池松壮亮が明かす 生きづらい現代日本で、映画に取り組む覚悟

現代の日本で、役者はどう振る舞うべきか? 映画初出演作はトム・クルーズ主演『ラスト サムライ』と、俳優・池松壮亮の芸歴は実に華々しい。だが、どんなに注目を浴びようが、いやむしろ、喧騒が大きくなればなるほどそこから逃れるように小さなバジェットの作品や深夜ドラマに好んで出演し、社会の片隅に生きる人たちを真摯に演じてきた。

その池松が、一転、新井英樹の同名漫画原作のドラマ『宮本から君へ』(テレビ東京系)で熱血営業マンの主人公・宮本浩役に挑む。そこにはどんな心境の変化があったのか? 池松の胸の内を聞いた。

自分は宮本浩のような人間にはなれずに生きてきました。

—池松さんは『第9回TAMA映画賞』で、『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』『続・深夜食堂』『デスノート Light up the NEW world』『永い言い訳』の4作品の演技が評価されて「最優秀男優賞」を受賞しました。2017年11月18日に行われた授賞式では、丸刈りで出席して話題になりましたが、ドラマ『宮本から君へ』の撮影に入っていたからだったのですね。あれから4ヵ月、だいぶ髪も伸びました。

池松:伸びましたね。みなさん多分、「何かおイタでもしたバツか?」と思われていたのでしょうけど、ちゃんと仕事をしていました。『宮本から君へ』で、主人公・宮本浩を演じる上でとても重要なシーンでしたので、頭を丸めたんです。

池松壮亮
池松壮亮

—丸刈りから、作品への意気込みを感じました。

池松:新井英樹さんの原作はもともと好きで、僕が21、22歳の頃に初めて手にしたんです。昨年ドラマを録り終えて、ようやく発表出来るまでに至りました。

宮本浩役を演じる坊主姿の池松壮亮 / ©「宮本から君へ」製作委員会
宮本浩役を演じる坊主姿の池松壮亮 / ©「宮本から君へ」製作委員会

新井英樹『宮本から君へ』©新井英樹/太田出版
新井英樹『宮本から君へ』©新井英樹/太田出版(Amazonで見る

池松:本当は、原作と同じ20代前半で演じたかった。だからもうこれ以上、年を重ねると、僕は宮本を演じられないと思っていたんです。それでも27歳のいまなら、まだイケるんじゃないかと思いまして。

ただ、いざ演じてみると、ここまで自分自身を問われる役はなかった。「本当に自分は宮本を演じる資格があるのか?」それを毎日、自分に問いながら、撮影の2ヵ月間を過ごしました。

—それは「宮本浩の持つ、仕事への純真な情熱だったり、新入社員特有のがむしゃらさを自分が出せるのか?」ということでしょうか?

池松:言い出したらキリがないんですけど、常に誰かのことを考え、自分の身に降りかかることを自分のせいにしかできなくて、誰かが間違った言動をしたことに対して「間違っている」と言わなければ気が済まない。自分が出会った役の中でも、宮本浩は最も勇気がある人なのではないかと思うんです。

池松壮亮

—役者としても経験を重ねると、多少なりとも自分の癖や、「こう見せよう」とする自我が出てしまいます。それを全部取っ払わないと出来ない役かもしれませんね。

池松:そうですね。多分、外側だけ作って宮本役に取り組むこともできたと思うんです。でも俳優として、それだけではこの役は演じられないと思いました。自分は宮本浩のような人間にはなれずに生きてきましたから。

ドラマ25『宮本から君へ』予告映像

ドラマ25『宮本から君へ』中野靖子役の蒼井優 / ©「宮本から君へ」製作委員会
ドラマ25『宮本から君へ』中野靖子役の蒼井優 / ©「宮本から君へ」製作委員会

—と、言いますと?

