あの人の音楽が生まれる部屋

Tom-H@ckが語る、『けいおん!』の大ヒットから会社設立まで

社会現象にもなったアニメ『けいおん!』の音楽をはじめ、ロックバンド「SuG」やアイドルグループ「マジカル・パンチライン」の総合プロデュース、でんぱ組.inc、T.M.Revolutionなどへの楽曲提供と、多岐にわたる活動を行なっているクリエーターTom-H@ckさん。最近はOxTやMYTH & ROIDなど、アーティスト活動も展開するなど、ますます活動の場を広げています。

さらに昨年、自身の会社「TaWaRa」を設立し、代表取締役に就任。いったいどんなモチベーションが彼を突き動かしているのでしょうか。最近引っ越したばかりのプライベートスタジオを訪ね、彼の壮大な野望を聞いてきました。

「音楽で人を救いたい」と思ったきっかけは、大失恋だった

宮城県石巻市出身のTom-H@ckさん。父方が建築事務所を代々経営し、祖父は趣味で尺八を、父はギターを弾くオーディオマニアという環境で育ちました。家にはオーディオルームがあり、幼い頃からたくさんのレコードや音響機器に囲まれていたそうです。

Tom-H@ck:自発的に音楽への興味が湧いたのは、確か8歳の頃。当時X JAPANが大好きで、従兄弟にYOSHIKIモデルのドラムスティックを見せられたことがきっかけでした。なので最初はドラムを叩いていたのですが、中学3年でギターと曲作りを同時に始めたんです。

というのも、そのときに大失恋を経験したんですよ。ものすごく大好きで、とにかく夢中になっていた女の子がいて。ようやく付き合うことになったのに、1か月半で破局を迎えたんです。心から愛する人を失うショックが大きすぎて、大雨に打たれながらずぶ濡れで帰宅し、おもむろにギターを持ってポルノグラフィティの“サウダージ”を歌いました(笑)。そのときに、失恋の悲しみを包み込んでもらったような気持ちになれたんです。「ああ、僕もこんなふうに、音楽で人を救いたい」って心から思った瞬間でした。

Tom-H@ck
Tom-H@ck

想像のつく未来より、想像できない未来を選びたい

その頃はまだ、インターネットやケータイを駆使して情報を集めることができなかった時代。機材に詳しい周りの人たちにアドバイスをもらい、4トラックのカセットMTRを手に入れて録音を始めました。書店に並ぶ音楽理論書を片っ端から購入するほど、熱心に勉強を始めます。

Tom-H@ck:バンドも組んでいて、最初からB'zのカバーに挑戦していました。難易度の高いギターを弾きこなせば、自分のテクニックを証明できるんじゃないかなって。そのうち「上手い」とか「下手」とかどうでもよくなり、とにかく夢中になってギターを弾いていましたね。

影響を受けたのは、LIMP BIZKITやLINKIN PARK、RAGE AGAINST THE MACHINEのような、ギターリフのかっこいいバンド。それと、もうひとつはゲーム音楽です。ギターにハマる前はゲーム、特にセガサターンが大好きだったんです。お気に入りは『グランディア』(1997年に発売されたRPGゲーム)で、そこからゲームのサントラに夢中になっていきました。オーケストレーションなど、アレンジの部分で、今も活きていると思います。

Tom-H@ck使用ギター
Tom-H@ck使用ギター

釣りやアウトドア、映画、旅行など、たくさんの趣味にハマっているTom-H@ckさん。しかも、浅く広くではなく、ハマったときにはとことんハマる。そんな姿勢がギターの上達にも、ソングライティング能力の向上にも繋がっているのでしょう。

高校を卒業し、音楽の専門学校へ進むと、すぐ時東ぁみのバックバンドに起用されるなど、プロとしての仕事をもらうようになりました。19歳のときには、ギタリストとしてロサンゼルスに留学した経験も持っています。

Tom-H@ck:ロサンゼルスは街全体に音楽があふれていて、そこで洗礼を浴びましたね。その先のことも、いろいろと考えました。自分が前に立つのではなく、アーティストやコンテンツを支える仕事をしたいという気持ちはずっとありましたが、このままギタリストとしての道を進むとなると、頭のなかで自分の未来がすぐに想像できてしまった。もっと予想できない、安易に想像できないことがしたい、もっと大きなフィールドで活躍したいと思ったときに、「作曲家になるしかない」と。21歳の頃でした。

