コラム

9.11から18年。「テロ」という事象を通して、社会や人間を問い直す映画作品

9.11から18年。「テロ」という事象を通して、社会や人間を問い直す映画作品

テキスト
真鍋厚
編集:矢澤拓(CINRA.NET編集部)

暴力が普遍的なコミュニケーションであることを暴く、ファティ・アキン監督『女は二度決断する』

愛する者を失い、たった一人で復讐相手を追い続ける©2017 bombero international GmbH & Co. KG,Macassar Productions, Pathé Production,corazón international GmbH & Co.KG,Warner Bros. Entertainment GmbH
愛する者を失い、たった一人で復讐相手を追い続ける©2017 bombero international GmbH & Co. KG,Macassar Productions, Pathé Production,corazón international GmbH & Co.KG,Warner Bros. Entertainment GmbH

移民を標的にしたネオナチによる爆弾テロ事件とその顛末を描いた『女は二度決断する』(2017年、ドイツ、監督:ファティ・アキン)は、家族を殺された被害者の復讐劇という「多くの人々の共感を得やすい構図」を手掛かりに、わたしたちにとって暴力が普遍的なコミュニケーションであることを暴く。

物語の舞台はドイツ・ハンブルク。主人公のカティヤ(ダイアン・クルーガー)は、ネオナチが自転車に仕掛けた爆弾により、仕事場の事務所にいたトルコ系の夫と長男の命を奪われる。ほどなく若いネオナチの夫婦が容疑者として逮捕されるが、裁判ではアリバイを証言する者が現れるなど不利な展開に見舞われ、夫婦が無罪判決を勝ち取るという最悪の結果に終わってしまう。怒りと悲しみを抑えられないカティヤは、ギリシャで休暇を満喫中の夫婦の後を追い掛け、爆弾をリュックに背負って夫婦もろとも自爆する。一息に説明すると至極シンプルな構成だが、この結末にのみ囚われると全体が見えなくなる。その前の段階にこそ重要な啓示が示されているからだ。

『女は二度決断する』予告編

「同じ爆弾を作って復讐を果たす」ことから垣間見える「暴力の対称性」

まず、復讐に用いる爆弾だが、カティヤは裁判記録に従って忠実に同じものを自作する。この爆弾は、アンホ(Ammonium Nitrate/Fuel Oil explosive :ANFO)爆薬と呼ばれ、テロリストの間ではよく使われている安価で強力な爆弾だ。そのようなものをわざわざ手間暇をかけて、まるで何かの儀式のように制作するのである。ただ相手を殺すことが目的であれば、拳銃でも刃物でも良いはずだ。このカティヤの独特の復讐方法から、どこかで暴力のバランス、対称性のようなものを追求しているように受け取れる。

爆破事件により、ある日突然家族を失ってしまう©2017 bombero international GmbH & Co. KG,Macassar Productions, Pathé Production,corazón international GmbH & Co.KG,Warner Bros. Entertainment GmbH
爆破事件により、ある日突然家族を失ってしまう©2017 bombero international GmbH & Co. KG,Macassar Productions, Pathé Production,corazón international GmbH & Co.KG,Warner Bros. Entertainment GmbH

「殺す者」であるとともに「殺される者」でもあるような両義性を引き受ける、自爆という決断

もう一つは、映画のタイトルにもなっている「二度決断する」シーンだ。

最初、カティヤは夫婦のキャンピングカーの下にリュックサックに入れた爆弾を仕掛ける。が、突然思い直して取り止める。その後、カティヤに月経が訪れる。性器に手を伸ばし、指に血が付いたのを確認するカットがあるが、月経をこれほど直接的に描いた映画は珍しい。ここには経血を通じた両義性が刻印されている。経血は、排泄物や母乳や唾液と同様に、身体に属すると同時に身体に属さない「境界的な次元」を示すものだからだ。

そしてカティヤは二度目の決断で、今度は爆弾入りのリュックサックを抱えて、キャンピングカーに乗り込んで犯人と自爆することを選ぶ。つまり、「殺す者」であるとともに「殺される者」でもあるような両義性を引き受けるのである。それは自らも死ぬことで復讐の連鎖に終止符を打つという、原始社会以来の復讐権に対する批評のようにも見える。また「人の命を奪うことに対する本質的な違和感」への自己犠牲的な返礼でもある。

法廷での一幕©2017 bombero international GmbH & Co. KG, Macassar Productions, Pathé Production,corazón international GmbH & Co.KG,Warner Bros. Entertainment GmbH
法廷での一幕©2017 bombero international GmbH & Co. KG, Macassar Productions, Pathé Production,corazón international GmbH & Co.KG,Warner Bros. Entertainment GmbH

けれども、このプロセスを丁寧に描写して観客に突き付けることで、決して同意することはできないが、その感情を否定することが難しい「宙吊りにされた境地」を体験させることに成功している。もし、暴力の普遍性を理解することができるのであれば、わたしたちはそれを食い止めることも可能なのではないか、そう思わずにはいられない説得力に満ちた傑作だ。

わたしたちは日々ニュースで報道される「テロ」という言葉の先入観に惑わされず、わたしたちの社会の深層に巣食う「アンチテロ」の誘惑にも目を向けなければならない。これらの映画は、そんな困難な時代を生きているわたしたちに強烈なインスピレーションを与えてくれるだろう。

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作品情報

『15時17分、パリ行き』

2018年3月公開
監督:クリント・イーストウッド
原作:アンソニー・サドラー、アレク・スカラトス、スペンサー・ストーン、ジェフリー・E・スターン『The 15:17 to Paris: The True Story of a Terrorist, a Train, and Three American Heroes』
出演:
アンソニー・サドラー
アレク・スカラトス
スペンサー・ストーン
配給:ワーナー・ブラザース映画

作品情報

『女は二度決断する』

2018年4月公開
監督:ファティ・アキン
脚本:ファティ・アキン、ハーク・ボーム
出演:
ダイアン・クルーガー
ウルリッヒ・トゥクール
ヌーマン・アチャル
ヨハネス・クリシュ
上映時間:106分
配給:ビターズ・エンド

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