池松:僕は自分自身を汚してまで何かに泥臭く挑むことはしたことがないし、人もたくさん傷つけてきました。人の思いだけでなく、自分の心まで殺して生きてきたと思います。さらに誰かのせいにしたり、自分の思いとは裏腹に社会に対してそれなりに順応しようとして生きていた。そうやって逃げてきたことの方が多いんですよ。

でも宮本浩はものすごくピュアで、真っ直ぐな心を持った人。このドラマを、僕はあまり宮本浩の成長物語だとは思ってないんです。人を巻き込んで、迷惑をかけながらも、宮本浩はずっと同じことしか言っていない。自分の信念を証明しようとしているだけなんじゃないかと思うんです。

人間というのはこの地球上で、本当に小さな存在でしかない。そこに対して宮本浩は、誰よりも自分の可能性を信じて模索している人だと思います。そういう意味でも、僕はもっと社会や周囲に流されて生きてきたなと考えさせられました。

—『宮本から君へ』というタイトルの意味を何だろう? と考えさせられるのですが、池松さんの場合は、演じながら自分の内面を見つめざるを得ない状態になったのですね。

池松:本当にそうです。作品に触れる人それぞれに問いかける、とんでもないタイトルですよね。

ドラマ25『宮本から君へ』場面写真 / ©「宮本から君へ」製作委員会
ドラマ25『宮本から君へ』場面写真 / ©「宮本から君へ」製作委員会(サイトを見る

片足じゃなく、両足どっぷり映画の世界に突っ込んでやろうと思ったんです。

—監督・脚本は映画『ディストラクション・ベイビーズ』(2016年)でも一緒に組んだ真利子哲也監督です。企画当初から、真利子監督の名前が上がっていたのでしょうか?

池松:はい、はじめから上がっていました。ちょうど僕が学生をやっていた頃、真利子監督は自主映画界のスターで、全部話題をもっていっていましたからね。僕も真利子監督の自主映画作品を色々と拝見しまして、キレのある映像とシチュエーションの作り方が上手くて、「この人はスゴイんじゃないか」と思ってました。

池松壮亮

池松壮亮も出演した真利子哲也監督『ディストラクション・ベイビーズ』予告編

—池松さんの学生時代というと、日本大学藝術学部(以下、日芸)映画学科監督コース時代となります。なぜ演技コースではなく、監督コースだったのでしょうか?

池松:実はですね、高校まで過ごした福岡時代、あまり映画を見ていなかったんです。高校卒業後の進路を考えたときに、進学は気が進まなかったのですが、とはいえまだ社会に出たくないなと思って、大学に行こうと決めました。担任に相談したところ、日芸ではこれだけの著名人を輩出しているし、多分、大学の設備も素晴らしいはずだから、4年間、何かを探すにはいい場所なのではないか? と勧められました。

最初は演技コースを勧められたんですけど、「絶対に嫌だ」と拒否しました。僕は演技を人から教わったことはないですし、諸先輩からも「お芝居は人から教わるものではない」と言われてきた。だから、「なんで人から教わらなければならないんだ?」と思ったんです。映画学科にはほかにもいろんなコースがあったのですが、役者である僕が監督コースに進学するのも面白いんじゃないかと思いまして。片足じゃなく、両足どっぷり映画の世界に突っ込んでやろうと思ったんです。

本当に大学時代の4年間は、たくさんの映画と出会い、「映画とは何か?」を考え始めた時期でもありました。福岡から上京して寂しかったし、友達もできなかったけど、映画館の中が一番落ち着いたんです。最初の1年間は姉と一緒に住んでいたのですが、「学校へ行ってくる」と言っては映画館に行くか、寝るか、考え事をしていました。

池松壮亮

いまの世の中の価値観として、「真っ当であること」が歪み始めていると思います。

—大学卒業後は思考から実践編へ移るがごとく、とにかく映画によく出演していましたね。2014年は『紙の月』ほか8本も出演しています。その中で、ニートとか、人妻と恋に落ちる役とか、ダメンズや不器用な役柄が本当に多い印象があります。

池松:そうですね。でも、人間っぽくて、そういう役は嫌いじゃないんです。しかも彼らの中にはちゃんと大義名分もあるので、ギリギリ救いもあると思って演じています。なんか、いまの世の中、「真っ当であること」の価値観が歪み始めていて、純粋な人や志のある人がすごくないがしろにされがちだと思うんです。こだわりや心が切り離されて、生きづらそうにしている。そういう人に対しての共感がすごくあります。

—池松さんにとっても、いまの世の中は生きづらいですか?

