったのでしょうか?

上妻:活性化になってるかどうかですけど(笑)、結果的にああいうやつもいたんだっていう見本になって、10代の子とかが、「俺こっちの曲好きだからこれを演奏しよう」と思ってくれるきっかけになればいいですね。でも、結局は自己満足、自分の欲なんですよ。大河に穴を掘って、こっちにも川を作っちゃおうかな、という感じです。

長谷川:僕も、「他人と同じことはしたくない」っていう気持ちがずっとありました。でも、音楽にもジャンルというものがあるように、ダンスにもジャンルがあって。「この踊りには、この曲じゃないと駄目だ」とか、「ここはこういう風に踊るものだ」とか、そういう「縛り」にぶつかったんです。もちろん、ジャンルを深めていく上で「縛り」というのは必要ですし、それを否定するつもりは全然ないんですけど、僕自身は「ジャンルとしてどうなのか?」ということよりも、「観ている人がどう感じるか?」という部分を大事にしたかった。音楽はなんだって構わないし、身体の動かし方だってスタイルにこだわる必要はないんじゃないかと。それにジャンルから逸脱することで、他のグループから一歩抜きん出られるとも思ったんです。つまり「独創性」ですよね。それを獲得するために暗中模索していた。今もそれは続いているんですよね。

左から:上妻宏光、長谷川達也(DAZZLE)

―先日、『東京発・伝統WA感動』の『音の息吹き』に出演される箏曲家の沢井一恵さんが「箏も室町時代に生まれたときには『前衛』で、それが引き継がれていくことで伝統になる」とおっしゃっていたのですが、今のお話はまさに通じるものがあると思いました。

上妻:そうですね、僕みたいな人たちがたくさん演奏して、その中からふるい落とされたものが、100年くらい経つと「伝統」とか「クラシック」って呼ばれるものになるわけですが、もともとはもっといろんなことをアプローチしてきた人間がいるわけですよね。それが人間の欲求だと思いますし、そこがまた面白いところなんじゃないかな。そういう欲求がなかったら、別に宇宙へ行く必要もないし(笑)。もちろん新しいことだけやってても駄目で、僕らの足下には、そうやすやすと太刀打ちできない「伝統」があることも忘れてはいけないのですが。

長谷川:ダンスシーンにもストリートダンスなのか、バレエなのか、コンテンポラリーなのかという風にいろんなスタイルがあって。「DAZZLEがやってることは、ストリートダンスじゃないよ」って言われたことは、何度もありました。逆にコンテンポラリーの世界で何かを表現すると、「それはコンテンポラリーじゃないよね」って言われたこともあります。でもいつだって僕は、「それはそれで別にいいんだけど」っていうスタンス。既存のジャンルを否定するとかじゃなく、「こういう表現があってもいいんじゃない?」ってところを見せていきたい。そんな中で新しい表現スタイルが生まれたら、それはとても素敵なことですよね。

―12月14日に日暮里サニーホールで開催される『東京発・伝統WA感動』では、『狐影』という演目をやるそうですね。

長谷川:はい。もともとはDAZZLEの『花ト囮』という公演があって、その中で「狐の嫁入り」をモチーフにしたシーンが登場するんですが、その雰囲気を今回も活かしたいと思っています。


上妻:まだ稽古は始まっていないのですが、そういったモチーフに合いそうな曲を、これまでの僕の作品の中からチョイスしていただき、さらに書き下ろしの曲を加えて演奏する予定です。

長谷川:僕はダンスという表現方法を用いているわけですけど、公演を観に来た人には踊りだけでなく、物語としても楽しめるものを作りたいと常々思っているんです。なので、「踊りを知っている人じゃないと楽しめない」とか、「三味線を弾いている人じゃないと難解だ」とか、そういう風にはならないよう気をつけたいですね。