Tom-H@ck

Tom-H@ckの音楽制作用卓
Tom-H@ckの音楽制作用卓

まさか採用されると思ってなかった『けいおん!』の楽曲が、Tom-H@ckの人生を変えた

作編曲家の百石元と出会い、2年ほど師事してアレンジや作曲、さらには対人関係などのコミュニケーション術まで叩き込まれたというTom-H@ckさん。作曲家としての転機はすぐに訪れます。彼にとって、最初の仕事が『けいおん!』だったからです。

Tom-H@ck:そう、実はデビュー作なんですよね(笑)。百石元さん経由で紹介されたコンペに参加したのですが、それまでアニソンなんて書いたことがなかったし、ましてやアニメをちゃんと見たことすらなかった。それで、慌てて『らき☆すた』や『涼宮ハルヒシリーズ』の音楽を聴いて勉強し、短期間で曲を仕上げました。それが『けいおん!』のオープニングテーマ“Cagayake!GIRLS”(2009年)です。

この曲が様々なチャートで上位を記録し、Tom-H@ckさんの名が一躍有名になります。これ以上ないほど順調なスタートですが、最初の大きなチャンスを確実に掴むことができたのは、少年時代から磨いてきたギタリストとしての類稀なるテクニックと、百石に叩き込まれたソングライティング能力があったからこそでしょう。

作曲家として大成功したあと、なぜ自身が表に立つ道を選んだのか?

アニメ『けいおん!』が社会現象となり、以降は作編曲家として引っ張りだことなるTom-H@ckさん。アニメ『僕は友達が少ない』や『ヤマノススメ』のサントラ制作、ロックバンド「SuG」やアイドルグループ「マジカル・パンチライン」の総合プロデュース、でんぱ組.inc、T.M.Revolutionなどへの楽曲提供と、多岐にわたる活動を展開していきます。

Tom-H@ck

そして2015年からは、オーイシマサヨシとのユニット「OxT」と、コンテンポラリークリエイティブユニット「MYTH & ROID」を始動させるなど、自分自身が表に出るアーティスト活動も行うようになりました。

Tom-H@ck:当時、所属していた事務所の社長から「お前はアーティスト活動をしたほうがいい」と勧められて。百石さんにも弟子入りした当初から、「君はアーティストが向いていると思うよ」と延々と言われ続けていたんです。「そんなに周りからたくさん言ってもらえるなら、やってみようかな……」と言う感じで、実は5年くらい前から準備はしていました。

でも、消極的にやっていても上手くいくわけがない。作編曲家としての活動の合間にアーティスト活動という「片手間感」は、やはり気づかれてしまうんでしょうね。どこにデモを持っていっても話が通らなくて。「こんな状態で続けていても、やる意味ないんじゃないか?」と思って、やめようかと考えた時期もあったくらいです。

Tom-H@ck

『けいおん!』の大ヒットの後、膨大な仕事が毎日やってくるなかで、またしても彼は、作編曲家としての自分の将来像に「限界」が見えてしまいます。そうして、アーティスト活動に本腰を入れることに。

Tom-H@ck:昔から僕は映画音楽、特にハリウッド映画のサウンドトラックが大好きだったんです。それならもっと突き詰めてやりたいことが、自分にはあるんじゃないか? って気づいてしまって。

そのとき思ったのが、「アーティストとして表に立って、それが少しずつ認知されて、『Tom-H@ck』の顔が世界中に知れ渡ったら、物事が大きく進むんじゃないか?」ということ。もともと、自分が目立つことよりも、誰かを支えたりお世話にしたりするほうが向いているタイプなんですけど、それでもアーティスト活動に本腰を入れたのは、「その先のチャンス」に繋がるんじゃないかと思ったからなんです。

もちろん「アーティストとして成功したい!」とか、「自分を100%表現したい」という気持ちもあるけど、自分が業界で発言権を持てるまでの力をつけていく。そのとっかかりがアーティスト活動だったというのは、揺るぎない事実ですね。

さらには会社の社長に。夢は「日本のPixar」

そして2016年、ついに彼は「株式会社TaWaRa」を設立。その代表取締役に就任しました。音楽制作を中心に、アーティストプロデュースやレーベル事業、コンテンツ企画、ポータルサイト企画、さらには教育事業などの企画・製作を行う会社です。

Tom-H@ck:みんな笑うけど、「絶対にやってやろう」と思っていることがある。まずは年商50億規模の会社にしたい。そして「日本のPixar」を作りたい。

もともと映像や映画が大好きですし、まだ公にはできない情報なのですが、映像コンテンツに関するものをすでに着手しています。音楽に特化した会社なので、そこから派生するもので強力な映像作品を作りたい。日本の映像作品を見ていると、「サウンドが弱い」と感じることが実は多くて。ハリウッド映画の音楽やSEにはとても太刀打ちできない。

