MYTH & ROID、アニソンブームの一端を担ったTom-H@ckの反逆

巨大なバズを引き起こしたテレビアニメ『けいおん!』シリーズを始めとして、2000年代後半以降のアニソンシーンを牽引し、さらにはももクロやでんぱ組.incの楽曲プロデューサーとして近年のJ-POP界の中心にもいる人物、Tom-H@ck。彼が自ら見出した女性ボーカリスト・Mayuと共に立ち上げたユニット、それがMYTH & ROIDである。

このユニットでTom-H@ckは、音楽家として、表現者としての自我と欲望を真っ直ぐ音に刻み込んでいる。それは彼がアニソンやJ-POP系アクトで見せるものとはまた違った……いや、そもそもポップスとしてかなり歪な形相を持った音楽だ。たとえば、アニメ『ブブキ・ブランキ』のエンディングに起用されているシングル曲“ANGER/ANGER”は、インダストリアルロックやラウドロックのヘヴィかつダークな意匠を、より深く暗い音空間の中で破壊&再構築し、さらにそこにMayuの直情的なボーカルを乗せることで、まるで1枚の混沌とした抽象画を見ているような気分にさせる1曲。もはや多くの人が考えるであろうアニソン像は、ここでは通用しないと言っていい。

Tom-H@ckは、なぜここに行き着いたのか。彼はなぜMayuというボーカリストを必要としたのか。その答えは本文に譲るが、話を聞いて感じたことがひとつ。この10年間のアニソン / J-POP界の中心人物の次なる一手は、この先の10年にも、再び大きな振動を響かせるだろう、ということだ。

アニメ市場に限界が来ていて、音楽もどんどんつまらなくなってきているんです。みんな冒険しないし、売れるためのフォーマットに当てはめて作っちゃう。(Tom-H@ck)

―まず、MYTH & ROIDにはどのようなユニットコンセプトがあるのでしょうか?

Tom:この何年か……下手したら何十年かもしれないんですけど、アニソンがすごく固定観念の強いジャンルになってしまっている認識があるんです。それに対して、汚い言葉だけど「いや、舐めんじゃないよ」という想いがあって。

―固定観念って、具体的にどのようなものですか?

Tom:まず、もっと高級感があるものをアニソンというジャンルでできたらいいなと思うんです。でも、アニソンをやっていても、なかなかアーティストに目がいかないんですよね。「いい曲だね」と思ってくれても、それを誰が作っているのか、そのアーティストは他にどんなものを作っているのか、そこまで興味が湧かない。僕自身、たとえば劇伴ではすごく本格的なクラシックやジャズを作っていたりするんだけど、どんなにいいものを作っても、結局そこまでは聴いてもらえないんですよね。

Tom-H@ck
Tom-H@ck

―やはりアニソンというと、アニメ作品のオープニングやエンディングで流れる曲が真っ先に思い浮かぶし、その1~2分くらいの間のインパクトだけで判断されてしまう部分がありますよね。

Tom:そうそう。作品に目を向けさせるには、自分がアーティストとして表に立って、認められるもの、ハイセンスなものをやるしかない。それが、MYTH & ROIDを動かす理由の半分ですね。

―もう半分は?

Tom:僕がアニソンをやり始めた『けいおん!』の時代(2009年からテレビアニメが放送)って、アニメ市場がデカかったんですよ。DVDは今の5倍くらい売れていたし、曲自体も120パーセントくらいの過剰さのものがどんどん生まれてきていた。でも最近は、市場に限界が来ていて、それに比例して音楽もどんどんつまらなくなってきているんです。みんな冒険しないし、売れるためのフォーマットが何個かあって、それに当てはめて作っちゃう。結果として、70パーセントくらいの過剰さのものが流行ってしまっている実感があって。そうなると相当面白くないし、逆に売れなくなると思うんですよね。それをなんとかしたいって思っていたときに、「Mayuの声があればできるんじゃないか?」と思ったんです。それがもう半分ですね。

―Tomさんにとって、Mayuさんはどんな存在なんですか?

