ブックコーディネーター内沼晋太郎と考える面白さを形にする方法

unico、ディスクユニオンなど数々のショップにおいて書棚スペースの選書を手がけ、自身も本屋「B&B」を共同経営するブックコーディネーター内沼晋太郎。一般の書店で本を販売するという既存の手法を飛び出し、本と読者の新しい出会い方をプロデュースする「本とアイデア」のレーベル「numabooks」を主宰する彼が、次に手がけたのは、国内大手のスポーツウェアブランド・デサント(DESCENTE)の旗艦店となる「DESCENTE SHOP TOKYO」の書棚とイベントスペースのプロデュース。スポーツウェアが並ぶ空間に合わせて選ばれた本は、原宿の文化を求めて集う人々に新鮮な驚きをもたらし、これまで数多の選書を行ってきた彼ならではの審美眼が光っている。同空間では毎週末イベントが開催されるが、本とイベントという組み合わせは、かねてより彼が「本の未来」のコミュニケーションを探る中で実践してきた手法である。その蓄積を活かした今回のプロジェクトで、彼はどんな新しいことを仕掛けようとしているのか。また、次々と企業を巻き込み、クリエイティブな取り組みを行うことができるのはなぜなのか。その秘密を聞いた。

バラバラになっている本を1つの文脈のもとに集めてくるのが僕の仕事です。

―今回、内沼さんが「DESCENTE SHOP TOKYO」の書棚を選書することになったきっかけは何だったのでしょう?

内沼:実は僕、スポーツはほとんどやらないんです。スポーツカルチャーに関してもほとんど素人で。でも、今回デサントの意向としては、僕みたいにこれまでスポーツにあまり接点がなかった人に知ってもらいたいということだったので、そういうことであればお手伝いできると思いました。

内沼晋太郎
内沼晋太郎

―最近は、登山やアウトドアを趣味にする人が増えたり、スポーツが文化的なものとして再び注目を集めていますが、書棚を選書する際にそういった接点も意識されましたか?

内沼:そうですね。ただ、スポーツとカルチャーが結びついたのはおそらく今に始まったことではなくて、ストリートファッションにスポーツウェアが入っていったあたりから歴史があるんだと思うんです。でも、今はさらに、音楽でも本でも好きなものが細分化していますよね。その流れでスポーツの選択肢も多様化して、自分の好きなカルチャーとの接点を見つけていくようになったんじゃないかと思います。それで「このスポーツが好き」と主張する人が増えてきて、ブームが表面化したんじゃないかと。

「DESCENTE SHOP TOKYO」B1Fの様子
「DESCENTE SHOP TOKYO」B1Fの様子

―スポーツをテーマに選書されていますが、直球のセレクトではなくて、写真集や小説も置いていますよね。

内沼:スポーツの実用書を探したい人は大型書店に行きますから、専門書店のような選書は行っていません。棚の大きさも限られているので、網羅することは不可能ですしね。原宿という立地もありますし、スポーツやカラダのことに興味を持つ入り口となるように心がけました。例えばデートの途中で彼氏に連れてこられた彼女が、書棚を見てちょっと気になるような本をイメージしてセレクトしました。でも、もちろんスポーツが好きな人が集まる場所でもあるので、スポーツの奥深さをさらに感じられるような本も選んでいます。

―具体的には、どういったバランスで選書しているのでしょう?

内沼:例えば「歩く」をテーマにした棚だったら、ウォーキングについて解説した本もあれば、四国のお遍路についての本もあるし、『夜のピクニック』のような小説もセレクトしています。ターミナル駅にあるような大きな書店に行けば、これらの本はすべて取り扱っているとは思いますが、このような本の並びにはなってないわけですね。スポーツの専門書は専門書の棚にあるし、小説は小説の棚にある。そういうふうに、バラバラになっている本を1つの文脈のもとに集めてくるのが僕の仕事です。

「走る」をテーマにした書棚
「走る」をテーマにした書棚

―内沼さんは、これまでもさまざまなショップで選書を行っていますが、デサントならではの工夫にはどういうものがありますか?

