今こそNetflixで見ておきたいカルチャー&エッジーな名作9本

2015年9月に日本上陸を果たした、世界最大級のオンラインストリーミングサービス「Netflix」。世界中の注目を集めた『ハウス・オブ・カード 野望の階段』など、数ある定額制サービスのなかでもオリジナル作品の制作に力を入れ、そのコンテンツ量とクオリティーの高さで、目の肥えた映画好きの心を掴み、そのファン層を広げている。

2017年にはポン・ジュノの新作やデヴィッド・フィンチャーのドラマシリーズの配信がすでに予告されているなか、今のうちに見ておきたい、おすすめ作品をCINRAのスタッフと特別ゲストYeYeがセレクト。十人十色の作品評を読めば、気になる作品がきっと見つかるはずだ。

ドキュメンタリー好きも驚く麻薬王。『ナルコス』の現実離れした真実

昨今の海外ドラマブームの火付け役となった作品として、数々の栄誉ある賞を受賞した『ブレイキング・バッド』が挙げられるが、そこから海外ドラマの魅力にはまっていったというCINRA総務・宮崎がすすめるのは、実在の麻薬王、パブロ・エスコバルの史実をもとにした『ナルコス』だ。

『ナルコス』をNetflixで見る

宮崎:まさに事実はドラマより奇なり、という言葉がぴったりな作品ですね。1980年代に実在した麻薬カルテルが舞台になっているのですが、一つひとつのできごとが現実離れしすぎていて、「こんなことって本当にあるの……?」と驚かされながらも、エンタメとして夢中にさせてくれる物語の構成力がスゴイ。

あと、私は仕事で経理もやっているのですが、ちゃんと財務を管理できないと、あんなふうに大規模な大麻農園を築けないですよね。人件費はどうしてるんだろう? とか、そんなことを想像したりもしてしまいます(笑)。

イギリス王室の裏側。衣装や小物も美しい『ザ・クラウン』

『ザ・クラウン』
『ザ・クラウン』

『ブレイキング・バッド』の続編『ベター・コール・ソウル』がきっかけでNetflixに加入し、今では「その作品、Netflixに入ってますかね?」が口癖になっているほど、社内でも指折りのNetflixファンであるCINRA.STORE担当の佐藤。デザイナーとしても活動し、商品写真の撮影もおこなう彼女が選んだ一本は、イギリス王室を描いた『ザ・クラウン』だ。

『ザ・クラウン』をNetflixで見る

佐藤:学生の頃はミニシアター系の映画を多く見ていたのですが、海外ドラマのクオリティーが、映画並みだと気づいてしまいいつの間にか中毒に……。

『ザ・クラウン』は、特に好きなジャンルだったというわけではないのですが、Netflixオリジナル作品に信頼感があるので、とりあえず見てみたら面白くて。イギリス王室という、自分とは遠い立場の人たちの日常を、ごく普通の家族の話のように感じられるリアリティーが新鮮です。個人的には、マット・スミスが演じるエリザベス2世の夫・フィリップ殿下のキャラクターがお気に入り。史実を調べると、失言が多い人だったようですが、ドラマだとなんだかチャーミングで、不思議と許せてしまう人柄なんですよね。

あと、王室を舞台にしているので、衣装や小物の可愛さ、美しさは、眺めているだけでも楽しいです。女性のクラシカルなコートなんかは、今の時代に着てもきっと素敵なんじゃないかな。

世界最高峰の料理人の人生を味わう『シェフのテーブル』

ある特定の立場の人々を描いているのに、私たちの日常ともつながっているように感じられる作品というのは、もしかしたら名作のひとつの条件なのかもしれない。代表取締役の杉浦が選んだドキュメンタリーシリーズ『シェフのテーブル』もそんな要素をもちあわせている。

『シェフのテーブル』をNetflixで見る

杉浦:信頼する知人からすすめられて見始めました。1話ごとに1人のスターシェフを紹介する構成になっていて、どの人にもすごいドラマがつまっています。特に面白いのは、シーズン2。若くして大成功した後に、思いも寄らない苦境が待ち受けていたグラント・アケッツ。貧しい家庭に生まれ育ちながら、強靭な精神でインド料理を高級料理に昇華させ、バンコクで開いたレストランがアジア一の称号を得たガガン・アナンド。外交官の道を選ばず、独学でスロベニア料理の価値を高めたアナ・ロス……。みんなホント、信じられないぐらいにすごいんです。

この作品に登場するのは、シェフであり、料理だけど、やっぱり普遍的な人間の生き方を描いている。悔しさを乗り越えて今がある人たちの物語を見ていると、明日もがんばろう、と素直に思えます。

ドラマ化してよかった。又吉直樹原作『火花』の繊細さ

『火花』 ©2016YDクリエイション
『火花』 ©2016YDクリエイション

続いて、日本のNetflixオリジナル作品として製作された『火花』。2015年に又吉直樹が『芥川賞』を受賞した小説のドラマ化は、ライターの武田砂鉄が「少なくない人が『あれだけ売れたからといってドラマ化しないほうがいいはず』と勝手に決め込んでいる作品に違いない。自分も例に漏れずだったが、原作を丁寧に膨らませていく姿勢に、すっかり考えを改めた」と評したように(「又吉直樹の『火花』がドラマに。映像化に成功した理由を紐解く」)、特段派手なことが起こるわけではないその日常の機微が胸に迫る一作だ。CINRA.NETで、ミュージシャンの取材を担当することが多い編集者の矢島はこう語る。

『火花』をNetflixで見る

矢島:決してドラマチックにストーリーが進んでいくわけではなく、主人公と先輩の会話が淡々と進んでいくさまに、心がほんのり温かくなったり、すーっと冷えたり。その空気感が、そのまま映像になっていたのがとにかく心地よかったし、純文学としての魅力がそのまま映像になっていると感じました。すべての下積み経験、夢を見た経験がある人、もしくはその真っ最中の人に見てもらいたいです!

不完全な女性たちに励まされる『タルーラ ~彼女たちの事情~』

『タルーラ ~彼女たちの事情~』
『タルーラ ~彼女たちの事情~』

Netflixは、ドラマのみならずオリジナル映画も制作している。劇場公開より先に、配信開始というユニークな打ち出し方をおこなったのが、『タルーラ ~彼女たちの事情~』。これまで1400本以上の映画を見たという、CINRA.JOB担当・坂本おすすめの一作だ。

『タルーラ ~彼女たちの事情~』をNetflixで見る

坂本:エレン・ペイジとアリソン・ジャネイという『JUNO』(2007年)のコンビが登場しているので興味を持ちました。エレン・ペイジ演じる、元カレを探していた住所不定のタルーラが、衝動的に赤ちゃんを誘拐してしまって、元カレの母親であるアリソン・ジャネイに助けを求める……といった話なのですが、心の闇を持っていたり、自分のことしか考えられない不完全な登場人物たちが、そのままの状態でお互いにかかわり合っていく姿がいいんです。

共感できる作品の良さって、「これ!」っていう見せ場を羅列しなくても、ちょっとした所作やシーンの端々に現れるんじゃないかと思っていて、これはそういう作品だなと。私は何かを作る仕事ではないけれど、そんな良質な映画を見ると、日々の仕事においても、丁寧な積み重ねが大事なんだなと気づかされるんです。誰が見ても面白いと思いますが、どちらかというと女性のほうが共感するかも?

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』で、旧作を何度も見る喜びを発見する

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』 ©Warner Bros. Entertainment Inc.
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』 ©Warner Bros. Entertainment Inc.

オリジナル作品もいいけど、やっぱり映画も見たい。準新作映画を自宅にいながらにして見られるのも、昨今のサブスクリプションサービスの魅力のひとつだ。公開後に熱狂的な盛り上がりを見せ、この12月にはジョージ・ミラー監督自らが「ベストバージョン」と語るモノクロ版の全国公開が報じられた『マッドマックス 怒りのデス・ロード』。

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』をNetflixで見る

かつて映画配給会社で働いていたCINRAの映画番長・エンジニアの濱田(ちなみに人生ベスト映画は『テオレマ』、2016年ベスト作は『エヴォリューション』とのこと)に、本作の魅力を聞く。

濱田:旧作を繰り返して見るのって重要なんですよ。僕も『マッドマックス 怒りのデス・ロード』をまだ2回しか見ていないので、もっと見なきゃいけない。それで、この作品は、車が好きな4歳の息子と見たいなと思っているんです。

妻からも「息子に見せていいのか」って聞かれるんですけど、大丈夫なんです。なぜならこの作品、描かれている世界は非常に「下品」なんですけど、表現方法はとても「上品」だから。そもそもシンプルな「行きて帰りし物語」に「騎士道」がテーマとして織り込まれているようなストーリーなわけだし、表層的なエログロや暴力表現というのは実はものすごく少なくて、どの表現もソフィスティケートされている。実は、表現の過剰さ極端さが、この作品をハードに見せているだけなんです。公開が予定されているモノクロ版は、表現の幅が削り落とされることで、この映画が本来持っている上品さが浮き彫りになると思いますよ。

あ、でも言っておくと、『マッドマックス~サンダードーム~』までは下品ですから気をつけてくださいね。この前、一作目を息子と見たら、しょっぱなからお色気シーンで気まずくなって……(笑)。だから『マッドマックス 怒りのデス・ロード』というのは、ジョージ・ミラーがシリーズを撮り始めてから、巨匠になる過程で手に入れた上品さだと思うし、そこにも感動するんです。

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』 ©Warner Bros. Entertainment Inc.
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』 ©Warner Bros. Entertainment Inc.

ちなみに濱田がNetflixを好きなところは、「『ムカデ人間』が全シリーズ揃っている暴挙」とのこと。清濁が混在する懐の広さもNetflixの大海原ならではといったところか?

裏方としてのブラピも最高。『マネー・ショート 華麗なる大逆転』

『マネー・ショート 華麗なる大逆転』
『マネー・ショート 華麗なる大逆転』

その甘いマスクでハリウッドを代表する役者として人気を誇っているブラッド・ピット。2002年に映画制作会社「プランBエンターテインメント」を設立し、『キック・アス』(2010年)、『それでも夜は明ける』(2013年)など良作を世に送り出し、現在は製作者としても手腕を発揮していることは周知の事実である。

そんな彼が出演・製作を兼ねた近作『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(2015年)は、ブラッド・ピット本人がその製作のきっかけを「僕はただ、みんなに知ってもらいたんだ。金融機関で何が起こっているかを知ること、疑問を持つことはとても大事だよ」と語っているが、それと呼応するようにCINRA.NETの編集長・柏井は本作をこう語る。

『マネー・ショート 華麗なる大逆転』
『マネー・ショート 華麗なる大逆転』をNetflixで見る

柏井:リーマンショックを予言した3組と、そんなもの起きるはずがないとバカにした金融業界のマネーバトルをスリリングに描いた映画ですが、そこから見えてくる「お金の恐ろしさ」は、誰しもが知っておいて損はないと思います。弱者を食い物にしたサブプライムローンの実態や、それが破綻したことで日本にいる僕らにまで影響を及ぼす金融や経済の仕組みについて、ちょっと考えるいいきっかけに。

投資や金融の話なので、そうしたテーマに興味を持っている人はもちろんですが、3組それぞれの物語も軽妙で、笑いもあり、ドラマ好きな人なら誰でも楽しめる作品だと思います。権力を倒す痛快さもあるので、アウトローな人にもおすすめです。

