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独学の大物デザイナー・粟津潔が現代のクリエイターに与えた影響

独学の大物デザイナー・粟津潔が現代のクリエイターに与えた影響

内田伸一
撮影:佐々木鋼平
2014/09/30

多岐にわたる粟津潔の活動、今回はパフォーマンスの部分に迫る展覧会

大壁画を堪能した後、いよいよ展示室内部に進むと、円形空間にぐるりと粟津ワールドが展示されています。東西それぞれの出入口を境に、会場の半周には代表的なポスターや絵画作品が並びますが、もう半分は謎めいたパフォーマンス写真や映像、またその動きを示したスコア(譜面)となっています。

『粟津潔、マクリヒロゲル1 美術が野を走る:粟津潔とパフォーマンス』展示風景
『粟津潔、マクリヒロゲル1 美術が野を走る:粟津潔とパフォーマンス』展示風景

じつは金沢21世紀美術館は、粟津の作品や関連資料を約2,786件も所蔵しています。デザイン、美術、映画、演劇、建築、評論……と多岐にわたるその内容は、未発表作品や創作の手がかりとなるメモなども多数あり、今も調査は続行中。今回はそのうち、詳細が未調査だった1977~79年のパフォーマンスに注目したプロジェクトです。そのため壁半分を埋めるのは、新調査で浮かび上がった当時のパフォーマンス写真や映像、音源レコード、スコアや会場図などなど。これをよく知られるグラフィック作品などと対置し、粟津の全体像を新たな光で照らそうというものです。

環ROYは、展示室を粟津潔の脳内に見立てたパフォーマンスを敢行

この特殊空間に、ソロパフォーマンス『いくつもの一緒』で挑んだのがラッパーの環ROYです。展覧会オープニングプログラムの先陣を切って登場した彼は、身体1つのパフォーマンスを敢行。展示室中央に置かれた机(粟津の愛用品)に歩み寄ると、そこで何かを書きつけ、空を仰ぎながら言葉を紡ぎ、机の周囲を廻って……さらには壁にタッチしながら少しずつ室内の明かりを点灯させていきました。彼が手足から生み出す音も、そこに重なります。最後は自ら出入口を押し開き、空間を外の光で満たすというフィナーレ。その終演直後、本人に話を聞くことができました。

環ROY『いくつもの一緒』
環ROY『いくつもの一緒』

:今回のパフォーマンスは、展示空間を粟津さんの頭の中に見立てたものです。あの展示室って円形で音の反響が半端じゃないんです。音源などを使用するには不向きだなと最初に思い、それを逆手にとるような、身体だけのミニマルな表現を考えていきました。設営の最中に2時間だけ、あの部屋に一人で居させてもらえたんですが、それは何か『ドラゴンボール』の「精神と時の部屋」みたいな感覚で(笑)。そのとき、粟津さんの脳内で言葉になる前の微細な何か、たとえば発想とか創意の種が生まれて、やがて言葉やかたちになり、表現として外の世界に出ていくという物語を思いつきました。そこから、それをどうパフォーマティブな表現に落とし込めばいいのだろうと進めて行ったんです。

パフォーマンスタイトル『いくつもの一緒』は、既成のジャンルや枠組にとらわれない粟津の多様な創作姿勢にもつながります。ラッパーとして活動する中、ヒップホップも1960年代から続くポップミュージックの細分化の歴史上にある、と解釈するようになったという環さん。だからこそ、粟津の領域横断的な姿勢に共感する部分があると言います。

:粟津さんは文章の中で「私はすべての表現分野の境界を取り除いて、階級、分類、格差とかも全部取り除いてしまいたい」みたいなことを書いていました。さらに実際、ホントに色々なことを実践されている。たしかに「ジャンル」って言葉は、人間が創造したことの出力方法が違うときに使われているだけだとも言える。僕は自分をラッパーだと思っているけど、「ラッパーってこうだから」ってなるべく決めないようにしたい。曖昧さを残しながら創作に取り組んでいけたら、自身でも思わぬ広がり方をするかもしれない。そういう可能性を大切にしたいです。

環ROY『いくつもの一緒』構想図
環ROY『いくつもの一緒』構想図

そう言いつつ見せてくれた今回のパフォーマンスの手描き構想図は、たしかにラッパーのステージ資料というより、舞台芸術の演出ノートのようでもありました。蓮沼執太さんやホナガヨウコさんなど、様々な才能とのコラボレーションも知られる環さんにとって、今回は時空を超えた粟津との共演?

