デザイナー、ドリス・ヴァン・ノッテンに迫る初の密着映画が公開

斬新なセンスで世界中のファッションショーに独自の価値観をもたらしたドリス・ヴァン・ノッテン

古風なイメージのあったベルギーが、1980年代に突然モードファッション界の注目の的となった。そのきっかけを生んだのは、「アントワープの6人」。彼らは、ヨーロッパで最も歴史のあるベルギーの「アントワープ王立芸術学院」ファッション科の卒業生たちで、斬新なセンスで世界中のファッションショーに独自の価値観をもたらした。

その一角を担うドリス・ヴァン・ノッテンは、これまで密着取材の依頼をすべて断ってきた。しかし、遂に取材嫌いのイメージが強いドリスに密着した初のドキュメンタリー映画『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』が登場。彼のクリエイションの裏側や、私生活が明らかになる。

ドリス・ヴァン・ノッテン ©2016 Reiner Holzemer Film - RTBF - Aminata bvba - BR - ARTE
ドリス・ヴァン・ノッテン ©2016 Reiner Holzemer Film - RTBF - Aminata bvba - BR - ARTE

「『魅力的』と人が反応するのは、服に込められた誠意と情熱。つまり作り手の心なのです」と彼が作中で語るように、ミシェル・オバマ前大統領夫人やニコール・キッドマンをはじめとする、ファンの多くがドリスを賞賛する理由は、そのクリエイションに対するスタンスにある。

25年間にわたり、ブランド「ドリス ヴァン ノッテン」はメンズとウィメンズそれぞれのコレクションを半年に一度、ショー形式で発表してきた。その長い道のりの中にあったのは栄光ばかりではない。作中では、過去のコレクションを振り返りながら、評論家たちからの批判の声についても語られる。だが、それでも彼は自分の価値観に真摯に向き合い、決して妥協をしなかった。

「ドリス ヴァン ノッテン」のクリエイションに対するスタンスとは?

「ドリス ヴァン ノッテン」は独立したブランドとして大企業の資本を頼らずに自ら運営の舵取りを行い、クリエイションに対する自由を獲得している。そのため、「広告は一切せず、自己資金だけで活動する」「手軽な小物やアクセサリーは作らない」を方針としてきた。
「ディオール」「ジバンシィ」「サンローラン」など、有名ブランドが次々に大企業に買収される中でも、ドリスは大企業の傘下に入ることなく自身のクリエイションだけを武器に戦っている。

そんな彼のこだわりを象徴するのが、インドの刺繍だ。その美しさに魅せられたドリスは、刺繍のためにインドに工房の環境を整え、その場所で、一つひとつ、丁寧な手作業で施されたインド刺繍は、いまやブランド「ドリス ヴァン ノッテン」の象徴にもなっている。

花の刺繍が施された生地をモデルに着せるドリス ©2016 Reiner Holzemer Film - RTBF - Aminata bvba - BR - ARTE
花の刺繍が施された生地をモデルに着せるドリス ©2016 Reiner Holzemer Film - RTBF - Aminata bvba - BR - ARTE

パートナーの愛とともに生きる人間ドリスの素顔

作中では、ドリスが刺繍職人たちの生活を保証し、職人として続けてゆける環境を守るために、どのコレクションにも必ずインド刺繍を施したデザインを取り入れるという人間臭いエピソードが披露される。デザイナーと聞くと、どこかクールでスマートなイメージを思い浮かべる人もいるかもしれない。しかし彼は、デザイナーである以前に一人の生身の人間だ。この映画は、そんな彼の人間味溢れる姿を描くことに成功している。

『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』ポスター©2016 Reiner Holzemer Film - RTBF - Aminata bvba - BR - ARTE
『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』ポスター©2016 Reiner Holzemer Film - RTBF - Aminata bvba - BR - ARTE(詳細はこちら

そしてもうひとつ、彼の人間味を感じられる重要な場面が登場する。ベルギー、アントワープ郊外にある大きな庭付きの自宅での姿をとらえ、ドリスの公私を支えるパートナーの男性、パトリック・ファンヘルーヴェとの生活を描く場面だ。

そこで彼はこのような趣旨の言葉を口にした。「普通は、どの会社も社内恋愛を禁止する。でも、パトリックとは自然にこの関係になったのです」。ブランドの創設期から歩みを共にしてきたパトリックの存在は、ドリスのクリエイションの大きな源になっているようだ。「自分だけではファッションを生み出せない。パートナーの支えあってこそ可能なのです」。そのシーンでは、オフィスで見せる真剣な表情とは異なり、笑みがこぼれ、リラックスした素顔のドリスを拝見できる。

自宅の庭で花を摘むドリス・ヴァン・ノッテン ©2016 Reiner Holzemer Film - RTBF - Aminata bvba - BR - ARTE
自宅の庭で花を摘むドリス・ヴァン・ノッテン ©2016 Reiner Holzemer Film - RTBF - Aminata bvba - BR - ARTE

ドリスの公私に渡るパートナー、パトリック・ファンヘルーヴェ ©2016 Reiner Holzemer Film - RTBF - Aminata bvba - BR - ARTE
ドリスの公私に渡るパートナー、パトリック・ファンヘルーヴェ ©2016 Reiner Holzemer Film - RTBF - Aminata bvba - BR - ARTE

「とにかく『ファッション』という言葉は嫌いです。そう呼ばれるものは半年で寿命がつきると思っています」。ファッションの世界に30年以上も身を置きながら、作品の冒頭でそう語るドリスは一見、気難しい一匹狼のように映るかもしれない。しかし本作を通じて、世界的なデザイナーにも、一人の人間に戻る瞬間があることに改めて気づくことが出来るだろう。

ショーのラストに挨拶を行うドリス・ヴァン・ノッテン ©2016 Reiner Holzemer Film - RTBF - Aminata bvba - BR - ARTE
ショーのラストに挨拶を行うドリス・ヴァン・ノッテン ©2016 Reiner Holzemer Film - RTBF - Aminata bvba - BR - ARTE

リリース情報
『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』

2018年1月13日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館他全国順次ロードショー
監督:ライナー・ホルツェマー
出演:
ドリス・ヴァン・ノッテン
アイリス・アプフェル
スージー・メンケス
配給:アルバトロス・フィルム



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