OAU・TOSHI-LOWが自由を掴むまで。バンドで旅した人生の証

2019年の9月14日と15日に開催された『New Acoustic Camp』。誇張でもなんでもなく、そこには人の心を自由に解き放ち、そして優しさの意味を再確認できるような桃源郷が広がっていた。TOSHI-LOWたちOAUが主催して10周年を迎えた同フェスは、当初から「壁がない」「ルールもほぼ設けない」という限りなく自由な場所をイメージして作られたものだったし、実際に、集った人々が能動的に助け合い、ルールを示さなくても自発的に考えて「自分の自由」と「他人の自由」を尊重し合う場所として開かれている。壁を壊す、自由になれる――そういう理想を掲げて多くの音楽フェスが開催されているが、大きく見れば、制限や画一化の向きが強まっていく一方なのが現実だ。しかしなぜ、この場所は本当の意味でルールのない「自由」を体現し続けられるのか。

TOSHI-LOWが、BRAHMANと並行してOAUでの活動をスタートし、元来のストイックなハードコアパンクとは真逆の穏やかなメロディをケルトフォークに乗せて歌い始めたのが15年前のこと。「ここで死んでも構わねえ」と叫びながら、生きる意味を求めてステージに立ち続ける死生観の揺れ。それが刹那的なライブに映っていたBRAHMANに対して、普遍的な歌の追求を軸にしたのがOAUの音楽である。その極端な二面性――というか、刹那的な衝動も優しさも、「矛盾」ではなく「人間として持っているもの」と受け入れて、それを余すことなく表現するための道を作ってきた歴史そのものが、OAUとしての道のりになってきたのだと思う。その過程を紐解きながら、『New Acoustic Camp』、そして人間・TOSHI-LOWの深奥を覗いた。

『New Acoustic Camp』がイメージしてきた「自由に遊ぶ」っていうことも、結局は自分の人生に対する覚悟ひとつなんだよね。

TOSHI-LOW
BRAHMAN、OAUのボーカリスト。BRAHMANは1995年に結成、これまでに6枚のアルバムをリリース。全国のライブハウスを中心に活動する中、幕張メッセでのセンターステージライブも開催。2018年2月には初の日本武道館単独公演を行った。OAUは2005年にOVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND名義でスタート。アコースティック楽器を使用した6人編成で活動を展開し、OAUが主催するキャンプフェス『New Acoustic Camp』は2019年の開催をもって10周年を迎えた。そのほか、息子へ作り続けた弁当とその手記をまとめた『鬼弁 ~強面パンクロッカーの弁当奮闘記~』を刊行するなど、活動の幅を広げている。

―まず、10周年の開催を終えられた『New Acoustic Camp』(以下、ニューアコ)。全力で楽しませていただきました。TOSHI-LOWさんにとっては、OAUとニューアコの10年はどういうものだったと振り返れますか。

TOSHI-LOW:お前、サラッと流して質問にするなよ(笑)。そこはプロとして、来年もみんながニューアコに行きたくなるような感想をビシッと言うところだろ。

―失礼しました(笑)。音楽のための場所という以上に、アーティストと人が優しくし合える距離感、人と人が思いやりを持ち合うための距離感、大人が子供を全力で愛するための距離感を大事に育てている場所だと感じて。それが心地よかったし、だからこそ音楽の楽しみ方も自由で寛容なイベントになっていると思いました。心底安らいだし、心底音楽と人が愛しくなる場所でした。

TOSHI-LOW:よし(笑)。俺としては1年1年やってきたのが10年積み重なった結果っていう感じではあるんだけど、それが今言ってくれたような場所になっているんだったら嬉しいね。ニューアコを始めた当初から「できるだけルールを作らない」「エリアの垣根をセキュリティが仕切るようなものにしない」みたいな理想があったから。で、その理想を叶えるためにどうしたらいいかと思ったら、結局、一人ひとりが気づいて行動に移してくれることが大事になってくるわけだよね。

