SIRUPと龍崎翔子が語る、コロナ禍で見えた違和感と未来への予見

新型コロナウイルスによって生活や経済に大きな転換期が訪れている今、様々な感情や考えを抱えながらも上手く言葉にできず、未来を見る眼にもモヤがかかっている、という人も多いのではないだろうか。ミュージシャン・SIRUPと経営者&ホテルプロデューサー・龍崎翔子の言葉からは、そんなモヤを晴らすような、思考のカケラを掴んでもらうことができると思う。

この取材の発端は、SIRUPが、ファッションブランド「SYU.HOMME/FEMM」とのコラボデニムシャツの売上の一部を、インディペンデント音楽コミュニティー支援団体「SustAim」を通じて、龍崎率いるCHILLNNの新事業「HOTEL SHE/LTER」へ寄付したこと。「HOTEL SHE/LTER」とは、自宅で過ごすことが安全ではない人と、稼働率が低くなっているホテルをマッチングさせるプロジェクト。SIRUPによる寄付金は、医療機関との提携などの運営資金や、ホテルを必要とする人のための宿泊料金として使われる。

コロナ禍で感じたことも描いたSIRUPの新曲“HOPELESS ROMANTIC”がリリースされる前夜。ふたりの会話は、2時間以上止まることがなかった。コロナ禍で噴出した社会や音楽ビジネスに対する違和感と、この先の未来をどう作っていくかということに対して、ふたりは真剣に語り続けた。

SIRUPは、その歌唱力やフロウの新しさ、音とメロディの気持ちよさで支持を集めている部分も大きく、日本におけるR&Bやヒップホップ、J-POPを前進させている存在として評価されるべきことは間違いないが、その上で、SIRUPは時代に対するメッセンジャーでもあることを、ここにて断言する。

コロナ禍でSIRUPが意識したこと−−ミュージシャンはマイノリティであり、音楽は平穏の中でしか聴かれない

左から:SIRUP、龍崎翔子。この日はZoomで対談を行った

―龍崎さんが「HOTEL SHE/LTER」を立ち上げたことや、SIRUPさんが寄付を決めたことの奥にある、おふたりの問題意識について話していただけますか。

SIRUP:僕自身、このコロナ禍で、いかにミュージシャンが社会的に補償されずに生きてきたかということと、社会的ポジションがあるように見えて実はまったくなかったということが、露見したなと感じていて。第一線で活躍している人でさえ補償はなくて、結局自分らの財源を削って、筋力がある人だけがなんとか生き残るみたいな、そういう状態になってますよね。

それで言うと、一番文化を育むのはインディーでストリートでやってる子らだったりするのに、そこが潰れちゃう危険性がすごくあるなと思って。starRoさんと竹田ダニエルさんが立ち上げた「SustAim」は、金銭的にサポートするというより駆け込み寺みたいな形で、インディペンデントでやってきた人が持ってる知識とかをシェアしあったりする、ミュージシャンたちを支える団体なんですね。そういうのって、アメリカとかにはあるらしくて。今回は「SustAim」を通して、龍崎さんの「HOTEL SHE/LTER」を教えてもらったんです。

龍崎:「HOTEL SHE/LTER」は、私たちがコロナの環境下でホテルにできることがなくなってしまっている中で、外出自粛ができない方にとっての逃げ場というか、第二、第三の選択肢になったらいいなという想いで立ち上げたんですね。たとえば家庭内の環境が悪いとか、DVを受けているとか、家の居心地が悪いとか、なんらかのトラブルを抱えている方にホテルという空間を仮住まいとして使っていただけたらなと。

SIRUP:社会全体において支援活動が徐々に広がりだしたとは思うんですけど、最初はやっぱり、マジョリティと、医療関係にフォーカスされていた気がして。でも、自粛で家にいるせいで二次災害が起きているケースもあるわけじゃないですか。そういう人たちは、もうすでに「今」困っている人たちなのに、結局マイノリティであるというか。さっきも言ったみたいに、結局ミュージシャンってどこまでいってもマイノリティやし、僕らもマイノリティであることをもっと意識せなあかんなっていうのを、今回思ったんですよね。そういう意味でも僕の中でリンクしたんです。

