コラム

IUの変化と確かな信念。「年齢シリーズ」と最新作から紐解く

IUの変化と確かな信念。「年齢シリーズ」と最新作から紐解く

テキスト
菅原史稀
リード文・編集:後藤美波(CINRA.NET編集部)

大衆のイメージを映す『二十歳の春』、「私というナゾナゾ」に翻弄される“Twenty-three”

23歳で「年齢シリーズ」がスタートする前の2012年に、IUは『二十歳の春』をリリースしている。同作は全3曲が収録されるシングル集で、そのなかでも最もよく知られる“一日の終わり”では<あなたの心が聞こえるように私に言って / 手を差し出せば良いのに / 迷う理由が私と同じなら / もう近づいてきてちょうだい>と、愛の告白を待つ幼い恋心が率直に語られ、また別の収録曲“あの子、大嫌い”では<その子のどこがそんなに好きだったの / あなたって本当にどうしてそうなの? / 忘れたって言ってたじゃない>と、「あなた」の隣にかつていた「あの子」へ向けられる「私」の苛立ちが臆面もなく歌われる。

浮き足立つような瑞々しい感性がシンプルでストレートに表される本作には、一般的に人々が共通して抱く「20歳の春」のイメージが詰め込まれており、そこから立ち上がるIU像も世間に向けられたいわゆる「20歳の少女」らしい姿である。

“一日の終わり”ドキュメンタリー映像も交えたフルMV

IU『二十歳の春』(2012年)を聴く(Apple Musicはこちら

その3年後、IUが23歳で発表した楽曲──「年齢シリーズ」1作目となるその名も“Twenty-three” ──では、こんなことが歌われている。

<私というナゾナゾ Question / 答えはなあに当ててみて><私はね恋がしてみたい / なんてね お金をたくさん稼ぎたい><私、死んだみたいに生きるの / やっぱり全部やめた / 当ててみて、どっちでしょう?>

『二十歳の春』に感じられた「20歳の少女」という記号を振り払うかのごとく「私」を煙に巻いてみせ、聴く者を混乱へと導くような“Twenty-three”のIU像。この曲を収録したミニアルバム『CHAT-SHIRE』は彼女にとって初めてのセルフプロデュース作であり、アーティストとしての前進と、IUによる変革の意志が垣間見える作品だ。

いっぽうで<そう私は今が気に入ってる / ううん 本当は投げ出したい><どっちだ? / 実は私も分からないの>という歌詞もあることから、“Twenty-three”に表れる「私」は、「私というナゾナゾ」によって、聴く者だけでなく自分自身をも混乱へと誘っているようだ。

IU“Twenty-three”MV

IU『CHAT-SHIRE』(2015年)を聴く(Apple Musicはこちら

絵の具のように自由に混ざり合う「私」を見つける、25歳の“Palette”

そして2017年、25歳でリリースした“Palette(feat. G-DRAGON)”。繊細かつ多面的でありながら、幅広い人に訴えかけるIUの魅力が堪能できる楽曲だ。

<不思議だけど最近はただ楽なものが好き / まぁそれでもまだコリンの音楽は好き><I like it. I'm twenty five / 私を好きなことを知ってる / I got this. I'm truly fine / 今はちょっと分かるような気がする、私を>

自分でも不思議(意外)なことに「楽なもの」が好きになったという思わぬ変化を自覚しながら、かねてより敬愛する「コリン」(シンガーソングライターのコリーヌ・ベイリー・レイ)への変わらぬ想いを見いだすことで、過去と現在の連続性によって形成される「私」を発見する25歳のIU。

それは大衆に求められる記号としての「私」や、大衆に求められる私を振り払おうと呈示するナゾナゾとしての「私」ではなく、まるでパレットの上で絵の具が混ざり合ったように形成される自由な「私」の姿だ。

そして自由なままの「私」であることに感じる心地よさが「I got this. I'm truly fine」といったフレーズや、ナチュラルでスムースなサウンドに投影されている。

IU“Palette(feat. G-DRAGON)”MV

同曲を収録した『Palette』というアルバムタイトルの由来について、IUは発売当時のV LIVE配信でこのように解説した。

「私は美術の時間、描いている絵よりもパレットのほうが綺麗であるように感じていた。パレットの上で、様々な色の絵の具がそれぞれの形で自由にいる姿は、私が描いていた絵よりももっと綺麗だった」

IUがパレットの上に並んだ絵の具に感じた魅力は、一言では言い表せない多面的な姿を見せるからこそ、その本質に迫りたくなるという、IU自身が持つ魅力と重なるようである。

また“Palette”では、IUの希望で実現したというG-DRAGONとのコラボレーションにより、25歳の「私」を表すうえで他者の視点がもたらされていることも重要なポイントとなっている。

<ジウン、オッパはね / 今30なんだけど / 自分では全くそうじゃない><子供でも大人でもない年齢の時 / ただ「自分」である時 / 一番キラキラと輝くんだ><あまりに美しくて花がぱっと咲いて / いつも愛される子 YOU>

G-DRAGONによるラップのリリックからは、5つ上の「オッパ(「歳上のお兄さん」を意味する韓国語)としての立場からIUの本名である「ジウン」という個人へ向けた手紙に綴られる言葉のようなあたたかみが感じられる。これにより25歳のIU像がパレットで混ざり合う絵の具のような複雑性を帯びながらも、リスナーにとって「Question」のままで終わらない、客観的な主体としての「私」も表れているように思う。

IU『Palette』(2017年)を聴く(Apple Musicはこちら

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