若き指揮者 水野蒼生が『Yellow Lounge』で見せたクラシカルDJ

世界各国で開催されてきた、クラシック音楽を自由に味わう『Yellow Lounge』が東京で開催

「世界最高峰のクラシックミュージックと究極のデジタルアートの邂逅」をテーマとするクラシックイベント『Yellow Lounge Tokyo 2018』が、9月12日、東京・お台場にある「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボ ボーダレス」で開催された。

世界最古のクラシックレーベルとして知られる「ドイツ・グラモフォン」が、従来のクラシック演奏会ならではのルールやマナーに縛られない、より自由な形で多くの人にクラシック音楽を味わってもらおうと、2001年にドイツのハンブルクでスタートさせて以来、アムステルダムやロンドン、ニューヨークなど世界各国のさまざまな都市で開催されてきた『Yellow Lounge』。

レーベル創設120周年となる今年、東京で開催にするにあたってその会場に選ばれたのが、今年6月にオープンして以来、めくるめく美しさと没入感で話題の「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボ ボーダレス」ということもあり、発売開始後、瞬く間にチケットがソールドアウト。今回のイベントは、いつにも増して注目度が高かったようだ。

テーマは「世界最高峰のクラシックミュージックと究極のデジタルアートの邂逅」

貸し切り状態で1万平米もある同ミュージアムの展示物を思い思いに堪能した約100人の観客が向かったのは、『人々のための岩に憑依する滝』と題された一画だ。岩の上に滝が流れ落ち、その周囲で花が散り続ける映像が映し出される幻想的な空間。その中央に置かれたピアノを取り囲むような形で観客たちは座り込み、今回のイベントを体験することになる。

そして、22時をまわった頃、まずは若手クラシカルDJ、Aoi Mizuno(水野蒼生)のアクトがスタートする。シュトラウスの“ツァラトゥストラはかく語りき”やホルストの“火星”など、クラシックの名曲を大胆にリミックスしながら、組曲のように壮大な音楽世界をシームレスに紡ぎ出してゆくAoi Mizuno。そのDJプレイが、四方はもちろん天井から床まで、絶えず姿を変えながら映し出される映像の効果も相まって、早くも未体験のクラシック空間を生み出してゆく。

水野蒼生 © Ryota Mori

その後、登場したのは、この日のスペシャルゲストであるジャズピアニストの山中千尋だ。ピアノ、ベース、ドラムというトリオ編成でスリリングに展開する、エモーショナルなジャズの世界。そして再びAoi MizunoのDJを挟んだのち、若手随一のテクニックと人気を誇るピアニスト、アリス=紗良・オットが、ステージに登場する。

山中千尋 © Ryota Mori
アリス=紗良・オット © Ryota Mori

今年、ドイツ・グラモフォン在籍10周年を迎える彼女は、8月にリリースした自身のアルバム『ナイトフォール』から、ドビュッシーの“夢想”、サティの“グノシエンヌ第1番”、ドビュッシーの“月の光”を立て続けに披露。その細やかなタッチに一堂聴き惚れる。

その余韻もつかのま、彼女はドイツ・グラモフォンに30年以上在籍する世界最高峰のチェリスト、ミッシャ・マイスキーをステージに迎え入れ、2人でマスネの“タイスの瞑想曲”、サン=サーンスの歌劇『サムソンとデリラ』から、“あなたの声に我が心は開く”を披露。繊細なピアノと甘く切ないチェロの音色が、幻想的な空間の中で、柔らかに聴衆を包み込む。そして、ファリャのバレエ『恋は魔術師』から“火祭りの踊り”でドラマチックなフィナーレを迎えるのだった。

ミッシャ・マイスキーをステージに迎え入れて演奏している様子© Ryota Mori

「世界最高峰のクラシックミュージックと究極のデジタルアートの邂逅」というテーマのごとく、これまで体験したことのない幻想的な空間で、美しく響き渡るクラシックのアコースティックな音色。そこには、いわゆるラグジュアリーな空間とはまた違う、新たな発見と驚きが、確かにあったように思う。

名門音楽大学でオーケストラ指揮を学びながら、DJとしても活躍する水野蒼生とは何者なのか

さて、ここで改めて注目したいのは、計3回にわたって登場したクラシカルDJ、Aoi Mizunoというアーティストの存在だ。卓の前で機材を巧みに操りながら、まるで指揮者のように、身振り手振りで、その音楽のエモーションを表現する様子が聴衆の目を惹きつけた水野。それもそのはず。彼の本業は、まさに指揮者なのだから。

水野蒼生 © Kenji Takahashi

12歳からバイオリンを始め、10代のうちから指揮者の道を志し、東京音楽大学指揮科に入学するも、さらに広い世界へ飛び出したいという思いから、半年で退学。ヘルベルト・フォン・カラヤン(1955年から1989年まで、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の終身指揮者・芸術監督を務めたオーストリアの指揮者)を輩出した名門、ザルツブルクのモーツァルテウム大学に合格し、現在は同大学のオーケストラ指揮と合唱指揮の両専攻で学ぶという異色の経歴を持った、期待の日本人若手指揮者である水野蒼生。

クラシックの本場、ドイツで指揮者としての修行を積みながら、その一方で彼はこれまで、主に自分と同世代の日本の若者たちに向けて、従来の形式にとらわれない、新しいクラシックの楽しみ方を提案する活動を次々と行ってきた。

2016年2月には、ライブハウスで大音量で楽しむピアノリサイタル『東京ピアノ爆団』をプロデュース。さらに、2017年の夏には、若手室内オーケストラ「O.E.T(オーケストラ・アンサンブル・東京)」をクラウドファンディングで立ち上げるなど、その活動は実に多彩。そう、彼は日本のクラシック界に新たな旋風を吹かせようとする、若きマエストロなのだ。

そんな彼が積極的に行っているのが、この日も披露した、クラシックのみを流すクラシカルDJとしての活動だ。その実績が認められ、今年9月には、ドイツ・グラモフォンの膨大なカタログの中から選りすぐりの名演をセレクトし、自身の手でミックスした前代未聞のアルバム『Millennials -We Will Classic You-』をリリースするなど、ここへ来てさらに注目度がアップしている水野蒼生。

オーセンティックな場所に身を置きながら、その一方でクラシックの新しい聴き方を模索する彼は、「クラシック音楽への新しいアクセス方法」を提示する『Yelllow lounge』というイベントのコンセプトを、まさに地で行くような存在と言えるのかもしれない。

イベント情報
『Yellow Lounge Tokyo 2018』

2018年9月12日(水)
会場:東京都 お台場 森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボ ボーダレス
出演:
Aoi Mizuno(クラシカルDJ)
アリス=紗良・オット(ピアノ)
ミッシャ・マイスキー(チェロ)
山中千尋(ピアノ)

プロフィール
水野蒼生
水野蒼生 (みずの あおい)

© Kenji Takahashi

ミレニアル世代の指揮者であり、史上初のクラシカルDJ。音楽の都ザルツブルクでカラヤンの後輩としてクラシック音楽の真髄を学ぶかたわら、東京で「クラシックの入り口の人間」として、形に囚われない新しいクラシックの楽しみ方を提案する活動をしている。現在オーストリア国立モーツァルテウム大学のオーケストラ指揮、合唱指揮の両専攻に在籍。これまでにオーケストラ指揮を井上道義(講習会)、ペーター・ギュルケ、ハンス・グラーフ、アレクサンダー・ドゥルチャー、ブルーノ・ヴァイル各氏に、また合唱指揮をカール・カンパー氏に、現代音楽指揮をヨハネス・カリツケ氏に師事。O.E.T代表。東京ピアノ爆団主宰。



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