ジュリアン・カサブランカス、The Voidzでロックに喝を入れる

ロックンロールリバイバルとは何だったのか?

21世紀に入った頃、アメリカで「ロックンロールリバイバル」と呼ばれるムーブメントが起こった。「ロックンロールの復活」と聞くと、まるでロックンロールが死んでいたみたいだが、実際はそうではない。

1990年代に盛り上がったオルタナティブロックには、グランジ、ミクスチャー、ローファイ、ポストロックなど様々な要素が含まれていて、1990年代を通じてロックンロールはより複雑に進化を遂げた。そんななかで、見えにくくなっていたロックンロール本来の姿を再確認したのがロックンロールリバイバルであり、そこで注目を集めたのが、ニューヨーク(以下、NY)出身のThe Strokesやデトロイト出身のThe White Stripesだ。NYもデトロイトも豊かな音楽的土壌を持った土地だけに、どちらのバンドもロックンロールの若き守護者的なイメージが強かったのかもしれない。

The StrokesやThe White Stripesは、本国よりイギリスで先にブレイクし、彼らに続くように、イギリスからThe LibertinesやThe Kills、Arctic Monkeysといったバンドが登場。そうしてロックンロールリバイバルは世界各国に飛び火していった。そういった状況は、1970年代にNYで生まれたパンクに敏感に反応して、ロンドンにパンクシーンが生まれた状況を思い出させたりもする。

そんな20年前に比べて、いまのアメリカのロックシーンに活気が欠けているのは間違いないようだ。この状況に喝を入れるべく、ジャック・ホワイト(ex.The White Stripes)はヒップホップやR&Bを大胆に取り入れた新作『Boarding House Reach』をリリースしたが(参考記事:ジャック・ホワイトの2018年の傑作は、ロックの未来を救うか?)、それに続くように、The Strokesのフロントマン、ジュリアン・カサブランカスが率いるバンド、The Voidzが新作『Virtue』を発表した。

NYの先達に通じるジュリアンのアート感覚

The Strokesの現時点での最新作『Comedown Machine』(2013年)では、エレクトロニックな要素やダンサブルなビートを取り入れることで、パンクやガレージバンドが陥りがちなマンネリから抜け出そうとしていた。ブルースの名産地、デトロイトを根城にしたThe White Stripesはルーツミュージックを独自に取り入れることで音楽性の幅を生み出したが、NY出身のThe Strokesにルーツミュージックは似合わない。そんななかで行き詰まったジュリアンは、突破口を見つけるためにThe Voidzという新しいバンドに賭けたのだろう。

The Strokes『Comedown Machine』を聴く(Spotifyを開く

ギターのリフやビートがカッチリと組み合わさったミニマルで明快な構造のThe Strokesとは逆に、The Voidzの特徴は多彩というか雑食性の強いサウンドだ。2作目となる今回のアルバムも、迷宮に迷い込んだように次々とアルバムの風景は変わっていく。

オープニング曲“Leave It in My Dreams”はThe Strokesの雰囲気も感じさせるメロディアスなロックンロールだが、続く“QYURRYUS”では、エレクトロニックなパルス音に乗ってエフェクトをかけた歌声がオリエンタルな旋律をシャウト。さらに“Pyramid of Bones”ではダンサブルなグルーヴにヘビーなギターが暴れ回る。最初の3曲をとっても作風はバラエティー豊か。なかでも、打ち込みの強烈なビートが曲を引っ張っていく“All Wordz Are Made Up”や、ジュリアンがファルセットで歌い上げる“Pink Ocean”といったナンバーをはじめ、ビートの存在感や過激な音の作り込みはR&B / ヒップホップからの影響を強く感じさせる。

まるでコラージュのように、様々な音楽性やアイデアをひとつの曲に詰め込んで異空間を作り出す。そんな実験的でサイケデリックなサウンドは、ジュリアンが最近のインタビューで名前を出しているAriel Pinkに通じるものがあるが、そこに息づくアート感覚は、Talking HeadsやTelevisionといったNYの先達や、ジュリアンがThe Beatles以上に敬愛するThe Velvet Undergroundにまで遡ることができる。

本腰を入れたジュリアンと、新たなロックンロールリバイバルの気配

The Voidzのサウンドは、The Strokesよりもオルタナティブでいびつだ。聴く者によっては、The Strokesに比べて厚化粧した悪趣味なものに思えるかもしれない。海外のインタビューで、The Strokesを支持していたファンがThe Voidzに拒否反応を示すのが理解できないとジュリアンはボヤいていたが、ロックンロールリバイバルの立役者だからといって、ジュリアンはロックンロール原理主義者ではない。

The Strokesがデビューした頃、ジュリアンはロックンロールが多様なスタイルを見せていくなかで、表現形式としてシンプルなサウンドに彼の美意識を見出していたのだろう。そして、それは成熟していくロックンロールにプリミティブなエネルギーを取り戻そうとする試みでもあった。

The Voidz『Virtue』を聴く(Spotifyを開く

いまのジュリアンは、R&Bやヒップホップにロックンロールと同じエネルギーを感じて、それを貪欲に取り入れている。ジュリアンにとってロックンロールとはジャンルではなくフィーリング。The Voidzの混沌としたサウンドは、毒気や刺激を失ったロックシーンに対するメッセージであり、いま彼がリアルに感じるロックンロールの在り方なのだ。そして、重層的に作り込まれていながらも、ぎりぎりのバランスでポップにまとめられていて、前作『Tyranny』(2014年)より聴きやすくなっているのは、ジュリアンがThe Voidzで勝負する腹が決まったことの表れだ。

 

前作では「Julian Casablancas+The Voidz」という名義だったのが本作から「The Voidz」と縮められたことからも、彼がThe Voidzに本腰を入れていることが伝わってくる。本作をジャック・ホワイト『Boarding House Reach』とあわせて聴くと、どちらのアルバムからも現在のロックシーンに対する問題意識とそれぞれのアティテュードが伝わってくるが、もしかしたら新しいロックンロールリバイバルが始まっているのかもしれない。UKのロックシーンは、こうした動きに今回も応えるのか。その回答が楽しみだ。

The Voidz『Virtue』ジャケット
The Voidz『Virtue』ジャケット(Amazonで見る

リリース情報
The Voidz
『Virtue』(CD)

2018年4月25日(水)発売
価格:2,376円(税込)
SICP-5689

1. Leave It In My Dreams
2. QYURRYUS
3. Pyramid of Bones
4. Permanent High School
5. ALieNNatioN
6. One of the Ones
7. All Wordz Are Made Up
8. Think Before You Drink
9. Wink
10. My Friend the Walls
11. Pink Ocean
12. Black Hole
13. Lazy Boy
14. We're Where We Were
15. Pointlessness
16. Coul as a Ghoul(日本盤ボーナストラック)

プロフィール
The Voidz
The Voidz (ざ ぼいず)

2000年代に<ロックンロールリバイバル>一大ムーヴメントを巻き起こし、その後も多くのバンドに影響を与えているThe Strokesのフロントマンで、現在のロックアイコンの一人でもある、ジュリアン・カサブランカスによるサイド・プロジェクト。The Voidzは、ジュリアンのソロ・ツアーでバック・メンバーを務めたジェフ・カイト(Key)、アレックス・カラピティス(Dr)他、ジェレミー“ベアード”グリッター(Gt)、アミール・ヤグメイ(Gt)、ジェイク・バーコビッチ(Ba,Synth)、そしてジュリアン・カサブランカス(Vo)による6人組。2014年に「Julian Casablancas +The Voidz」名義でデビュー、4年ぶりとなる2ndアルバムを2018年4月25日に発売。



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