―信頼が大事になってきますよね。

TOSHI-LOW:そう。じゃあそこで問われるのは何かって言ったら、各々の「人生に対する覚悟」だと思うんだよ。「自分で選択してここに来た」っていう覚悟があるからこそ、どうするべきか。もちろん不備があればこちらが悪いけど、天気とか、自分たちで解決できることに関しては、イベントや人のせいにしちゃいけない。そういう姿勢を徹底してきた結果が今だと思うんだよね。

『NEW ACOUSTIC CAMP 2019』の様子。「わらう、たべる、ねっころがる」をコンセプトに開催されてきた
©New Acoustic Camp

TOSHI-LOW:それは、何かが起きたら全部があなたの責任ですっていう、今のご時世的な「自己責任」とも違ってさ。怪我したやつがいれば助けるべきだし、困った人がいたら手を貸す。そうやって自分たちの責任で遊ぶから楽しいし、その楽しさのために必要なのは、ルールによる制限じゃなくて。

自分も人も選択してここに来ているんだと自覚するからこそ、誰かに「これはダメだよ」って言う前に、「こうしたほうがお互いに楽しい」っていうことをそれぞれが選ぶ――それは生き方の話としてもそうだし、人と場を共有するっていう意味でもそうだしさ。「自由に遊ぶ」っていうのも、自分が選んだことに対しての覚悟ひとつだと思う。それがニューアコっていう場所、もっと言えば俺の「自由」とか「壁がない」っていうことに対する考え方なんだよね。

―それを叶えられるのは、何より音楽で覚悟を見せ続けたTOSHI-LOWさんだからこそだと思うし、それがニューアコを理想郷として成立させていると思うんですけど。そもそも、ニューアコを始められた頃に「自由」っていうテーマがあったのはどうしてだったんですか。

TOSHI-LOW:10年くらい前から、フェスっていう場所の認知が広がって。それによって「ライブマナーとは」とか、「金さえ払えばどう楽しんだっていいじゃん」みたいな、一見正しい意見だけど了見の狭い正論を振りかざす人も増えていったでしょ。そんでフェス側も、どんどんルールを増やして制限する方向にいった。だからこそ、そういうのとは違う、もっと根本的に自由を感じられる場所を作れねえのかなっていう理想を持ったんだよね。

―日本におけるフェスがより多くの人にとってのエンターテイメントになっていった結果、単なる快適さだけを追求するルールが増えて、音楽の楽しみ方・遊び方自体も制限されるようになりましたよね。

TOSHI-LOW:そうそう。そういう制限が増えると、今度は人それぞれがお互いに対してギスギスし出すじゃん。ちょっとはみ出した人がいたら、すぐに叩いて。それは今の世の中全体に通ずる空気でもあると思うんだけどさ。各々が、自分の覚悟じゃなくてルールしか拠り所にできないっていう状況になっていってるでしょ。

そういう息苦しさを10年前の時点でちょっとずつ感じてたから。だったら自分たちで、制限や壁を一切取っ払った場所を作ればいいと思ったんだよね。ルールもほぼなくて、壁がなくて、それぞれが心から自由になれる場所。当時、周りからは「そんなの絶対無理っす」って言われたけどさ。でもそれが今、こうして形になってるわけだから。「北風と太陽」じゃないけど、強く風が吹けばみんな襟を立てる。でも、温かくて朗らかなものに照らされれば、それぞれが1枚、2枚と脱いでいく。その結果、みんなが軽やかになれて笑えたら最高じゃん。そういう理想を持ってニューアコをやってきたつもりなんだよね。

―そもそもOAUが始まった14年前(当時はOVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND)とニューアコが始まった10年前は、BRAHMANでは『THE MIDDLE WAY』と『ANTINOMY』をリリースした頃ですよね。『THE MIDDLE WAY』にしろ『ANTINOMY』にしろ、いつか死んでしまうのになぜ自分は生きているのか、というTOSHI-LOWさんの死生観の揺れが最も色濃く歌に出ている時期だったと思うんです。それで言うと、BRAHMANでは表現し切れない感情を解き放つものとして「自由」を求めていた部分もあったんですか。