10~20年スパンで考えているような大規模な目標なのですが、日本でまだ誰もやったことがないような総合エンターテイメント会社を作り、ハリウッドに殴り込みをかけたいんです。それを僕が生まれた、この日本から発信すること。それが一番大きな目標です。

Tom-H@ck

MYTH & ROIDこそ、究極の「総合エンターテイメント」を具現化する集団

4月26日にリリースされるMYTH & ROIDの1stアルバム『eYe's』も、それとリンクする映像作品に基づくコンテンツをTaWaRaで制作しているという。すでに小説も執筆中で、数年後の出版を目指しています。

Tom-H@ck:MYTH & ROIDのテーマは「感情の最果て」。『eYe's』では、怒りや狂気、愛といった感情を、1曲ごとに表しています。執筆中の小説は、ある義眼師が「最果ての感情」を義眼に込め、何百年も先の未来でそれが「虹色の化石」となって発見されるところから始まるんです。僕と、MYTH & ROIDの作詞を担当しているhotaruとの共同執筆。つまりこのアルバムは、小説のサントラなんです。

MYTH & ROIDのメンバーも流動的で、『eYe's』には複数のボーカリストがレコーディングに参加しているとのこと。単なるユニットではない「コンテンポラリークリエイティブユニット」として、スケールの大きな展望を抱いているようです。

Tom-H@ck:MYTH & ROIDでは、「アーティスト」の固定概念もぶち壊したい。今後はボーカリストだけでなく、映像チーム、ダンサー、それらすべてを内包したユニットに進化していくと思います。MYTH & ROIDを「日本初の総合エンターテイメントユニット」にするのが目標です。もちろん、その先には世界進出も見据えて。

コンテンツをかたちにしていく場所、Tom-H@ckの新しいプライベートスタジオ

こちらはTom-H@ckさんの、できたてほやほやのプライベートスタジオです。以前は住居と制作スペースを一緒にしていましたが、自宅とは別にこの物件を手に入れ、仕事専用の部屋にしました。作編曲はもちろん、アーティストを呼んでボーカルやギターのレコーディングを行ったり、クライアントやスタッフとの打ち合わせを行ったり、様々な創作活動や会社業務ができる場所。今はまだ、機材の置き場所や部屋鳴りなど試行錯誤をしている最中とのこと。ここからまた、素晴らしい作品が生み出されていくのでしょう。

スタジオ風景
スタジオ風景

お気に入りの機材 1:KORG「KRONOS(88 Key Model)」

KORG「KRONOS(88 Key Model)」
KORG「KRONOS(88 Key Model)」(最新ラインナップ

優れたミュージックワークステーションを作り続けてきたKORGが、2011年から販売している最上位機種。CX-3、MS-20、Polysixなど、往年の名機の音源、音色が搭載された、ワークステーションの集大成です。

Tom-H@ck:このスタジオのメインキーボードです。こいつ、ヤバイんですよ! プリセット音がとにかくハイクオリティーなのですが、なかでもエレピの音は、世界中で発売されているシンセのなかでも最強だと思いますね。

単にビンテージのエレピを再現するだけなら他にもいろんなシンセがありますが、これはオケのなかで鳴らしたときにちゃんとヌケてくれるんです。音のツヤ感、密度が尋常じゃない。「今」の楽曲のなかでも、ちゃんと存在感を放ってくれる。エレピだけでなくオルガン系の音も好きですね。特にチャーチオルガンがお気に入りです。

KORG「KRONOS(88 Key Model)」

お気に入りの機材 2:KORG「monologue」

KORG「monologue」
KORG「monologue」(商品詳細

4ボイスポリフォニックであるminilogueと共通するイメージのデザイン、操作性、ビルドクオリティーを持った、新世代アナログシンセサイザー。minilogueをベースにしながらも、サウンド面においてはまったく異なる部分をフィーチャーし、パワフルなモノフォニックシンセとして再設計されています。

Tom-H@ck:シーケンス機能を使ってみたら、びっくりしました。アナログ感を残しつつエッジの効いた音色になる。しかもすごい速さでフレーズを作ることができる。ツマミもシンプルで、マニュアルを読まなくてもすぐに音作りができるところもいいですね。

