松坂桃李が語る、好青年なパブリックイメージを乗り越える道のり

役者・松坂桃李の活躍が目覚ましい。2017年下半期のNHK連続テレビ小説『わろてんか』のメインキャストとして半年間を駆け抜ける一方、『彼女がその名を知らない鳥たち』『不能犯』など映画の世界では、従来の好青年のイメージとは打って変わったクセのある役柄を好演。そんな彼の次回作が、すでに各所でセンセーションを巻き起こしている映画『娼年』だ。

2016年に上演された舞台でも主演を務めた本作との出会いを通じて、俳優・松坂桃李は、どう変化を遂げたのか? そして、彼がこの映画で演じた「リョウ」という青年が、現代社会に提示するメッセージとは? CINRA.NET初登場となる松坂桃李に、俳優としての自身の考えやその変化についてまで、じっくりと語ってもらった。

僕が20代の前半でやってきた仕事のスタイルでは、これからはなかなか難しいだろうなと思っていました。

—舞台版の上演時、かなりセンセーショナルな注目を集めていた『娼年』ですが、映画版も、かなりやり切った作品になりましたね。見終えたあと、率直に思ったのは、「役者って、すごい!」でした。

松坂:いやいや、とんでもない。ただ、役者っていうのは、ホントいろんな仕事をするんだなっていうのは、この映画で改めて思いましたね(笑)。今回は、台詞の芝居よりも、身体を使った表現がほとんどだったので、異色ではありますね。

松坂桃李
松坂桃李

—映画版に先立って、同じく三浦大輔さん演出、松坂さん主演による舞台版があったわけですが、そもそも、その舞台版に出る際には、相当な覚悟が必要だったのではないですか?

松坂:そうですね。ただ、オーディションで選ばれたときは、正直「ラッキーだな」って思いました。もちろん、僕がそれまでやってきた作品のテイストを考えると、なかなか自分のイメージからは遠い作品ではあったと思うんです。でも、自分が今後、役者の仕事を続けていく……今年で30歳になるんですけど、40歳、50歳、そしてそれ以降になっても続けるにあたっては、僕がいままで20代の前半でやってきたような仕事のスタイルでは、なかなか難しいだろうなって思い始めていたので……。

—それは、なぜでしょう?

松坂:僕のパブリックイメージに沿った役柄の仕事ばかりを、そのままずっとやり続けていくのは、性格的に、ちょっと甘えが出てしまうんです。たとえば、パブリックイメージ通りの役がきたとして、「さわやかな感じの男です」ってなると、「わかりました。こんな感じですね」って、そのイメージ通りのものをやろうとしてしまう。自分の性格上、そこでハードルを上げないで、ちょっと楽をしようとするんですよね。

松坂桃李

—パブリックイメージをそのまま演じてしまうんですね。

松坂:そうですね。だから、敢えて自分に負荷をかけていくんです。そうやって役者としての経験値を上げていかないと、この仕事を続けようと思っても、ちょっと難しくなっていくだろうなって。そういう話を、マネージャーさんともしていたんですよね。そこで、「ちょっと色の違う作品を、20代の後半からはいろいろ挑戦していきましょう」って言っている矢先に、舞台版の話をいただいたんです。

—いきなり、すごいのがきましたね。

松坂:そうなんです(笑)。やっぱり予想以上に大変な現場で……基本的に、僕が出ずっぱりのお芝居なんです。なので、体力的にもそうだし、やっぱり難しい作品でもあったので、舞台が終わったときは精神的にもすっからかんというか、『あしたのジョー』の最終回みたいな感じになってしまって……。

—真っ白に燃え尽きた?

