自信なきシンガー・シトナユイ 流されながら肩の力を抜いて進む

3歳からクラシック音楽に親しみ、ダンスを通してR&Bやヒップホップを体に染み込ませてきた現役音大生のシトナユイが初の配信シングルを発表した。

幼少期から音楽の道をひた走ってきたかと思いきや、じつは「音楽の道に進む気はなかった」というシトナ。流れるままにたどり着いた音楽というフィールドで、彼女は何を表現しようとしているのだろう?

今回配信された“morning moon”からは、ルーツであるクラシックの麗しさとブラックミュージックのような力強さ、そして自身のクールな歌声をあくまで「音」として捉えるような姿勢が感じられる。音大に入って感じた周囲との差異や、自分への自信のなさ、そしてこれから生み出したい音楽について、ざっくばらんに語ってもらうことで、シトナの表現の輪郭を探った。

シトナユイ
大阪音楽大学ミュージッククリエーション専攻在籍。幼少期にバレエを習い始め、バイオリン、ストリートダンスなどさまざまなジャンルの音楽を経験し、現在に至る。留学経験やダンスの影響から、洋楽のような雰囲気の楽曲の制作を得意としている。また、現在は自身の楽曲を発表するとともに、劇伴奏の作曲にも興味を持ち、勉強中。

『関ジャム』と教師の言葉が音大進学の後押しに

―シトナさんは幼少期からピアノ、バイオリン、フルートなどさまざまな楽器を演奏されていたそうですが、クラシックが音楽の入り口だったのですか?

シトナ:そうですね、完全にクラシックです。3歳からピアノを始めて、そのあとバイオリンに転向したんです。どんどんクラシックにのめり込んでいって、中学までは声楽もやっていました。

―同時に、バレエも習っていたそうですね。

シトナ:はい、5歳くらいのときに始めました。だけどフリフリの衣装が自分にはフィットしなくて、小学校に入ってからはストリートダンスの学校に通い始めたんです。そこでヒップホップやR&Bにも触れて。ただ、やっぱり自分のなかで大きいのはクラシックの存在です。

シトナユイ“morning moon“ミュージックビデオ

―高校では「ポピュラーボーカルコース」に入られ、その後は大阪音楽大学に進学されています。早いうちから音楽一本でやっていくという気持ちがおありだったのでしょうか?

シトナ:じつは高校に入った時点では「音楽がやりたい」というよりも、「勉強をしたくない」という気持ちのほうが大きかったんです(笑)。

高校からさらに音大へと進んだきっかけは、高校時代の先生が、大阪音大に新設されたミュージッククリエーション専攻に対して「お金と時間があったらぼくが入りたい」と言っていたから。

その頃ちょうど『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)の中田ヤスタカさんがDTMを紹介する回を見ていたのですが、先生が「こういうソフトを使えば映画音楽もつくれるんだよ」と教えてくれて。そこで「この大学に入りたい」という気持ちが一気に強くなりました。

―映画音楽に興味を持ったのは何がきっかけだったんですか?

シトナ:映画『ハリー・ポッター』シリーズ(2001年~2011年)の劇伴を手掛けたジョン・ウィリアムズや『チャーリーとチョコレート工場』(2005年)のダニー・エルフマンの音楽が、子どもの頃からすごく好きなんです。自分はクラシックから音楽を知ったので、親しみやすい部分もあるのだと思います。

ジョン・ウィリアムズ『ハリー・ポッターと賢者の石 ― オリジナル・サウンドトラック』を聴く(Apple Musicはこちら

劣等感を感じる日々に光が差したボサノヴァの課題

―大学では実際に作曲を始めてみていかがでしたか?

シトナ:それまで作曲経験がなかったので、1年くらいは講義についていけない時期が続いて、本当に自分に自信がなくなっていました。小さい頃は少し音楽やダンスができるだけで「すごい」と言われていたのに、大学に入ったら「自分は1番レベルが低いんじゃないか」と思ってしまって。

同級生はみんなギターやピアノ、エレクトーンが弾けたり、アレンジがうまい子ばかりで。1年生は歌をつくる講義から始まるんですが、私は大学までポップミュージックを聴いてこなかったので遅れを取っていました。

―歌をつくるというのは、いわゆるメロディーをつくっていくということですよね?

シトナ:そうですね。1、2年生の授業では「歌」がCM音楽や映画音楽、すべての基本になるという理念のもと、カントリーからインドポップ、演歌や沖縄民謡まで、幅広い音楽のメロディーをつくり続けました。

―シトナさんが授業でつくったメロディーには、どういう反応があったのでしょうか?

シトナ:やっぱり周りはJ-POPを聴いていた人たちばかりだったので、クラシックやヒップホップを聴いてきた私のつくる曲は「何か変だな」という目で見られていたと思います。

授業で曲を発表しても、「反応しようがない」みたいな反応が返ってきたりして(笑)。良くないなら良くないと言ってほしかったし、その頃はとにかく明確な反応を欲していました。

ただ、1年生の後期くらいからメロディーのある曲も徐々にかたちにできるようになってきて、ボサノヴァの課題でつくった曲で、先生に褒められたんです。それが嬉しくて、「遅れている」という苦手意識が払拭され始めました。

シトナユイ“morning moon“を聴く(Apple Musicはこちら

肩の力を抜いて自分の長所を見極め「競争のないところへ」

―ボサノヴァの課題でつくった曲が、シトナさんのなかでブレイクスルーになったとおっしゃっていましたが、そのときに曲づくりや歌唱面で何か工夫したことはあったんですか?

シトナ:ボサノヴァの課題は、肩の力を抜いてつくったんです。私は高校時代から、アレサ・フランクリンやアリシア・キーズ、アデルなど、強さを感じるボーカルが好きで。加えて声楽も習っていたので、ポップスと自分の声がなかなか馴染まないという感覚があったんです。

でもボサノヴァの課題で、空気が抜けるような独特の歌い方を真似して表現したら、褒められたんです。そこで初めて「こういう感じでいいんや」と感覚が開けていったというか。自分の声には英語の響きや音程の低い曲が合うのかもしれないという発見もありました。

アレサ・フランクリン『Aretha Now』(1968年)を聴く(Apple Musicはこちら

―それまでは「寄せにいかなきゃ」という思いがあったけれど、徐々に自分の長所や生かせる部分に気づいていったんですね。

シトナ:そうですね。一般的には、「ポップスは好きでもクラシックを聴くと眠くなっちゃう」みたいな人って多いと思うんです。私はその逆で、人気のバンドやアイドルをこっそり調べて勉強しても、やっぱりあまり馴染めなくて。でもだからこそ、自分しかできないことをして競争のないところに行きたいと思いました。

人の反応でしか自分の価値がわからない。そこから開ける扉もある

―映画音楽が音大入学のひとつのきっかけになったとのことでしたが、実際に大学で劇伴をつくる機会はありましたか?

シトナ:大学3年生になって、やっと劇伴の講義が受けられるようになりました。映画『浅田家!』(2020年)や『帝一の國』(2017年)の音楽を手掛けているミュージッククリエーション専攻主任の渡邊崇教授の講義で、『舟を編む』(2013年)という映画を題材に、1年かけて曲をつくって。

言葉を使わず、曲調や楽器だけで感情を表現しなければいけないというのがそれまでの曲づくりとの大きな違いでしたね。登場人物の性格や行動から心情を読み取り、それを音楽でじわじわ表したいと思って曲をつくりました。

映画『船を編む』予告編

―憧れていた劇伴をやってみて、さらに劇伴への思いは強くなったのでしょうか?

シトナ:1年生のときからずっと劇伴の講義を待ち望んでいて、先輩の講義をのぞいては「楽しそうやなあ」と思っていたんですけど……ボサノヴァの課題が「いいね」と言われるようになったり、校内のコンペで歌を評価されたりしてからは、「劇伴一本!」という感じではなくなりました。歌にも同じくらいのめり込んでいきましたね。

―シトナさんにとって、周囲の反応や評価はとても重要なのかなと感じました。人々の声によって、新しくやりたいことを見つけていく感覚はありますか?

シトナ:そうですね。自分は音楽の趣味が周りの人と違ったので、「良い音楽」とは何なんだろう? と迷ってしまっていたんです。人の反応を見ることでしか、自分の曲の価値を判断できなかったというか。

周りに流されやすいという面もあると思うのですが、逆にフィードバックをもらえたら、期待されてるクオリティーよりもさらに高いクオリティーで曲をつくることは得意かなと思います。

―周りからの声によって新しく自分を発見することも多そうですね。去年は、シトナさんの歌声に惚れ込んだDJ HASEBEさんの楽曲”Crying Over Moonlight”にボーカルとして参加されていましたが、このときにも何か新たな発見はありましたか?

DJ HASEBE“Crying Over Moonlight feat.シトナユイ”を聴く(Apple Musicはこちら

シトナ:そうですね。私は基本的に自信がないので「これが格好良いんや」とあとから気づくことも多くて。

HASEBEさんに声をかけていただいたときも、自分は低くて地を這うようなメロディーを歌うのが得意だと勝手に思い込んでいたので、デモを聴いて「こんなキャッチーなメロディーの曲、私が歌えるのかな?」と思ったんです。

でも、HASEBEさんは「肩の力が抜けているボーカルが気に入った」と言ってくださったので、そこで「そういう自分もありなんや」と気づくことができました。

とにかく体でノってほしい。シトナユイの譲れないポイント

―周りの声に応えていく過程で、シトナさん自身が「これだけは譲れない」ポイントはありますか?

シトナ:どの言語の人が聴いても、聴いた瞬間に「格好良い」と感じる音楽をつくっていきたいです。いま日本語詞を書いているのは、まず聴いてもらうための入り口にすぎないというか。

―今回、初めてのソロ作品『morning moon』を発表されましたが、これも日本語詞がメインですよね。歌詞は入り口にすぎないとはいえ、最初のフレーズから<ニセモノの世界>という言葉があったり、シトナさんは世界をどう見ているのかなと考えさせられる言葉が並んでいます。歌詞はどのようにつくっていったんでしょうか?

シトナ:歌詞を見たら色んな考察ができると思うんですけど、じつは全然重たい内容じゃなくて。<ニセモノの世界>という歌詞を書いたのは12月末だったのですが、スマホが速度制限で使えなくなり、悲しい気持ちになったので、そのときの気持ちを書いたんですよ(笑)。

―え! もっと意味があるんじゃないかと思っていました(笑)。じゃあ<ニセモノの世界>と言うのは……。

シトナ:そのときは「携帯の世界よりも現実世界を生きよう」という気分だったので、そこから<ニセモノの世界に全力を注ぐより / 自分が輝いてるかでしょ>というフレーズが生まれんです。でも、そのきっかけは通信制限で。ちゃんと歌詞を読んでみたら大したことは言ってないという、ギャップのある曲が好きですね(笑)。

スマホを見すぎな人が多い世の中やSNSで言われた悪口に対して、何も考えていないわけではないのですが、自分の曲を聴いてもらうときにはそこまで深読みしてほしくない。

もともとダンサーだったこともあって、とにかく体でノッてもらえたらいいなと思っています。私の曲は、通勤のときに気分を上げるためとか、日常のBGMとして聴いてほしいです。

シトナユイのInstagramより

得意なことも苦手なこともわけあいながら。楽曲は成長日記

―それでもシトナさんが音に言葉を乗せて歌うのは、やはり声や言葉をサウンドとして捉えている部分が大きいのでしょうか?

シトナ:そうですね。自分の声が楽器として曲全体の雰囲気をつくっていると思っているんです。音程はいくらでも修正できるけど、声質だけは誰にとっても唯一無二だと思っています。

―自分の声を楽器として捉えているというお話から、シトナさんは他のアーティストやシンガーとの協業にも興味があるのかなと思ったのですが、いかがでしょう?

シトナ:今作はひとりでつくりましたが、私が不得意なことは他の人に任せて、他の人が不得意なことを私に任せてもらうというかたちは自分に向いていると思います。

私はこれまでに大きい失敗をしたことがないので、未体験の失敗に対する恐怖も大きくて。苦手なことをやって失敗して「ほらみたことか」となるのは嫌なので、だったら最初から得意な部分を任せ合えたらと思っているんです。

DJ HASEBE“Crying Over Moonlight feat.シトナユイ”ミュージックビデオ

―コラボするのであればどういう人と作品をつくってみたいですか?

シトナ:絵を描いている人とのコラボはおもしろそうだなと思います。絵を見て私が作曲するか、私の音楽を聴いて絵を描いてもらうか。どちらが先かはわからないですが、そういった音楽以外の文化の人とも関わりたいと思っています。

やっぱり人と関わり続けると、自分のアイデアも枯渇しない気がしていて。学校で友達のつくった曲を聴いて「くそ~いい曲書くな~!」って嫉妬するのも私にとってはインプットなんですよね(笑)。

―人と関わることで得る刺激が大きいんですね。これからどんな作品を生み出していきたいですか?

シトナ:以前、同級生みんなで計画をして夏休みに行った合宿で星を眺めたことがあったのですが、そのあとの授業ではみんながそのときのことを曲にして書いてきたんです。

そんなふうに私も印象的な場面での気持ちや感動を、曲に残したいと思っています。あとで聴き返すと恥ずかしくなることもありますが、楽曲は私の成長日記みたいなものなんです。

リリース情報
シトナユイ
『morning moon』

2021年7月28日(水)配信

プロフィール
シトナユイ
シトナユイ

大阪音楽大学ミュージッククリエーション専攻在籍。幼少期にバレエを習い始め、バイオリン、ストリートダンスなど様々なジャンルの音楽を経験し、現在に至る。留学経験やダンスの影響から洋楽のような雰囲気の楽曲を制作する事を得意としている。また、現在は自身の楽曲を発表する事とともに劇伴奏の作曲にも興味を持ち、勉強中である。

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