TOSHI-LOW:紐解けばきっとそうなんだと思う。まさに『THE MIDDLE WAY』から『ANTINOMY』の頃が一番揺れ動いてたからね。もちろん『THE MIDDLE WAY』の前にも「いつか死んじまうのに、なぜ俺は生きてるんだろう」っていう揺れはあったし、それを表現にしてたとも思うの。ただ、その頃は自分にハマる哲学的な言葉さえあればそれだけでよかったんだけど……そこからさらに溢れるものも出てきたのが、その頃だったんだよね。

BRAHMAN『THE MIDDLE WAY』(2004年)を聴く(Apple Musicはこちら

BRAHMAN『ANTINOMY』(2008年)を聴く(Apple Musicはこちら

TOSHI-LOW
『New Acoustic Camp』のライブ終了後に、10周年を記念した花火が打ち上げられた
©New Acoustic Camp

普遍的な歌を歌ってみたいと思ったり、単純に音楽が楽しいっていう感情を表現したり……そういう場所としてOAUもニューアコも生まれたんだと思う。

―そこで溢れてきたものは、言葉にするとどういうものですか。

TOSHI-LOW:年齢的なものもあったと思うし、新しい命が生まれることによって自分以外の人の人生を見つめなきゃいけなくなったこともあった。そうなると、「今ここで死んでも構わねえよ」っていう自分の死生観を叩きつけるだけじゃ表現できないものもたくさん出てきて――その感情って、大雑把に言ったら「愛」の種類だとは思うんだけどさ。

―そうですよね。

TOSHI-LOW:だけどそれまでの俺はその感情を表現する術を知らなかったし、むしろ、その「愛」みたいなものを避け続けることでエッジの立ったものを作ってた。だけど、どうしたって生きていることへの感謝とか、目の前の人に対する肯定みたいな気持ちが出てきた時に、これはもう哲学用語で表せるものじゃないって思ったのね。今ここで死に切ってやると思い続けてきた自分からすれば、「愛」とか「感謝」とか「命の肯定」みたいなものは矛盾だと思ってたのに、それをちゃんと受け取らなくちゃいけなくなったその始まりが『ANTINOMY』の頃だったんだよね。

―いつか死んでしまうからこそ今一瞬でも生きる意味を見つけ出そう、ともがき続けるのがBRAHMANの音楽とライブの本質でしたよね。だけどそれとは一見真逆の、生きていくことや愛することという視点が人生の中に生まれていったと。

TOSHI-LOW:もちろんハードでエッジの立ったパンクっていうのが自分の一番の表現なのは今も変わらないんだけど――本来パンクだけが好きだったわけじゃないし、「いちバンドマン」である前に「いち音楽ファン」でもあったわけで。俺も、子供たちが歌を歌って楽しんでいるのと同じように歌を歌っていた子供だったしさ。だけどその歌にいろんな意味をつけて自分の人生論を込めていった時に、「パンクでなきゃいけない」「ストイックさがなくてはいけない」っていうものが生まれていったんだけど。

―揺れ動くからこそ個として強くあらねばならない、という気持ちがパンクに共鳴してきたとも言えますよね。

TOSHI-LOW:でもさ、「こうあらねばならない」っていうのは、それはそれで自分を苦しめるんだよね。いつでも渇いてなきゃいけない、いつでも孤独でいなくちゃいけない――「清貧の思想」みたいなものを持ってなきゃダメだ、みたいな。それは生き様としてならいいけど、それが目的になるのは全然違う話で。

まあ、そう考えると最初から破綻してんだけどね(笑)。CD出したらオリコン入って、デカいステージでライブやって、っていうこと自体が。最初から「清貧の思想」みたいなストイックさは成立してねえわけよ。

―はい(笑)。

TOSHI-LOW:でもその時はまだ、デカくなっていく状況に対して隠れたり潜ったりするだけで避けられたんだよ。アーティスト性を守りたい、だから潜って喋らない。それによって信憑性を保つ――「俺は表に出られる人間だけど、敢えて出ない」っていうことで自分を調整してた。もしくは歌詞の世界でも、「自分はクソだ」って歌って自分を汚すことで、「自分は有名だ」みたいな驕りを殺そうとしてたんだよね。

