低迷する音楽番組。フジテレビが21年ぶりに挑む『水曜歌謡祭』は、回復の起爆剤となるか?

フジテレビが21年ぶりに挑む『水曜歌謡祭』

4月の改編期には多くのテレビ番組が入れ替わるが、この春は、音楽番組のこれからを考える上でも大きな転換期になりそうだ。特に話題を集めているのが、フジテレビの生放送音楽番組『水曜歌謡祭』(毎週水曜19:57~20:54)の始動。MCを務めるのは森高千里とアンジャッシュの渡部建。フジテレビで生放送のレギュラー音楽番組が始まるのは実に21年ぶりだという。生放送であること、森高千里という人選、そして番組名からして、年末に総力を挙げて作る音楽番組『FNS歌謡祭』を意識した番組になるのだろう。

フジテレビは、10年間ほど定着していた『僕らの音楽』を昨年9月に打ち切った後、10月から『どぅんつくぱ~音楽の時間~』を開始するもわずか2か月で打ち切り、仕切り直した『音楽の時間 MUSIC HOUR』もこの3月で終了する。意外なアーティストコラボレーション×生演奏でリレーしていく、年末の『FNS歌謡祭』が持つブランド力を新番組にどのように注ぐのか興味深い。『FNS歌謡祭』は、昨年末の放送回からプロデューサー・きくち伸(『HEY!HEY!HEY!』『LOVE LOVEあいしてる』『僕らの音楽』といった革新的な音楽番組を築き上げてきた)が番組を離れ、途端にコラボレーションの組み合わせや選曲に冒険が感じられなくなってしまった。今回の『水曜歌謡祭』には新体制となった『FNS歌謡祭』のチーフプロデューサーなども名を連ねている。昨年の『FNS歌謡祭』の保守的な作りを打破する番組を期待したい。もちろん曜日は異なるが、長寿番組『ミュージックステーション』と同じ時間帯で攻める以上、その差異化も気になる。

『うたばん』にあって『ミュージックドラゴン』に足りなかったもの

『うたばん』でとんねるずの石橋貴明と中居正広にいじられ、『HEY!HEY!HEY!』でダウンタウンの浜田雅功に頭を叩かれ、『ミュージックステーション』でタモリと温度の低いトークをする……1990年代後半から2000年代の音楽業界がトライアングルとして重宝していた音楽番組の存在感は、そのうち2つの番組が終わることですっかり薄まってしまった。これもまた「音楽業界の趨勢」と早々に片付けるのではなく、この春の改編期で変動する音楽番組と併せつつ、考察を改めておきたい。

日本テレビで放送されていた『ミュージックドラゴン』(毎週金曜24:58~25:58 / MC:タカアンドトシ、佐野ひなこ、徳島えりかアナウンサー)が3月末で終了する。毎回、スタジオにゲストミュージシャンを呼び、リリースする楽曲についての話はほとんどせずに、タカアンドトシと何がしかの企画に励む番組作りだった。『うたばん』は、盛り上がってきたトークをもったいぶるかのように、トークとトークの間に歌を差し込んでいたが、この番組のパワーバランスも同様に、歌よりもトークや企画に力点が置かれていた。

『うたばん』では、そのトークでの盛り上がりによって、例えばグループ内で埋もれていたモーニング娘。の飯田香織や保田圭のキャラクターが発掘され、T.M.RevolutionやGacktといった突出した話術を持つ存在を引き立たせていった。Every Little Thingのギタリスト伊藤一朗など、バラエティー番組のトークに抗体のないゲストを好物とした石橋や中居の手荒い扱いで知名度を高めていったミュージシャンも多い。その点、タカアンドトシは、『うたばん』と同じようなアプローチでミュージシャンと絡んだものの、タカがボケてトシが突っ込むという日頃のやり口だけで笑いを起こそうとするので、ミュージシャンならではの面白さを引き立たせることが極めて少なかった。

『ミュージックドラゴン』の後続番組として、4月からは『バズリズム』(毎週金曜24:30~25:30 / MC:バカリズム、マギー)がスタートする。番組タイトルに打ち出されているように、SNSで話題となっている(=バズってる)アーティストの情報を盛り込んでいくという。ニュース番組などで一通りやり尽くされた感のあるSNSとの連動は決して斬新なアプローチではないが、どのような使い方を見せるのか、ひとまず楽しみではある。

『LIVE MONSTER』の後に、EXILEだらけのドラマが始まる

日本テレビ系列『LIVE MONSTER』(毎週日曜23:30~23:55)は毎週1組のアーティストが登場し、ライブで2、3曲を披露、MCの中村正人(DREAMS COME TRUE)とトークを繰り広げるという30分番組だ。一頃、『HEY!HEY!HEY!』はある1人のミュージシャンに1時間番組の半分程度を割いて特集する形態をとっていた。その頃の作りにも似ていたわけだが、「好きなミュージシャンしか聴かない」という、せせこましい音楽生活がスタンダードになりつつあるなか、お目当てのミュージシャンの特集でなければ視聴者が見てくれないというリスクは避けられない。

『LIVE MONSTER』は、4月から『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!』(毎週日曜22:56~23:26)の放送時間が30分繰り下がることで押し出されるように終了してしまうのだが、元々の『ガキ使』の枠を使って放送されるのが、EXILE TAKAHIROを筆頭にEXILE TRIBE勢がこぞって出演するドラマ『ワイルド・ヒーローズ』だというのは象徴的である。EXILEやAKB48のメンバーが中核をなす、あるいは専有する番組が各局に点在しているが、外部からの突っ込みによって面白い存在が抽出されていったかつての音楽番組とは距離のある、内輪感の強い作りをしているのが特徴的である。

お笑い芸人と音楽の距離が近かった時代のコンテンツ

バラエティーに近い音楽番組の存在を考える上で、お笑い芸人と音楽の距離を考えることは必須だ。始動時期を明記しつつ紹介すると、浜田雅功と小室哲哉による「H Jungle with t」(1995年)、ウッチャンナンチャンの「ポケットビスケッツ」(1995年)や「ブラックビスケッツ」(1997年)、とんねるずと番組制作スタッフで構成されていた「野猿」(1998年)。音楽そのものを刺身のつまにした、トークを中心にした音楽番組に出ても音源のセールスに結びついた時代、そりゃあ、お笑い芸人が歌を歌うメリットが大いにあったように思う。

太田省一『紅白歌合戦と日本人』(筑摩選書)を開くと、紅白とお笑い芸人の繋がりについてページが割かれている。1991年に出場したとんねるずは「受信料を払おう」と背中に書いて登場、95年にはH Jungle with tが出場する場面で松本人志が乱入している。それほど、お笑い芸人と音楽が近い時代だったのだ。すっかり忘却の彼方だろうが、2000年代にはガレッジセールのゴリが扮する「ゴリエ」、山口智充と宮迫博之による「くず」、島田紳助プロデュースによる「羞恥心」が話題になったのも懐かしい。

音楽番組が新たに機能するかどうかの最終テスト

一昨年20周年を迎えたTBS系列『COUNT DOWN TV』(毎週土曜24:58~25:53)を毎週見るようにしているが、流行の音楽シーンの定点観測として、やっぱりこの番組ほど便利な存在はない。パッケージCDの売り上げデータに準じる総合チャートは、今やアイドル、アニメ、演歌ばかりが目立つが、総合チャートを追う時間をスリムにして、着うたランキングや独自企画のランキングに時間を割くようになった。カウントダウンという番組の特性を守りつつも、時代の流れにあわせて体つきを変えているのだ。

NHK『MUSIC JAPAN』(旧『POP JAM』)やフジテレビ『MUSIC FAIR』などの老舗も健在だ。『ミュージックステーション』にしろ、『CDTV』にしろ、長いことスタンダードな形を守り、淡々と音楽を紹介する音楽番組ばかりが生き残っている。音楽シーンが隆盛していた頃は、スタンダードな音楽番組とイレギュラーな音楽番組が、異なるアプローチでミュージシャンそれぞれの個性を高めあっていた。その多様性を、今の地上波の音楽番組に求めることはできない。スタンダードな音楽番組だけが残った現在、『水曜歌謡祭』はどのように定着を目指すのか。リスナーを惹き付ける存在として地上波の音楽番組が新たに機能するのかどうか、その最終テストになるのだろう。

プロフィール
武田砂鉄 (たけだ さてつ)

1982年生まれ。ライター / 編集。2014年秋、出版社勤務を経てフリーへ。「CINRA.NET」「cakes」「Yahoo!ニュース個人」「マイナビ」「LITERA」「beatleg」「TRASH-UP!!」で連載を持ち、「週刊金曜日」「AERA」「SPA!」「beatleg」「STRANGE DAYS」などの雑誌でも執筆中。著書に『紋切型社会 言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社)がある。



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