青柳文子が映画『ある少年の告白』で思い出した、母との絆

自分の子どもがLGBTQである可能性は当然ある。それはまったく不思議なことではない。しかしアメリカ合衆国には、子どもの性的指向やジェンダーアイデンティティーを親が治療によって変更させようとする「矯正治療(コンバージョンセラピー)」というものがある。

4月19日から公開の映画『ある少年の告白』は、実際にこの矯正治療を経験したガラルド・コンリーが記した回想録を原作としている。自分が同性愛者だと気づいた少年ジャレッドが、その事実を敬虔なキリスト教徒である両親に打ち明けたところ、受け入れてもらえずに同性愛矯正セラピーへの参加を勧められる。それがきっかけとなり、ジャレッドの家族の絆は危機を迎えるが……。

今回、この作品を2児の母でもある青柳文子に鑑賞してもらった。家族を持ち、子育の最中である彼女は、親子の物語からなにを感じたのだろうか?

反抗的な子どもなのに常に味方でいてくれた母に、すごく愛を感じましたね。

—映画をご覧になってみていかがでしたか?

青柳:架空の設定かと思ったら、実際の出来事を映画にしているんですね。「2000年代にこんなことが本当にあったのか」と驚きました。

—いまでこそLGBTQの理解が進んでいるとはいえ、アメリカでも矯正治療を禁じていない州はまだまだ多いようですね。ニューヨークですら、つい最近になって禁止する法律ができたそうです。

青柳:そうなんですね。だからこそ、こういう映画があることでいろんな理解が進むといいですよね。あと自分を取り巻く環境によって、状況は変わるんだなと思いました。それと同時に、自分にはいかに選択の自由があるのかも実感しましたね。

青柳文子(あおやぎ ふみこ)
1987年12月24日生まれ、大分県出身。モデル・女優。独創的な世界観とセンスで同世代女性の支持を集め、雑誌に、映画、TVドラマなど多方面で活躍中。昨今では、映画や旅行について、コラムを連載するほか、多彩な才能に人気を博している。
今回、青柳文子が見た映画『ある少年の告白』予告編

—本作では、「家族間での価値観の対立」がひとつのテーマになっていました。青柳さんは過去にご両親とぶつかりあうことはありましたか?

青柳:うちは母親しかいなくて、しかも仲がいいからあんまりそういうことを経験したことがないんですよね。最初は注意されるんですけど、最後には必ず味方になってくれますし。中学生のときに学校が嫌で嫌でたまらない時期があったんですけど、「転校したい」とお願いしたらそれも許してくれて。

—転校したのはいつでしたか?

青柳:中学3年の梅雨前くらいからですね。北海道に農村留学ができる施設があることを知って。2学期から行こうと思ってたんですが、見学に行ったら「北海道の夏は体験しないとダメ!」って施設の方にゴリ押しされたんです。それで急遽、1週間後に転校して。親も心の準備が追いつかないながらも見送ってくれて、初めて母と離れ離れに。

—そのまま北海道で高校に進学したんですか?

青柳:いえ、地元に戻りました。でも、私選んだ高校は私立で今度はゆるすぎて、友だちもみんな学校に来たり来なかったりで面白くないし、お昼から学校に行ったり、テストで寝てたりしていたら進級できなくなりそうになったこともありました。

—また嫌になってしまったんですね。

青柳:はみ出しがちな人生なんですよ(笑)。先生からは「学校に来る気はあるのか? 退学するのか、続けるのかはっきりしろ」って怒られたこともありました。

あと、テスト中に携帯電話が鳴ってしまって謹慎処分になったことがあったんです。親子共々たっぷり絞られてから一緒に帰ることになったんですけど、「ふみちゃん、湯布院でランチでもしていく?」って明るいトーンで励ましてくれて。こんな問題児なのに常に味方でいてくれたことにすごく愛を感じましたね。「この母、やるな!」って。だから、私も常に子どもの味方でありたいなと思いました。

—青柳さんは中学、高校ともに馴染めなかったんですね。

青柳:家での生活が自由だった分、学校で抑え込まれたのが本当に嫌だったんだと思います。私の両親は1970年代、カリフォルニアに9年くらい住んでヒッピー文化の中で過ごしていた人たちなので、私を抑圧することが本当に少なくて。それに人って強制されればされるほど、反抗したくなるんですよね。だから、自分の子どもにはそうしたくないなと思って育てています。バランスが難しくて、ちょっと伸び伸びさせすぎかなとも思っているんですけど(笑)。

ニコール・キッドマンが自分の間違いに気づいた場面で、自分の母親の優しさを思い出して泣きました。

—青柳さんの子育ての理想は自身のお母さんですか?

