コラム

9.11から18年。「テロ」という事象を通して、社会や人間を問い直す映画作品

9.11から18年。「テロ」という事象を通して、社会や人間を問い直す映画作品

テキスト
真鍋厚
編集:矢澤拓(CINRA.NET編集部)
※本記事は『15時17分、パリ行き』『女は二度決断する』のネタバレを含む内容となっております。あらかじめご了承下さい。

「9.11」から18年が経った。現在も世界各地でテロ事件が頻発しており、米国を中心とする対テロ戦略にも終わりが見えない。

もともと「テロリズム」という言葉の語源はフランス革命時の「恐怖政治」で、反革命分子を弾圧する手法や戦術を意味するものであったが、今や「テロ」や「テロリスト」は単に「純粋な悪」の代名詞となった。法の庇護は一切不要で、拷問をしても処刑をしても構わない。近代社会が前提とする人権の適用から除外しても差し支えがないという段階にまで達した。キューバの米軍基地内に位置するグアンタナモ湾収容キャンプがその象徴だ。

このような末期的な状況が続いている中で、「テロ」という事象を通してわたしたちの社会、引いては人間性そのものを問い直す映画が次々と制作されている。

パリ行き高速鉄道内で起きた実際の銃乱射事件を当事者の再現で映画化したクリント・イーストウッド監督『15時17分、パリ行き』

2015年にフランスの高速鉄道の車内で発生した「タリス銃乱射事件」を、プロの俳優を起用せず当事者3人に再現してもらう形で映像化した『15時17分、パリ行き』(2018年、米国、監督:クリント・イーストウッド)は、テロを未然に防いだ青年が実は挫折だらけのいわゆる「落ちこぼれ」であったことを描く。

『15時17分、パリ行き』予告編

銃撃犯に最初のタックルを食らわせたスペンサー・ストーンは、他の友人2人と同じく幼少時代から転校を繰り返した「問題児」。空軍のパラレスキュー部隊に憧れて軍隊に入隊したが、視覚検査での奥行知覚の欠如で不合格になる。次にサバイバル訓練を教えるSERE指導員の課程を受けるが、今度は遅刻と課題の未達成により落第を宣告される……。

小学生時代から頻繁に校長室に呼ばれる「問題児」3人。彼らの行動が、テロの脅威から電車の乗客を救う。

理屈を超えた行動をとる「規格外の人間」を社会は持て余す

ストーンのある種の「変人ぶり」を表しているエピソードがある。救命法に関する授業中、基地内で銃撃事件発生を伝える警報が鳴る。講師は「机の下へ隠れなさい」と生徒に呼びかける。「戦おうとするな。身を守れ」が規定だからだ。しかし、ストーンはボールペンを片手に扉の横に立ち、侵入者に襲い掛かる態勢を取る。「机の下へ戻りなさい」と言う講師の命令を無視するのだ。誤報だと判明した後、講師は呆れ返って「バカな行動」であることを生徒たちに諭す。

だが、皮肉なことにこの「バカな行動」――高速鉄道の車内で自動小銃を持った銃撃犯へのタックル――こそが数百人の乗客の運命を変えたのである。このような衝迫は理屈を超えている。理屈を超えているがゆえに、社会はそのような人間を「持て余す」。果ては排除しようとする。幼少期に発達障害を疑われ投薬治療を勧められたことや、学校の規則に馴染めなかったことなどが、逆にストーンが理屈で考えない存在であることを裏付ける。

「落ちこぼれ」役の3人は俳優ではなく、実際の事件の当事者©2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT INC.
「落ちこぼれ」役の3人は俳優ではなく、実際の事件の当事者©2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT INC.

銃撃犯と乗客を救った青年はコインの裏と表。非寛容な社会に周辺化される人々

本作はテロリズムの芽を撲滅しようと躍起になる社会が、「異質なもの」「過剰なもの」を切り捨てていく構造を強化し、「英雄になりたい変人」をも周辺化していることを静かに告発しているのだ。これは市民社会の表面的な秩序維持を最優先することによって、市民社会を護持する気概のある「規格外の人間」が生まれ難くなることを意味する。銃撃犯とストーンは、そのようなわたしたちの社会状況というサイコロの目の出方の一つ、コインの裏と表なのである。

ジャーナリストのロバート・バーカイクが著したノンフィクション『ジハーディ・ジョンの生涯』(野中香方子訳、文藝春秋)は、過激派組織イスラーム国を世界に知らしめた動画の青年が、執拗なゼロトレランス(非寛容)政策が招いた悲劇である可能性を示す。これがいわばコインの裏だ。

誰もが逃げ惑う中、ストーンはテロリストに立ち向かう

わたしたちの社会が口先ばかりの多様性を唱える一方で、佇まいや毛色の違う他者が虐げられるシステムを座視するとき――わたしたちはテロという恐るべき事象を命懸けで止めるポテンシャルも失っているのである。

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作品情報

『15時17分、パリ行き』

2018年3月公開
監督:クリント・イーストウッド
原作:アンソニー・サドラー、アレク・スカラトス、スペンサー・ストーン、ジェフリー・E・スターン『The 15:17 to Paris: The True Story of a Terrorist, a Train, and Three American Heroes』
出演:
アンソニー・サドラー
アレク・スカラトス
スペンサー・ストーン
配給:ワーナー・ブラザース映画

作品情報

『女は二度決断する』

2018年4月公開
監督:ファティ・アキン
脚本:ファティ・アキン、ハーク・ボーム
出演:
ダイアン・クルーガー
ウルリッヒ・トゥクール
ヌーマン・アチャル
ヨハネス・クリシュ
上映時間:106分
配給:ビターズ・エンド

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