松坂:はい(笑)。ただ、そこで得たものが、ホントにたくさんあったんです。それは芝居に関してもそうだし、あの舞台に出ることによって、これまでとは毛色の違う作品のお話がくるようになった。それこそ、この次に公開される『孤狼の血』(5月12日公開予定、白石和彌監督)という作品のオファーをいただいたのも、舞台版の『娼年』を受けてのお話だったみたいで。

『娼年』場面写真 /  ©石田衣良/集英社 2017映画『娼年』製作委員会
『娼年』場面写真 / ©石田衣良/集英社 2017映画『娼年』製作委員会

—『彼女がその名を知らない鳥たち』(2017年)に続き、白石和彌監督の常連キャストになっていますね。

松坂:僕もまさか、2回続けて白石監督とご一緒できるとは思ってなかったです。そういう嬉しいプレゼントもあったりして。だから、ホントにやって良かったし、『娼年』の原作小説は、もうかなり前の作品で……。

—石田衣良さんの原作小説が出たのは、2001年だとか。

松坂:そう、もうだいぶ前なんですよね。聞くところによると、これまで映画化をはじめ、いろいろな話が水面下で何回か出ては消えたみたいだったらしいんです。その役が、このタイミングで自分に回ってきたということで、最初に言った「ラッキーだな」っていう感想に繋がるんです。

レーダーチャートの面積をまんべんなく大きくしていきたい。

—その舞台版の主演を無事やり終えて、「自分、意外とやれるな」みたいな思いもあったんじゃないですか?

松坂:確かに、それまではさっき言ったようなパブリックイメージの範疇にある役ばかりが続いていたので……その分、自分の中でバネを縮めていて、違うタイプの役に臨むための準備が整っていました。なので、そういう面が出しやすかったかもしれないですね。

松坂桃李

—ただ、舞台に出ることによって仕事の幅が広がったのであれば、今回の映画版には出ないという選択肢もあったんじゃないですか? 何にせよセンセーショナルな役どころで、ある種リスキーな作品ではあると思います。

松坂:朝ドラ(NHK連続テレビ小説『わろてんか』)の話もありましたしね(笑)。もちろん、役者にはいろんなタイプの人がいると思うんですよね。ひとつのイメージの役柄を貫き通す人だったり、個性的な役をやり続ける人だったり、王道の役でど真ん中を突っ走っていく人だったり。その中で、僕は「バランス重視でいきたい」と考えていて。だから、朝ドラが終わった直後に、『娼年』の映画が公開されるっていうのも、よいバランスだと思っていて……。

『娼年』場面写真 /  ©石田衣良/集英社 2017映画『娼年』製作委員会
『娼年』場面写真 / ©石田衣良/集英社 2017映画『娼年』製作委員会

—ものすごい振り幅ですけどね。

松坂:はははは。五角形とか六角形のグラフみたいなレーダーチャートがあるじゃないですか。その中でのバランスというか面積を、ちょっとずつでもいいから、まんべんなく大きくしていきたいという思いがあって。

だから、自分の思いとしては、テレビドラマでは親しみやすい役柄を演じたい一方で、映画では、なるべく自分の幅みたいなものを広げていきたいっていう。それを同時進行でやっていけるのが、理想かなって思うんですよね。

映画って、お金を払って見てもらうものじゃないですか。テレビとは違っていて……朝ドラみたいに、毎朝やってくれるものでもない。だから、払っていただいたお金以上のものを見せていきたいし、普段とは違う作品に挑戦していきたいなっていう思いがあるんですよね。

三浦大輔監督とは、監督と役者の関係ではあるんですけど、もっと「戦友」みたいなところがあります。

—なるほど。それプラス、舞台と同じく三浦大輔さんが演出する点も、大きな決め手になったのでは?

松坂:そうですね。さっき言ったように、僕も三浦さんも、舞台が終わったあとは完全に燃え尽きた感じになっていて。今回の映画化の話が出たのが、その舞台が終わった直後だったんですよ。なので、一回ちょっと二人で飲みに行って、確認作業をしたんです。「映画、やるよね?」って。

—燃え尽きてはいたけど、その火種みたいなものは残っていた?

松坂:その火種すら消えちゃっていたんですけど、その火を起こす作業から、もう一度やってみようかって。舞台は役者のもので、映画は監督のものみたいな言い方をするじゃないですか。でも、今回の映画に関しては、それを50%ずつでやっていこうっていう話は、そのときに三浦さんともしていて。この作品で何かあったから、僕の責任でもあるし、三浦さんの責任でもあると(笑)。

松坂桃李

—三浦監督のコメントなどを見ると、お二人の関係性は、ほかの監督と主演俳優の関係とは、ちょっと違うような……ある種、役割分担がはっきりしていますね。

松坂:もちろん、監督と役者という関係性ではあるんですけど、もっと「戦友」みたいなところがありますね。

—三浦監督が、普段は切らない絵コンテを、しかもセックスシーンの絵コンテを、かなり綿密に作っていたと聞いています。

松坂:作ってましたね(笑)。舞台のときは、臨場感をメインに作っていて。客席の真ん中にせり出した舞台にベッドを置いて、次々と行われる行為を、ほとんど全ての角度から見られるようにしたんです。でも、映画の場合は、肉体同士のコミュニケーションをより繊細に見せていくことを意識していたみたいなんですよね。

—なるほど。動きから何から、かなり細かく設定されていました?

松坂:そうですね。そこは二人で一緒に飲みに行ったときから、あらかじめ言われていたんですけど。「映画はハードル上げて演出するんで」って。「マジかよ」って思いましたけど(笑)。

映画『娼年』ポスタービジュアル /  ©石田衣良/集英社 2017映画『娼年』製作委員会
映画『娼年』ポスタービジュアル(サイトを見る) / ©石田衣良/集英社 2017映画『娼年』製作委員会

いまの時代って、性の話から、どんどん遠く離れていっている気がするんです。

—ただ、いわゆる「役作り」は、かなり松坂さんにお任せの部分もあったんじゃないですか? この「リョウ」という主人公は、どこか松坂さん自身と遠くない役どころなのかなって思って……。

松坂:おっしゃる意味はわかります。もちろん、カテゴリーは違うんですけど……この『娼年』の主人公リョウは、いろいろな女性と出会うことで変わって、成長していくわけですよね。最初は普通の大学生だったにもかかわらず、あるきっかけから娼夫になり、そこでいろんな女性と関係を持つ過程で、徐々にその海のような深さを知り、女性に興味を持ち始めるっていう話じゃないですか。

(左上段から右下段へ)『娼年』で松坂桃李と関係を持つ女性役を演じる佐々木心音、桜井ユキ、馬渕英里何、荻野友里、江波杏子、大谷麻衣 / ©石田衣良/集英社 2017映画『娼年』製作委員会
(左上段から右下段へ)『娼年』で松坂桃李と関係を持つ女性役を演じる佐々木心音、桜井ユキ、馬渕英里何、荻野友里、江波杏子、大谷麻衣 / ©石田衣良/集英社 2017映画『娼年』製作委員会

松坂:この『娼年』という物語に登場する「女性」を「映画」と見立てるのであれば、僕自身、いろいろな作品と出会うことによって、興味を持ったり、何かを学んだりするわけです。そういう意味で、共感する部分はたしかにありましたね。

—「リョウ」もそうですが、松坂さん自身も、喜怒哀楽をあまり表に出すタイプではないですよね?

松坂:そうですね。よく言われます(笑)。

—にこやかに笑っているんだけど、その内側では何を考えているかわからない。そういうところが、実は「リョウ」と似ているというか……ただ、「リョウ」も松坂さんも、何かを拒絶することは絶対にしない。

松坂:僕はともかくとして、リョウは戸惑いながらも、ちゃんと受け入れようとしますよね。多少ひるんだりはしますけど、絶対に目を逸らさない。

松坂桃李

—理解できないものを拒絶するのではなく、ちゃんとそれを見据えて理解しようとしますね。

松坂:たしかに、そうなんですよね。そのバランスをすごい気にしながら作っていたので。フランス映画のような色気のある雰囲気も出しつつ、生々しくならないようにバランスを保ちたいっていう狙いが、三浦さんの中にはあって。それをひとつのポイントとして、カメラワークやライティングを工夫していました。

それによって、いまおっしゃっていただいた「不寛容に対する寛容性」のような、この作品が現代社会に持つメッセージ性みたいなものが、より伝わりやすくなったと思います。たしかに刺激的なシーンは多いんですけど、開始15分ぐらいで、だんだん脳内が麻痺してくるじゃないですか(笑)。

松坂桃李

—たしかにそうですね。

松坂:脳内が麻痺してからが、この作品の本当のスタートなんですよね。そこで、現代社会に通じるこの作品のメッセージが伝わると思うので。特にいまの時代、こういう「性」にまつわる繊細な話って、ちょっとしにくいじゃないですか。

—そうですね。でも、かなり重要な人間同士の営みのはずです。

松坂:そうなんですよ。いまの時代って、そういう性の話から、どんどん遠く離れていって、自分の中にある柔らかいものを必要以上に守ろうとする傾向が強まっている気がするんですよね。だからこそ、この作品を見ることによって、そのハードルを、1つか2つでも下げられたらいいなと、僕も思っていて。この映画を見たあとだったら、そういう話もしやすいと思うんですよね。

『娼年』場面写真 /  ©石田衣良/集英社 2017映画『娼年』製作委員会
『娼年』場面写真 / ©石田衣良/集英社 2017映画『娼年』製作委員会

—そうかもしれません。

松坂:自分の繊細で、柔らかい部分を……それは別に、自分の性癖とかじゃなくても、コンプレックスだったり、抱えている悩みだったりも、この映画を見たあとなら、意外とポロッと話せるんじゃないかなって思っていて。「自分がただ単に、鎧をたくさん着ているだけなのかもしれないな」とか、何かそうやって気持ちを軽くしてくれるような……そういう意味で、僕はこの作品は、やさしい映画なんじゃないかと思っているんですよね。

年齢を重ねていくと、出会いよりも再会のほうが、多くなっていくと思うんです。

—それもやっぱり、主演が松坂さんだからこそ、という感じがするのですが……松坂さんって何でも「受け入れる人」ですよね?

松坂:どうなんでしょうね(笑)。でも、そう言われるのは、すごく嬉しいです。役者という仕事に関して、自分の知らないことがまだまだ多いので。いろいろなことに興味が湧くことによって、それを楽しめるような人でありたいし、そのほうがきっと役者としても得だと思うんですよね。

—松坂さん自身、自分から何が出てくるのか楽しみにしているところもあるんじゃないですか?

松坂:それはありますよね。監督によって、自分から出てくるものが全然違いますし、その現場の印象だったり、役の印象によって、どんな自分が出てくるのか楽しみなところはあるので。あとやっぱり、いまの段階では、監督さんにしても役者にしても、まだまだ出会ってない人のほうが圧倒的に多いと思うんですよ。

だから、その出会いのアンテナは常に広く持っていたいと思っていて……そして、今後年齢を重ねていくと、出会いよりも再会のほうが、多くなっていくと思うんです。そのときに、やっぱりいい再会をしたいと思っています。

松坂桃李

リリース情報
『娼年』

2018年4月6日(金)からTOHOシネマズ新宿ほか全国公開

監督・脚本:三浦大輔
原作:石田衣良『娼年』(集英社文庫)
出演:
松坂桃李
真飛聖
冨手麻妙
猪塚健太
桜井ユキ
小柳友
馬渕英里何
荻野友里
佐々木心音
大谷麻衣
階戸瑠李
西岡德馬
江波杏子
配給:ファントム・フィルム

プロフィール
松坂桃李 (まつざか とおり)

モデル・俳優。1988年10月17日生まれ、神奈川県出身。A型。2008年、男性ファッション誌『FINEBOYS』の専属モデルオーディションでグランプリを獲得し、モデルとしてデビュー。2009年10月、テレビ朝日系特撮『侍戦隊シンケンジャー』で、シンケンレッド/志葉丈瑠役で主演を務める。以降、テレビドラマ『ゆとりですがなにか』(2016年)や舞台『娼年』(2016年)、『彼女がその名を知らない鳥たち』(2017年)などに出演。



フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Movie,Drama
  • 松坂桃李が語る、好青年なパブリックイメージを乗り越える道のり

Special Feature

Habitable World──これからの「文化的な生活」

気候変動や環境破壊の進行によって、人間の暮らしや生態系が脅威に晒されているなか、これからの「文化的な生活」のあり方とはどういうものなのだろうか?
すでに行動している人々に学びながら、これからの暮らしを考える。

記事一覧へ

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて