コラム

ゲームと映画の接近。『Away』が提示する未来の作品づくり

ゲームと映画の接近。『Away』が提示する未来の作品づくり

テキスト
小野寺系
編集:矢澤拓(CINRA.NET編集部)
2020/12/23

一人で作品を作ることと、作品の中の少年の「自由」と「孤独」が交叉する

さて、そんな近年のゲーム風の世界が本作にもたらしているものとは、いったい何なのだろうか。実写映画はもともと、写真のように現実を切り取りながら、そこに作り手のイメージする世界を託していたし、手描きアニメーションは書き割りのような背景を描いて世界を表現していた。その点、3DCGはある架空の空間を用意し、その中で実際に物理的な運動を発生させるという意味で、より「構築的」であるといえる。そこでは、縦横無尽なカメラワークが可能となり、照明効果や天候の表現もリアリティをもって表現できる。これは、ピクサーなどに代表される3DCGアニメーションに共通する特徴である。

だがピクサー作品は、あくまで従来の映画作品の価値観で作られているのも確かだ。イメージボードがあり、絵コンテを作るなど、手描きアニメーションの頃からの手法に当てはめて理想のイメージ通りにCGをコントロールしていくことで、映画としての質を保っているのだ。

『ディズニー/ピクサー 20タイトル コレクション』予告編

対して『Away』は、もっとプリミティブにCG世界に遊んでいるように見える。ピクサー作品のような、一つの正解を選択するような完成度はないが、その世界がそこに存在し、自分自身もそこに入って動き回れるような「実在感」があるのだ。これは、監督自身が語っている通り、映画としての確固たる脚本や絵コンテなどを用意せずに、即興的な感覚で世界を構築しているところからくるのではないか。その意味で本作は、やはり従来の映画の概念とは根底から異なっている。

さらにそこで表現されているのは、まさに監督自身の姿や、生きる実感のように感じられる。モーターバイクで少年が疾走する姿は、一人でアニメーションを作っていることの圧倒的な自由の象徴のようであるし、また孤独の象徴でもあるようだ。ゆっくりと迫り来る巨大な影は、数年間一つのアニメーションを一人で作り続けることへの耐え難い不安の象徴に見えてくる。

©2019 DREAM WELL STUDIO. All Rights Reserved.
©2019 DREAM WELL STUDIO. All Rights Reserved.

変わりゆく「作品づくり」の概念。このような作品が増えていったとき、未来の映画やアニメは、様変わりしているのかもしれない

しかし、そんな構図は別の見方もできる。島を孤独にめぐる少年の姿は、誰も信じられなくなった一人の人間が、精神的な旅を経験することで立ち直っていく過程をキャラクターに託して描いているようでもあるのだ。

このように本作が観る者によって様々な解釈ができるというのは、本作の抽象度の高さからくるものだ。劇中、役割を与えられる者たちや、キャラクターたちの行動の意味、そして謎めいたアイテムやシンボルなど、あたかもありがちなゲームの要素のように感じられるあれこれは、それがあまりに単純で理解しやすいものだからこそ、具体的な情報が剥奪された、より純粋なものとして存在できるのである。

映画を観ることに慣れているわれわれが『Away』から与えられる、何らかの可能性の糸口や名状し難い不安というのは、このように、作品づくりの概念において立脚するところが異なっているところから起因しているのではないか。そして、このような感性を持ったクリエイターは、今後どんどん現れてくるのではないかと思える。そうした作品に影響される人々でクリエイターたちが占められたとき、果たして映画やアニメーションは、従来の姿を保っていられるのだろうか。そんな映画の未来を想像するのは、怖くもあり、少し楽しみでもあるのだ。

記事の感想をお聞かせください

知らなかったテーマ、ゲストに対して、新たな発見や感動を得ることはできましたか?

得られなかった 得られた

回答を選択してください

ご協力ありがとうございました。

Page 2
前へ

作品情報

『Away』
『Away』

全国公開中

監督:ギンツ・ジルバロディス
音楽:ギンツ・ジルバロディス
上映時間:81分
配給:キングレコード

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

あらかじめ決められた恋人たちへ“日々feat.アフロ”

何かを我慢することに慣れすぎて忘れてしまいそうになっている「感情」を、たった10分でこじ開けてしまう魔法のようなミュージックビデオ。現在地を確かめながらも、徐々に感情を回転させていくアフロの言葉とあら恋の音。人を傷つけるのではなく、慈しみ輝かせるためのエモーションが天井知らずの勢いで駆け上がっていった先に待ち構えている景色が、普段とは違ったものに見える。これが芸術の力だと言わんばかりに、潔く堂々と振り切っていて気持ちがいい。柴田剛監督のもと、タイコウクニヨシの写真と佐伯龍蔵の映像にも注目。(柏井)

  1. 東京スカイツリー天望デッキから配信されるライブ『天空の黎明』全演目発表 1

    東京スカイツリー天望デッキから配信されるライブ『天空の黎明』全演目発表

  2. 常田大希提供曲に隠れたジャニーズらしさ SixTONES“マスカラ” 2

    常田大希提供曲に隠れたジャニーズらしさ SixTONES“マスカラ”

  3. 異才スティールパン奏者、電子音楽家の2つの顔 小林うてなの半生 3

    異才スティールパン奏者、電子音楽家の2つの顔 小林うてなの半生

  4. 在宅ワークを快適に。コロナ禍でさらに注目の音声メディアを紹介 4

    在宅ワークを快適に。コロナ禍でさらに注目の音声メディアを紹介

  5. お父さんはユーチューバー / 美術のトラちゃん 5

    お父さんはユーチューバー / 美術のトラちゃん

  6. シンセと女性たちの奮闘物語『ショック・ドゥ・フューチャー』 6

    シンセと女性たちの奮闘物語『ショック・ドゥ・フューチャー』

  7. カンヌ4冠『ドライブ・マイ・カー』の誠実さ 濱口竜介に訊く 7

    カンヌ4冠『ドライブ・マイ・カー』の誠実さ 濱口竜介に訊く

  8. 「ドラえもんサプライズ誕生日会」の「招待状」広告が朝日新聞朝刊に掲載 8

    「ドラえもんサプライズ誕生日会」の「招待状」広告が朝日新聞朝刊に掲載

  9. 「千葉=無個性」への反抗。写真展『CHIBA FOTO』を語る 9

    「千葉=無個性」への反抗。写真展『CHIBA FOTO』を語る

  10. ROGUEが語る、半身不随になってから再びステージに上がるまで 10

    ROGUEが語る、半身不随になってから再びステージに上がるまで