歌謡ポップス好きのハッカドロップスが推薦する、愛する歌BEST5

敬愛する人物は、山口百恵と安井かずみと加藤和彦。プロフィールを見て、いまの20代の女の子が好きなアーティストとは思えないその顔ぶれに「?」が浮かんだのが、マイのソロプロジェクト「ハッカドロップス」との出会いだった。そして、彼女のメジャーデビューシングル“衝撃リバイバル”を聴き、往年のグループサウンズ的サウンドと楽曲の圧倒的な歌謡曲感に新鮮な「衝撃」をくらった。元Superflyの多保孝一に見出された「ハッカドロップス=マイ」は、なぜ自分が生まれる前の歌謡曲を愛することになったのか? その答えと彼女が歌謡曲にこだわる音楽をやっている意味とヒントが知りたくて、彼女が好きなおすすめの1960、70年代歌謡ポップスを5曲選んでもらった。ただの興味本位の「リバイバル」ではない、ハッカドロップスの真髄が、そこから見えてきた。

“帰って来たヨッパライ”を、お母さんが家でいつも歌っていました。

―ハッカドロップスのデビューシングル“衝撃リバイバル”を聴かせてもらって、ちょっと驚きました。20代の若い女の子がやっている音楽としては、非常にレトロ。エッセンスを入れたというよりも……1960、70年代の歌謡曲そのままじゃないか! と(笑)。

マイ:あっ……はい(笑)。

マイ
マイ

―そこで気になったのが、マイさんの根っこの部分です。プロフィールにも「ハッカ飴と歌謡曲をこよなく愛する」とありますが、そもそも歌謡曲を聴くようになったのは、どうしてですか?

マイ:ほんとにちっちゃい頃なんですけど、The Folk Crusadersの“帰って来たヨッパライ”(1967年)を、お母さんが家でいつも歌っていて、お姉ちゃんと一緒に真似て歌い出したのがきっかけですね。

―“帰って来たヨッパライ”をいつも歌ってるお母さん……強烈ですね。山口百恵さんも敬愛するアーティストとして名前を挙げられています。

マイ:百恵さんの曲は友達もみんな知ってて、カラオケでも歌っていたから、昔の音楽を聴いているという感覚はなかったです。その後、ハッカドロップスをプロデュースしてくださっている多保孝一(元Superfly)さんに出会って、そこからさらに掘り下げていったんです。

―だから、プロフィールの敬愛する人物欄に、The Folk Crusadersの中心メンバーの加藤和彦、さらに山口百恵、安井かずみという、歌謡曲のレジェンドたちの名前が並んでいるわけですね。

マイ:はい。加藤和彦さんは、もっと後に聴いた“悲しくてやりきれない”(1968年)でお名前を知って。作品を遡ってみたら、“帰って来たヨッパライ”も、加藤さんが作ってたんだ! とわかったんです。他にも“あの素晴しい愛をもう一度”(1971年)は、学校で歌っていたし、振り返ってみると、すごく馴染みのある曲ばかりでした。だから、あえて歌謡曲や1960、70年代の音楽を聴いていたんじゃなくて、好きな曲を追いかけていたら、自分がやりたいのもそういう音楽だと気づいていった感じなんです。

歌謡曲は「私、捨てられたのよ」と、自分の気持ちをさらけ出すことを怖がらない女性像が格好いいんです。

―1960、70年代の音楽のどこに惹かれますか?

マイ:メロディーの音数が多くないのに、そこから想像できる風景やストーリーにすごく広がりがあるところです。歌詞に描かれる女性像も魅力的で、映画でも『吉原炎上』(1987年)とか、女の情念をわかりやすく描いた作品が好きなので、そういうところもリンクしているのかなって。

―たしかに、歌謡曲は女性目線の恋愛の歌が多いですよね。しかも一対一の男女の関係性が、とても濃厚に描かれ、感情の機微やひだを丁寧に追っている歌詞が目につきます。

マイ:そして「捨てられる」ことが多いですよね(苦笑)。それを「私、捨てられたのよ」と言ってしまうところが格好いいんです。強がりもあると思うけど、自分の気持ちをさらけ出すことを怖がらない……とくに山口百恵さんの曲に出てくる女性は、凛としていて愛情豊か。すごく母性を感じます。

―そういえば、“衝撃リバイバル”の歌詞にも大いなる母性にあふれた女性が描かれていますね。マイさんがそうなりたいという願望もあるんですか?

