KIKI×木村顕対談 今の時代に合った、暮らしの楽しみ方とは?

暮らしをもっと楽しくすることを提案するカルチャースクール「CLASS ROOM」。これはルミネが今年4月から始める新たな試みで、毎月それぞれの方法で生活と向き合う人たちを招き、一緒に次の「ライフスタイル」を考えるという企画だ。初回はモデル・女優のKIKIを講師に迎え「山登りの楽しみ方」を考える(残念ながら受付は既に終了……)。今後も、平成生まれのフードエッセイスト・平野紗季子などさまざまな講師が登壇予定だ。

今回は、その開催に先立ち、KIKIと、5月講師の木村顕による対談をお届けする。外苑前で世界の朝ごはんを提供するカフェレストラン「WORLD BREAKFAST ALLDAY」を運営する木村は、建築を学ぶ過程で、コミュニケーションツールとしての朝食のポテンシャルに行き着いた異色の人物。そして、偶然にもこの二人、同じ大学出身の先輩後輩だったりする。山歩きや朝ごはんという身近なテーマを通して、一歩先の「ライフスタイル」の姿が見えてきた。

昔から仕事や学業以外の趣味……例えば遊びやスポーツが自分に影響を与えてきたという実感があるんですよね。(KIKI)

―KIKIさんと木村さんは、お二人とも武蔵野美術大学の建築学科出身だそうですね。

KIKI:私が1つ上の学年なんです。

木村:でも、当時は話したことないですよね。キレイな方なので僕はチラチラ見てましたけど(笑)。

KIKI:(笑)。

左から:木村顕、KIKI
左から:木村顕、KIKI

―同じ建築学科を出たお二人が、現在はともに建築以外の活動をされているのが面白いですよね。それぞれにお伺いしたいのですが、まずKIKIさんから。「CLASS ROOM」では『山登りの楽しみ方』という講座を担当されますが、なぜ山をテーマにしたのでしょう?

KIKI:これは山に限った話ではないですが、昔から仕事や学業以外の趣味……例えば遊びやスポーツが自分に影響を与えてきたという実感があるんですよね。その中の1つとして、今回は山登りをおすすめしようと思いました。

―山登りにハマったのはいつからですか?

KIKI:9年前くらいに3か月間パリで暮らしてヨーロッパの建築を訪ねたりしていたんですけど、帰国してから普段の仕事のペースに戻るまでにちょっと時間ができたんですよね。そのときに友達に誘われて東京から電車で2時間くらいの山に出かけた体験が大きかったんです。ちょっと遠出しただけで、自分が知らない日本の姿がたくさんあることに気づき、山登りにハマっていきました。

四国愛媛県の石鎚山に登山するKIKI
四国愛媛県の石鎚山に登山するKIKI

ヨーロッパの建築と生活の距離の近さがいいなーって思ったんです。日本の「古いものを壊してゼロから建てる」みたいなスタンスとはまるで違う。(木村)

―ヨーロッパ帰りだったから、より日本の風景を新鮮に感じたのかもしれませんね。木村さんはどうでしょう? 「CLASS ROOM」では『朝ごはんを通して世界を知る』という講座を行われるそうですが、建築から「食」へ、しかもなぜ朝ごはんに?

木村:朝ごはんまでは紆余曲折があって……。実は僕もヨーロッパに行ったのがターニングポイントなんです。さっきKIKIさんもおっしゃってましたけど、建築の学生って、海外に建築を見に行くんですよ。

左から:木村顕、KIKI

KIKI:うんうん。

木村:僕も例外に漏れず行ったんですけど、スター建築家の有名建築物よりも、古い建物がずーっと並んでいる街並に驚いて。ヨーロッパは古い建物をずっと大事に使っていくことが前提だから、もちろん修繕の技術も高いんだけど、より今のライフスタイルに合わせるために、古い建物の中におしゃれなカフェを入れたりすることを当たり前にやっている。建築と生活の距離の近さがいいなーって思ったんです。日本の「古いものを壊してゼロから建てる」みたいなスタンスとはまるで違う。

外国の方との会話の中で「食」からいろいろな文化を知ることができた。中でも朝食はその国の特徴が一番出るものだし、世界の朝ごはんが食べられる場所があったら面白いんじゃないかと。(木村)

木村:昔のものがちゃんと残っていて、そこに今の建築家が手を入れて、未来が作られている感じがするのがヨーロッパ。それで日本の建築も学び直そうと思って、大学院では日本建築史の研究室を選んで、書院造(15世紀から現在まで続く日本の伝統的な住宅様式)の研究をしていたんですよ。博士課程まで進んで、研究者になる選択肢も頭をよぎったんですが……。

―かなり本気ですね。

木村:でも、たまたま古い書院造の小屋が朽ち果てているのを栃木で見つけて、それを直せるというチャンスにめぐりあって。それで始めたのが「日本の伝統的な家に泊まる」をコンセプトにした「日光イン」という宿。宿だったら、最低でも1泊するので、ある程度まとまった時間、書院造を体験してもらえるじゃないですか?

