資生堂CMを手がけた小島淳二が映画に初挑戦。その理由とは?

デジタル編集のエディターとしてキャリアをスタートさせながら、その後ディレクターに転向し、資生堂、HONDA、ユニクロ、ANA(全日空)など数々のテレビCMを手掛けてきた小島淳二。YUKI、KIRINJI、L'Arc~en~Cielなど、さまざまなアーティストのミュージックビデオ監督としても知られる彼が、満を持して初の長編映画『形のない骨』を撮り上げた。

その内容は、これまでの彼の映像作品とは、ある意味真逆と言ってもいい、ドキュメンタリータッチのヒューマンドラマとなっている。次第に追い詰められていくひとりの女性の人生を通じて、人間の優しさとは何かを問いかける本作。これまで女性の華やかな美しさを描いてきた彼は、なぜいま、自身初となる長編映画監督作で、ひとりの女性の「生」に迫ろうとするのか。その思いを、小島監督に尋ねた。

自分にとって大きかったのは、資生堂の「金のTSUBAKI」のCMをやったことです。

—小島監督は、長年テレビCMの仕事をメインにやられてきたんですよね。

小島:そうですね。基本的な仕事としてはCMの演出、ディレクションをやってきました。

小島淳二
小島淳二

—その中でも資生堂のTSUBAKI(ツバキ)やMAQuillAGE(マキアージュ)のCMがとりわけ有名で、女性の美しさを撮ることについては定評があり、「女性美の魔術師」の異名がありますね。

小島:魔術師でも何でもないんですけどね(笑)。30歳ぐらいからCMディレクターとしての仕事がくるようになったんですけど、だんだんとビューティー関連のCMの仕事が増えていって、主にやるようになったのは事実です。

自分としては、もうちょっと笑えるような面白いCMとかもやってみたかったのですが、自分がやりたいことと得意なものって、必ずしも一致しないじゃないですか。なので、いつの間にかビューティー関連の仕事が多くなっていったという感じなんですよね。

もちろん、そこで最大限自分の力を発揮できるよう努力しようとしています。たとえば「起用する女優さんをいままででいちばん綺麗に撮ろう」とか、そういったところに仕事のポイントがあったのかなって。

小島淳二

—CMの仕事で、特に印象に残っている仕事はありますか?

小島:自分にとって大きかったのは、2010年に、資生堂 TSUBAKI「金のTSUBAKI誕生」というCMをやったことです。それは蒼井優さん、鈴木京香さん、竹内結子さん、仲間由紀恵さん、広末涼子さん、観月ありささんの6人が出演する、非常に豪華なもので、そのスケール感がすごかったんですよね。

「地球の大地からいろんなエネルギーを感じ取る」みたいなコンセプトで、すごい過酷なところへロケーションに行ったんです。たとえば観月ありささんが、グランドキャニオンの先っぽに立っていたり。

小島淳二が手がけた資生堂 TSUBAKI 「金のTSUBAKI誕生」の場面写真 / ©資生堂
小島淳二が手がけた資生堂 TSUBAKI 「金のTSUBAKI誕生」の場面写真 / ©資生堂

—そのCM、とても印象に残ってます。

小島:あれは大貫卓也さん(アートディレクター、多摩美術大学教授)がクリエイティブディレクターを担当していたんですよ。僕の役割としては、大貫さんの世界観をどう映像によって具現化するかみたいな仕事だったんですけど、そのこだわりの細かさと、スケールの大きさに圧倒されたんですね。膨大な予算を掛けて、美しいビジュアルを撮るということの集大成のようなところがありました。

小島淳二が手がけた資生堂 TSUBAKI 「金のTSUBAKI誕生」の場面写真 / ©資生堂
小島淳二が手がけた資生堂 TSUBAKI 「金のTSUBAKI誕生」の場面写真 / ©資生堂

小島:ただ、その頃を境に、圧倒的なビジュアルとか音楽の力で商品が動くような時代ではなくなりましたね。最近のCMは、過去にうまくいった例をちょっと変えたものをやったりとか、企業も冒険したがらないのですごく無難なところに収まることが多くなったような気がするんです。

結局、自分の仕事は「この水を美味しそうに見せる」とか、「この化粧品を使うと肌の調子がよくなりそうに見せる」とか、企業から求められた条件で映像によってきっちり上手に見せる、職人みたいなものなんですよね。

小島淳二

—その一方で、NHK連続テレビ小説『わろてんか』(2017年10月~2018年3月放送)のオープニング映像をはじめとした、CGやデジタルを用いた仕事や、ラーメンズの小林賢太郎さんと「NAMIKIBASHI」というユニットを組んで、シュールなコメディー映像も撮られていますね。

小島:そうですね。ビューティー系にいく前は、どちらかというと、デジタルを用いた仕事が多くて、その技術を使って、かなり早い段階からミュージックビデオなどもやっていたんです。

小島淳二が手がけたKIRINJI(当時キリンジ)の“TREKKING SONG”

小島:小林くんとは不思議な縁で出会って、意気投合しました。で、じゃあ一緒に何かできないかなって、お互いに企画を持ち寄ったりしているうちに、『THE JAPANESE TRADITION~日本の形~』(2006年)ができあがって、作ってみたら、すごく評判がよかった。

小島淳二と小林賢太郎さんのユニット「NAMIKIBASHI」によるコメディー映像『箸』

映像を使って向き合えるものは何だろうって思ったとき、その根底にはやっぱり映画があったんですよね。

—これまで各方面の映像作品で活躍されてきた小島監督が、長編映画に初めて挑んだ理由は何なのでしょう?

小島:広告の仕事やミュージックビデオ、コント映像も面白いんですけど、ここから先、自分が映像というメディアを使って向き合えるものは何だろうって思ったときに、その根底にはやっぱり映画があったんですよね。なので10年ぐらい前から、「いつか映画を撮ろう」と決意していて。やっぱり、広告の仕事は条件が決められた中で、自分だったら何ができるかを、毎回考える仕事なわけじゃないですか。

小島淳二

—「お題」を与えられて、映像のアイデアを練る仕事ですよね。

小島:そうですね。その「お題」について、いろいろ考えた結果を、映像として提出する。ただ、今回の映画『形のない骨』に関しては、誰かの発注を受けて作ったものではないんですよね。自分の映像のアプローチがどういうものかをゼロから考えた結果、出てきたものなので。

だから、自分の中のいちばん奥底にある部分を表現したものになっているんです。それは何かと言うと、「自分と他人との関わり」であって……それを、自分に対する問い掛けみたいな形として、この映画を作っていったんですよね。

『形のない骨』場面写真 / ©teevee graphics,inc
『形のない骨』場面写真 / ©teevee graphics,inc

—これまでの広告とは違うアプローチができるんですね。

小島:あと、CMディレクターの業界って、40代がピークで、50歳を超えると急激に仕事が減っていきます。早い人は30歳ぐらいでCMディレクターとしてブレイクして、もう何でもかんでも仕事が来るようになって、40代まではそれが続くんです。ただ、まわりのクリエイティブなスタッフや代理店の人間も段々と若くなっていくので、あまり言うことをきかない50代の監督より若い監督のほうが選ばれやすくなっていく。

もちろん、その道のスペシャリストたちは残っていくんですけど、そういう意味ではシビアな世界なんです。それもあって、自分の映像表現といま一度、向き合ってみたかったんですよね。

現実はCMのようにきらびやかな世界だけじゃないだろうっていう思いがあったのかもしれないです。

—贋作の絵画を作って売る夫とともに地方都市で暮らす主人公・良子を描いた『形のない骨』。これは、これまでの小島監督のCM作品とはかなりテイストが異って、リアリズムが特徴のヒューマンドラマになっていますね。なぜあえて異なる方向性で映画を撮ろうと思ったのですか?

小島:若い頃は僕もやっぱりデヴィッド・リンチ(多くのカルト作品で知られるアメリカの映画監督)のような、画面がカッコよくて音楽もカッコいいスタイリッシュな映画に憧れていました。でも、そこからいろいろな映画を見ていくうちに、映画が本来持つ深さに気づくようになって。そこからヨーロッパの監督の作品とかを見て、そういう「リアリズム」に映画の可能性を見出したんです。

 

—具体的には、どういったヨーロッパの監督になるのでしょう?