:どうだろう。ただ残念ながら、もう粟津さんには俺の言葉は聞こえないんだよな~(苦笑)。その意味では、相互コミュニケーションしながらのコラボとは違いますよね。でも今回のことを通して、彼の言葉や、表現に対する姿勢にたくさん触れましたよ。担当学芸員の北出さんが色々な資料を見せてくれるんです。たとえばデザインについて書かれた随筆が印象的でした。「アートはテーマから創造していく行為だけど、デザインはテーマを与えられたところから創造をスタートさせる。その違いを織り込んだうえで、与えられたテーマに自分なりの『見い出し方』を持ち込むことができたら、デザインはデザインを超えていく」みたいなことを言っていて、すごく共感したんです。「見い出し力」の話だー! と思って勇気づけられました。

『粟津潔、マクリヒロゲル1 美術が野を走る:粟津潔とパフォーマンス』展示風景
 『粟津潔、マクリヒロゲル1 美術が野を走る:粟津潔とパフォーマンス』展示風景

今回展示された、粟津の関わった1970年代後半のパフォーマンス群は、親交のあったアーティスト・浜田剛爾の主宰した『Performance』シリーズの公演の中で実践されたもの。その映像や音源に漂う実験性は、商業性とは距離をとったものと言えます。ただ粟津の場合、映画・演劇ポスター、また広告的な仕事にも、「頼まれ仕事」的なやらされ感より、独自の創意が溢れるのが特徴。そのことも、この対比展示の大切なメッセージかもしれません。

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イベント情報

『粟津潔、マクリヒロゲル1「美術が野を走る:粟津潔とパフォーマンス』

2014年9月13日(土)~10月13日(月・祝)
会場:石川県 金沢21世紀美術館 展覧会ゾーン
時間:10:00~18:00(金、土曜は20:00まで)
休館日:月曜(10月13日は開場)
料金:一般360円 大学生280円 65歳以上280円
※小中高生は無料
※『コレクション展 II 感光と定着』との共通観覧券

『高橋悠治×笹久保伸、青木大輔、Irma OSNO/秩父前衛派 パフォーマンス』
2014年10月12日(日)OPEN 18:00 / START 18:15
会場:石川県 金沢21世紀美術館 展示室14とその周辺
出演:
高橋悠治
笹久保伸
青木大輔
Irma OSNO/秩父前衛派
鷲尾友公
武田雄介
ほか
定員:60名
料金:2,000円

島田璃里ピアノパフォーマンス
『ヴェクサシオン:サティと粟津と回遊する』

2014年10月13日(月・祝)
会場:石川県 金沢21世紀美術館 展示室14
出演:
島田璃里
and more
料金:無料(ただし、『コレクション展 II 感光と定着』の観覧券が必要)
※終日開催

プロフィール

粟津潔(あわづ きよし)

1929年東京都生まれ、2009年逝去。独学で絵・デザインを学ぶ。1955年、ポスター作品『海を返せ』で『日本宣伝美術会賞』受賞。戦後日本のグラフィックデザインを牽引し、さらに、デザイン、印刷技術によるイメージの複製と量産自体を表現として拡張していった。1960年、建築運動「メタボリズム」に参加、1977年、『サンパウロビエンナーレ』に『グラフィズム三部作』を出品。1980年代以降は、象形文字やアメリカ先住民の文字調査を実施。イメージ、伝えること、ひいては、生きとし生けるものの総体のなかで人間の存在を問い続けた。その表現活動の先見性とトータリティは、現在も大きな影響を与えている。

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