Tom:今のMYTH & ROIDにとって一番重要なことは、「人間の感情の最果てを表現する」ということなんです。怒りでも悲しみでもいいから、その頂点を、芸術性を持ったまま表現したい。それをやるためには、Mayuの声が絶対必要なんです。彼女とはもう出会ってから結構長いんですけど、初めて彼女の声を聴いたとき、すごく特徴的な声をしていると思ったんですよね。いわゆるJ-POPらしさのない声というか……暴れ馬ではあるんですよ。下手するとダサくなっちゃう。でも、ちゃんとコントロールしたら、すごい力を持つ声だと思っていて。

―芸術性や過剰さという、Tomさんが最近のアニソンから失われていると感じていた要素が、Mayuさんの歌声にはあったということですよね。

Tom:その通りです。

負の感情や嫌な思い出って、徐々に風化させたり、心の中に閉まっておいたりするものだと思うんですけど、むしろ私はいつでもそのときの自分になれるようにしたい。(Mayu)

―Mayuさんは「感情の最果て」を表現することについて、どのように捉えていますか?

Mayu:たった3~4分だったとしても、人にとって抑え込んでいる感情を出せる時間があることは、すごく大事なことだと私は思っていて。私は、聴いてくれた人の感情を出させてあげられる存在になりたいと思っているんです。たとえば、“ANGER/ANGER”では「怒り」を歌っているけど、その「怒り」は、聴いてくれる人たち一人ひとりによって変容していって、その人が音楽に支えられたり、救われたりすればいいなって。私が感情を歌う……それは、聴く人がその感情を持つことを許されるっていうことにも繋がるわけで。

―今言ってくださったことって、裏を返せばMayuさん自身がリスナーの感情の受け皿になるということですよね。それって、ものすごく覚悟のいることだと思うんですよ。この覚悟は、どこから生まれるものなのでしょうか。

Mayu:私には、「自分自身が歌だ」という感覚がずっとあるんです。小さい頃から「涙が全然出なくなっちゃったときも、悲しいことを歌っている歌を歌えば泣ける」みたいな感覚があって。歌うことによって「あ、私は自分自身なんだな」って認識するというか……日本語が変ですけど(笑)。私にとって歌は、「行為」じゃなくて「状態」なんです。

―たとえば“ANGER/ANGER”だったら、この曲を歌うことで、Mayuさんは怒っている状態の自分自身を見つけ出せるということ?

Mayu:そうですね。私にとって「怒り」は、特に重要な感情で。この曲は、誰かに対してというよりも、大多数に対しての怒りなんです。大人や社会、世の中……そういう抗えない、理不尽なものに対する怒りって、私の中にも常にあるものなので、この感情を歌えたのは嬉しかったですね。負の感情や嫌な思い出って、人は徐々に風化させたり、心の中に閉まっておいたりするものだと思うんですけど、むしろ私は、いつでもそのときの自分になれるようにしたいんです。

左から:Mayu、Tom-H@ck
左:Mayu

―Mayuさんの、歌を通して自分自身を主観的にも客観的にも見る感じって、すごく不思議ですね。

Mayu:不思議だと自分でも思います(笑)。突き詰めて言えば、私は歌がすごく好きだけどすごく嫌いだし。

―でも、そこまで自分自身と歌を結びつけているのなら、尚更、それが聴き手の中で変容して受け取られることや、そもそも、他の人が作った歌を歌うことに対して、拒否反応が出てもおかしくないですよね。

Mayu:たしかに、作曲と編曲はTomさんだし、作詞はhotaruさんなんですけど、他の人が作ったものと自分の感情との間にズレが生じるかと思いきや、“ANGER/ANGER”の歌詞を見たとき、自分以外の人が書いたと思えないくらい共感して。最初から最後まで「それな!」って思える歌詞だったんです(笑)。

―Tomさんには、Mayuさんがおっしゃったような自分の内面的な感情と音楽が直結する感覚ってありますか?

Tom:僕にはないですね。僕は、自分がヒーローになりたい人間ではないので。むしろ「誰かにヒーローになってほしい」と思いながらやっている。だから、常にコントロールしている部分があるんだろうと思います。

―「怒り」という感情についてはどうですか? “ANGER/ANGER”を作るときには、少なからず意識されていたと思うんですけど。

Tom:もう年齢も年齢なんで、そんなに怒ることもないんですよ。ただ、さっきMayuが言った「理不尽なものに対する怒り」って、若いときはすごくあったもので……実際、hotaruとは「自分たちの若い頃の怒りをMayuに歌わせよう」と話していたんです。偶然、この曲がエンディングで使われている『ブブキ・ブランキ』に出てくるのも、大人に向けての怒りを持っているキャラクターだったから、ちょうどいいなと思って。若いときに持っている情熱的なものをMayuに表現させようというプロデュースワークは意図していたから、さっきMayuが言ってた「それな!」と思う歌詞は、一応狙っていたという(笑)。

Tom-H@ck

世の中を動かしていくために、自分の哲学や信念とは真反対のことをやらなきゃいけないときがあるんですよ。でも、そうじゃないところで動くべき正義って、絶対あるから。(Tom-H@ck)

―若い頃のTomさんの怒りって、当時、音楽になっていましたか?

