コラム

『スリー・ビルボード』主演女優がスピーチで語った「inclusion rider」

『スリー・ビルボード』主演女優がスピーチで語った「inclusion rider」

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後藤美波(CINRA.NET編集部)
メイン画像:『スリー・ビルボード』 ©2017 Twentieth Century Fox

胸を打つスピーチを締めくくったある言葉

『第90回アカデミー賞』はギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・ウォーター』の監督賞、作品賞など4部門受賞で幕を閉じた。

各部門で受賞者が心に響くスピーチを行なったが、中でも『スリー・ビルボード』で主演女優賞に輝いたフランシス・マクドーマンドのスピーチはハイライトの1つだった。彼女のスピーチは感動的であると同時に視聴者の脳裏に1つの疑問を残した点でも話題を読んでいる。

彼女はスピーチの途中でトロフィーを床に置くと、その場にいるこの日の女性ノミニーに立つように促した。「メリル、あなたがやればみんなやるから」と言われて立ち上がったメリル・ストリープをはじめ、『シェイプ・オブ・ウォーター』のサリー・ホーキンス、『レディ・バード』のシアーシャ・ローナン、グレタ・ガーウィグらが次々と立ち上がり、彼女に拍手を送った。マクドーマンドは役者、監督、撮影監督などの女性たちを見渡すと彼女たちの思いを代弁するように「私たちは伝えたい物語があり、資金が必要なプロジェクトがある。でも今夜のパーティーではそのことで話しかけないで。近いうちにあなたたちのオフィスに招くか、あなたたちが私たちのオフィスに来てくれても良い。そこで全部話します」と会場に集まった映画関係者たちに呼びかけた。

そして最後にこう言ってスピーチを締めくくった。「最後に2つの言葉をお伝えします。みなさん、『INCLUSION RIDER』」。

ネイティブも首をかしげた「inclusion rider」って?

この「INCLUSION RIDER」という耳慣れない言葉に首をかしげたのは、非英語圏の人々だけではないようだ。スピーチのあとTwitterでは「インクルージョン・ライダーについてググったけどわからなかった」「インクルージョン・ライター(wrtiter)の間違い?」「『inclusion riderとは』っていう記事はどこ? SEOの人たちしっかりして」というような言葉が飛び交い、マクドーマンドの胸を打つスピーチを締めくくった2つの単語の真意を探ろうとする人々の言葉で溢れた。これは映画業界の人や専門家でないと知らない言葉なのだそうだ。

マクドーマンドは授賞式後の会見でこの言葉について聞かれ、「映画への出演契約をするときに、少なくとも50%の多様性をキャストだけでなくクルーに求めることができるという仕組み」と説明。「私も先週知ったばかり」と明かしつつ、「35年間映画業界にいて初めて知ったけど、もう後戻りはできない。『女性』がトレンド? 『アフリカンアメリカン』がトレンド?そうじゃない。それは今、変わります。そしてinclusion riderはそのことと関係があると思う」と話した。

フランシス・マクドーマンドの『アカデミー賞』授賞式後の会見の様子

多様性確保への解決策に

inclusion riderとは、俳優が出演契約をする際に、その作品のキャストや制作スタッフの中に女性や有色人種といった立場の弱い人々をある程度の割合で含めることを求める条項のことを指すのだという。役者が自分の出演作にキャストとスタッフの多様性を約束させることができるというものだ。

英紙『The Guradian』などの報道によれば、この言葉は、南カリフォルニア大学アネンバーグ・インクルージョン・イニシアチブの創立者であるステイシー・スミスが、2016年の『TEDトーク』で提唱している。

このプレゼンテーションでスミスはその年のアメリカの興行成績100位以内に入った作品を調査し、セリフのある黒人やアフリカンアメリカンの女性の登場人物が1人も登場しない映画が48作品、セリフのあるアジア人やアジア系アメリカ人女性が1人も登場しない映画が70作品、障がいのある女性が1人も登場しない作品が84作品、セリフのあるLGBTの女性が登場しない作品が93作品といったデータを示し、映画のキャスティングが実際現実に生きる人々の多様性を反映していないと指摘した。そのうえでハリウッドスターが、多様性受け入れの条項を出演契約に盛り込むことが解決策の1つになるとした。

ベテラン女優であるマクドーマンドも最近初めて知ったというこの仕組みだが、さっそく『ルーム』で『第88回アカデミー賞』主演女優賞を受賞したブリー・ラーソンが賛同の意を示すなどの反響を呼んでいる。

今年の『アカデミー賞』では『ゲット・アウト』のジョーダン・ピールが、黒人として初めて脚本賞を受賞した。全米で熱狂を呼んでいる『ブラックパンサー』において、黒人のヒーローの活躍を見た黒人の子供たちが、スクリーンの中に自分と重ね合わせる存在を見つけることができたように、自分と同じ人種や境遇、立場の人の活躍をメディアや物語の中に見つけることができるというのはとても意味のあることだ。マクドーマンドが光を当てたこの「inclusion rider」という仕組みも、ハリウッドにおける様々な不均衡を正す糸口になることを願ってやまない。

『スリー・ビルボード』予告編
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