マイ:すごく憧れますね。私、古本屋で岩波文庫を探して読むのが大好きなんですけど……。

―それもすごく昭和らしいですね(笑)。

マイ:岩波文庫で『女の平和』(アリストパネス著、1975年)という、男たちの無意味な戦争を、女性が性的ストライキで止めさせる古代ギリシャの戯曲が出ていて。暴力で解決するのではない、女性の強さにすごく共感するんです。映画でも加賀まりこさん主演の『月曜日のユカ』(1964年)が大好きで、すごく奔放な女性がたくさんの男性と関係を持つんですけど、そこにあるのは男性を喜ばせたいというすごく純粋な気持ち。そこがステキなんですよね。

テレビの演出や振付など、すべての魅力が合致して「歌」を聴かせる素晴らしさは「歌謡曲」ならでは。(山口百恵“自転車の上の彼”)

―ここからは「ハッカドロップスのマイさんが選ぶ、おすすめの1960、70年代歌謡ポップスベスト5」を紹介してもらいたいんですが、まずはマイさんが一番好きな歌手からお願いします。

マイ:やっぱり山口百恵さんですね。“絶体絶命”や“謝肉祭”もいいんですけど、歌詞がすごいと思ったのは、“自転車の上の彼”という曲です。『横須賀ストーリー』(1976年)というアルバムに入っているんですけど、<彼が走る 太陽が追いかける 彼が止まる 太陽が追いつく>と、彼が自転車に乗って走る様子を実況しているような歌詞で、それがすごくおもしろいんですよ。

左から:山口百恵『歌い継がれてゆく歌のように -百恵回帰II-』『横須賀ストーリー』
左から:山口百恵『歌い継がれてゆく歌のように -百恵回帰II-』『横須賀ストーリー』

―自転車で自分の前を漕ぎ去っていく彼の姿に、青春と恋心をなぞらえた世界観がステキですね。

マイ:そうなんです! 作詞は阿木燿子さんで、作曲が宇崎竜童さん。山口百恵さんの曲といえば、このお二人のコンビが有名で、私の好きな百恵さんの曲も、やはりお二人の曲が多いです。

―山口百恵といえば、1973年にアイドルとしてデビューしましたが、他のアイドルが歌わない大人っぽい大胆な恋愛曲を歌って一躍ビッグスターになり、人気絶頂の1980年に婚約と引退を同時に発表。最後の武道館コンサートでマイクをステージに置いて去るドラマティックな引退劇が伝説になりました。

マイ:そういう百恵さんの生き方も曲も、すべてにおいて潔くてカッコいい。自叙伝『蒼い時』(1980年)でも、三浦友和さんの子どもが欲しいと思って結婚したというエピソードにすごく共感するし、それをハタチそこそこで言うんだという驚きもありました。生のコンサートも良かったと思うんですけど、当時の歌番組を見ると、歌う姿がとにかくカッコいいんです。テレビの演出や曲の振付など、すべての魅力が合致して「歌」を聴かせる素晴らしさは、歌謡曲ならではだと思います。

マイ

私も大学を途中で辞めて、夢を追って東京に出てきたので、歌詞にはすごく共感します。(はしだのりひことシューベルツ“風”)

―次に選んでもらったのは、はしだのりひことシューベルツの“風”(1969年)ですね。

マイ:はい。これは純粋な歌謡曲ではなく、フォークソングになると思うんですけど、広い意味で1960、70年代歌謡ポップスとして聴いたとき、すごくいい曲で。

―はしだのりひこさんは、The Folk Crusadersが“帰って来たヨッパライ”でメジャーデビューする際にボーカリストとして加入したシンガーソングライター。The Folk Crusadersの解散後に結成したのが、はしだのりひことシューベルツで、最大のヒット曲が“風”でした。

マイ:私は後追いでCDを買ったので、オリジナル盤が手に入らなくて、今日持ってきたのは1960、70年代の大ヒット曲を集めた『想い出の歌謡 BEST20』というコンピ盤です。ザ・タイガースの“シーサイド・バウンド”も入っていて、よく聴いています。

はしだのりひことシューベルツ“風”が収録された『想い出の歌謡 BEST20』
はしだのりひことシューベルツ“風”が収録された『想い出の歌謡 BEST20』

―ハッカドロップスのサウンドにも、ザ・タイガースなどのグループサウンズ(GS)の影響を大きく感じますね。

マイ:はい。ハッカドロップスでは、バンドサウンドの良さも出したいので、GSっぽい要素も入れて、私もライブではエレキギターを弾きながら歌っているんです。

―選んでいただいた“風”には、どんな想いが?

マイ:<そこにはただ風が 吹いているだけ>という歌詞が大好きで。この曲は、「人は誰もが旅に出て故郷を振り返る、でも、故郷は帰るための場所ではなく、自分は先に進むしかない」ということを歌っているんですが、それを「そこにはただ風が 吹いているだけ」というワンフレーズで表現しているところに、すごみを感じます。

―心情を風景描写に置き換えて、歌詞のストーリーの一部として表現している。1960、70年代歌謡ポップスの特徴かもしれませんね。好き嫌いも、喜びも哀しみも、すべてわかりやすい言葉で歌詞にしている曲が、最近は多い気がします。

マイ:歌詞の行間に余韻や意味を込めて、結論を言わないから、わかりやすい歌詞に慣れすぎて、行間を読めない人が“風”を聴いても、「風が吹いてるんだ、ふーん」で終わっちゃうと思うんです。でも、私も大学を途中で辞めて、夢を追って東京に出てきたので、歌詞にはすごく共感します。行間や余白があることで、自分のストーリーと気持ちを重ねられる奥深い感じが、この曲の魅力なんでしょうね。ハッカドロップスもそこは心掛けています。

幸せだった日々を、夜明けのコーヒーに集約しているところが……。(ピンキーとキラーズ“恋の季節”)

―そして3曲目は、ピンキーとキラーズの“恋の季節”(1968年)。ピンキーこと今陽子さんとバンドメンバーの男性4人がバックコーラスを担当し、山高帽を被って振付をしながら5人で踊る姿で一世を風靡しました。

マイ:歌番組の映像で見たんですけど、その帽子の振付もすごく格好よくて、曲も好きになったんです。じつは私も以前、ライブで“恋の季節”をカバーしていたことがあって、ファンの方からピンキーとキラーズさんに似た帽子をいただいたりしました(笑)。

ピンキーとキラーズ『恋の季節』
ピンキーとキラーズ『恋の季節』

―楽曲で一番好きなところは?

マイ:GSサウンドっぽいイントロですね。あと歌詞でいうと「夜明けのコーヒー」というフレーズが。

―サビに出てくる<夜明けのコーヒー ふたりで飲もうと あの人が云った 恋の季節よ>ですね。夜明けのコーヒーがなにを意味するかは、察せよと(笑)。

マイ:しかも、失恋した歌なのに直接は言っていなくて。幸せだった日々を、夜明けのコーヒーに集約しているところが……。その一言から物語を浮かばせちゃうところがすごいと思います。このワンフレーズにやられてしまいました。今度は衣装と振付ありでカバーしてみたいですね。

学生運動に参加していたという人から、デモを終えた後、夜明けによくこの曲を聴いていた話を聞きました。(西田佐知子“アカシアの雨がやむとき”)

―4曲目には、西田佐知子“アカシアの雨がやむとき”(1960年)を選んでいただきました。これは1960年リリースで、その後もたくさんの歌手がカバーして歌い継がれていましたね。

マイ:この曲は、歌の良さもあるんですが、ヒットした背景がすごく興味深くて。1960年に大規模な日米安保闘争があって、学生運動に参加した人たちの心の歌だったという話を、昔、アルバイトしていたお店のおじいちゃんからよく聞いていたんです。その方も当時、学生運動に参加していて、デモを終えた後、夜明けによくこの曲を聴いていたという話をしていました。

西田佐知子『アカシアの雨がやむとき』
西田佐知子『アカシアの雨がやむとき』

―1960年代の安保闘争は、日本中で激しいデモが起こり、東大生の樺美智子さんが死亡するという悲しい事件もありました。そして結局、安保条約は承認。若者たちが敗北し、疲れきった世相を反映してこの曲がヒットしたという背景ですね。

マイ:<アカシアの雨に打たれて このまま死んでしまいたい>からはじまる歌詞はとても退廃的で、その感じも好きですし、曲のタイム感がとてもゆっくりなのも、おもしろいと思うんです。私がいま生活しているリズムで、いきなりこれを歌おうとしても全然歌えないんですよ。でも、この曲が普通に流行ったということは、当時の生活リズムが、いまよりもっとゆっくりだったから。サウンドの古い新しいだけじゃなく、曲のテンポからも時代を感じることができるんです。身体にしっかりタイム感を染みこませてからじゃないと、この曲は歌えないですね。

全部を言わない歌謡曲の歌詞のおもしろさ、聴く人がストーリーを探れるおもしろさがある。(相本久美子“チャイナ・タウンでよろめいて”)

―そして、最後の曲はなんでしょうか?