日光イン
日光イン

日光インの周辺の様子
日光インの周辺の様子

―木村さんは本当に書院造が大好きなんですね(笑)。

木村:ただ、僕は好きなんですけど、「書院造」で興味を持つ日本人は少ない。

KIKI:宿の名前、「書INN」でも良かったかもね(笑)。

木村:たしかに……!(笑) でも、その後とった行動はまさにその発想ですよ。どうしたかというと、外国の人が日本の伝統的な建物に興味を持つだろうと思って、外国人も泊まりやすい宿にしたんです。

日光イン

―ここで「食」の話につながってきそうですね。

木村:そう。せっかく外国の人も来るし、各国の文化について聞きたかったけど、いきなり見ず知らずの人から「あなたの国の文化って?」みたいにざっくり質問されてもコミュニケーションがうまくいかないわけです。でも、食の話だと、話が弾む。例えばフランス人にお寿司をごちそうすれば「フランス人は海苔みたいな黒いものはまず食べない」なんて話を聞けるし、食文化をキーワードにいろいろな文化を知ることができる。中でも朝食は時間や手間がかけられないから、その国の特徴が一番出るものだし、世界の朝ごはんが食べられる場所があったら面白いんじゃないかと。それで「WORLD BREAKFAST ALLDAY」を始めたんです。

「WORLD BREAKFAST ALLDAY」でレギュラーメニューとして提供するイギリスのフルブレックファスト
「WORLD BREAKFAST ALLDAY」でレギュラーメニューとして提供するイギリスのフルブレックファスト

誰も考えつかないような、奇抜なものを作るっていう時代でもないと感じます。(木村)

KIKI:基本的に朝ごはんって誰もが毎日食べるものだけど、ないがしろにされがちなものでもあるし、国ごとの特徴が出やすいって話も面白い。着眼点がすごいなと思いました。私、いつか喫茶店をやりたいんだけど、実はそのお店に「喫茶モーニング」って名前をつけたいとずっと思っていたんですよ。だから、「WORLD BREAKFAST ALLDAY」が始まったときちょっと「やられたな」と思いました(笑)。

―なぜ「喫茶モーニング」という名前をつけたいんですか?

KIKI:近所の人が「ちょっとモーニング行こうよ」って言ってくれるようなお店っていいなと思ったんです。私、朝がわりと早いから、朝ごはんもしっかり食べたくて。旅先でもなるべくホテルの朝食ではなく、街の喫茶店で朝ごはんを食べるのが好き。そこに特別な美味しさは求めてなくて、場の雰囲気と時間と、どういうお客さんが来ているのかな? って眺めたりすることがすごく楽しくて。朝からちゃんとやっている喫茶店がある街はいいなって思うから、逆発想でそういうお店ができたらいいなと。

KIKI

木村:観光スポットよりも、その街の日常に根付いているもののほうが奥深いし、僕も興味がありますね。

KIKI:さっき建築学生の話が出たけれど、建築を学んで良かったと思うのは、いろいろ見て回るうちに目が養われていって、建築そのものだけじゃなくて、空間や時間のような幅広いものに目が向くようになったこと。だから、木村さんみたいに店や宿という方法で生活空間を作るのは、すごく建築的だなと思うんです。

木村:大学では、建物の建て方よりも、思考法とか、ものの見方を教わったから、建築の意味している幅が広がりました。僕の場合だと、自分の個性を前面に押し出していくよりも、みんなが気づいてないような当たり前のことをかたちにしていくってほうがしっくりくる。誰も考えつかないような、奇抜なものを作るっていう時代でもないと感じますし。

街の中は便利だけど、人間の感覚を鈍らせるところがある。それって、どこかでストレスになっているんじゃないかなって思います。(KIKI)

―KIKIさんが山に登って、それまで気づかなかった日本の風景に気づいたという体験とも共通していますね。

KIKI:木村さんは、山に行ったりしますか?

木村:今は行かないですけど、高校のときは北海道にいて、山岳部だったんですよ。

KIKI:ええー! 北海道で山岳部。ワンダーフォーゲル部じゃなくて? 本気ですね!