―自己嫌悪の歌で傲慢さを帳消しにするというか。

TOSHI-LOW:そう。それが20代の自分だったと思うんだけど。でもそれが終わって30代になって。もっと大きな意味での死生観や赦しみたいな感情を持たないといけなくなったんだよね。どんなに隠そうとしたって、持ってるものはバレるじゃん。だからこそ、心を丁寧に紡ぐっていう意味で普遍的な歌を歌ってみたいと思ったり、ただ潜るだけじゃなくて単純に音楽が楽しいっていう感情を表現したり……そういう場所としてOAUも生まれたんだろうし、自由になりたくてニューアコを作ったんだろうし。……今思えばだけど、そこは全部繋がってるよね。

『FOLLOW THE DREAM』(2014)収録

善悪とか現実とかじゃない、純粋な優しさみたいなもの。そういう理想を追い求めたいっていうのはずっとあるから。

―OAUのメロディにもニューアコにも通ずるのは、子供に対して開かれている優しさだと思ったんですね。それは解釈してみると、死に切るという感情ではなく、生きていくという未来への想いを託そうとする視点だと思ったんです。そう言われてみると、どう思いますか。

TOSHI-LOW:それは別に、「子供に優しくしよう」っていう気持ちではなくて。もっと単純で、子供たちの前で下劣なマナー違反する? 子供たちの前で我を忘れて罵り合う? そんなことしないほうがいいってわかるよね。じゃあ、それと同じ気持ちを持って大人同士も接すればいいんじゃない? っていう考え方なんだよ。

俺が生きることや命を肯定していったのと同じように、誰もが、自分を肯定して愛してくれた人を覚えてるはずで。もし自分にそういう人がいなかったなら、今度は自分が子供たちや周りの人に優しくすればいいじゃん。そうやって繋いでいくことが未来だから。「シャボン玉を追いかけてるだけで楽しかった」「みんなが優しくしてくれた」っていう2日間が頭のどこかにでも残れば、その記憶がその子たちの優しさになって繋がっていくと思うんだよね。善悪とか現実とかじゃない、純粋な優しさみたいなもの。そういう理想を追い求めたいっていうのはずっとあるから。

『NEW ACOUSTIC CAMP 2019』の様子
©New Acoustic Camp

―それに、自由っていう絵空事みたいなものを追い求めるほど、童心ほどそれを体現しているものはないって気づいていきますよね。

TOSHI-LOW:そうだね。俺は、小学校低学年くらいの子供が決めることが、世界にとっての「いいこと」だと思ってるの。「殺し合いしてもいいと思う?」とか、「災害がきたら、どうしたらいいと思う?」って子供に訊いてみたらいい。「みんなで助け合えばいいと思う」「食べ物を持って行ったらいいと思う」って答えるよ。だけど大人は違うじゃん。「あそこの地域は助けに行くのが大変だ」「自己責任だ」「助けるなんて、そんなの偽善だ」……とにかく理由をつけるでしょう。

でも、子供たちに「戦争してもいいんですか?」って訊いてみたらいいんだよ。自分たちの世界の未来の理想や答えは、あの子たちが全部知ってる。それを大人のほうが知って、取り戻すべきだと思うんだよね。

小学校の音楽の時間で「楽しいな」って感じてた童謡的なものにも繋がる、原始的な音楽の気持ちよさ。それをOAUに求めてきた。

―突飛な質問ですけど、TOSHI-LOWさん自身も、自分の中のTOSHI-LOW少年と語り合うような感覚はあるんですか。

TOSHI-LOW:ああ、あるね。ずっとあると思う。

―それは、何を照らし合わせるように会話するんですか。

TOSHI-LOW:たとえば売るものを作るにしても、会社を作るにしても、それがいいのか悪いのかの判断は自分の中の子供の部分に聞いてるんだろうなって思う。それこそ自分が歌ってきたことも、子供の俺が「なんでこうなるの?」って訊いてきてるような感じだったんじゃねえかと思うし。「死んでしまうのはなんで?」「生きてるのはなんで?」って……子供ってさ、すぐに「なんで?」って訊いてくるじゃん。そういう子供が俺の中にもずっといて。そいつに「なんでそんなに迷ってるの?」って言われ続けてきた気もするし、だからこそ「もっと強くなりたい」と思い続けてきたんだろうしさ。