青柳:特に子育てについてなにか聞くことはないんですけど、自然とそうなっていますね。うちはおばあちゃんが「自分の子は自分で育てなさい」っていう厳しい人で、母は子育てを一切手伝ってもらえなかったらしいんです。それで苦労したからって、私の子育てに関してはすごく気にかけてくれていて、すごく助かっています。でも、そのありがたみを当たり前に感じてはいけないと思っていて。

—青柳さん自身は学校に行かなかったこともありましたが、お子さんが青柳さんと同じような境遇になったときは受け止めていきたいと思いますか?

青柳:うちの母は「学校なんか行かなくていいよ。それよりも大事なことがある」って明るく言っていたので、自分もそういう心構えでありたいなと思います。

―映画『ある少年の告白』のニコール・キッドマンも素敵な母親でした。

青柳:そうですね。私が最も共感したのも、ニコール・キッドマンが演じた主人公の母親ナンシーの行動でした。私自身は、主人公のジャレッドのように抑圧されていた段階は終わったので、ナンシーの境遇とすごくリンクする部分が多かったです。

あとはジャレッドが矯正セラピーで一緒になったゲイリーの賢さが印象的です。講師たちの前では、ちゃんと「治った」かのように演技している。いわゆる、頭脳でうまくその場を切り抜けるタイプですけど、この技術を身につけていたら生きやすかっただろうなって(笑)。

主人公ジャレッドの母親、ナンシー(ニコール・キッドマン)/ ©2018 UNERASED FILM, INC.
ジャレッドと一緒の矯正施設にいるゲイリー(トロイ・シヴァン)/ ©2018 UNERASED FILM, INC.

—青柳さん、鑑賞中に泣いている瞬間がありましたよね。

青柳:はい。ナンシーが自分の行動の間違いに気づいてジャレッドを守ることを宣言した場面で、うちの母親の優しさを思い出して泣きました。ジャレッドはナンシーの優しい目線がいつもそばにあったんでしょうね。相当いいお母さんですよ。それと比較してお父さんのマーシャルはすごく頑固というか、ちょっと信仰に熱を注ぎ過ぎているような。私、こんな人がパートナーだったらちょっと一生添い遂げる自信はないので、その面でもナンシーはすごいです。

両親に同性愛者であることを打ち明けた主人公のジャレッド(ルーカス・ヘッジズ)/ ©2018 UNERASED FILM, INC.

—そういう意味では、牧師であるマーシャルが同性愛者の息子と向きあうこともひとつのテーマになっていましたよね。

青柳:子どもから同性愛者であると打ち明けられたときに、どれだけ柔軟に受け止められるかが大切だと思いました。自分の信念を変えることになるわけですから。そういう意味では、子どもを理解しようと努力するマーシャルの姿には込み上げてくるものがありましたね。

息子ジャレッドの同性愛を受け止められない父親、マーシャル(ラッセル・クロウ)/ ©2018 UNERASED FILM, INC.

LGBTの人に対してフラットに見られない部分も少なからずあるからこそ、理解したい気持ちも同時に強く持っています。

—映画『ある少年の告白』では、主人公の少年が同性愛者で、それを受け入れられなかった両親の勧めで矯正セラピーに参加することになりますよね。青柳さんは受け入れる気持ちはありますか?

青柳:もちろん。将来そういう可能性もあると思って、男女どちらでもおかしくない名前をつけているんですよ。あと、私自身が性差を超越している友だちが多いんですよね。男勝りな女性が好きだし、女性っぽい観点を持ってる男性も好きだし。もはやなにが男っぽい、女っぽい、というのもわからなくなってきてる部分もあるし、対人間として接して面白い人が好きなので。

それに自分の中にも男性的な部分があるなと思います。だから、「女だからこうだ」って言われるのがすごく嫌でした。私は女性性にも男性性にも魅力を感じるので、子どもには考えに偏りのない人になってほしいなと思っています。

—青柳さんはジェンダーに対してすごくフラットに考えていそうですよね。

青柳:そうですね。高校生のときも友だちに同性愛者の子がいたんですけど、すごく明るいし、かっこいいし、人気だったんですよ。それが大きいかもしれないです。とはいうものの、私自身まだ同性愛者に対してちょっとした偏見を拭い去れてはいないと思います。

私はLGBTQには当てはまらないので、LGBTQの人たちが抱えている気持ちを完全には計り知れないんですよね。いまでこそ同性愛者の友人もいますけど、以前はレズビアンの女性に対して少し構えてしまうこともありましたし。そういうフラットに見られない気持ちがあるからこそ、理解したい気持ちも同時に強くあって。だから、サンフランシスコのゲイカルチャーが盛んなカストロ地区に行ったこともあります。それくらいで理解したような気になるつもりは全くないんですけど。

—どうしてそこまでするんですか?

青柳:偏見に捉われたくないし、彼らを理解したいし、普通に仲よくなりたいからですね。さまざまな壁を越えてきたはずなのに、それをまるでなんでもなかったことのように見せる人もいて、その姿はかっこよく見えるし、しっかりとアイデンティティーを確立していると思うので。

なんだか、教育ママになりそうな気がしています。

—子育てをしていくうえで「子どもにこうなってほしくない」という願望はありますか?

青柳:当たり前ですけど、犯罪者にはなってほしくないですよね。あとはいじめも嫌かな。私は反抗しながらいろいろ学んで価値観を築いてきたけど、子どもにはそういう経験はしてほしくないかもしれない。自由な発想でものごとを考えられる人になってほしいですね。

—青柳さんは、お子さんがいじめられるようなことがあったら、立ち向かっていきそうですよね。

青柳:そうですね。もし自分の子どもがいじめられたら、なにがあっても立ち向かっていこうと思っています。でも、親が強いと子どもが弱気になるかもしれない。強い子に育ててあげたいから、そこのさじ加減を考えないといけないなって。だから、あんまり自分が前に立つのもよくない気がしています。

—でも、すごく心配になりませんか?

青柳:なりますね。いまは小さいからいいですけど、小学生くらいになったら秘密とかも持つようになるだろうし、「悪の道に足を踏み入れてしまったらどうしよう」って思ってしまいます。そしたら、子どものことを監視したくなる気がするんです。「かわいい子には旅をさせよ」とはいうものの気になるというか。なんだか教育ママになりそうな気がしています。あんまり勉強漬けにはさせたくないと思うものの、受験させたりしちゃうんだろうな。

—私立受験はさせるつもりなんですか?

青柳:まだわからないんですけど、私の周りの友だちは私立出身の子が多くて、勉強も遊びもバランスよく楽しんでいる印象があるのでいいなって。

—現在、お子さんが2人いらっしゃいますが、子育ては同じようにしているんですか?

青柳:違いますね。1人だけのときは細かくやってたんですけど、2人になるとどうしても手のかけ方が分散する。下の子の世話をしていると上の子がずっと自己アピールしてくるんですよ。将来、承認欲求の激し過ぎる人にならないか心配してます(笑)。両方に平等に愛情表現するように心掛けたいです。

—子どもが成人したときのことも考えたりしますか?

青柳:いまはまだ具体的には考えてないですね。それにいまの時代は、未来のことが想像つかないじゃないですか。十数年後なんて、いまとはなにもかも違いそうですし。きっと私より子どものほうが賢くなっているだろうし、柔軟な思考でいろんなことをやってると思うんですよ。そういう子どもたちと一緒に遊んでいられるような関係になっていたいですね。

作品情報
『ある少年の告白』

2019年4月19日(金)からTOHO シネマズ シャンテほか全国公開
監督・脚本:ジョエル・エドガートン
原作:ガラルド・コンリー
音楽:ダニー・ベンジー、サウンダー・ジュリアンズ
出演:
ルーカス・ヘッジズ
ニコール・キッドマン
ラッセル・クロウ
ジョエル・エドガートン
グザヴィエ・ドラン
トロイ・シヴァン
上映時間:115分
配給:ビターズ・エンド/パルコ

プロフィール
青柳文子 (あおやぎ ふみこ)

1987年12月24日生まれ、大分県出身。モデル・女優。独創的な世界観とセンスで同世代女性の支持を集め、雑誌に、映画、TVドラマなど多方面で活躍中。昨今では、映画や旅行について、コラムを連載するほか、ファッション・ビューティ関連商品のプロデュースを行うなど、多彩な才能に人気を博している。



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