―山の知識が乏しくてすみません、山岳部ってワンダーフォーゲルとどう違うんですか?

木村:山岳部のほうがガッチリ系のイメージで、先輩の荷物も背負わないといけないみたいな雰囲気。「メシは食えるだけ食っとけ!」みたいな。ワンゲル部はもう少し時間を楽しむ感じですかね。北海道の山は大雪山から知床まであちこち行きましたよ。

木村顕

―お二人とも登山経験者だったとは。木村さんは山登りの楽しみってなんだと思います?

木村:標高が上がるとだんだん人工物がなくなるんですよね。北海道の山はあんまり高くないですけど、寒いから2000mくらいでもう木が生えなくなってきて。その状態を「森林限界」っていうんですけど、原っぱに高山植物が咲いていて、まるで「あの世」に来たみたいな……。

KIKI:そうそう。川が流れてたりして、「あ、三途の川?」みたいな(笑)。

木村:街に住んでいると人工物のない空間なんて想像すらしないけど、考えてみれば日本の国土の7割は山ですからね。見渡すかぎり街が見えない大自然を見るとそのことを思い出します。とはいえ、登っていると重いしキツいし、なんで来ちゃったんだろうって思うんですけど。

KIKI:それは毎回思う(笑)。でも、なぜか中毒みたいになるよね。東京なんてすごく便利に街ができているから、ちょっと雨足が強ければタクシーに乗ったりできちゃうでしょ。でも例えば山で大雨が降ったら、命に関わるから、今日は1泊小屋にとどまろうって判断したりする。まじめなことを言うと、人間が自然と接する本来の姿に気づかされる。街の中は便利だけど、人間の感覚を鈍らせるところがあると感じます。それって、どこかでストレスになっているんじゃないかなって思うんです。

山に行くようになってから、すごくラクになったなって思います。人との向き合い方にも変化がありました。(KIKI)

木村:山岳部時代は、大雪山とかで夏に1週間くらい山ごもりしてたんですけど、命の危険を感じる瞬間が何回かあって。絶壁沿いを歩いていて「ここから落ちたら死んじゃうんだな」と考えたり、歩き疲れてパッとまわりを見ると誰もいなかったり。「死」の存在が近いんですよね。街で歩くことに意味は持ちづらいけど、山で歩くことは生き残るために歩いているってことだから、感覚がめいっぱいひらくというか。

KIKI:山にいる状態って、人間としてはすごく健康的な気がする。人との向き合い方にも変化がありましたね。街で友達と会っても、食事するくらいじゃないですか。でも山に行くと、四六時中一緒だから、お互いにいいところもイヤなところも見えてくる。両方ひっくるめて、人と身近にいられる楽しさに気がつきました。

KIKI『美しい山を旅して』
KIKI『美しい山を旅して』

―山に行くようになってから、生活観も変わったんですね。

KIKI:私はすごくラクになったなって思います。人のイヤなところを見て、前だったら「あーもうこの人と会うのはイヤだ!」と思ったりしたけど、それはその人の要素の1つであって、変にフォーカスしなくなる。

人それぞれに自分の生き方とかスタイルを考えるのは疲れちゃうと思うんですよね。昔は日本特有のリズムがあったと思うんですけど、そういうのが90%で、残り10%くらい自分の世界があればいい。(木村)

―「WORLD BREAKFAST ALLDAY」のコンセプトとも近いですよね。世界中の朝ごはんをそこに居合わせた皆と一緒に食べることって、その国の文化や、他人を理解することの第一歩かもしれません。ルミネで行うスクールのタイトルが「CLASS ROOM」で、副題は「THE SCHOOL FOR A GOOD LIFE」。つまり、より良い生き方がテーマになっているのですが、お二人にとって、「より良い生き方」ってどんなものだと思いますか?

木村:個性を尊重するような時代に逆行しているんですけど、人それぞれに自分の生き方とかスタイルを考えるのは疲れちゃうと思うんですよね。それぞれの国に朝ごはんのスタイルがあるように、生き方もそれぞれの国にある。

―そうですね。

木村:建築の話にも近いんですけど、例えばパリのカフェだと、おじいちゃんの代から続いていたりすることがよくあって、特別なお店っていうんじゃなくて街の生活の一部になっている。パリにはパリの生きるリズムがあるけど、今の日本にそれがあるのかと考えてみると……。

