10万人ライブを終えた長渕剛が語る「僕の歌を疑ってほしい」

応募総数5000名超え。「剛コール」で開幕したトークショー

長渕剛にとって初となるトーク&サイン会が、青山ブックセンター本店にて開催された。『長渕剛:民衆の怒りと祈りの歌』刊行記念トーク&サイン会『いま、民衆の歌とは何であるのか?』と題された今回の催し。同書に掲載されたインタビューと同じく、デビュー作『紋切型社会——言葉で固まる現代を解きほぐす』でいきなり『Bunkamuraドゥマゴ文学賞』を受賞した新鋭ライター武田砂鉄が聞き手を務めることも大きな注目を集めていたこのイベントは、定員70名にもかかわらず、応募総数が5000名を超えたという。とりわけ印象に残った長渕の発言をピックアップしながら、当日の模様をレポートしたいと思う。

『長渕剛:民衆の怒りと祈りの歌』刊行記念トーク&サイン会『いま、民衆の歌とは何であるのか?』会場風景
『長渕剛:民衆の怒りと祈りの歌』刊行記念トーク&サイン会『いま、民衆の歌とは何であるのか?』会場風景

司会者から登場が告げられると同時に、客席から一斉に湧き上がる剛コール。それを受けて登壇した長渕に、まずは武田が音楽関係者以外にも学者や小説家など、さまざまな人々が熱い「長渕論」を書き下ろした同書に対する率直な感想を尋ねる。

長渕:僕が作り上げてきた音楽や、デビューからずっと応援してくれているファンのみんなと作ってきた時代感というものを、思想的な見地から書いていただいたことに非常に新鮮味を覚えました。デビューして40年近くなりますけど、僕の歌を聴いた人たちが、それぞれのフィールドで社会と闘って生きていることがわかったのも嬉しかったですね。長渕剛の歌やものの考え方を、どういうふうに個々の人生の中に照らし合わせながら生きているのか。それを、よくあるような「長渕剛の音楽は、こんなに素晴らしい!」といったトーンではなく、非常に正直に書いてくださっていたところが、発見でもあったし、もっと頑張らなきゃという気持ちにもなりましたね。

長渕剛
長渕剛

血を流すだけが闘いではないのかもしれない。長渕が考える「強い人間」とは

続いて、昨夏に開催され、その模様を収めたDVDが2月3日にリリースされたばかりの『長渕剛10万人オールナイト・ライヴ2015 in 富士山麓』の話や、『長渕剛:民衆の怒りと祈りの歌』が刊行された11月に亡くなった愛犬であり戦友の「レオ」についてひとしきり話したあと、話題は再び本書の内容へ。長渕自身が対談した作家・写真家の藤原新也と、小説家・柳美里の印象について、彼はこんなふうに語った。

長渕:心に残っているのは、「僕は社会を変えようとは思わない。ただし、社会が僕をどれだけ変えようとしても、僕自身は変わらない」という藤原さんの言葉ですね。変革や改革、いろんな闘いに血を流さなきゃ時代は変わらない、国は変わらないというのが、今の我々が歴史で学んだことだとすると、藤原さんがおっしゃっているのは、非常に平和的なものの考え方だと思うんです。要するに、こちらからねじ伏せてやるというのではなく、社会は常に流転して変わっていくものなんだと。だけど、何が来ようとも変わらない信念が自分にはあるんだよと。その考え方は僕にとって非常に新鮮だったし、そういう生き方のほうが、もしかすると強い覚悟が必要なんじゃないかと思いました。

長渕剛

さらに、柳美里との対談について、「自分の中にある劣等感みたいなものを出発点に、人間が何を求めてどう生きていくのか。それがすごく知りたいことだった。柳美里さんの作家としての真摯な向き合い方に、僕は非常に感銘を受けました」と語ったのち、話題は「強い人間とは何か?」という話へ。「長渕さんは周りから強い人間だと思われている」という武田に対し、彼はこんなふうに答えていた。

長渕:強い人間になりたいけど、そう思うということは、自分の中にある弱さを認めていることなんですよね。それを認めずして、強くなることなんてできないじゃないですか。だから、僕は自分のことを強い人間だとは思ってない。僕の歌もそうですよね。1番の歌詞では、自分の弱さを歌っている。サビから2番に駆け上がっていくところで、「よし、だからこそこうやっていくぞ!」という歌に変わっていく。

音楽業界への怒り。「長渕剛の歌をどうか疑ってほしい」

そして、トーク後半は、現在の音楽業界に関する話題へ。「本物の音楽と、そうでないものを聴き分ける力」について尋ねられた長渕は、次のように答えていた。

長渕:そんなの聴いた瞬間にわかりますよ。みんな多分、本当はわかっているんだと思う。要は、お金が目的なのか、それとも表現が目的なのかっていうことです。それを僕たちは、見続けるべきだと思います。それから、こういうものは聴かないという考え方をしっかり持つことも大事ですよね。イエスとノーをはっきりさせながら、見たり聴いたりしないと。個人の中にもっと厳しい感覚を持つべきだと思う。そういう意味でも、これからますます音楽業界の真価が問われるように感じますね。

「僕のいる音楽業界は、全部腐ってるような気がしてならない」――現状に対する長渕の怒りは、さらに続く。

長渕:怒られるかもしれませんけど、今の日本における音楽っていうものを僕はまったく信じていませんね。ウソばっかりだから。もちろん、その中には売れている売れてないに関わらず、音楽の中に自分の人生を全部詰め込んでいるような若いミュージシャンもいるだろうし、そういう人たちはみんな好きですけど、ほとんどは大人の餌食になっているように僕には思えてならないです。大人が引っ張ってくれると思ったら、それは大きな間違いなんですよ。若者の特権っていうのは、大いに反骨精神を持って、「あんな腐ったオヤジのいうことなんか聞くかよ」ということだと思う。だからこそ、そういう10代に対して、背を向けるような自分の音楽活動であってはならないっていうことは、常々考えていることです。

長渕剛

トーク終盤には、当日会場に馳せ参じた本書の執筆者たちからの質問も受けていた長渕。その中で、「自身のファンについて、本人的にはどのように考えているか?」と問われた際の答えが、個人的には特に印象的であった。

長渕:世の中にたくさんある歌の中から、僕の歌をチョイスしてくれた人たちに申し上げたいのは、どうかその歌を猜疑の目で見てもらいたいっていうことなんです。120%長渕の人間性として見ないでほしい。つまり、疑ってかかってほしい。疑ってかかった中に、何か本当に腑に落ちるものが、みなさんと共有されたときに、僕とみんながイコールになり、この時代を一緒に駆け抜けていくことができるんです。だから、そういうふうに厳しい目で、心の中に入れてもらいたい。僕はそれを切に願いますね。この先、僕が放つ歌、あるいは昔放った歌を、どうかいまいちど強烈に「本当か?」という厳しい目で見ていただきたい。その厳しさの中で、僕はさらに研ぎ澄ませた歌を、みなさんに思いっきり直球で投げていきたいと思っているんです。つまり、僕の歌が淘汰されるのかされないのか、僕が本物になれるのかなれないかっていうのは、みんなで一緒に練磨して、しのぎを削りながら生きるっていうことなんです。そういうふうに僕は、僕の歌を聴いている人たちに、お願いしたいと思っています。
イベント情報
『いま、民衆の歌とは何であるか?』

2016年2月7日(日)OPEN 17:30 / START 18:00
会場:東京都 表参道 青山ブックセンター 本店
出演:
長渕剛
武田砂鉄(聞き手)

書籍情報
『KAWADE夢ムック 文藝別冊「長渕剛 民衆の怒りと祈りの歌」』

2015年11月28日(土)発売
価格:1,404円(税込)
発行:河出書房新社

リリース情報
長渕剛
『富士山麓 ALL NIGHT LIVE 2015』(5Blu-ray)

2016年2月3日(水)発売
価格:21,600円(税込)

長渕剛
『富士山麓 ALL NIGHT LIVE 2015』(5DVD)

2016年2月3日(水)発売
価格:19,440円(税込)

長渕剛
『富士山麓 ALL NIGHT LIVE 2015』(5CD+DVD)

2016年2月3日(水)発売
価格:5,400円(税込)

プロフィール
長渕剛 (ながぶち つよし)

1956年9月7日生まれ。鹿児島県出身。1978年シングル「巡恋歌」で本格デビュー。翌年にファーストアルバム『風は南から』をリリースし、80年「順子」でチャート1位を獲得する。 以後、85年「勇次」、87年「ろくなもんじゃねぇ」、88年「乾杯」「とんぼ」などヒットを連発。90年代に入り、91年『JAPAN』、93年『Captain of the Ship』など、オリジナリティーの極みとも言える革新的なアルバムをリリース。2003年シングル「しあわせになろうよ」でシングルの総売り上げは1000万枚を突破。さらに、ソロアーティストとして12枚のオリジナルアルバムでオリコンチャート1位獲得という、金字塔も打ち立てている。2011年の東日本大震災後は、いち早く復興支援ラジオ番組を立ち上げ、自らの足で被災地をたびたび訪れた。これらの経験から生まれた多数の歌を収めたアルバム「Stay Alive」を2012年5月にリリース。2015年8月22日「ふもとっぱら」にて「長渕剛10万人オールナイト・ライヴ2015 in 富士山麓」を開催した。



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