『ゴーン・ガール』をきっかけに、フィンチャー作品を一気見する

『ゴーン・ガール』
『ゴーン・ガール』

スター監督ということで言えば、Netflixで大きな存在感を示しているのが、デヴィッド・フィンチャーだろう。オリジナルドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』の製作総指揮を務め、2017年からは『Mindhunter』の配信が待たれる奇才の映画『ゴーン・ガール』(2014年)を、筆者からおすすめしたい。

ギリアン・フリンによる同名小説を基にした本作は、幸福だと思われていた夫婦の妻が突然失踪し、その殺人容疑者として夫が浮上……という大どんでん返しにつぐ天変地異が待ち受ける。

見た直後は、「妻のエイミー、怖すぎる……」と唖然としたものの、人間の本質的な欲望——個人の尊厳やアイデンティティー、他者への愛情を得たいという願いを、あの手この手で人生をかけて模索するさまをスタイリッシュに描くフィンチャー独自の手法は圧巻である。

妻・エイミーを演じたロザムンド・パイクは、『第68回英国アカデミー賞』主演女優賞を受賞
妻・エイミーを演じたロザムンド・パイクは、『第68回英国アカデミー賞』主演女優賞を受賞(『ゴーン・ガール』をNetflixで見る

その欲望というのは、やすやすと一筋縄で手に入れられるはずも、理解できるはずもないのだということは、世紀末の不安定さの中で描かれた『ファイト・クラブ』(1999年)において、殴り合うことで自らの輪郭を確かめていた男たちからも明らかだったのではないだろうか(こちらもNetflixで視聴可能)。来年の新作を前に、一連のフィンチャー作品をまとめて見ることをおすすめしたい。

YeYeが怖いもの見たさでハマった、SF問題作『ブラック・ミラー』

最後は再びNetflixオリジナルに戻りつつ、後藤正文のソロ・Gotchバンドにも参加するソロミュージシャンYeYeのおすすめ作品を紹介する。

YeYe
YeYe

Twitterのタイムラインで『ブラック・ミラー』にまつわるつぶやきを発見してコンタクトをとったのだが、本作は、朗らかな彼女の印象からすると少し意外性のあるブラックテイストなSF作品だ。

『ブラック・ミラー』をNetflixで見る

YeYe:普段から、ミステリー、SF、ファンタジー、人間ドラマが好きなんです。『ブラック・ミラー』は、なんとなく村上春樹の世界観に通ずるところがあるというか、人間らしさむき出しの狂気と美しさが共存している感じがします。おそらく「ホラー」というジャンルに分類されると思いますが、個人的には一周回ってファンタジーですね。

近未来のできごとが多く、実生活にもいつか起こりうるようなリアリティーもたまりません。怖いもの見たさというか、びびりな人ほど自分を守るために怖いものを見たくなったり、調べて知識をつけておきたくなる、という話を前に聞いたことがあって、それも『ブラック・ミラー』にはまっている理由かも。『世にも奇妙な物語』が好きな人も絶対に好きだと思いますね!

各々の趣向で選ばれた、ジャンルも味わいも異なる全9本の映像作品。まずはこの9本をとっかかりに、自分の感性を刺激する作品を知るきっかけを見つけてみてはどうだろう。この世に日々生まれるすべての作品を見るのは難しいかもしれないけど、選択肢がたくさんあるのは幸せなこと。それは寒い冬がいつのまにか過ぎるのに、十分すぎる理由ではないだろうか。

サービス情報
Netflix

世界最大級のオンラインストリーミングサービス。190以上の国で8600万人のメンバーが利用している。オリジナルコンテンツ、ドキュメンタリー、長編映画など、1日1億2500万時間を超える映画やドラマを配信中。メンバーはあらゆるインターネット接続デバイスで、好きな時に、好きな場所から、好きなだけオンライン視聴できる。コマーシャルや契約期間の拘束は一切なく、思いのままに再生、一時停止、再開することができる。



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