コラム

米大統領選直前。様々な立場からミュージシャンも投票呼びかけ

米大統領選直前。様々な立場からミュージシャンも投票呼びかけ

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辰巳JUNK
編集:後藤美波(CINRA.NET編集部)

投票に行きたくても行きにくい状況や、「投票抑圧」の問題も。ジェネイ・アイコやジャネール・モネイの歌や言葉

一方、熱心に選挙に参加できない境遇を歌うアーティストもいる。10月、一部アニメーションで放送された人気テレビドラマ『`black·ish』の「選挙スペシャル」に提供されたジェネイ・アイコの楽曲“Vote”は、期日前投票ができるポストが撤去される様子や、投票所にできた長蛇の列などの情景とあわせて、一人の黒人女性の心情を描く。

「投票に集中したいけど時間が無い/仕事に行かなきゃ/家賃の支払いがあるから」「上司に休みを頼んだら、きっと解雇される」(ジェネイ・アイコ“Vote”より)

ジェネイ・アイコ“Vote”

アメリカ大統領選挙の一般投票は、日本の国政選挙よりも参加のハードルが高いとされる。11月第一月曜日の翌日となる投票日は、休日となる州もあるものの、連邦政府休日になっていない。二大政党が自らに有利に働くようにシステムを変える「投票抑圧」によって投票所が減らされたこともあり、長い時間をかけて到着した現地でさらに数時間並ばされるケースも報告されている。ジェネイが歌ったように、休みがとりにくく忙しい有権者は「投票に集中」しにくい状況にあるのだ。

期日前投票や有権者登録にしても、州によっては一部の人々にとって厳しい条件が設けられており、Amazonオリジナルドキュメンタリー『すべてをかけて:民主主義を守る戦い』では黒人や先住民の人々が特に除外されやすくなる共和党サイドの「投票抑圧」が紹介されている。同ドキュメンタリーに楽曲“Turntables”を提供したジャネール・モネイは、こうした「投票に集中・参加できない人々」を生むシステムの問題を踏まえながら、問いを投げかけている。「今、私たちが身を置く革命の歌を創ることができました。では、歌なき革命とはなんでしょうか?」。もちろん、その筆頭は、投票できる人が票を投じることだ。

ジャネール・モネイ“Turntables”

人生初の投票であることを明かしたスヌープ・ドッグ。投票を迷う有権者と対話を行なうBon Iverジャスティン・ヴァーノン

期日前投票も激増するなか、正直な告白をする中年セレブたちも脚光を浴びている。伝説的なバスケットボール選手のシャキール・オニールは、48歳にして、今回初めて投票を行なった旨を告白した。「これまで一度も投票をしたことが無かった。でも、今は投票を呼びかけるキャンペーンをやっている。とにかく嫌なのは、偽善者になること(だから、バッシングされる覚悟で正直に告白した)」。これまで前科があるため投票権が無いと「思い込まされていた」という49歳のラッパー、スヌープ・ドッグも、人生初めての投票を行なうと宣言し、カリフォルニア州のオンライン有権者登録をする動画を共有した。さらに1991年生まれのタイラー・ザ・クリエイターも今回初めて投票することをSNSで明かし、投票を呼びかけている。この「初の投票」告白ムーブメントは、政治から遠ざかっていた人々にも届きうるのではないか。

スヌープ・ドッグは自身が初めてオンライン有権者登録をする様子を動画で公開

投票を迷う有権者に直接語りかけるミュージシャンもいる。Bon Iverのジャスティン・ヴァーノンは、The Nationalのアーロン・デスナーとのバンドBig Red Machine名義で新曲“The Latter Days”を披露した。これは元々、ヴァーノンが地元ウィスコンシンにて行なう無党派の投票促進イニシアチブ「For Wisconsin」と並行して行なわれた「投票をためらっている人」に会う企画「A Visit With Vernon」にて披露された楽曲だ。夕陽が照らす屋上でたった2人の有権者に披露された“The Latter Days”は、直接的にポリティカルな内容ではない。ヴァーノンが語るように、将来振り返った時、自分たちが十分に行動したと感じられるのか想いを巡らせる詞が抽象的に紡がれている。

もちろん、アメリカの選挙を取り巻く状況は、日本をふくむ他国とは異なっている。しかしながら、ヴァーノンが奏でた「将来なにを思うか」というメッセージは、さまざまな垣根を超えて私たちの胸を打つのではないだろうか。

Bon Iverのジャスティン・ヴァーノンが「A Visit With Vernon」の一環で、2人の有権者との対話後に披露した“The Latter Days”

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