Tom:うーん……音楽になっていたものもあれば、音楽だけじゃないところでも消費していたとも思う。

―なんでこんなことを訊くかというと、“ANGER/ANGER”の随所に出てくるラウドロックやハードロック的なアプローチって、もしかしたら、Tomさん自身の思春期性が反映されたものなんじゃないかと思ったからなんです。

Tom:哲学的なことではなく、もっと音楽的な面でのことなんですけど、“ANGER/ANGER”のサビ前の盛り上がりって、Limp Bizkitの“Take a Look Around”という曲に通じるものがあるんですよ。作った後に気づいたんだけど、「あ、これ青春時代に聴いたやつだな」って。だから、若いときに感じていた怒りや情熱を表現しようとしたら、当時聴いていた音楽を知らぬ間に引っ張ってきていた感じなのかもしれない。

―今の話を聞いても思うんですけど、MYTH & ROIDって、Tomさんの音楽家としての……というか、音楽と共に生きてきた人間としての歴史を1本の道筋にしていくユニットでもあるのかなと思うんです。

Tom:そうかもしれないですね。僕自身、映画音楽を作りたいというところから出発しているから、『けいおん!』の頃のおもちゃ箱をひっくり返したような楽曲っていうのは、どこか自分を壊しながら作っていた部分もあって。音楽の技術的な話になってしまうんですけど、“ANGER/ANGER”って、左右のギターが、一切狂わずにずっと鳴っているんですよ。海外のこの手の音楽って、そうなんです。でも日本だと、ちょっとズレたりしている。そんな緻密なことをしたって売れないですからね。

―でも、そこを狂わせないことが、Tomさんにとって譲れない部分なんですよね。

Tom:人生において、生まれてから死ぬまでのひとつの哲学や信念ってあるじゃないですか。それは、すごく大事なものだと思うんですけど、世の中を動かしていくための活動やプロデュースワークって、そういう哲学や信念とは真反対のことをやらなきゃいけないときがあるんですよ。でも、そうじゃないところで動くべき正義って、絶対あるから。

悲しくて心が空っぽになって、もうひとりじゃいられないくらい苦しくなったとき、ストレートに表現された音楽に共感してきているから。(Tom-H@ck)

―MYTH & ROIDをやることは、今のTomさんにとって、音楽家としての正義である?

Tom:うん。で、その正義に基づいて動くということは、やっぱり感情的な表現をやることに繋がっていくのかもしれない。大人として処理しようとせずに、自分の中にあるものをそのまま出したら、こういう形になっているというか。今の時代って飾り付けされすぎてしまっていて、「悲しみ」を表現しようとしても、「悲しい」と言わない表現方法を好んだりするじゃないですか。でも、もっとストレートに言ってもいいんじゃない? と思うんですよね。

Tom-H@ck

―ストレートになにかを表現することって、アニソンの世界で裏方的な場所に居続けたTomさんにとっては、特に難しいことだったのかもしれないですね。

Tom:そうですね。でも、悲しくて心が空っぽになって、もうひとりじゃいられないくらい苦しくなったとき、そういうものが表現された音楽に、自分も共感してきているから。だからこそ、さっき言った「感情の最果て」を楽曲として表現する場をいつか手に入れたいんだという欲求は、これまでもずっとあったんです。それがやっとMYTH & ROIDで果たされるんだと思う。

―Tomさんをそこに向かわせているひとつの要因は、恐らく「自分=歌」であるMayuさんの存在ですよね。

Tom:うん、奮い立たせてもらっている感じはありますね。それに、さっきも言ったように僕には「自分がヒーローになりたい」という想いがないから、僕を踏み台にして誰かが上に行けるのであれば、それがすごく心地いいんです。「そのためだったら、俺なんでもするよ」みたいな、自分の中の仁義とか、人間としてちょっとクサい部分、情熱家な部分も出てきていて。そういうものも、楽曲的には表現されているかもしれない。やっぱり、このユニットは僕がどうこうより、Mayuにかかっているんですよ。彼女が、どのくらい求心力を持ったカリスマになれるか? だと思う。