池松:2018年、大なり小なり、生きづらさを一切感じていない人がいたとすれば、それは嘘だと思いますよ。

 

ドラマ25『宮本から君へ』甲田美沙子役の華村あすか / ©「宮本から君へ」製作委員会
ドラマ25『宮本から君へ』甲田美沙子役の華村あすか / ©「宮本から君へ」製作委員会

—2、3年前まで、あれほど多くの作品に出演されていましたが、『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(2017年)で一旦、仕事のペースは落ち着いたのでしょうか?

池松:そうですね。パーッと働いて、ちょっと休んで作戦を練って、また働いて。その繰り返しです。とはいえ、自分自身の内面をたくさん吐き出すというのは、その分、出ていってしまうということです。僕みたいに、自分の内側から出るものを吐き出すタイプは、ずっとそのスタイルを続けていくことはできないので、自ずとペースダウンの時期が来たという感じですね。

ドラマ25『宮本から君へ』神保和夫役の松山ケンイチ / ©「宮本から君へ」製作委員会
ドラマ25『宮本から君へ』神保和夫役の松山ケンイチ / ©「宮本から君へ」製作委員会

—その間、プライベートではどんなことをしているのですか? 旅に出るとか?

池松:旅には出ないですけど、まぁ、脳内の旅、心の旅ですね。本を読んだり、映画を見たり……。

—結局、仕事と直結することなんですね?

池松:そうですね。そういうことが好きなのでしょうね。

池松壮亮

歴史の縦軸を踏まえた上で、黒澤明監督の映画を超えるつもりじゃないと映画を作っちゃいけないんじゃないかとさえ思うんです。

—そんな映画好きが高じての発言だったのだと思います。『第9回TAMA映画賞』の授賞式で「どんどん日本映画は苦しくなっているのは誰の目にも明らかで、こんなご時世に映画をやっていてもいいのかなと思う」と胸の内を吐露されていました。

同時に「人の心に届かない映画を何本作っても同じなので、一本一本こだわって、(役者人生で)あと一本とかいうレベルになるかもしれないですけど、諦めずにやっていきたいと思っています」と決意もあらわにしました。キャリアを積み重ねて、見えてきた世界や考えがあったのでしょうか?

池松:若い頃の自分が聞いたらぶっ飛ばしたくなるようなことを、いまは平気で言ってますね(苦笑)。

池松壮亮

—一時期は「今後も俳優を続けていくかどうか分からない」ということをよく口にしていましたが、役者で生きるという腹が決まってきたということなのでしょうか?

池松:いや、もともと腹は決まっていて、公でそう言う風に答えていただけなんです。とはいえいまも、その気持ちは多少なりともあって、30歳を超えたらほかのことをする可能性もあります。なぜなら、この仕事をすればするほど、「自分は俳優や映画を仕事にしていいのか?」という思いが増すからです。

—それはなぜでしょう?

池松:例えば、いまの日本映画やドラマを浴びて生きていく人たちがいるじゃないですか。そういう人たちに対して、生半可な気持ちで作品に携わってはいけないという思いが強くなってきたんです。少なからず僕は、仕事として、お金をいただいているわけです。それは非常にありがたいことですけど、「こういう作品を提供していいのか?」と考えるときや、「もっと社会の一員としてやるべきことがあるんじゃないか?」と思うときもあります。

池松壮亮

—海外ではダニエル・デイ=ルイス(イギリス出身の俳優、代表作に『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』など)のように、俳優業を一時辞めて、靴職人になった例もあります。

池松:僕が靴職人になるか、ほかの分野に進出するのか、それはまだ分からないですけど(笑)。ただ、ちゃんと思考した上で、いまの自分が考えていることを世に出していきたいと思っています。それも難解にではなく、深い内容のものをよりスマートに提供していく。それがいまの気分です。

ドラマ25『宮本から君へ』場面写真 / ©「宮本から君へ」製作委員会
ドラマ25『宮本から君へ』場面写真 / ©「宮本から君へ」製作委員会

—今年2月に俳優・大杉漣さん(享年66)が亡くなりました。大杉さんはどんな仕事でも断らず、多くの作品に出演し続けた人でしたが、大杉さんのような俳優人生をどのように見ますか?

