『めざましテレビ』放送中の『紙兎ロペ』監督による「謎のゆるアニメ」をBLから読み解く

おぎやはぎ的ポジションのお菓子ブランドが見せた、ただならぬ動き

レーズンサンド、ルマンド、アルフォート、ホワイトロリータ、味ごのみ……。期間限定、ご当地限定、高級志向などの戦略・戦術が入り乱れる常時戦争状態のお菓子界において、けっして主役の座を狙わず、しかし不動の「あいつがいないと、なんか寂しいんだよな」的ポジションを堅守するお菓子と、それを生み出した会社「ブルボン」を、お菓子界の「プロダクション人力舎」(おぎやはぎ所属)と呼びたい。そんなブルボンが、自社商品「フェットチーネグミ」に関連した、奇妙な動画をYouTubeに投稿した。


『フェットとチーネとグミ星人—未知とのお花見篇—』と題された、ゆる~いショートムービーを監修したのは、フジテレビ『めざましテレビ』でも放送中のアニメーション『紙兎ロペ』の監督、青池良輔。「フェットくん」「チーネくん」「グミ星人」というド直球なネーミングのキャラクターが、お花見をしながらフェットチーネグミを食べるという内容だ。家事に追われる母親が布切れでこさえたかのようなアートワークの「フェットくん」と「チーネくん」には、形容しがたい感情を覚える。そして、「グミ星人」が同類であるグミを食べて「うふふ」と笑う狂気じみた展開にも、ブルボンのただならぬ覚悟が見てとれよう。

だが、新聞で言えば4コマ漫画「コボちゃん」的ポジションのブルボンである。安心と信頼の日常を提供してくれたブルボンが、こんなエッジの利いた変化球を投げてくるなんて! と、筆者の心配は止まない。

ゆる系アニメが愛される理由は、ボーイズラブが愛される理由と同じ?

今回の『フェットとチーネとグミ星人—未知とのお花見篇—』のように、映画館やテレビで、ゆる系アニメを目にする機会はここ数年で急増した。「2ちゃんねる」などで一時代を築いたFlashアニメに端を発すると思われるこの動向の特徴は、ヘタウマのような平面的で簡素な造形性と、素人のような棒読みの台詞である。一方、そこで展開する話は「地元のガラの悪い先輩と、こざかしい後輩のマイルドヤンキー的関係」など、人間関係のエグみを潜在させた寸劇であることが多い。

造形とストリーテリングの落差は、ある種の「異化効果」を生み、シュールな「おかしみ」へと変換される。これも相方同士が互いに褒めそやす「おぎやはぎ」の芸風を想起させる。だが、より突っ込んで言い表すならば、それはボーイズラブ的な関係性をも想起させるのだ。

『フェットとチーネとグミ星人—未知とのお花見篇—』より
『フェットとチーネとグミ星人—未知とのお花見篇—』より

素朴な造形と匿名性ゆえに、「抜き差しならぬ関係」や「欲望」を妄想させる

『美術手帖』が昨年12月にボーイズラブコミックを特集したが、その副題は「“関係性”の表現をほどく」であった。ボーイズラブには「攻め」「受け」に代表される多様な属性が存在し、その組み合わせは一様ではなく「ヘタレ攻め」「オレ様受け」などから派生する、「下克上」「総受け」「ホモ百合」といった関係性のネットワークを構築している。さらに、そこに読者の視点が加わり、しばしば視点はキャラクターに仮託される。「受け」のあられもない姿や状態に向けられる「攻め」の視点は、加虐的な欲望を喚起するが、ときにその視点は「受け」側へとスライドし「好きな男に責め苛まれる俺」という被虐の欲望へと変質する。この複雑な視点の移行と、匿名性を含んだ多様な欲望のかたちの混交が、ボーイズラブ表現の面白さだと筆者は考える。

ショートムービー『フェットとチーネとグミ星人—未知とのお花見篇—』に話を戻そう。同作では、種別不詳ながら、男2人と女1人のキャラクターによる関係性の提示がなされている。およそ「顔 / 表情」というものを持たないこれらのキャラクターは、その素朴な造形と匿名性ゆえに、さまざまな憶測をもたらす。そしてそこにかぶさってくる棒読み声は、脱力系の空気だけでなく、その裏に潜む「抜き差しならぬ関係」や「欲望」を想像させる。マイルドヤンキー的でもあり、ボーイズラブ的でもある多義性は『紙兎ロペ』にも通じるものであり、アニメーション史を遡ればかわいらしい切り絵風キャラが政治風刺や人種差別的なジョークを繰り返す『サウスパーク』にも辿り着くだろう。簡素であるがゆえに、彼・彼女らは雄弁である。その雄弁性は、単に「性」や「お笑い」に留まらない多様な関係性を仄めかしているのだ……!

というわけで。ブルボンには、続編でぜひフェット×チーネの「噛みごたえ」のある関係を展開していただきたいと、個人的な妄想を付け加えておく。

作品情報
青池良輔『フェットとチーネとグミ星人—未知とのお花見篇—』

2015年3月17日(火)から公開中
監督:青池良輔

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プロフィール
青池良輔
青池良輔 (あおいけ りょうすけ)

1972年生まれ。山口県出身。大阪芸術大学映像学科卒業後、カナダに渡り映像ディレクター、プロデューサーとして活動。その後、フリーランスとしてWEB、モバイル、TV等、多媒体に向け様々な短編アニメやCFを多数手がける。多様な作画スタイル、アニメーション手法を使いわけバラエティ溢れる作品を発表している。代表作に『紙兎ロペ』、『CATMAN』、『ペレストロイカ』など。



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