小島:いちばん影響を受けているのは、ダルデンヌ兄弟(ジャン=ピエールとリュックの兄弟からなる、ベルギー出身の映画監督)ですね。彼らの映画に特有の、主人公のすぐそばにカメラが張り付いて、その人の吐息とか感情とかをずーっとカメラがそばで見ていく中で物語を進めていくスタイルが、自分にはすごくピッタリきたんですよね。彼らが持っているリアリティーというか、登場人物たちがすごく身近に感じられるようなものが、自分が撮りたいものに近いのかなって思いました。

『形のない骨』場面写真 / ©teevee graphics,inc
『形のない骨』場面写真 / ©teevee graphics,inc

—そういったリアリズム志向は、これまで監督が撮られてきたCMなどと裏表の関係にあるのでしょうか? それとも、両者はどこかで繋がっているのでしょうか?

小島:どうなんでしょうね……CMというのはやはり、華やかな部分、綺麗なところをより際立たせるのが使命だと思うんです。ただ、現実にはやっぱりそうではない生々しい部分もあるというか、そんなにきらびやかな世界だけじゃないだろうっていう思いがあったのかもしれないです。だったら、そっちの生々しい部分を自分の映画では描いてみたいなって。だから、「CMではできなかったことをやりたい」という思いはあるのかもしれないですね。

小島淳二

—いま仰られた「生々しさ」の部分とも関連するのかもしれませんが、この映画を撮るにあたって監督はまず、俳優と演技に関するワークショップを行ったそうですね。それはどういう狙いだったのでしょう?

小島:長い時間を掛けて、役者とじっくり向き合ってみたかったんですよね。僕自身、CMやミュージックビデオとは違う、人間の感情を長い時間で見せるお芝居に対する演出の経験値が低かったので、「お芝居とはいったい何なんだろう?」と、役者と一緒に考えたいと思ったんです。

—かなり念入りに役者の演技に対する準備をしていったわけですね。その際、小島監督は、この映画をどういった映画であると役者の方々に説明されたのですか?

小島:この映画でいちばん伝えたい部分はあえて言わず、登場人物たちの関係性や、それぞれのバックグランドを細かく伝えました。この人はどんなところで生まれて、どんな学校に通って、兄弟は仲がよかったとか、そういうものを細かく書いて、それぞれに渡して。物語がどうこう以前に、まずはその人物を、自分の中で咀嚼してくださいという部分から始めていったんですよね。

—劇中ではあえて説明されないディテールの部分を、まずは役者に落とし込んでいったんですね。

小島:そうですね。そのあと、人物たちがいま置かれている状況を説明しました。彼女たちの暮らしは、関係の希薄化など、現代の社会を反映したものになっていて、ちょっとした言葉の行き違いから、彼女たちがいろんなことに巻き込まれていく物語です。「こういうことって、日常でもあるのではないだろうか?」みたいな思いから制作を始めていったと思います。

『形のない骨』場面写真 / ©teevee graphics,inc
『形のない骨』場面写真 / ©teevee graphics,inc

最終的に、目の前に本当に困った人がいたときに、それを助けるのは女の人なんじゃないかと考えているんです。

—主人公「良子」のディテールは、どうなんでしょう?

小島:主人公の良子と彼女の旦那は、1970年代、1980年代のポップカルチャーを浴びながら青春期を過ごしてきた夫婦なんですよね。そういうものにすごく影響されてきたから、リアルな生活よりもカルチャーのほうが大事っていう。

だから、物やファッション、カッコいい生活をすごく大事にしているところがある。ただ、彼女らは年齢的にも時代的にも、それではうまくやっていけないところがあって。時代の価値観が大きく変わっていく中で、取り残されたような人たちなんですよね。

『形のない骨』主人公の良子/ ©teevee graphics,inc
『形のない骨』主人公の良子/ ©teevee graphics,inc

—それは小島監督自身の経験が反映されているんですね?

小島:そうですね。自分が佐賀で過ごした頃は、パンクロックだったり、YMOに代表されるテクノの世界、あるいはグラフィックの広告とかを、雑誌などのメディアで知って、すごい憧れを抱いていたんですよね。

ただ、自分の周囲を見ると、地方ならではの古いしきたりとか、守るものを持った大人たちに囲まれていて、その人たちとのギャップっていうのもやっぱりすごくあったんです。なので、そうした摩擦が、この映画の根底にあるんですよね。

『形のない骨』場面写真 / ©teevee graphics,inc
『形のない骨』場面写真 / ©teevee graphics,inc

—ただ、どこか大人になり切れない良子を、監督は突き放すことなく見つめていますよね。

小島:自分の本質的な部分で、女性の「母性」みたいなところを信じているのかもしれないです。最終的に、目の前に本当に困った人がいたときに、それを助けるのは女の人なんじゃないかと考えているんです。結局、争いごとをいろいろ起こしてるのは男性であって、女性はそれに巻き込まれているだけだと思っているんですよね。

もちろん、良子には浅はかなところだったり、現実的過ぎるところもあるとは思うんです。でも、その根底には母性愛みたいなものがあるんじゃないかと思います。それをどこかで信じているのかもしれません。

 

—彼女を取り巻く状況は、精神的にも経済的にも非常に厳しいものになっていきますが、そこをあえて見つめようというのは、是枝裕和監督の『万引き家族』(2018年)をはじめ、ある種の時代性を反映しているところもあるのでしょうか?

小島:そうかもしれないですね。たとえばSNSひとつとってみても、みんな華やかで、見てもらいたいことしか書かないじゃないですか。Instagramでも、「こんなに美味しいものを食べました」とか「こんなに美しい場所に行きました」とか、そういうことばっかりをアップしている。だから結局、その裏側にある生々しい部分がいまの時代、全然見えなくなってしまっているような気がするんですよね。

華やかな部分だけではないから、それはちょっと危険なんじゃないのって感じますよね。それぞれが持っている生々しい部分を全然気にしなくなっているんじゃないでしょうか。そこに何かひずみのようなものを感じているんです。

『形のない骨』場面写真 / ©teevee graphics,inc
『形のない骨』場面写真 / ©teevee graphics,inc

小島:CMに関しても、どんどんどこか嘘っぽくなってきている気がします。リアルに使った人の感想が書かれたSNSの口コミのほうが、CMよりもよっぽど伝わっていくのは、それも一因かもしれません。その2つの関係性が、ここ何年かでガラッと変わったような感覚があるんです。

小島淳二

—これまでのCMなどと比べて、そうした小島監督のいまの社会に対する考えが色濃く出せるのが映画だったんでしょうね。

小島:そうですね。今回の『形のない骨』という映画は、「仕事」ではなく、あくまでも自分の「表現」になっていると思います。CMと違って、必ずしもわかりやすいものではないかもしれませんが、これはこれとして、多くの人に受け止めてもらえたらうれしいですね。

『形のない骨』ポスター『形のない骨』ポスター(サイトを見る

リリース情報
『形のない骨』

2018年7月28日(土)からユーロスペースほか全国で順次公開

監督・脚本:小島淳二
出演:
安東清子
高田紀子
田中準也
熊谷太志
杉尾夢
ジョーイシカワ
渡邊ちえ
上映時間:104分
配給:エレファントハウス

プロフィール
小島淳二 (こじま じゅんじ)

1966年6月12日生まれ。佐賀県出身。文教大学教育学部美術科卒。1989年よりデジタル編集のエディターとして活躍後、ディレクターに転向する。資生堂、Honda、ユニクロ、全日空などのTVCM、ミュージックビデオ、ブロードキャストデザインなどジャンルを越えて多くの印象的な映像作品を輩出している。海外のクライントからのオファーも多い。また、映像作家としてオリジナルショートフィルムの制作にも積極的に取り組み、その作品は『RESFEST』(USA)や『onedotzero』(UK)など海外の映画祭でも注目を集めている。『Jam Films 2』の1本として劇場公開された『机上の空論』では、『RESFEST2003』にて「AUDIENCE CHOICE AWARD」を受賞。『第57回ベルリン国際映画祭』の「短編コンペティション」部門に『THE JAPANESE TRADITION ~謝罪~』が出品された。部門への日本作品の出品は31年ぶりとなる。

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