マイ:1970年代終わりのアイドルソングなんですけど、相本久美子さんの“チャイナ・タウンでよろめいて”(1979年)です。これは大好きな松本隆さんが手がけた曲を探していて出会った曲。ちょっと不思議な感じの女性が歌われているなと思って、CDを買いました。

―不思議な感じですか。

マイ:昔のポップスには、チャイナタウンを舞台にした「チャイナタウン歌謡」がたくさんあって(笑)。まず「チャイナタウン」という響きに惹かれたんです。おもしろいなって。

相本久美子『チャイナ・タウンでよろめいて』
相本久美子『チャイナ・タウンでよろめいて』

―タイトルの“チャイナ・タウンでよろめいて”からして、印象的ですよね。

マイ:そうなんです、「よろめく」って!(笑) いま、なかなか使わないですよね。松本隆さんだからか、一つひとつの歌詞も斬新で、<さあね まさか まじかも>というフレーズとか、すごくおもしろいんです。

―そもそも「よろめいて」が、ダブルミーニングですよね。1970年代までは、不倫や浮気をモチーフにしたドラマを「よろめきドラマ」と言いましたから。

マイ:そうなんですか! だとしたら、<チャイナ・タウンでよろめいて 倒れた所があなたの手>というのが、すごく意味深ですよね。チャイナタウンを歩いていて、実際に転びそうになって男の人と出会ったのかも知れないし、気持ちのよろめきなのかも知れないし……すごく想像しちゃいますよね。そういうところに、全部を言わない歌謡曲の歌詞のおもしろさ、聴く人がストーリーを探れるおもしろさがあると思います。

 
 

「昔をいまに蘇らせたい」わけではなく、いまの音楽として、いいメロディーといい言葉といい歌を、ただ届けていきたい。

―選んでもらった5曲を通しても、マイさんが女性像とストーリーを重ね合わせた曲や歌詞に心を惹かれていることがよくわかりました。

マイ:それを歌手の方が、純粋に「歌」で表現しているのが、1960、70年代の歌謡曲やポップスの魅力だと思います。だから私も「歌」を大切にしながら、ハッカドロップスの音楽をやっていて。でも「昔をいまに蘇らせたい」わけではなく、いまの私が、いまの音楽として、いいメロディーといい言葉といい歌を、ただ純粋に届けていきたいだけなんです。

マイ

―ノスタルジーやリバイバルとして歌謡曲に光を当てたいわけではないと。

マイ:はい。大切なものではありますけど、歌謡曲というコンセプトを取り払っても、私になにができるか。内容が一番大事だと思っています。時代的なメッセージに頼るだけじゃなく、1960、70年代の曲は、ストーリーや人間が曲のなかでちゃんと生きている感じがする。「歌」を大切にしているんだなって思います。

―まさに、普遍的な良さを持つものですよね。

マイ:そう思います。私はただ「いいものを見たい、聴きたい」という気持ちがあるだけなんです。映画も本も音楽も、新しいものも一緒に楽しんでいるんですけど、歌謡曲って、人の心に普遍的に残る「歌」だから、いまの人にも響くと思うんです。私も普遍的に残る「歌」を大切にできるスタイルで、これからも音楽を続けていきたいです。

リリース情報
ハッカドロップス
『衝撃リバイバル』初回限定盤(CD+DVD)

2016年4月20日(水)発売
価格:1,500円(税込)
SRCL-9019/20

[CD]
1. 衝撃リバイバル
2. 名古屋特急
3. 手紙(acoustic ver.)
[DVD]
・“衝撃リバイバル”PV
・“衝撃リバイバル”PVメイキング映像

ハッカドロップス
『衝撃リバイバル』通常盤(CD)

2016年4月20日(水)発売
価格:1,200円(税込)
SRCL-9021

1. 衝撃リバイバル
2. 名古屋特急
3. 手紙(acoustic ver.)

プロフィール
ハッカドロップス
ハッカドロップス

ハッカ飴と歌謡曲をこよなく愛する“マイ”率いるソロプロジェクト“ハッカドロップス”。YAMAHA SG7を肩にかけ、懐かしさと新鮮さの共存するサウンドで平成の世にハッカ飴を投じるべく活動中。



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