内沼:一つひとつの棚別に様々なテーマで選書していますが、全体のテーマは、「スポーツ&クラフトマンシップ」です。デサントは、アスリート向けにこだわったもの作りを行っているところが魅力なので、商品開発のこだわりをうまく伝えることができれば、一般の人にも面白がってもらえると思って選びました。

―選書やスペース作りを通して、ブランドのイメージ作りまで携わっているような感じでしょうか。

内沼:デサントの方からいただいた課題は、アスリートの方には有名なのですが、一般的にはまだそれほどイメージを持たれていない、ということでした。「デサントって聞いたことはあるけど、どんなブランドだっけ」とまっさらな気持ちでお店に来てくれる方も多いと思うので、そういう人たちに「とがったことをやるブランドだな」と思ってもらうことが第一目標です。

デサントのキーメッセージ「感動のいちばん近くに」に基づいて選書された書棚
デサントのキーメッセージ「感動のいちばん近くに」に基づいて選書された書棚も

―書棚を作るのもスポーツウェアショップとしては特異な試みですが、さらに毎週末にイベントを開催するそうで、そのプロデュースも内沼さんが行っているそうですね。

内沼:例えば、アップルストアをイメージしていただくのがわかりやすいかと思います。あそこはアップル製品を取り扱っている直営店ですが、一見製品とは無関係な音楽ライブやトークイベントを行っていたりしますよね。でも、そのイベントを通して、「アップルってカッコいいな」と思ったり、イベント目的でストアに来た人が「アップル製品買って帰ろうかな」って思える。イベントに来なかった人に対しても「アップルストアで何かイベントをやっているらしい」ということを知らせるだけで宣伝にもなりますし、イベントをやることで様々な効果を上げているという意味で、近いことをやろうとしています。

極端なことを言うと、イベントも本だと思っているんですよ。

―先日行われた第1回目のイベントは、『BRUTUS』編集長の西田善太さんと内沼さんによるトークイベントでしたよね。この企画はどのように実現したのでしょうか?

内沼:『BRUTUS』編集部がデサントと「カラダにいい100のこと。」というサイトをオープンさせたので、そのオープニング記念なんです。このウェブサイトは、『BRUTUS』で2月に特集した「カラダにいいこと。」の続編にあたります。デサントにとっては「DESCENTE SHOP TOKYO」と目的が近くて、「知ってはいるけど、どんなブランドだっけ?」という方々に、新しいイメージを持ってもらいたいという想いがあって。一方『BRUTUS』の西田編集長からは、以前から「企業のウェブサイトに寄生して、紙の雑誌の続編をやるという形なら、デジタルもあり得るかも」というお話をうかがっていました。それで、2月の「カラダにいいこと。」という特集が、デサントが抱えている課題の解決にピッタリ当てはまると思い、僕が『BRUTUS』編集部とデサントの両方にお話を持っていきました。このプロジェクトと同時期に始まったことで、「デサントがなんだか面白いことになっている」というイメージを持ってもらって、相乗効果が出せるとよいなと思いました。

内沼晋太郎

―今後は、どのようなイベントをやっていく予定ですか?

内沼:初めのうちは、アスリートによるトークイベントや、スポーツやカラダに関する本を書いた著者を呼んだりしていこうかなと思っているのですが、様々な人に来てもらいたいので、徐々にデサントやスポーツと関係がないイベントもやっていってもいいのではないか、と話しています。「デサントって聞いたことがないけど、あそこでなんか週末にイベントをやっているんだな」と、まず思ってもらうことが大切だと考えています。

―本棚とイベントスペースというのは、まさに下北沢の「B&B」もそうですが、内沼さんが普段から行っている手法ですよね。

内沼:この二つは非常に相性がよいんです。イベントに登壇される方の本を購入することもできるし、イベントを行うことによって、普段は本屋にあまり足を運ばない人も集客できる可能性があるわけです。

―デサントでは週末にイベントを開催するそうですが、「B&B」は毎日イベントを行っていますよね。定期的に開催することにこだわりがあるのでしょうか?

内沼:それにはかなりこだわっていますね。「B&B」も、企画の段階ではイベントを不定期開催するという話もあったのですが、それじゃダメだと。毎日やらないと、日常にならないじゃないですか? 野球場もライブハウスも毎日やってますよね。デサントはまずは週1ペースから始めますが、今後はもっと増やしてもいいかもしれない。「あそこに行けば何か面白いことをやっている」という空気を生み出すのが重要だと思ってます。

DESCENTE SHOP TOKYOの書棚

―定期的にイベントを開催するきっかけとなったできごとがあったのでしょうか?

内沼:2009年に『MAGNETICS』という企画で、原宿のカフェで1か月間、毎日イベントをやってみたことがあるんです。そのときに、毎日やるというのは、仕組みさえうまく作れれば難しいことではないんだなと思ったんです。イベント会場の運営というのはメディアと同じで、例えばウェブメディアは毎日更新されて、蓄積されてくるから力を持つわけですよね。そういう意味で、イベントも定期的にやることが、場の力につながると思うんです。

―内沼さんは自身のプロジェクトでも以前からイベントを行っていますが、本とイベントというアイデアは、そもそも何が発端となっているのでしょう?