しかも、学生時代の頃からDVや家庭内の問題で家にいられないという話を身近で聞いてたし、コロナ期間中に隣人が頭おかしくなって「毎晩ドアを叩いてキレられる」って悩んでる友達とか、3歳くらいの子供と嫁がいるのに出動しなきゃいけないファイヤーマンの友達の話とかを聞いていたので、直接的に共感がすごくあって。さらに言うと、これって、コロナが終わってもずっと社会にある問題じゃないですか。そういう意味でもいろんな人が気づくべきテーマやなとも思ったんです。

龍崎:そう、本当に、SIRUPさんが言うように一時的な話では全然ないなというふうに私たちも思っていて。このコロナショックがあって表面化しただけの出来事だと思うんですよね。

「HOTEL SHE/LTER」の部屋で流すプレイリストをSIRUPが選曲している。龍崎いわく「プレイリストを作っていただくことは念願で、実現して本当に嬉しいです。人に大事に扱われているという感覚こそがその人を豊かにすると思うし、やっぱりホテルの本質ってケアをしてあげるというところにあると思っているので、お客さんが気持ちよく過ごしていただけるようなコンテンツをなるべく作りたいんですよね」

SIRUP:やっぱり、社会が平常・平穏というか、安定した状態じゃないと、本当の意味で音楽は聴かれないなということを、コロナのあいだに本当に思ったんですよね。

龍崎:平和産業ですよね。エンタメも、観光も。

SIRUP:そうですね。でも、確実に必要じゃないですか。「大変なときはいらない」というのが、「本質的にいらない」というわけではなくて。人間という生き物に生まれて、社会というものを形成してる中で、芸術だとか、観光だとかっていうものが発展してきたと思うので。

「選択」こそが、生活の豊かさや自己肯定感に繋がっていく

龍崎:観光・ホテル産業について言うと、今後しばらくホテルの価格は下がると思うんです。やっぱりインバウンドの方も来にくいですし、ホテル自体が増えてしまっているので、需要と供給のバランスがもう崩れてしまっているんですね。

でも私はもともと、ホテルというものを「人が旅先で寝る場所」というふうには思っていなくて、「ライフスタイルを試着できる場所」だと思っているんです。言ってしまえば、「レンタルできる生活空間」。

そう考えたときに、ホテルって、もっと様々な使い方ができるんじゃないかということを以前から提案していたんですよね。今後トレンドとして「ホテル」と「住宅」の垣根がどんどん揺らいでいくと思っていて、「住む」と「泊まる」を流動化させていくためのきっかけとして「HOTEL SHE/LTER」はワークするんじゃないのかなとも思っています。

龍崎翔子(りゅうざき しょうこ)
1996年生まれ。L&G GLOBAL BUSINESS Inc.代表 / CHILLNN代表 / ホテルプロデューサー。2015年にL&G GLOBAL BUSINESS Inc.を設立し、「ソーシャルホテル」をコンセプトにしたホテル「petit-hotel #MELON」を始めた。2016年には「HOTEL SHE, KYOTO」、2017年に「HOTEL SHE, OSAKA」を開業したほか、「THE RYOKAN TOKYO」「HOTEL KUMOI」の運営も手がける。今年はホテル予約システムのための新会社CHILLNNを本格始動。4月5日から全ホテルを休業していたが、5月30日より全施設を順次再開。

SIRUP:選択を増やす、という話は僕もすごく共感します。というのも、僕自身、音楽でシェアしたい考えが……今って、物が多すぎて選択できることをみんなが忘れがちになっちゃってる時代だと思うんですけど、もっと自由に選択しようよ、ということで。選択したものに対してはとやかく言われる筋合いがないじゃないですか。