デザインも素敵です。背面が木になっているところとか、アナログシンセ好きにはたまらない。その辺のツボを全部わかっている人がデザインしたシンセだなと思います。

KORG「monologue」

お気に入りの機材 3:KORG「Gadget for Mac」

KORG「Gadget for Mac」
KORG「Gadget for Mac」(商品詳細

数々のアワードを受賞した音楽制作アプリKORG GadgetのMac版が、近日リリースされます。iOS版で好評だった機能のすべてをブラッシュアップ。最大のガジェット楽器コレクションを備え、さらにプラグインとしてもあらゆるDAWで使用できます。これまでiOS版を愛用してこられたTom-H@ckさんに、一足先に試していただきました。

Tom-H@ck:iOS版のなかに入っているシンセ音源が、すごく音がいいんですよ。iPad仕様のいわゆるガジェット系DAWで、こんなに音がいいアプリって他にある? って思うほど衝撃でした。

音色も、たとえばEDMに特化したシンセなんていうのもあって、しかもどれも本格的。直感的に操作できて、気軽にトラックメイキングできるので、入門用としても楽しめると思います。

Mac版は、スタンドアローンだけではなく、プラグインとして立ち上げることも可能なんですね。内蔵音源をプラグインとして使えるので、音源制作で今後使う人が増えると思いますよ。あとデザインもよくて、この画面を立ち上げた瞬間にテンションが上がる。それって制作のモチベーションとして、とても大事だと思うんですよね。

KORG「Gadget for Mac」

お気に入りの機材 4:moog「Minimoog Voyager Rack Mount Edition」

moog「Minimoog Voyager Rack Mount Edition」
moog「Minimoog Voyager Rack Mount Edition」(商品詳細

Minimoog Voyagerのパワーをもち、ラックマウントまたはテーブルトップの使用のためにデザインされたもの。フロントパネルのすべての操作子は、MIDIのコンティニュアスコントロールのメッセージを送受信することが可能です。

Tom-H@ck:MIDIでコントロールできる現代的なアナログシンセはたくさんあるんですよ。本機はその走りであって、なおかつサウンドも超極太。これをシンセベースとして使うだけで、「もう他の音色、いらないんじゃないの?」っていうくらいの存在感を放ってくれる(笑)。

しかも、アナログシンセ特有のバラつきみたいなものがあって、音の切れ方が毎回ちょっとずつ違ったり、エフェクトのかかり方が微妙に違ったりして、そういうアナログシンセならではの不安定さがリアリティーにつながるんですよね。プリセットも膨大なので、探している音が必ず見つかると思いますよ。

moog「Minimoog Voyager Rack Mount Edition」

夢は「日本のPixarを作ること」と話してくれたTom-H@ckさん。自己プロデュース能力に長けた彼ならきっと、その大きな夢に向かって着実に前進してくれるに違いありません。自分自身を的確に客観視し、アーティスト活動とビジネス活動、その両方を行き来しながら今後も素晴らしい作品を世に送り出してくれることでしょう。

リリース情報
MYTH & ROID
『eYe's』初回限定盤(CD+Blu-ray)

2017年4月26日(水)発売
価格:4,320円(税込)
ZMCZ-11076

[CD]
・L.L.L.
・ANGER/ANGER
・STYX HELIX
・Paradisus-Paradoxum
・JINGO JUNGLE (リミックス)
・Crazy Scary Holy Fantasy
ほか、新曲含む全14曲収録予定
[Blu-ray]
1.”L.L.L.” Music Clip
2.”ANGER/ANGER” Music Clip
3.”STYX HELIX” Music Clip
4.”Paradisus-Paradoxum” Music Clip
5.”JINGO JUNGLE” Music Clip
6.”タイトル未定(新曲)” Music Clip

MYTH & ROID
『eYe's』通常盤(CD)

2017年4月26日(水)発売
価格:3,240円(税込)
ZMCZ-11077

・L.L.L.
・ANGER/ANGER
・STYX HELIX
・Paradisus-Paradoxum
・JINGO JUNGLE (リミックス)
・Crazy Scary Holy Fantasy
ほか、新曲含む全14曲収録予定

プロフィール
Tom-H@ck (とむはっく)

2008年のデビュー作、社会現象にもなった大ヒットTVアニメ『けいおん!』の楽曲を手がけ、その後、自身のアーティスト活動「OxT」「MYTH & ROID」の2つのユニットでアーティストデビュー。以降、T.M.Revolution、でんぱ組.Inc、ももいろクローバーZ、清 竜人25、SuG、ロッカジャポニカ、LiSA、マジカル・パンチライン、UROBOROSなどのアーティスト、アイドルのプロデュースや楽曲提供、映画、アニメなどの劇伴音楽なども担当。これまで数々のヒットコンテンツをプロデュースしている。2016年5月にTaWaRaを設立。TaWaRaにおいてはサウンドのみならず、エンターテイメント事業全体のプロデューサーを務める。



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