
YOASOBI、ボカロ文化と繋がる「物語音楽」の新たな才能の真髄
YOASOBI- テキスト
- 柴那典
- 編集:後藤美波(CINRA.NET編集部)
デビュー曲がSpotifyバイラルチャート1位。音楽、歌詞、映像が融合した「物語音楽」の新たな才能
「小説を音楽・映像で具現化する」ユニットYOASOBIが、大きな注目を集めている。波紋のように反響を広げつつある。
筆者がYOASOBIの名前を知ったのは、Spotifyバイラルチャートがきっかけだった。1月中旬、King Gnu“Teenager Forever”やLiSA“紅蓮華”などを押しのけて同チャートで1位を獲得していたのが、昨年12月に配信リリースされたYOASOBIのデビュー曲“夜に駆ける”だった。
そこからYouTubeで11月に公開されていたMVを観て、ピンときた。これは「物語音楽」の新たな才能だ。音楽と、歌詞の言葉と、アニメーションの映像が多面的に融合して一つのクリエイティブとして結実している。ストーリーと楽曲が深い部分で手を取り合っている。コメント欄にも、曲を聴いて共感し感動している感想に加えて、歌詞や映像を深読みするような言葉が並ぶ。
2019年11月に発表されたYOASOBIのデビュー曲“夜に駆ける”MV
さらに1月18日には新曲“あの夢をなぞって”が公開された。“夜に駆ける”のMVは公開1か月足らずでYouTube、ニコニコ動画あわせて100万回再生を突破したが、こちらは公開3日後の1月21日現在で、すでにYouTubeのみで20万回再生を突破。前作を上回る勢いとなっている。
1月18日にリリースされたYOASOBIの第2弾楽曲“あの夢をなぞって”
「monogatary.com」に投稿された物語を楽曲化するユニットとして結成された異色のユニット
YOASOBIとは何者か? 彼らの新しさはどこにあるのか? なぜ彼らの音楽が沢山の若者を惹きつけているのか? それを、いくつかのポイントから解説していきたい。
YOASOBIは、プロデューサーのAyaseとボーカルのikuraによる2人組。ソニー・ミュージックエンタテインメントが運営する小説・イラスト投稿サイト「monogatary.com」から誕生したユニットだ。
プロジェクトの始まりは、昨年7月から9月にわたって「monogatary.com」上で行なわれていたコンテスト『モノコン2019』。その「ソニーミュージック賞」で大賞に輝いた物語を楽曲化するユニットとして、YOASOBIが結成された。
小説、音楽、映像を行き来しながら作品世界を深く味わう受け手の体験
“夜に駆ける”は、同コンテスト「ソニーミュージック賞」の大賞を獲得した星野舞夜による小説『タナトスの誘惑』をもとにした楽曲。そして、同じく大賞に輝いたいしき蒼太による小説『夢の雫と星の花』を原作にした楽曲が、“あの夢をなぞって”だ。
つまり、小説のストーリーありきで楽曲が作られ、それをもとに映像が制作されるという形でYOASOBIのクリエイティブは進んでいる。だからこそ、先に小説を読んでいた人には、歌詞のモチーフや映像のディティールが表現しているものが鮮明に伝わる。逆に、楽曲を先に聴いた人は、小説を読むことで曲の背景を深く知ることができる。
たとえば『タナトスの誘惑』は、飛び降り自殺を図る「彼女」とその姿に一目惚れした「僕」が織り成す短編。だからこそ、漫画家/アニメーション作家の藍にいなが手掛けた“夜に駆ける”のMVは、ビルの屋上のシーンから始まる。
また、『夢の雫と星の花』は、生まれつき予知夢を見ることのできる能力を持った幼なじみの二人が、花火大会の夜に思いを通じ合わせるストーリー。ゆえにクリエイターの頃之介古論が手掛けた“あの夢をなぞって”のMVでは、夜空に浮かぶ花火の鮮やかな光がポイントになっている。
小説と音楽と映像を行き来しながら、その世界を深く味わうことができる。しかもMVに「第一章」「第二章」とあるように、複数の物語が連なっていくことでより大きな物語世界の広がりにつながっていくことも予感させる。こうした「物語音楽」としての仕組みが、YOASOBIのキモになっている。
リリース情報

- YOASOBI
『あの夢をなぞって』 -
2020年1月18日(土)配信
プロフィール

- YOASOBI(よあそび)
-
2019年11月活動開始。コンポーザー“Ayase”とボーカリスト“ikura”による「小説を音楽にする」クリエイターユニット。物語投稿サイト「monogatary.com」の小説を原作とし、その世界観を音楽・映像で表現。2019年11月に第一章「夜に駆ける」のMVを発表すると、公開1か月でYouTube再生100万回突破、Spotifyバイラルチャートで1位を獲得するなど話題を呼んでいる。現在、第二章楽曲「あの夢をなぞって」を公開中。コンポーザー“Ayase”は、自身のボーカロイド楽曲「ラストリゾート」がYouTube再生250万回を超え、初EP『幽霊東京』がiTunesアニメチャート3位を記録。ボーカリスト“ikura”は“幾田りら”として、総再生数2,700万回を超えるユニット“ぷらそにか”に参加。“東京海上日動あんしん生命”CMでの歌唱など、一度聴いたら耳を離れない歌声が注目を集めている。