龍崎:選択を積み重ねることって、自分のアイデンティティを削り出す行為ですよね。選択肢が多すぎることの弊害もあるとは思うんですけど、自分がなにを選んだかを深く知ることだったり、自分の選択の傾向を知ることだったりって、その人の人間性にすごく肉薄する行為だなって思います。

そう考えたときに、ホテルって本当に選択の余地がなくて。特に私がホテルを始めようと思った頃って、不景気だったからビジネスホテルブームの全盛期で、チェーン店ばっかりだったし、選択肢としてはラグジュアリーホテルか、シティホテルか、ビジネスホテルしかなかったんですよ。それこそ「このアーティストが好き」と思って曲を聴くような感覚で、自分で選んで泊まれるホテルを作りたいなと思ったのが原体験なんです。だから、選択を積み重ねていくことだったり、それによってより多くのコンテンツや情報や価値観に出会ったりすることが、人の生活を豊かにするんだなっていうのは私もすごく思います。

SIRUP:本当にそうですよね。選択をしてるということを、ちゃんと自分の中で意識していくことからまずは始められるといいなって。僕らの世代はわりと、そこに到達するのが遅かったというか、今の中高生とか龍崎さんの世代の人たちは、もっとそういう考えに共感しやすいのかなとか思ったりもするんですけどね。

龍崎:今の中高生とかって、むちゃくちゃ細分化された世界の中を生きてるんだろうなって気がします。私の時代はまだみんながORANGE RANGEを聴いたりしてたけど、今ってもうスマホの中に何千万って曲があって、隣の人と聴いてる曲が全然違うし、本当に細分化された社会になっていますよね。選択のチャネルが広がれば広がるほど、自分のアイデンティティの発見は早熟化するんだろうなとも感じます。

SIRUP(しらっぷ)
ラップと歌を自由に行き来するボーカルスタイルと、自身のルーツであるネオソウルやR&Bにゴスペルとヒップホップを融合した、ジャンルにとらわれない洗練されたサウンドを発信している。“Do Well”がHonda VEZEL TOURINGのテレビCMに起用され、一気にその知名度を上げた。最も活躍した新人アーティストに授与される『SPACE SHOWER MUSIC AWARDS 2020』で『BREAKTHROUGH ARTIST』を受賞。2020年3月25日に最新EP『CIY』をリリース。5月27日には、『グラミー賞』最優秀リミックス部門にノミネートされ国内外のアップカミングな音楽シーンを牽引してきたプロデューサーstarRoと、Shin Sakiuraのコラボレーションによる最新シングル『HOPELESS ROMANTIC』をリリースした。
SIRUPの最新EPのタイトルは「Choice is Yours(=選択はあなた次第)」を意味する『CIY』。EP収録曲“Why Can’t”ミュージックビデオ

細分化された社会で生まれる「分断」を断ち切るためには

龍崎:でも世の中が細分化しすぎて、完全に溝ができてしまって、溝の向こう側にいる人の存在に全然気づけない、みたいなことも起きていますよね。SNSとかで自分の価値観と真逆の人を見つけるたびに、ここのギャップってなにをどうしたら今後埋まるんだろう、って考えさせられます。

SIRUP:そうですね。Twitterとか自動的なツールって、自分の好きな人しか出てこなくなっていくじゃないですか。SNSは僕もやってますけど、自分のアイデンティティを出すところというよりかは、自分のアイデアをシェアするだけの場所であるって、みんながまず意識しないといけないと思うんですよね。そうじゃないと、自分と考えが違う人を完全に分断する感じになっちゃう。その上で、自分以外の人たちをあえて意識的に見ることが、めっちゃ大事やなって。

龍崎:それって、愉快な体験じゃないんですよね、本当に。「話が全然通じない」みたいな感じの人もいるわけで。そういう人も存在するという受け入れがたい事実とちゃんと向き合っていかないと、社会ってよくなっていかないなっていうのがすごく感覚としてありますね。

SIRUP:本当に、そうですね。

SIRUPがミュージシャンとして「寄付」という行為を選んだ理由

―ミュージシャンの社会的立ち位置に対する課題意識を最初に話してくれましたけど、それと寄付という行為は、SIRUPさんの中でどう繋がっていますか?

SIRUP:やっぱり僕は、ミュージシャンの社会的位置づけの根幹として、助かるべき人が助かってないような世の中で音楽は響かないからこそ、社会貢献の活動はやるべきだなと思うんですよね。

もともと僕の中で、寄付文化が本質的に広がってないというか、根付いていないなっていう違和感があって。その上で、医療関係への寄付はいろんな方がすでにやってるけど、「(自分にとって)リアルであるべき」という気持ちが僕の中で常にあったんです。「HOTEL SHE/LTER」で助けられる人たちのことは、コロナが終わってもずっと継続的に考えていくべき問題ですし、リアルに繋がってるものに寄付できたらなという想いで、今回はここを寄付先に選ばせてもらいました。

龍崎:ありがとうございます、本当に。「HOTEL SHE/LTER」に寄付していただいたことで、SIRUPさんへはどういう反響がありました?

SIRUP:今回の件を発表してから、経営者の方とかが僕のことを知ってくれて、Twitterをフォローしてくれたりして、「あ、こういうことか」とも思ったんですよね。こういう活動がないと出会わなかった人たちと、とてもいい距離感で繋がれたと思うんです。これが、社会的にミュージシャンが認められるということに繋がるねんな、っていうことを今回の体験で感じました。

あと、今回シャツを買ってくれた人から、「着てるだけで、私は寄付をして社会のひとつになってるって思えた」というDMがきたり、こういうことを今まで考えてなかったけど考えるきっかけになった、って言ってもらえたりしましたね。それって、生活になかったものが1個増えるということで、それが「豊かになる」ということだと思うんです。なにか1点気づくことによって、いろんなものが見えるようになるじゃないですか。

龍崎:扉が開きますよね。

SIRUP:そう。矢島さんとも前にしゃべりましたけど、音楽も、ひとつを聴いてみたら、いろんな価値観とか、他の音楽にも気づける、ということがあって(過去インタビュー記事)。それが「豊かになる」ということだって僕は思っているんです。

自分自身も、今回真剣に考えて寄付をしたことによって、めっちゃ豊かになりました。音楽との向き合い方、ファンとか応援してくれる方との向き合い方、音楽のシェアの仕方とかを改めて考えることができて、自分自身が一番変わったと思います。

SIRUP×SYU.HOMME/FEMMのコラボデニムシャツ。この売上の10%が「HOTEL SHE/LTER」へ寄付された

「音楽」と「ビジネス」の関係。コロナ禍に噴出した、世間のミュージシャンへの目線に対する違和感

龍崎:私の方も、今回SIRUPさんと組んだことで、本当の意味でより多くの人に届いてるなという感覚がすごくあって。こういう社会的意義の強い事業と、文化のメインストリームである音楽をやってる方が組むことって、滅多にないと思うんですよ。ただ、実際人の心を動かすのって、音楽の力、文化の力だったりすると思うんです。今回、SIRUPさんと一緒に手を組むことで、ビジネス一辺倒では届くことができないところにまでこのサービスが広がっていったなという感覚がすごくあります。

SIRUP:音楽業界って、その真逆というか。本当は鬼のようにビジネスやのに、なぜかずっと夢見がちな言葉で埋め尽くそうとするじゃないですか。

僕がSIRUPとしてずっと伝えたいのって、両極端の話なんですよね。つまり、一面的にたとえて誤魔化そうとすることがめちゃくちゃ多い世の中やけど、本当はすべてのものが多面的だということ。「元気な感じのアーティストは元気な曲しか歌ってはいけません」みたいな空気とかもあるけど、ひとつの曲だって、めちゃくちゃ多面的なもので。そういうことを、本当に、伝えたいんです。

龍崎:コロナ期間中に、エンタメ産業に関わる人たちの社会への関わり方に関して、議論の呼び水となるような出来事がすごく多かったと思うんですけど、SIRUPさんはどういうふうに考えていらっしゃるんですか?

SIRUP:僕、「違和感」という言葉をよく使うんですけど、今まで日本にずっとあった違和感が、コロナによってゴールを迎えたなと思うものがいっぱいあって。

龍崎:噴出しましたよね、完全に。

SIRUP:日本の音楽業界のビジネスモデルとして、ミュージシャンは音楽以外のことは言わないし、キャラクター設定を一面的に見せてわかりやすくして、っていうのをやってきた中で……実際にそれで素晴らしい音楽がいっぱい世の中に広がりましたし、それだけが悪いとは思わないんですけど……時代が変わるにつれて変わらないといけないものが変わってなかった、というところにコロナが来て爆発しちゃったっていう見方をしていますね。

龍崎:日本の歴史を振り返っても、音楽って、社会への不満や体制批判とかをポップにユーモラスに大衆と共有するための文化としてあった側面が大きい気がしていて、それが最近になって失われてきて、「ノンポリが一番かっこいい」みたいな風潮になってきたのかなあ、という見方をしていたんですよね。その中でSIRUPさんが、社会への違和感とかを曲に書いているのって、すごく意義あることだなと思います。

SIRUP:実際、『CIY』(3月25日にリリースされたEP)はコロナが起きることをまったく想定せずに作って出したんですけど、社会に対する違和感を音楽にしていたら、それが世の中とハマったというか、答えだったなという感覚はありますね。

SIRUP『CIY』を聴く(Apple Musicはこちら

ステイホーム期間中、SIRUP“Your Love”を使った二次創作映像がいくつもアップされていた

SIRUP:音楽って、本質的にはやるべきことってすごくシンプルやのに、そこにいらない構造とかがめちゃくちゃあって、ものを生み出すまでの経路で躓いて終わることがめちゃくちゃあったと思うんですよ。「そういうのをなくしていこうぜ」みたいな気持ちは、SIRUPをやりだしてから本当に強かったし、そういう曲をずっと書いてきたと思いますね。

ユートピアとディストピアの両面がある日本で、いかに希望を持って生きていくのか

SIRUP:そういう意味でも、新曲の“HOPELESS ROMANTIC”については、今日言ってることの頭から全部繋がっているんですよね。

この曲は今年の2月に書き出して、もともとは恋愛について書いてたんですけど、当時はオーストラリアの森林火災のことを考えていて。あの件も、一部の友達とはすごく共感するけど、「なんで遠くの人の話を、そんなに大変なことだって訴えてくるの? ちょっとトゥーマッチじゃない?」みたいな人もいっぱいいたんですよね。そういう社会と自分の距離と、恋愛の片思いで想いが届かない人とのことを、ミックスしてダブルミーニングで書こうって思ってたところに、コロナがあってまた一部を書き換えたんです。

“HOPELESS ROMANTIC”で一番伝えたいことは……さっき言ってたみたいに、今までだったら、全然考えが違う人がいるっていうことを認識しなくても、無視しても、普通に生きてこられたと思うんです。他の国では、極論を言うと紛争が起きている国もあって、たとえば政治的なこととか現実的にどういうことが起きているかを、しっかり考えるということをやってきたと思うんですよね。自分たちの国も、コロナによって本当の現実と向き合えて、変な言い方かもしれないですけど、ユートピアとディストピアの両方の側面があるということに気づけたと思う。この曲は、その中で自分はどう生きていくのかということを本当の意味で気づけた、というポジティブな歌なんです。今まで自分が思ってたよりももっとリアルに、現実の中で希望と向き合っていけらいいなって、そういうメッセージをシェアしたいと思った曲ですね。

SIRUP『HOPELESS ROMANTIC』を聴く(Apple Musicはこちら

龍崎:時代のムードそのものですよね。

SIRUP:サウンド面で言うと、今回はstarRoさんとShin Sakiuraと作ったんですけど、多国籍感というか、めっちゃ広い大地感があるのに熱帯雨林感とか日本のじめっとした感じもあって、民族的なビートも結構入ってます。歌い方は、今までの曲よりもめちゃくちゃナチュラルにしていったんです。レコーディングで何回か歌ったものの中から、感情の割合が多いテイクだけを選んでいきました。なので歌の生々しさと、多国籍感とのギャップが、音楽的には面白いんじゃないかなと思ってます。

―今日話してくれた思想や問題意識の面でも、starRoさんやShin Sakiuraさんとは共有できている部分が大きいのでは?

SIRUP:そうですね。もともとは、starRoさんと竹田ダニエルさんがTwitterで僕が文字にしたいことを全部バーって呟いてて、僕がそれを鬼のようにいいねしてたんですよ(笑)。それがきっかけで3人で会うことになったところから始まったので、「同じ思想で繋がった」という関係で。starRoさんは、アメリカにいたから音楽と社会の関係とかの考えや経験も進んでるところにいて、いろいろ聞かせてもらったりしました。

Shin Sakiuraは前から近くにいて、いつも一緒に「なんなん、あれ?」みたいなことを話してる仲で。SIRUPをやってから音楽業界の中で一番しゃべってるのが、Shin Sakiuraですね。全面的に思想を共有できてる人らと作ったので、“HOPELESS ROMANTIC”が生まれたのはすごく自然やったし、歯車が合っているなと思いますね。

―初めてSIRUPさんを取材させてもらったときに、SIRUPの曲の書き方について、「「わ~めっちゃ楽しい~」という感じで踊ってる中で、勝手に言葉が入っていって、「気づいたらめっちゃ刺さってた」みたいなことが、一番難しいけど、一番の目標」(過去インタビュー記事より引用)って話してくれたことがすごく印象的だったのですが、その意識に変化はありますか? 『CIY』や“HOPELESS ROMANTIC”を聴いたり、近頃のSIRUPさんのアクションを見ていると、「刺したい」という気持ちが強くなってるのかな? とも思いました。

SIRUP:もともとSIRUPの中でシリアスな曲ほどめっちゃポップな感じにしてるというか、“SWIM”とか“Do Well”も、わりとリリック自体はポップなことを言ってないんですよね。そういうバランス感って、なにかを人に発信したり、クリエイティブでものにして伝えるときに、めっちゃ大事やなと思っているんです。

SIRUP“Do Well”ミュージックビデオ

SIRUP:なので“HOPELESS ROMANTIC”も、こういうメッセージなんですけど、基本的には踊れる曲にしてるんです。そういうのって、民族音楽の発祥に近いなとも思っていて。民族音楽も、自分たちのいろんな葛藤を音楽で高揚させて、それを忘れさせるのではなく、もっと心の奥底に根付かせるためのものだったと思うんです。表面的な言葉と音だけが残っちゃうのは本当の音楽ではないと思う。

龍崎:私も、たとえばサイトを作るときとか、意識的にポップにするようにしていて。だから「HOTEL SHE/LTER」の公式サイトにも、アメコミみたいなトンマナでイラストを描いてもらっているんですよね。正論って、基本イケてないじゃないですか。

SIRUP:ああ、わかりますわあ。

龍崎:正論であればあるほど、ユーモアだったり、ポップな包装紙に包まないと届かないなって思っていて。一見遠回りには見えるんですけれど、ちゃんと人に好かれる見映えだったり、音楽で言うと踊り映え、耳映えするものを作ることこそが、本当の意味でメッセージが伝わっていくことなのかなって。そこは近いところがあるんだなって、今話を聞いててすごく思いました。

SIRUP:「HOTEL SHE/LTER」のサイトを見たときも、めっちゃいいなと思ってました。選択した人に刺さっていくなって。

SIRUP:でも「変化」で言うと、今は、曲を書いてて新しい感じもしてるというか。暗喩した方が伝わることが多かったけど、今は逆にストレートに伝えてもそのまま伝わる感じもするんですよね。だから今歌詞を書いてて楽しいです。

龍崎:社会が混乱している時期だからこそ、ストレートに言ってくれるところに集まりたいという気持ちはあるのかもしれないですね。そうじゃなかったときは、暗喩とかで「あ、わかるわ~」みたいなコネクションがあればいいやって感じだったと思うんですけど、今は、なにかにすがりたいというか、自分の精神的な支柱が欲しいっていう気持ちになっている人が多いんじゃないのかなって。

この先に必要なのは、自分の最終的な幸せとはなにかを一人ひとりが考えること

―最後に今日の締め括りとして、コロナをきっかけに社会のいろんな違和感が露呈した先、これからの未来はどうなっていくと思うかを話していただけますか?

SIRUP:僕は、本当に、「選択」という言葉が大事にされるべき時代になるなと思っています。たとえば、コロナに関してだっていろんな解釈があって、これがよくなかったと捉えている人も多いと思うけど、「こういう世の中になれって思ってた中で、今は希望が見えてきた」と思ってる人もいると思うんです。これからよくなっていくぞっていう期待を持ってる人もいる。この先を考えると、まずはそこから違うと思うんですよね。

そういう意味で、「分断」というものがもっと明確に出てくる時代がもうちょっと続くと思う。そこで一番怖いのが、「どっちが勝つか」みたいな時代になっちゃうことで。社会でどうこうするってときに、どうしても今は多数決になっちゃうけど、細分化された時代の中で、いろんな人がいることが認められて、国からも細かいケアが行われたらいいなと思います。みんなが一緒になることはまったく必要ないと思ってて、いろんな人がいるということが認知されて、いろんな問題が起きてることも認知されて、それがすべてちゃんとケアされてる世の中になればいいなと思いますね。

龍崎:すごい、私の言いたいことの上位互換を言ってくださってる(笑)。

SIRUP:(笑)。自分と違う考えを持ってる人らと対立する必要はまったくないと思う。自分がどういう考えを持ってて、どういうふうな社会を求めてるか、もっと小さいところで言うと自分の最終的な幸せはなにかっていうところを、ちゃんと自分と向き合って考えたらいいというだけで。選択せなあかんタイミングがくると思うので、一番の理想は、「どうなるべきか」よりも「どうなりたいか」を一人ひとりがもっと考えるのが当たり前になる、そういうところがゴールかなと今は思ってます。

そういう意味で言うと、音楽って、本当にずっと「自分らしくあろう」とか「Believe in myself」ということを言ってきたじゃないですか。最初の話にも戻るんですけど……それがなぜ響かなかったのかって言ったら、もしかしたらもうずーっと社会的にヘルシーじゃなかったからなのかなと思ったりもするんですよね。

龍崎:私が“HOPELESS ROMANTIC”を聴いてめっちゃいいなと思ったのは……自分の中でも、社会が今後よくなっていくビジョンをあんまり持ってないんですよ。もちろん前提として、社会をよくしていくための動きはやるべきだと思っているんですけど、そういうムードを感じているというか。国際関係や日本の政治がより混乱していって、ディストピア的な世界にどんどん近づいていってるような肌感覚が、日に日に増している状態ではあるんですね。

ただ、このディストピアのような世界の中で、言ったら荒涼とした砂漠の中みたいな社会の中で、どうやって自分の豊かな精神世界を築いていくかが今後求められていくし、私が幸せに生きていく上で必要だなと思っているんですよね。自分を幸せにしていかないと、他の人も幸せになれないですし。誰かの犠牲の上に他の人の幸せがあるような状態も絶対にヘルシーじゃないと思うので、社会をよくしていこうと思う上で、やっぱりまず自分が幸せになることが本当に大事だなと思いますね。

SIRUP:それは超大事っすね。……バリ有意義な時間でした。この2時間でめっちゃ納得したことがいっぱいありましたわ。

龍崎:HOTEL SHE,で「HOPELESS ROMANTICルーム」を作ることも妄想中ですよね。

SIRUP:軽く話しましたね。龍崎さんと僕に、ディストピアの世界観がめちゃ好きっていう共通点があるんですよ。『AKIRA』とか『攻殻機動隊』とか。“HOPELESS ROMANTIC”のビジュアルも、というかSIRUP自体にうっすらと通してるテーマが、ディストピアっぽい中に人間の血の通ったものがあるというもので。

SIRUP『HOPELESS ROMANTIC』ジャケット

SIRUP:ディストピアの世界観の映画とか漫画って、どこまで社会とか技術が発展しても、結局みんなが求めてるのは「人間的な繋がりとはなにか」というところじゃないですか。そういう世界観がすごく好きなので……そういうのを部屋で表現するとかマジでヤバいっすよね。

龍崎:ね、アツいっす(笑)。

リリース情報
SIRUP
『HOPELESS ROMANTIC』

2020年5月27日(水)配信

SIRUP
『CIY』

2020年3月25日(水)発売
価格:1,980円(税込)
RZCB-87018

1. Need You Bad
2. MAIGO feat. Joe Hertz
3. Why Can’t
4. Light
5. Your Love
6. Ready For You
7. Pool(Tepppei Edit)

配信ライブ情報
『Suppage Records Presents OVERTAPES』

2020年6月13日(土)START 21:00

出演者:
SIRUP(LIVE)
CIRRRCLE(LIVE)
Chocoholic(DJ)

料金:1,000円(購入手数料209円別途)

ウェブサイト情報
HOTEL SHE/LTER
プロフィール
SIRUP
SIRUP (しらっぷ)

ラップと歌を自由に行き来するボーカルスタイルと、そして自身のルーツであるネオソウルやR&Bにゴスペルとヒップホップを融合した、ジャンルにとらわれず洗練されたサウンドで誰もがFEEL GOODとなれる音楽を発信している。2017年9月に小袋成彬率いるTokyo Recordingsがサウンドプロデュースを手掛けた“Synapse”でデビュー。『SIRUP EP2』と1stフルアルバム『FEEL GOOD』に収録されている“Do Well”がHonda VEZEL TOURINGのテレビCMに起用され、一気にその知名度を上げた。最も活躍した新人アーティストに授与される『SPACE SHOWER MUSIC AWARDS 2020』で『BREAKTHROUGH ARTIST』を受賞。2020年に入ってからは、UKのFuture R&BプロデューサーJoe Hertzと来日公演で出会ったのをきっかけに意気投合し、彼とコラボしたメロディアスなハウスナンバー“MAIGO”などを収録した、EP『CIY』を3月25日にリリース。5月27日には、『グラミー賞』最優秀リミックス部門にノミネートされ、国内外のアップカミングな音楽シーンを牽引してきたプロデューサーstarRoとShin Sakiuraのコラボレーションによる最新シングル『HOPELESS ROMANTIC』をリリース。

龍崎翔子 (りゅうざき しょうこ)

1996年生まれ。L&G GLOBAL BUSINESS Inc.代表 / CHILLNN代表 / ホテルプロデューサー。2015年にL&G GLOBAL BUSINESS Inc.を設立し、「ソーシャルホテル」をコンセプトにしたホテル「petit-hotel #MELON」を始めた。2016年には「HOTEL SHE, KYOTO」、2017年に「HOTEL SHE, OSAKA」を開業したほか、「THE RYOKAN TOKYO」「HOTEL KUMOI」の運営も手がける。今年はホテル予約システムのための新会社CHILLNNを本格始動。4月5日から全ホテルを休業していたが、5月30日より全施設を順次再開。

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