―なんでこんなことを訊いたかというと、今作『OAU』の風通しのよさとポップネスの中には、児童歌や合唱歌に近いものがあると感じたからで。子供を象徴にして語っていただいたニューアコのビジョンとOAUで目指されてきた普遍的な歌の在り方が、10年かけて合致している感じがしたんです。

TOSHI-LOW:たしかに明確にはなってるよね。そもそも流行とは違う、自分から溢れ出てきた歌と音楽の普遍性を追求してみたいっていう気持ちからOAUは始まってるし、だからこそ、何年に1度アルバムを出して、ツアーをこまめにやって、っていうのとは全然違うところにある音楽の喜びとか心地よさを求めてきたんだよね。そういう意味でも、時間がかかることはわかってたんだけど。

―人生のリズムに寄り添う形での音楽の在り方を追求してきたし、だからこそ時間がかかった。

TOSHI-LOW:そう。で、そうやって音楽の原始的な普遍性を考えていくと、俺らが小学校の音楽の時間で「楽しいな」って感じてた童謡的なものにもきっと繋がるんだろうし、日本的な郷愁を感じる歌の中にも、人を選ばない強度があるのかもしれないし。そういう意味で、OAUでやりたかったことが明確な形になったよね。ポピュラリティを得たいというより、なんか知らないけど口ずさんでしまうような旋律のよさとか、楽しさとか。

SpotifyでOAU『OAU』(2019年)を聴く(Apple Musicはこちら

―ただ、愛のアルバムですね、誰の生活にも寄り添う楽しいアルバムですね、っていうひと言で終われる作品ではなくて。

TOSHI-LOW:そうだよね。そんな感想で終わられたら俺も嫌だしさ(笑)。

―(笑)。これもまたTOSHI-LOWさんが持ち合わせてきたものだと思うんですが、生きていくことに寄り添う歌であると同時に、生きていけばやっぱり人は死ぬっていうことも生々しく歌の中に表れている作品だと思ったんです。だからこそ俺たちは子供たちの世代に何を遺してくのかっていう問いかけも、この作品の中にはたくさんあって。それは特に“こころの花”や“I Love You”、そして最も児童歌的な“Traveler”に感じたことなんですけど。

TOSHI-LOW:俺はずっと死生観しか歌ってないよね。それは変わらない。その表現の仕方とか視点が年々変わってきているだけで、「いつか死ぬ」「じゃあいかに死に切るのか」っていうのは俺の中でずっと消せないものだから。じゃあ今で言うと、「いつか死んでしまう、だからこそどう生きるのか」っていうのが子供にも伝わるようにするにはどうしたらいいのかって。そうやって繋いでいくことが「未来への想い」になるわけでしょ。

―そうですね。

TOSHI-LOW:……まあ、子供が読む絵本にいきなり「お前はいつか死ぬ!」って書いてあったら誰も読みたくないと思うけどさ(笑)。でも、その逃れられない真実を動物のドキュメントで知るのか、漫画で知るのか。もしくは、口ずさめる歌に教えてもらうのか……その違いなだけで、子供だって、いつか人間は死んでいくことは学んでるんだよね。でも逆に、大人になると、逃れられない死っていうものを避け始めるでしょう。

―リアルになっていくのが怖いから。

TOSHI-LOW:そう、現実になっていくからね。でも、そうやって「いつ死んでもおかしくねえ」と思っていたことがリアルになっていくからこそ、子供たちにも「『行ってきます』って言え」って俺は言うし、俺自身も「行ってらっしゃい」って言いたい。ニューアコだって、また帰ってこられる場所であればいいと思ってるし。

―『鬼弁』に記されていたことにも通ずる話ですね。

TOSHI-LOW:あの東北の震災以降、俺らは理解したわけじゃん。いつ死んでもおかしくないってことも、「行ってらっしゃい」って言えなかった人の後悔も。だからこそ、大事な人の帰りを待てることがどれだけ幸せかってこともよくわかるんだよ。そういう意味での大きな死生観っていうか……それはどんどん歌に入ってくるようになってると思う。

―まさに“帰り道”で歌われていることですよね。最初はびっくりしたんですよ。生きることに対しても死に切る覚悟に対しても、TOSHI-LOWさんは「行く」っていうことを歌い続けた人だったから。

TOSHI-LOW:わかる。まさに今までは行くだけでよかったし、「もう気に食わねえ、家出する」っていう歌を歌ってればよかった。でも今はもう、現実的に「子供が21時過ぎても帰って来ねえ」っつって心配して待ってなきゃいけないわけ(笑)。で、やっぱり人って、自分の大事な人が帰ってくるだけで嬉しいもんじゃんか。

「待てる喜び」を知る年齢になったんだなって思うし、「行ってらっしゃい」って送り出せることの大事さも今になってちゃんと知るわけ。で、それは全部に通ずることなんじゃないかなって思うの。待てることも、帰る場所があることも、それだけ大事なものがあるっていうこと。それを大事にして生きていくことが、本当の幸せなんじゃないかなって思うんだよ。恋人を待つことだって、友達を待つことだって、なんでもいい。なんにせよ、帰り道が自分にもあって、誰かの帰り道の先に自分がいて、っていうことが人生になっていくんだと思う。

『鬼弁~強面パンクロッカーの弁当奮闘記~』©TOSHI-LOW / ぴあ

ひとりで生きてひとりで死んでいくっていうことを歌ってきたし、それも真理だよね。だけど、その反対側もあったんだと気づいてきた道のりのような気もしてるんだよね。

―これは単純に男としての質問になりますけど――最初の息子さんが生まれて十数年ですよね。それでも今、おっしゃったような父性に満ちた言葉が出てくるのは、親父になるにはそれくらい時間がかかるものだっていうことなんですか。

TOSHI-LOW:そうだと思うよ。お母さんはお腹を痛めて子供を産んでるから違うだろうけど、男の場合は、親父の資格をもらっても、それは資格だけで。運転免許と一緒で、実際に運転技術が身につくには時間がかかる。なんなら、さっき言ったように俺の中にはまだ少年がいるわけだしさ。今でも、俺の中の少年と息子の少年性が闘ったりするからね。めんどくさいんだけど(笑)。

―ははははは。いや、それはいい話です。

TOSHI-LOW:それに、そうやって自分から生まれた命っていうものを捉える前に、当時の俺――『THE MIDDLE WAY』の頃の俺は、知識や哲学として死や命を捉えようとしてたからさ。だけどそれから15年くらい経って、リアルに老いも感じるようになるのよ。終わりに向かっていくことも体感してるし。でも、それは全然悪いことじゃなくて、それこそ普遍的なことじゃん。なのに若作りしなくちゃいけない音楽だったら嫌でしょう。だったら、それもありのまま歌にしたいと思うんだよね。

―そうですね。そういう意味でも、フィジカルなものだけではない歌の力だったり、長く心に残るものを求めたりするところも自然と出てくる。音楽を体だけでなく心で鳴らしていくための場所として、OAUがとても大事になってきますよね。

TOSHI-LOW:そう、OAUがあることによって、それが叶うんだよね。BRAHMANの場合は、楽しさがどうというよりも、ガーッとやる中で見える一筋の光を掴もうとするようなバンドだけど。OAUの場合は、この先老人の歌を作ってもいいわけ。みんなでハゲて、みんなで笑って、みんなで歌って。むしろそれがカッコいいことなんじゃないの? って思う視点が今はあるから。そういう意味で、OAUは今めちゃくちゃ楽しいんだよね。

―そうなった今だからこそ、“A Better Life”には<ねえ 戻らない / 時計の針を素直に見つめ / いらないものを捨てて生まれる / 豊かさ呼んで>という言葉が出てくる。

OAU“A Better Life”を聴く(Apple Musicはこちら

TOSHI-LOW:心臓が動いていることを生きてるって言うんじゃなくて、やっぱり生きてるって実感できる何かを見つけるのが生きてるってことであり、その人自身の心に花を添えるってことだから。そういう意味で、伝わる喜びとか大事なものを実感できる場所として、ニューアコで人と一緒に遊んでいるくらいが一番いいなって今は思うんだよね。もちろん世界を狭めるっていう話じゃなくて、今ここにある大事なものとどう向き合っていくか。そこに「生きている実感」は宿るんだと思うの。

たとえば今ここもさ、震災が起きたら隣の人と助け合わなくちゃいけないじゃん。そういう時に、「人を押しのけてでも俺だけ逃げられればいい」って思うのか、「あの人たちと助け合って生きていきたい」って思うのか――どっちがいい人生だと思えるかだよね。まあ、自分だけよければいい、なんて思ってるヤツこそ最初に死ぬもんなんだけどね。金庫盗みに行ったヤツが津波の第二波に飲み込まれたり、災害にあった家から金品盗もうとしたヤツが潰れたりさ。だからこそ、自分は誰と生きれば幸せなのか。大切なものをちゃんと自分で整理しておいたほうがいい。それがちゃんとわかっていれば、簡単に人を傷つけたり人を騙したりすることなんてないって思うんだよね。

―自分にとっての大事なものを自分自身の美学じゃなく外的なものに求めるようになった今の時代においても大事なことだと思います。

TOSHI-LOW:俺はずっと、ひとりで生きてひとりで死んでいくんだって歌ってきたし、それも真理だよね。だけど、その反対側もあったんだってゆっくりと気づいてきた道のりのような気もしてるんだよね。

―ひとりで生きてひとりで死んでいくけど、だけどその間には必ず誰かがいるっていう。

TOSHI-LOW:そうだね。

―それは、音楽のアウトプットこそ違えどBRAHMANの変化にも通ずる話だと思うんです。人とどう生きるのか、ありのままの自分になるとはどういうことなのか。善悪で割り切ったり自分の正義と違うものを拒んだりするんじゃなく、今目の前の世界に対してどう生きるか。それを素直に表現することが本当の自由なんだっていう。

TOSHI-LOW:ニューアコを始めた当初に持ってた「自由になりたい」みたいな理想もさ、綺麗事ではあるじゃん。でも、自分の中の少年性っていうのがずっと綺麗事を掲げてくれていたし、なりたい自分になるために「これはどうして?」っていうめんどくさい問いを持ち続けてきた気もするんだよね。もちろん、夢とか綺麗事って言っても、世界中を花で埋め尽くしましょうなんてことを掲げるつもりはない。だけど、自分の心の中くらいは花を飾ることができるし、善とか悪とかじゃない、0か100かじゃない、ただあるがままを受け入れるっていうところに自由はあるんじゃないかな。

BRAHMAN『梵唄-bonbai-』(2018)収録

TOSHI-LOW:だとしたら、自分に明るいところがあるんなら人と出会っていけばいい。誰とでも喋れる特技があるなら、被災地に行って爺ちゃん婆ちゃんと話せばいいんだよ。「やる・やらない」じゃなくて、自由っていう理想があることを前提として、そのために自分の持っている技術をどう使うんだ? って。すべてが100点になるかと言ったらそうじゃないけど、どんな生き方をしてもとにかく理想に近づければいいじゃん。そう考えたら、すべては道半ばなだけであって、失敗じゃないって思えるでしょう。だから何回だって立ち上がれる。本当の強さとか希望って、そういうことなんじゃねえかなと思ってるよ。

リリース情報
OAU
『OAU』初回限定盤(CD+DVD)

2019年9月4日(水)発売
価格:4,180円(税込)
TFCC-86688

[CD]
1. A Better Life
2. こころの花
3. Midnight Sun
4. 帰り道
5. Banana Split
6. All I Need
7. Again
8. Traveler 
9. Akatsuki(冬が始まる日の暁に降り立つ霧の中に現れた光の輪)
10. Where have you gone
11. Americana
12. ~tuning~
13. I Love You

[DVD]
・OAU ~The premium release party~ @Billboard Live TOKYO(2019.7.4)

イベント情報
『New Acoustic Camp 2019』

2019年9月14日(土)、9月15日(日)
会場:群馬県 水上高原リゾート200

出演:
9月14日
ACIDMAN
秋山璃月
安藤裕子
Awesome City Club
BIG AUDIO acoustic DAINI-NITE
cinema staff
Czecho No Republic
DEPAPEKO(押尾コータロー×DEPAPEPE)
EGO-WRAPPIN'
G-FREAK FACTORY
go!go!vanillas
HY
片平里菜
きいやま商店
OAU(OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND)
Rei
Ryu Matsuyama
スガ シカオ(solo)
スガダイロートリオ
SPECIAL OTHERS ACOUSTIC
田島貴男(ORIGINAL LOVE)
the telephones
渡辺俊美&THE ZOOT16
山口洋(HEATWAVE)

9月15日
藤原さくら
ハナレグミ with U-zhaan
HEY-SMITH
H ZETTRIO
IKE(SPYAIR)
カネコアヤノ
Keishi Tanaka
木村カエラ
LOW IQ 01
真心ブラザーズ
みゆな
MONOEYES
ORANGE RANGE (ACOUSTIC SET)
ストレイテナー
谷本賢一郎
THE NEATBEATS
柳家睦とラットボーンズ

『Tour 2019 -A Better Life-』

2019年9月28日(土)
会場:沖縄県 流れ星の丘くうら(※「ぬあしび~CAMPING EARTH 2019~」出演)

2019年10月4日(金)
会場:岡山県 ルネスホール

2019年10月6日(日)
会場:広島県 Live Juke

2019年10月11日(金)
会場:宮城県 Darwin

2019年10月12日(土)
会場:岩手県 Club Change WAVE

2019年10月19日(土)
会場:福島県 猪苗代野外音楽堂(※「音仕舞い」出演)

2019年10月25日(金)
会場:大阪府 Shangri-La

2019年10月27日(日)
会場:福岡県 Gate's7

2019年11月2日(土)
会場:愛媛県 WStudioRED

2019年11月9日(土)
会場:新潟県 ジョイアミーア

2019年11月15日(金)
会場:愛知県 名古屋CLUB QUATTRO

2019年11月17日(日)
会場:京都府 磔磔

2019年11月21日(木)
会場:茨城県 mito LIGHT HOUSE

2019年11月29日(金)
会場:群馬県 高崎clubFLEEZ

2019年12月5日(木)
会場:東京都 東京国際フォーラム ホールC

※全公演ソールドアウト

『OAU Hall Tour 2020 -A Better Life-』

2020年2月3日(月)
会場:大阪府 サンケイホールブリーゼ

2020年2月5日(水)
会場:福岡県 イムズホール

2020年2月7日(金)
会場:愛知県 名古屋芸術創造センター

2020年2月10日(月)
会場:宮城県 トークネットホール仙台(仙台市民会館) 小ホール

2020年2月12日(水)
会場:東京都 渋谷 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)

2020年2月15日(土)
会場:新潟県 りゅーとぴあ・劇場

プロフィール
TOSHI-LOW (としろう)

BRAHMAN、OAUのボーカリスト。BRAHMANは1995年に結成、これまでに6枚のアルバムをリリース。全国のライブハウスを中心に活動する中、幕張メッセでのセンターステージライブも開催。2018年2月には初の日本武道館単独公演を行った。OAUは2005年にOVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND名義でスタート。アコースティック楽器を使用した6人編成で活動を展開し、OAUが主催するキャンプフェス『New Acoustic Camp』は2019年の開催をもって10周年を迎えた。そのほか、息子へ作り続けた弁当とその手記をまとめた『鬼弁 ~強面パンクロッカーの弁当奮闘記~』を刊行するなど、活動の幅を広げている。



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