私はフェミニズムを唱えている人に対して本当に共感しているし、パフォーマンスや楽曲でそういうことを表している人が理想なんです。(Mayu)

―Mayuさんのプロフィールに書かれている「影響を受けたアーティスト」って、BeyonceやP!nkなど、カリスマ性のある女性アーティストが多いですよね。

Mayu:そうですね。私はずっと女子校だったので、「こういうことは男の子に任せよう」みたいな考え方もないし、「クラスで一番かわいい子ランキング」みたいなことの対象にされたこともなくて。こうした環境で育ってきたからこそだと思うんですけど、私はフェミニズムを唱えている人に対して本当に共感しているし、パフォーマンスや楽曲でそういうことを表している人が理想なんです。むしろ、バラエティー番組とかを見ていると、日本は特殊だなって思う。

Mayu

―具体的に、どういった部分で?

Mayu:例えば日本のアイドルが音楽番組に出て歌うとき、露出の高い服を着ちゃった日には、「衣装やばくない?」みたいに言われるんですよ。でも逆に海外の、例えばBeyonceみたいな人って、露出の高い衣装を着ても、決してお客さんに性的消費をするためのコンテンツとして見られないんですよね。それは実績や影響力はもちろんですけど、Beyonce自身がきちんとしたフェミニズムの軸を持っているからだと思うんです。「男がいなくてもこれだけのことをやれるんだぞ」ということを、きちんとパフォーマンスで見せているからこそ、女性も男性もそこに性を挟まずに、彼女自身に魅力を感じて、彼女に引っ張られていく。幼い頃から強い女性や強い女性としてのパフォーマンスをしている人にすごく影響を受けてきたし、それが私の理想だと思っているんです。

―たしかに、日本では性に対する固定観念は強いし、特に女性アーティストの場合、性的な目線で消費されてしまう傾向も強いと思いますね。

Mayu:そうですよね。だから私は、“ANGER/ANGER”で「女の人だって怒っていいんだよ」ってちゃんと言いたいんです。私の歌を聴いて、自分の心の奥底にある、普段は抑えている感情を爆発させてもらいたいんですよね。もちろん、それは「怒り」だけじゃなくて、それがどんな感情であれそうさせたいから、この先もっと人間のいろんな感情の流れの物語を描けたらいいなと思います。

Tom:そうだね。だから、MYTH & ROIDはすぐに結果が出るようなユニットじゃないとも思っているんです。それこそ、2年間くらいかけて曲を並べていって、最終的にアルバムに辿り着いたとき、そこで頂点を迎えるユニットだと思う。もちろん、この不況下で音楽だけで勝負するなんて難しいし、商業音楽である以上、ただただ芸術であるわけにはいかないんだけど、だからこそ、今の時代は自分たちの正しいと思うことをやる必要があると思うし、その先で自分たちの描きたい物語を描けたらいいなと思いますね。

リリース情報
MYTH & ROID
『ANGER/ANGER』(CD)

2016年2月24日(水)発売
価格:1,296円(税込)
ZMCZ-10447

1. ANGER/ANGER
2. ICECREAM QUEEN
3. ANGER/ANGER(instrumental)
4. ICECREAM QUEEN(instrumental)

イベント情報
『MYTH & ROID スペシャルミニライブ』

2016年2月27日(土)13:00~ / 15:00~
会場:愛知県 イオンモール常滑 ワンダーフォレストきゅりお内 ワンダーステージ

2016年2月28日(日)13:00~ / 15:00~
会場:広島県 アルパーク 東棟2階 時計の広場

2016年3月5日(土)START 13:00
会場:大阪府 タワーレコード泉南店

2016年3月5日(土)START 17:00
会場:大阪府 天王寺ミオ

プロフィール
MYTH & ROID
MYTH & ROID (みすあんどろいど)

ボーカリスト・Mayu、プロデューサー・Tom-H@ckを中心としたコンテンポラリークリエイティブユニット。インターナショナルで本格的なサウンド、鋭角的でキャッチーなメロディ、圧倒的なボーカルパフォーマンスを兼ね備えた気鋭のユニットである。2015年7月、TVアニメ『オーバーロード』EDタイアップ楽曲の1st Single『L.L.L』でメジャーデビュー。iTunes Storeジャンル別ランキングでは同時リリースのOP楽曲と合わせ1位、2位を独占。iTunes Store総合ランキングでは最高3位を記録。デビュー以来「インターナショナルな活躍に最も近いアーティストになるのではないか」との呼び声も高い。



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