池松:本当にブレない方でしたね。共演したのはテレビ東京のドラマ『バイプレイヤーズ』だけだったのですが、撮影現場で色々お話しました。僕が見てきた漣さんの作品のことや、僕の作品についても。本当に漣さんが亡くなったのは、自分の中で大きな問題で……。

日本映画ってものすごい太い縦軸があると思うんです。それがいまちょっと置き去りにされている部分がある。常に新しいものを求めますし、1回の失敗で否定しがちですし。それは社会に余裕がないからなんでしょうけど、みんながそこで小競り合いをしている感じがしています。

これは極端な例ですけど、本当はその縦軸を踏まえた上で、黒澤明監督の映画を超えるくらいのつもりじゃないと、映画を作っちゃいけないんじゃないかとさえ思うんです。自分は、大杉漣さんのような先人たちがいたことを踏まえ、その先にある答えのようなものを探して、映画作りをやっていきたいなと思います。

 

—幸い池松さんには石井裕也監督、松居大悟監督、そして今回の真利子監督のように共闘できる監督たちがいます(参考記事:『私たちのハァハァ』松居大悟と池松壮亮の親密なライバル対談 )。

池松:同時代に生きてきて良かったと思える人がいるのは、本当にありがたいことです。これからも新しい方との出会いもありますし、まだまだこの仕事はやり甲斐があるのかなと思います。

ドラマ25『宮本から君へ』田島薫役の柄本時生 / ©「宮本から君へ」製作委員会
ドラマ25『宮本から君へ』田島薫役の柄本時生 / ©「宮本から君へ」製作委員会

—たくさんの作品に出演されて、多忙な日々を経験したと思いますが、いい感じで1周していまに辿り着いたように思えます。

池松:そうですね。特に25歳の年にものすごい量の作品をやったんです。それから『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』をやって、また何か新しい変化や可能性が見えてきたように思います。

いままでのものを突き詰め、自分がやりたいこと、やるべきことを考えた上で取り組んだので、いまはさらにそこから何をすべきかを考えています。簡単に言えば、30代を迎えるにあたっての準備をしているんです。

—『宮本から君へ』の中でも、30歳を前にして独立して会社を興すエピソードがありますが、やはり男性にとって30歳という年齢は大きな意味を持つのでしょうか?

池松:自分も年齢とか、あまり意識しないのかなと思っていたら、最近、ものすごく考えるようになりました。それは多分、東京オリンピックの存在が大きいと思います。ちょうど僕は2020年で30歳を迎えます。時代の変わり目と自分の節目が重なるので、そこに基準を合わせているのかな。

池松壮亮

リリース情報
ドラマ25『宮本から君へ』

2018年4月6日(金)から毎週金曜24:52~25:23にテレビ東京、テレビ大阪ほかで放送

脚本・監督:真利子哲也
原作:新井英樹『定本 宮本から君へ』(太田出版)
主題歌:エレファントカシマシ“Easy Go”
主演:池松壮亮
出演:柄本時生
星田英利
華村あすか
新名基浩
古舘寛治

プロフィール
池松壮亮 (いけまつ そうすけ)

1990年7月9日生。福岡県出身。A型。03年『ラストサムライ』で映画デビュー。2014年には『愛の渦』、(三浦大輔監督)、『ぼくたちの家族』(石井裕也監督)などの話題作に次々と出演し、日本アカデミー賞新人俳優賞、ブルーリボン賞助演男優賞を受賞する。2017年『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(石井裕也監督)に出演し、第9回TAMA映画祭で最優秀作品賞、第39回ヨコハマ映画賞にて主演男優賞を獲得。2018年にはドラマ『宮本から君へ』で主演を務めるほか、映画『万引き家族』(6月8日公開、是枝裕和監督)『君が君で君だ』(7月7日公開、松居大悟監督)『散り椿』(9月28日公開、木村大作監督)が公開予定。



フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Movie,Drama
  • 池松壮亮が明かす 生きづらい現代日本で、映画に取り組む覚悟

Special Feature

Habitable World──これからの「文化的な生活」

気候変動や環境破壊の進行によって、人間の暮らしや生態系が脅威に晒されているなか、これからの「文化的な生活」のあり方とはどういうものなのだろうか?
すでに行動している人々に学びながら、これからの暮らしを考える。

記事一覧へ

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて