世界的DJジョナス・ブルーが語る、緊張やストレスからの解放

「踊らせる」のではなく、「眠らせる」のが目的のDJイベントが行われるといったら、あなたはどう思うだろうか。

トロピカルハウス・シーンの代表格であり、日本では“Rise ft. Jack & Jack”のヒットで知られる英国人DJジョナス・ブルーが、睡眠科学の専門家でもあるDJトム・ミドルトンとともに、観客を安らかな眠りに誘うための配信イベント『THE FADE OUT』を、来たる7月29日に開催する。DJによる心地よいサウンドと、超感覚的なビジュアルを組み合わせることにより、睡眠化学に基づいた最適な睡眠サイクルを繰り返す本イベントは、朝の7時半まで夜通し行われるという。参加することで私たちの眠りが普段とどう変わり、終了後にはどんな朝を迎えられるのか、いまから期待が高まる。

新型コロナウイルスの感染拡大により、私たちはいまだかつてないストレスの中にさらされている。そもそも現代人の多くはそれ以前から多くのストレスに悩まされてきたが、その最大要因の1つが「睡眠不足」であることは間違いない。では、心をリラックスさせ快適な睡眠を得る上で、音楽には一体どのような「効能」があるのだろうか。

「人々を眠らせておくための選曲」という、ユニークなオファーを受けたジョナス・ブルー。彼にイベント『THE FADE OUT』への意気込みはもちろん、「音楽と睡眠」の関係性や、彼自身のストレス解消法などについて話を聞いた。

全てに関して先が見えない状況に最もストレスを感じますね。

―いまは世界中がコロナ禍により、普段以上にストレスを抱えながら日々を過ごしている状況ですよね。

ジョナス:僕も、ずっと自宅で過ごしていますよ。その前はちょうど『THE BLUEPRINT TOUR』の最中で、アイルランドとイングランドを回ったあと、まさに日本へと向かうとき、確かフライトの8時間ほど前にキャンセルが決まり、以来ずっとこっちにいるんです。

ジョナス・ブルー
ストリーミングは100億回再生を記録、ヒットシングルは売上5千万枚を達成した。彼は一流DJ、ポップ界の大スター、ソングライターとしても絶賛され、イギリスの音楽賞『BRITアワード』に5回ノミネート。現在までに、世界中で120回以上ものプラチナディスクを達成している。現在は、スタジオやチャートから離れ、精力的にツアーを行う。イビサ島でも活躍し、人気スポットやクラブでのパフォーマンスを成功させている。

―本当に直前だったんですね。

ジョナス:僕にとって日本は「2つ目の故郷」みたいな、大好きな場所だから本当に悲しかったです。ショーの内容も絶対にいいものになるはずでしたから。願わくば、今年の末か来年の頭には実現したいけれど、まあ……「こういうこともあるよね」っていう感じですね。この数カ月、ある意味では興味深い時期を過ごしているので、いまはみんなで「Stay Home」「Stay Safe」を心がけて、世界が再び動き出す日を待つしかないと思います。

―おっしゃる通りですね。そんな中でも、ポジティブな要素もあるんでしょうか?

ジョナス:僕の場合は、とにかく自宅スタジオを使って音楽をたくさん作れることはポジティブな要素の1つです。自分でレーベルも運営しているので、その作業を自宅で集中してやれるのもうれしい。家でなにもしていないわけではなくて、かなり忙しくしているんですよ。

ジョナス・ブルー“Rise”を聴く(Apple Musicはこちら

―逆に、ストレスを感じるのはどんなことですか。

ジョナス:きっとみんな同じだと思いますけど、全てに関して先が見えない状況に最もストレスを感じますね。いつになったらコロナが終息して、再びツアーを楽しめるようになるのかはっきり分かったらいいんですけど。でもまあ、いまやれることに目を向けるしかないわけで。こうやって自宅でゆっくり過ごしたり、地元でやるべき仕事に集中したりする時間なんていままでなかったので、この機会をうまく活かす以外にないのだろうと思っています。

―もっとも、コロナ禍になる以前から我々現代人は多くのストレスに悩まされてきましたよね。ジョナスさんが普段感じるストレスというと、どのようなものがありますか?

ジョナス:平時だと、僕の場合は移動に関わるストレスが多いですね。僕がやっている音楽は、みんなと分かち合う「体験」こそが重要。だからツアーそのものはもちろん大好きですが、そこに行き着くまでの移動はかなりしんどいんです。そういうときもやっぱり、音楽の助けを借りてリラックスしたり、思考の整理をしたりしています。

―なるほど。そのときの音楽も今回の『THE FADE OUT』セットリストに組み込まれているわけですね。

ジョナス:まさにそうです。

音楽が特定の感覚を人に与えるというのは、興味深いですよね。

―『THE FADE OUT』への出演に関してジョナスさんは、「観客を眠らせないことよりも、眠らせておくように頼まれたのは私にとっても初めてのことです!」とコメントされていましたよね。実際のところ、このオファーが来たときにどう思いましたか?

ジョナス:とても興味深いイベントだと思いました。「睡眠」は我々が生きていく上で欠かせないものだし、僕自身いつもパフォーマンスを終えると、自分の「スイッチ」を切ってリラックスすることを心がけています。今回は新たなチームと共に、これまでとは違ったスタイルの音楽、たとえばショーの後にヘッドホンで聴くようなタイプの音楽を選曲し、そこに浸り切ってみたのだけど、本当に面白い体験でした。

―これまでは、人を踊らせることを目的にパフォーマンスすることが多かったと思います。やっぱり踊るための選曲と、眠らせるための選曲は違ってくるものですか?

ジョナス:一口に「ダンスミュージック」といってもさまざまで、そこには睡眠につながる要素も多く含まれると思います。たとえばトラックからリズムを取り払ってみれば、音響的な部分での作り込みや、そこに注ぎ込むトラックメーカーの意図には、「眠り」や「リラックス」を促すための試みと、非常に似たものがあると思うんです。ただ、今回はそれを「DJセット」という形で表現しないといけない。それは、とてもチャレンジングな試みだと感じていますね。

―「DJセット」とは、つまり全体の流れや曲調、音色などのセレクトということですか?

ジョナス:そうです。最初に話したような、ショーの後に聴いて「眠り」や「リラックス」に繋げているトラックの中から、改めて睡眠と相性がよいか検証してみたり、あとは最近気になっている新しい楽曲を加えてみたりしています。ここ2週間くらいかけて、2つの「DJセット」をまとめてみたんだけど、実に楽しかったですよ。

ジョナス・ブルー“Mistakes“を聴く(Apple Musicはこちら

―ジョナスさんが考える、睡眠と相性のよい音楽ってどういうものなんでしょう。

ジョナス:変わっていると思われるかもしれないけど、僕はブラジル音楽やフランスの音楽、主にフレンチジャズを眠る前に聴くことが多いんです。歌詞がわからないほうが、言葉の響きやトーンに思い切り浸れるというか。英語の歌詞やヒットチャートに入っているような曲だと、歌詞の内容や曲にまつわる背景、アーティストの情報といった二次情報に集中力を持っていかれて、サウンドそのものにどっぷりと浸れないことが多いんですよね。その点、フレンチジャズなんかは余計なスイッチを全て切って楽しむことができるんです。

―とても興味深いです。今回は、睡眠化学の専門家でありDJでもあるトム・ミドルトンとの共演ですね。

ジョナス:事前にトムと打ち合わせをしたところ、彼は僕が考えているのとはまた違った選曲をしていることが分かったので、それが違和感なく繋がるよう、お互いにすり合わせながら流れを調整していきました。そういう意味では、特に最初のDJセットは大変でしたね。僕のアウトロからトムのミックスへとうまく繋がるよう、流れを考えなければならない箇所がいくつもありましたから。

トム・ミドルトン『Sleep Better』を聴く(Apple Musicはこちら

―選曲しているときは、オーディエンスのどんな姿を想像したのでしょうか。

ジョナス:とりあえず、みんなが椅子に座ってるところをイメージしました。誰も立ち上がってなかったのは確かですね(笑)。

―これまで実際のフロアでそうなった経験ってあります?

ジョナス:すぐに思い出せるエピソードはないけど……。友人の話などを聞くと、クラブに出かけて行ってその場の雰囲気や選曲、あるいは音響といった要素がすごくしっくりきて、深く浸り切っているときの感覚というのは、なんかちょっと眠っているような、夢の中にいるような感じだと聞きました。とても興味深い感想ですよね、音楽がある特定の感覚を人に与えるというか。僕自身もそういう話から「音楽の効能」について考えを深めているのだと思います。