左から:木村顕、KIKI

―日本では個人が自分のリズムを作っていかないといけないですよね。

木村:そうそう。昭和初期は、井戸端会議があって、お母さんが朝食の準備をしながらご近所さんと会話したり、お父さんが帰りに赤提灯で呑んで帰ったり……。今も一部は残っているけれど、昔は日本特有のリズムがあったと思うんですよ。そういうのが90%くらいあって、残り10%くらい自分の世界があればいい。全部自分でリズムを作っていくと疲れるし、多くの人はリズムを作るだけでたくさんの時間を費やしちゃう。

KIKI:これからのライフスタイルを考えるときの1つの実践として、消えかかった風景をもう1回再現してみるというのもありえますよね。

木村:ライフスタイルが変わっても、日本人のアイデンティティーはある。家に帰ったら靴を脱ぎたくなったりするのは日本人ならではですよね(笑)。取り戻すものは取り戻して、変えたほうがいいことは変えて。そうやってリズムを作り直せればいいなって思います。

KIKI:きっと自分たちには自分たちらしいかたちがあって、それは土地や環境とも関係が深いと思うんですよ。5年前に東京から湘南のほうに越したんですけど、時間の流れ方もゆっくりしているし、たまたま自分の住み始めた家も、小さいながらに庭があって、最初から植えてあった庭木が、いわゆる和木なんです。自分でゼロから庭を作ろうと思ったら、こういう木を植えようとは思わなかったけど、すごくいいんですよね。12月に山茶花(さざんか)、春になれば椿や梅、サツキが順番に咲いて。梅雨には紫陽花、秋には金木犀……。

―いいですねえ。

KIKI:「老後の生活みたい」ってたまに言われちゃいますけどね(笑)。でも山に登って、自然をより身近に感じるようになったから、今の生活はすごくしっくりきています。今まで見てきたもの、試してきたことを経て、自分に合った環境で無理しないで過ごすこと。それが私にとってはより良い生活なのかなと思います。

左から:木村顕、KIKI

イベント情報
CLASS ROOM No.001
『山登りの楽しみ方』

2015年4月22日(水)19:00~21:00
会場:東京都 外苑前 ifs 未来研究所 未来研サロン WORK WORK SHOP
講師:KIKI
定員:40名(要事前申込、先着順)
料金:無料

CLASS ROOM No.002
『朝ごはんを通して世界を知る』

2015年5月27日(水)19:00~21:00
会場:東京都 外苑前 ifs 未来研究所 未来研サロン WORK WORK SHOP
講師:木村顕(WORLD BREAKFAST ALLDAY)
定員:40名(要事前申込)
料金:無料
※応募者多数の場合は抽選

CLASS ROOM No.003
『私のごはんの楽しみ方』

2015年6月24日(水)19:00~21:00
会場:東京都 外苑前 ifs 未来研究所 未来研サロン WORK WORK SHOP
講師:平野紗季子
定員:40名(要事前申込)
料金:無料
※応募者多数の場合は抽選

プロフィール
KIKI (キキ)

モデル・女優。東京都出身。武蔵野美術大学造形学部建築学科卒。雑誌をはじめ広告、TV出演、連載の執筆、近年では自身の写真展『PRISMA』シリーズを発表。また芸術祭に作家として参加するなど活躍の幅を広げている。NTV「ゆっくり私時間 ~my weekend house~」レギュラー出演中。著書に『山が大好きになる練習帖』(雷鳥社)、『美しい山を旅して』(平凡社)、スタイルブック『KIKI LOVE FASHION』(宝島社)など多数。

木村顕 (きむら あきら)

有限会社日光デザイン代表取締役。一級建築士。東京芸術大学大学院美術研究科卒。青山と千駄ヶ谷を結ぶ外苑西通り、通称“キラー通り”で「朝ごはんを通して世界を知る」をコンセプトに、2ヶ月ごとに世界各国の伝統的な朝ごはんを提供するカフェレストラン「WORLD BREAKFAST ALLDAY(ワールド・ブレックファスト・オールデイ)」を運営。 昨年スペースシャワーブックスから『WORLD BREAKFAST ALLDAYの世界の朝ごはん』という書籍をリリース。日光市で日本の伝統的な家に泊まる宿泊施設「日光イン」も運営する。



フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Life&Society
  • KIKI×木村顕対談 今の時代に合った、暮らしの楽しみ方とは?

Special Feature

Crossing??

CINRAメディア20周年を節目に考える、カルチャーシーンの「これまで」と「これから」。過去と未来の「交差点」、そしてカルチャーとソーシャルの「交差点」に立ち、これまでの20年を振り返りながら、未来をよりよくしていくために何ができるのか?

詳しくみる

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて