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ぶれずにユースカルチャーを肯定するパルコの大胆不敵な企業広告

ぶれずにユースカルチャーを肯定するパルコの大胆不敵な企業広告

「PARCO 2016 AW」キャンペーン
テキスト
島貫泰介
編集:野村由芽

意味がわからないけれどかっこいい。ユラユラと手ぶれするカメラでとらえられた摩訶不思議な世界

まずはすぐ下にある動画を再生してみよう。1分程度の長さなのであっという間に見ることができるし、何より先入観なしに見てほしいタイプの映像だからだ。

い、意味がわからない……! で、でもなんかカッコいいぞ……!

森を舞台に、半裸の男が乱打する小気味よいドラムサウンドが響き、魔術的・儀式的な雰囲気を漂わせた男女が、不思議な絵文字を刷った布を上げ下げしたり、泥水をバケツで汲んでスカートに注いでみたり。

「PARCO 2016 AW」キャンペーン
「PARCO 2016 AW」キャンペーン

手ぶれするカメラがゆっくりと前進し、中央の黒髪の女性をとらえたところで瞬間的に黒文字がインサート。「パルコォ~」というささやき声と共に「PARCO」のロゴが鮮烈にラストを飾る。そう、これは池袋や名古屋など日本全国でファッションビルを展開するパルコの2016年秋冬シーズン広告だったのだ。

「PARCO 2016 AW」キャンペーン
「PARCO 2016 AW」キャンペーン

世界的なクリエイティブユニットとパルコのタッグ。3年目の大きな変化

ディレクションを担当したのは、パリを拠点に活動するクリエイティブユニットM/M(Paris)。Bjorkの『Medúlla』(2004年)や『Biophilia』(2011年)のジャケットなども手がける彼らは、2014年秋冬からパルコとのコラボレーションを続け、今回で3年目を迎えた。彼らのアートワークの特徴は、手描きのタイポグラフィーと摩訶不思議なビジュアルが織りなす異界的ストーリーテリングである。

M/M(Paris)
M/M(Paris)

これまでの2年では、オランダ出身の写真家ヴィヴィアン・サッセンと協働し、石岡瑛子らがアートディレクションを手がけた1970年代のパルコへとオマージュを捧げる作品を手がけてきたM/M(Paris)は、今回大きな方向転換をくわだてたようだ。

舞台は、「黒い森」の異名を持つドイツ南部の森林地帯。キリスト教以前の土俗信仰や魔女伝説が残ることで知られる同地は、ヨーロッパ人にとって太古の時間へと立ち返る特別な場所なのだ。2016年の秋冬キャンペーンでは、最初に見てもらった映像「chapter 1: INTO THE BLACK FOREST(黒い森へ)」と「chapter 2:DEEP IN THE BLACK FOREST(黒い森の深淵)」が公開されている。

そして、連作となる2017年の春夏キャンペーンでは、「chapter 3:ESCAPE FROM THE BLACK FOREST(黒い森からの逃走)」「chapter 4:RETURN TO THE BLACK FOREST(黒い森への帰還)」の公開が予定されているが、これらの4つのエピソードを通して、M/M(Paris)は彼らなりの方法でヨーロッパ文化の起源へと立ち返っていくのだろう。日本のデザイン史からヨーロッパへとリファレンス先を移したことが、1つの大きい変化だ。

おどけるケイト・モスにリラックスするソフィア・コッポラ。セレブの多彩な表情を引き出す、人懐っこい写真家の腕

そして2つめの大転換が、ドイツ人の写真家ヨーガン・テラーの起用である。カルチャー誌『i-D』などでキャリアを積み、マーク・ジェイコブスといった有名ファッションブランドのキャンペーン広告を手がけるテラーは、ケイト・モス、Bjork、ヴィヴィアン・ウェストウッド、荒木経帷など、世界のセレブリティーを被写体にした作品で知られるアーティストである。

ヨーガン・テラー
ヨーガン・テラー

「セレブを撮影」というと、壮麗で雄々しいイメージを思い浮かべるかもしれないが、テラーはひと味違う。彼の第一印象は「おもろいおっちゃん」そして「やたら自分も登場したがる人(裸で)」。

プールに浮かんで本当にリラックスした表情を浮かべるソフィア・コッポラや、ベッドや路上でトップモデルとは思えないくらいおどけた仕草をするケイト・モスの写真は、テラーの人懐っこい人柄あっての奇跡の一枚だし、『ルイ15世(Louis XV)』というふざけたタイトルの写真集では、高級ホテルの一室で女優のシャーロット・ランプリングと乱痴気騒ぎのようなセルフポートレート(グランドピアノの上でM字開脚したり)を披露している。そんな破天荒なテラーが、今回のパルコのシーズン広告の刷新に大きく影響しているのは、想像に難くない。

チープで儚く、輝いている。一貫してユースカルチャーを肯定するパルコらしさ

さて、そんな2016年秋冬シーズン広告への反応を各種SNSなどで見てみると、案の定「わからない」「あの人魚(チャプター2に登場)はなんだ」など困惑した声が多いが、それは正常な反応だと思う。同シリーズの映像は全編iPhoneで撮影されていて、チャプター2ではレンズに撮影者(=ヨーガン・テラー)の指が映り込んだりしている。しかし、それらはすべてM/M(Paris)とテラーの思惑通りの展開だろう。

チープな画作り、即興で考えたような演出は、2000年代初頭からアメリカのインディペンデント映画に登場しはじめたマンブルコアのムーブメントを意識しているのではないか? 素人俳優や友人たちを起用し、日常会話に近い明瞭でないボソボソ声で喋ることなどを特徴とする低予算な映画製作は、最初こそ「内輪ウケすぎる」との批判も受けたが、アメリカ同時多発テロ事件以降の若者たちの心情を反映した表現として支持を集め、映画『フランシス・ハ』(2012年)や、ドラマ『GIRLS』(2012年~)のスマッシュヒットに結実していく。

些末な日常の悩みや、ふとした瞬間に訪れる喜びや驚きにフォーカスするマンブルコアは、1960年代後半に現れたアメリカン・ニューシネマや、ゴダールやトリュフォーら名監督を輩出した50年代フランスのヌーヴェルヴァーグといった映画運動の21世紀における反復と言えるだろう。時代状況に対する諦念や、それゆえのやけっぱちさは、刹那的で反動的なエネルギーを放つ。それは明らかに「ユースカルチャー」に固有のものであり、おそらく今回M/M(Paris)が狙ったのはこの手触りだ。

ニュルンベルク美術アカデミーの学生有志、モデルのリリー・サムナーと共に、とある森の奥につかの間のコミューン幻想を作り上げることは、いつかは必ず失われてしまう若い精神と、神話や伝説の永続性を結びつけることに他ならない。そのチープさ、その儚さゆえに、かりそめのコミューンは大きな輝きを持ち始めるのだ。

「PARCO 2016 AW」キャンペーン

ちょっと気恥ずかしくなるけれど、それを「青春の輝き」と呼んでも差し支えない。そして、その若さに対する肯定的なマインドは、69年の創業以来、パルコが持ち続けてきたビジョンでもあるはずだ。M/M(Paris)は、一見すると不可解に思えるイメージを現出することで、じつはもっとも本質的にパルコのマインドをビジュアライズしてみせたのである。鋭い。

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キャンペーン情報

「PARCO 2016 AW」キャンペーン

株式会社パルコの2016年AWシーズン広告は、2014AWから、フランスのクリエイティブユニット「M/M(Paris)」(エムエムパリス)を継続起用しており、今年で3年目(もしくは、5シーズン目)を迎える。今回は、新たにフォトグラファーにCÉLINEやLouis Vuittonとのコラボレーションワークで知られる「Juergen Teller」(ヨーガン・テラー)、モデルにSaint Laurentにミューズとして起用された、「Lili Sumner」(リリー・サムナー)が登場。年間を通して、ファッションとシーズンの永続性を継続的に表現してきたM/M(Paris)とパルコ。今シーズンもコンセプトは変えず、ドイツ南西部の山岳森林地帯(BLACK FOREST)で、ヨーガンが講師を務めるニュルンベルク・アートアカデミーの学生たちと現代的な童話物語を作り上げた。本キャンペーンは、2017SSまで1年間続く予定。

プロフィール

M/M (Paris)(えむえむ ぱりす)

ミカエル・アムザラグとマティアス・オグスティニアックによって1992年に結成された、パリを拠点に活動するクリエイティブユニット。20年以上にわたりファッション、アート、音楽、デザインと多分野において活躍し、象徴的かつ影響力の強いデザイン&アートで世界中の人々を魅了させている。彼らの手掛ける多くの作品でオリジナルのタイポグラフィを用いられることがあり、表現方法の一つとしてタイポグラフィの重要性の高さが窺え、2003、2004、2012年度の東京TDC賞(タイポディレクターズクラブ)も受賞。また、ファッション、音楽関係の仕事が顕著で、これまでのコラボレーションワークとして、A.P.C.、Balenciaga、Calvin Klein、Dior Homme、Givenchy、Jil Sander、Loewe、Louis Vuitton、Missoni、Sonia Rykiel、Stella McCartney、Yohji Yamamoto、Yves Saint Laurentなどのビックメゾンやデザイナーが連なる。音楽の分野でも、2013年にグラミー賞の最優秀レコーディング・パッケージ賞を受賞したビョークの『Biophilia』を代表に、ヴァネッサ・パラディ、カニエ・ウェスト、マドンナといった著名アーティストのアルバムアートワークやミュージックビデオを手掛ける他、『Vogue Paris』、『Purple Fashion Magazine』、『Arena Homme+』、『Interview Magazine』等の雑誌のアートディレクションも手掛ける。また、2012年には、活動20周年記念として500ページを越える作品集を出版した。

ヨーガン・テラー

1964年、ドイツのエアランゲンに生まれる。1986年よりロンドンを拠点に活動をスタート。アートとコマーシャルの融合に成功している数少ない世界的な活躍を見せるフォトグラファーの一人で、特にファッションおよび音楽業界での写真が有名である。ファッションではCeline、Comme des Garcons、Helmut Lang、Louis Vuitton、Marc Jacobs、Vivienne Westwood、Yves Saint Laurentなどの有名メゾンのキャンペーン撮影や、『Arena Homme+』、『i-D』、『Purple』など影響力のある雑誌とコラボレーションをしている。音楽では、Bjork、PJ Harvey、Sinead O’Connorなどのレコードジャケットや、Nirvana、Morrisseyなどのバックステージも撮影。これまでに41冊の写真集を出版し、パリのカルティエ財団現代美術館、ロンドンのICA、ヴェネチア・ビエンナーレなど、世界各国で写真展も開催している。また、ニュルンベルク美術アカデミーにて写真の講義を担当する教授としての一面もある。

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