ジョナス・ブルー『Blue』を聴く(Apple Musicはこちら

―「音楽の効能」という意味では、音楽が人をリラックスさせる要素として、なにが重要なのでしょう。

ジョナス:僕はソフトウェアやシンセサイザーを用いてたくさんの音楽をプログラミングしてきたのですが、そのせいか音楽の「テクスチャー」や「トーン」に耳がいくんです。サウンドの中で動きのある要素、といえばいいのかな。それが心地よかったり、「自然音」が含まれていたりすることが、リラックスする上ですごく重要だと思っているし、個人的にもそういう音楽が好きですね。

その一方で、さっきもいったようにジャズミュージックも大好きで。たとえ技巧的で複雑な演奏をしていたとしても、ジャズミュージシャンの演奏スタイルは、僕をリラックスさせてくれます。ダンスミュージックとジャズミュージックのどちらにも僕は安らぎを感じるし、どちらを選ぶかはそのときの気分次第ですね。

何千人というオーディエンスの前でパフォーマンスするのは、ときにものすごく気圧されてしまうものなんです。

―音楽を聴く以外では、いかがですか? ジョナスさんがリラックスを感じる時間ってどんな時間でしょう。

ジョナス:変な話ですが、スタジオで座ってシンセサイザーのツマミをいじっているときですね(笑)。「テクスチャー」や「トーン」の話に戻りますが、新しい音色を作り出しているときが一番心が安定します。まあ、車の運転なんかも好きだけど、やっぱりスタジオで過ごす時間が僕にとってのリラクゼーションだしレメディ(癒し)なんです。

ジョナス・ブルー, MAX“Naked”を聴く(Apple Musicはこちら

―スタジオの中が安心するんですね。一方で、ジョナスさんにとってはステージに上がる前なども、リラックスすることが重要になりますよね。

ジョナス:リラックスすることはとても大切ですね。出番の30分くらい前には控え室で1人じっとして、音楽もなにも聴かずに心を整えています。何万人というオーディエンスの前でパフォーマンスするのは、ときにものすごく気圧されてしまうものだから、1人静かにセットリストを確認し、盛り上げるところやクールダウンするところなど頭の中でイメージしてみるんです。

―音楽に囲まれているジョナスさんにしてみれば、とてもレアな瞬間ですね。

ジョナス:確かにそうですね(笑)。

―ストレスの最大要因の1つが「睡眠不足」とよくいわれますが、ジョナスさんは普段よく眠れていますか?

ジョナス:睡眠に関しては、去年かなり苦しみました。あまりにも色々なタイムゾーンを移動したことによる時差ボケが尋常じゃなかったんです。それこそ、さっきも話したように音楽の力を借りて、スイッチを一旦切って安らかな気持ちを取り戻したことが何度もあります。そういう曲は、今回のミックスにもちゃんと入れてあって。その意味で、この試みは僕の個人的な体験をシェアする機会にもなるはずです。

―『THE FADE OUT』では、ジョナスを苦しみから救ってくれた曲を聴けるんですね。

ジョナス:そう。だから今回のイベントは、僕だけじゃなく聴いてくれるみんなにとっても、まったく新しい体験になるはずです。こういうスタイルのDJセットは初めてだし、とても意味があるものだと思います。僕自身、「スイッチを切ってリラックスする」という課題に長年取り組んできた人間なので、その成果を「DJセット」という形でみんなとシェアできることが本当に嬉しい。ともあれ、みんなにはとにかくリラックスした状態で、僕のミックスが誘(いざな)う旅に身を任せて楽しんで欲しいですね。

―ありがとうございます。……プレイ中、本当に寝ちゃってもいいんですか?

ジョナス:もちろん!

『This is ジョナス・ブルー』プレイリストを聴く(Spotifyを開く

イベント情報
『THE FADE OUT』sponsored by glo™

日時:2020年7月29日(水)22:30~配信開始
出演者:ジョナス・ブルー、トム・ミドルトン

リリース情報
ジョナス・ブルー, MAX
『Naked』

配信中

プロフィール
ジョナス・ブルー
ジョナス・ブルー

ストリーミングは100億回再生を記録、ヒットシングルは売上5千万枚を達成した。彼は一流DJ、ポップ界の大スター、ソングライターとしても絶賛され、イギリスの音楽賞『BRITアワード』に5回ノミネート。現在までに、世界中で120回以上ものプラチナヒットを飛ばしている。現在は、スタジオやチャートから離れ、精力的にツアーを行う。世界中のメジャーな音楽フェスティバルのメインステージに立ち、フジロック、Lollapalooza(ロラパルーザ)、EDC、Tomorrowland(トゥモローランド)、クリームフィールズ等に出演。それだけに留まらず、イビサ島でも活躍し、人気スポットやクラブでのパフォーマンスを成功させている。



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