上妻:今回はDAZZLEさんと初めての共演ですので、お互いの主張を尊重しつつ、自分にしかできないものを提示したいですね。そして、これ1回限りではなくて、次に繋がるようなアイデアや人間関係が作れたらいいなと。

長谷川:ダンスのみならず芸術って、生きていく上ではそこまで必要じゃないというか、別にダンスを観なくても、踊らなくても生きてはいけるじゃないですか(笑)。でも僕はそのダンスに出会い、いろんな人と出会い、いろんな土地へ行くことで人生が豊かになったと感じているんです。今回、せっかくこうして上妻さんとコラボレーションできるし、ストリートダンスと日本伝統音楽を融合するなんてなかなかできることではないので、ジャンルというフィルターを取り払って、目撃していただきたいです。

上妻:さきほど長谷川さんが、「他人と同じことはしたくない」とおっしゃっていましたけど、僕も子どもの頃からそう思っていましたし、「こういう活動をするんだ」ってことを、ずっとイメージしながら東京に出てきた。だから、強い志を持った僕ら二人がぶつかったときに生まれる、デジタルでは表現できない「何か」をとても期待しています。ジャンルや表現方法という垣根を越えた、人間同士の繋がりをステージから感じ取ってもらえたら嬉しいですね。もちろん、DAZZLEのダンスを目当てに観に来た若い人たちに、「日本にはこういう楽器が存在するんだ」ってことを知ってもらえるきっかけになればと思っています。実際に音を聴いて感じることって大きいと思うので、「ああ、三味線ってこういう響き方をするんだ」と、そういう感動を味わってもらえたら何よりですね。

イベント情報
東京発・伝統WA感動『日本の伝統芸能×ストリートダンス』

2013年12月14日(土)13:00開演(12:30開場)、16:00開演(15:30開場)
会場:東京都 日暮里サニーホール
[第1部]高校生ストリートダンス×歌舞伎
出演:都内高校ダンス部 (都立足立新田高等学校、都立清瀬高等学校、都立高島高等学校)
[第2部]
『狐影』
出演:上妻宏光(津軽三味線)、DAZZLE(ダンスカンパニー)
料金:一般3,000円 学生2,000円
※内容は変更になる場合がございます
主催:東京都、東京文化発信プロジェクト室(公益財団法人東京都歴史文化財団)、東京発・伝統WA感動実行委員会

東京文化発信プロジェクトとは
東京文化発信プロジェクトは、「世界的な文化創造都市・東京」の実現に向けて、東京都と東京都歴史文化財団が芸術文化団体やアートNPO等と協力して実施しているプロジェクトです。都内各地での文化創造拠点の形成や子供・青少年への創造体験の機会の提供により、多くの人々が新たな文化の創造に主体的に関わる環境を整えるとともに、国際フェスティバルの開催等を通じて、新たな東京文化を創造し、世界に向けて発信していきます。

プロフィール
上妻宏光(あがつま ひろみつ)

三味線プレイヤー。1973年茨城県出身。6歳より津軽三味線を始め、幼少の頃より数々の津軽三味線大会で優勝するなど、純邦楽界で高い評価を受け、2001年『AGATSUMA』にてメジャーデビュー。伝統的なジャンルのみに留まることなく、国内外において数多くのミュージシャンとのセッションを重ね、「津軽三味線の伝統と革新」を追求し続けている。さらに日本全国の小学校において日本の伝統音楽の魅力を伝える授業を行っており、次世代への文化伝承にも力を注いでいる。

長谷川達也 / DAZZLE(はせがわたつや / だずる)

「すべてのカテゴリーに属し、属さない曖昧な眩しさ」をスローガンに独創的作品を生み出し続けるダンスカンパニー。日本の伝統的なモチーフ・精神性を取り入れた作品『花ト囮』で世界に衝撃を与える。『SAMJOKOアジア演劇祭』(韓国)、『シビウ国際演劇祭』(ルーマニア)招聘。2012年には中東最大規模の『ファジル国際演劇祭』(イラン)で、二部門を受賞。



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