内沼:極端なことを言うと、イベントも本だと思っているんですよ。イベントと本作りは似ていますね。例えば、イベントを書き起こして本にしたものもたくさんあるじゃないですか。それに、イベントで誰にどういうことを喋ってもらおうかな? と考えるのは、雑誌の企画を考えるのと同じ頭の使い方なんです。

内沼晋太郎

―印刷されて活字になったものだけが、本ではないと。

内沼:どうして自分が本を好きなのかと考えていくと、それは単純に、面白いものに触れたいからなんです。PCのファイルであれば、テキストは「.doc」、ムービーは「.mov」、音声データは「.mp3」などいろいろな形式がありますが、そうやってファイル形式が変わっても、中身の面白さは変わらないと思っています。それが、どうしてInDesignでレイアウトされたものだけを本と呼ぶのか。未来の人にとっては、どのファイル形式でもきっと一緒だと思うんです。1つのパッケージされたコンテンツは、イベントも含め、全部本ということでいいんじゃないかって思います。

日常で「いいアイデアだな」「いいプロジェクトだな」と思うものに出会うと、それが実現されるまでの過程を妄想する癖があるんですね。

―内沼さんは、やはり本の魅力を伝えたい、という動機からこのような取り組みを行っているのでしょうか?

内沼:もちろん本が好きで、なくなってほしくない、何とかしたいという気持ちがあるからです。僕は学生の頃に「最近の若者は本を読まない」とか「本が売れなくなった」とか聞かされた世代でした。でもそれは読者の責任じゃなくて、本の魅力を伝える側の人が、多くの読者に届ける努力をしてこなかったからじゃないかと思ったんです。「この本は面白い」という宣伝はされても、「本は面白い」というメッセージを伝えることは、疎かにされてきた。そうした課題解決をすることに、すごくモチベーションがあるんだと思います。

―今回のデサントに関して言うと、選書やイベントを通して、デサントのよりよい形をデザインされていくような感じですよね。

内沼:そうですね。お店がメディアのようになっていけばなと。お客さんには、何度もイベントの情報を見ているうちに1回ぐらいは行ってみようかなという気分になってもらえれば嬉しいですし。それに、イベントをやってみたいという人にはぜひ気軽にご相談いただきたいです。せっかく2020年にオリンピックも決まってることですし、日本に来たらぜひ寄りたい、ナンバーワンのスポーツカルチャースポットだと言われるようにしたいですね。そのためには、まずは多くの人に利用してもらうことです。

内沼晋太郎

―内沼さんは、さきほど「課題解決」がモチベーションだとおっしゃっていましたが、ご自身がこのように前代未聞のワクワクするようなプロジェクトを実施に向かわせることができるのはなぜだと思いますか?

内沼:たぶん僕は日常で「いいアイデアだな」「いいプロジェクトだな」と思うものに出会うと、それが実現されるまでの過程を妄想する癖があるんですね。その妄想を通じて、アイデアで課題を解決するトレーニングをしているのだと思います。依頼してくださった企業の方からすると、最初は思ってもみなかったアイデアなんだけど、僕のほうでは、いけると思ったものをプレゼンしているような感じですね。新しい試みであればあるほど、ピンときてもらうまでには時間がかかるのですが、一度形になってしまえば誰もが「なるほど、こういうことか」とわかる。そういういいプロジェクトの実現に、これからも携わっていければと考えています。

―最適解が出せる器用さと、本をはじめとした面白いことへの探求心の結果が今に繋がっていると。

内沼:わからないですけど、大喜利が得意なことは確かです(笑)。

プロフィール
内沼晋太郎(うちぬま しんたろう)

1980年生まれインターネット育ち。一橋大学商学部商学科卒。卒業後、某外資系国際見本市主催会社に入社し、2ヶ月で退社。その後千駄木・往来堂書店のスタッフとして勤務し、その他フリーターとして複数のアルバイトを掛け持つ傍ら、2003年、本と人との出会いを提供するブックユニット「book pick orchestra」を設立。「文庫本葉書」「新世紀書店」「WRITE ON BOOKS」「book room[encounter.]」など数々のプロジェクトを手がけ、2006年末まで代表をつとめる(現代表:川上洋平)。平行して自身の「本とアイデア」のレーベル「numabooks」を設立し、現在に至る。



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