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日本一有名なプールからの10年『レアンドロ・エルリッヒ』展

日本一有名なプールからの10年『レアンドロ・エルリッヒ』展

坂口千秋
撮影:佐々木鋼平

「ふつう」や「ありきたり」の状況に対する、ひそやかな挑戦

今回の個展では、恒久展示の『スイミング・プール』をはじめ、新作を含む17点を展示。レアンドロの作品の特徴である、「わかりやすさ」「親しみやすさ」だけでなく、その奥にあるアーティストの関心を多角的に感じさせるような構成となっています。

『住宅Ⅰ』2004 Courtesy of Leandro Erlich Studio
『住宅Ⅰ』2004 Courtesy of Leandro Erlich Studio

レアンドロは、私たちが当たり前と認識している空間や、そこで習慣的に取られる人々の行動に目を向けます。プール、エレベーター、階段、壁、舗道、窓など、日常空間を構成するさまざまな要素は、それがありふれたものであればあるほど、誰もが無意識に同じようなことを考えます。鏡は姿を映すもの、階段は昇り降りするもの。こうした認識を普段、人はあえて疑ったり考えたりはしません。でも、もしも鏡に自分の姿が映らず、階段が上下方向ではなく横向きに伸びていたら、私たちは現実をどのように把握するでしょう? レアンドロは、私たちの日常を作り上げている見えない論理を、巧みに反転させたり再構築することで、現実の不確実性をあらわにします。それは、ありきたりな状況へのひそやかな挑戦なのです。

そのための、よりリアリティーある「ふつう」を演出するために、レアンドロは努力を惜しみません。今展でも、日本や金沢の慣習、展示空間を考慮して、ディテールまで精巧に作り上げた「ふつう」の階段、エレベーター、窓、部屋、舗道などによる大規模インスタレーションを展開しています。

中でもエレベーターは、作家活動の初期から何度も登場する題材で、今回の展示でも2作がエレベーターにまつわるものでした。『エレベーター・ピッチ』は、エレベーターの中で人間が取るさまざまな行動を観察する作品。エレベーターのドアが開く度に、目を合わせない他人、買い物の戦利品を見せ合う女子たち、イライラと閉ボタンを押しまくる人、恋人同士など、さまざまなシーンが代わる代わる現れます。

『エレベーター・ピッチ』2011 courtesy of Leandro Erlich Studio
『エレベーター・ピッチ』2011 courtesy of Leandro Erlich Studio

もともとは日本のデパートで発想を得たというこの作品、映像はブエノスアイレスで撮影したものですが、密室であり同時に公共空間でもあるエレベーターの特性を浮き彫りにしています。そこでの人間の行動は、まるで演技をしているようにぎこちなくユーモラスですが、実際の私たちも似たような行動をとっているに違いありません。「何も特別なことは起きないことがすべてだったりします」というレアンドロの言葉も意味深です。また、5月17日から公開される『エレベーターの迷路』は、エレベーターの構造に眼を向け、密室の中に永遠に広がる迷宮をしつらえています。

『エレベーターの迷路』2011 courtesy of Sean Kelly Gallery and Art Front Gallery ©Leandro Erlich Studio
『エレベーターの迷路』2011 courtesy of Sean Kelly Gallery and Art Front Gallery ©Leandro Erlich Studio

「建築を空間を作るための規則としてではなく、物語を語る1つの手法として捉えました」(レアンドロ)

螺旋階段を吹き抜けごと90°横に倒した『階段』は、正面に立って作品を観ているのに、真下に向かって階段の吹き抜けを覗きこんでいるような錯覚を覚える作品。さらにその階段空間の中にも鑑賞者が入っていくことが出来るので、その場にいる人たちは仕組みがわかっていても、次第に「あれ……、やっぱりなんか変?」という違和感をじわじわと感じることになります。

『階段』2005
『階段』2005

また、鏡を使った新作『見えない庭』は、実像と虚像が混ざり合った不思議な作品。丸い展示室に建つ多面体の温室の周囲を歩くと、次々と現れる4つの庭。あれれ? ほどなく鏡のトリックに気づくけれど、それでも何度もぐるぐると温室の周りを回ってしまいます。頭ではわかっていても感覚的に魅了される感じは、ちょうど『スイミング・プール』の体験と似ています。

『見えない庭』2014
『見えない庭』2014

それにしても一体、いつこうした作品のインスピレーションが湧くんでしょう? 

レアンドロ:毎日の経験から。日々の生活で想像したことや自分の身に起きた出来事など、いろいろな場所でインスピレーションは生まれます。それと、ユーモアのセンスは僕の人間性の一部ですね。

父も叔母も兄も建築家という環境で育ったことも、空間への興味に影響を与えたそうです。

レアンドロ:ただ僕は建築を空間を作るための規則としてではなく、物語を語る1つの手法として捉えました。

物語には登場人物がつきもの。ここで、レアンドロの作品の絶対的特徴である、観客の参加という点が出てきます。そういえば、『スイミング・プール』が展示された10年前と今で、何が変わったか? という質問に対してこんなことも言っていました。

レアンドロ:インターネットが爆発的に普及したおかげで、アルゼンチンというアートの世界では周辺の国で活動している私のようなアーティストの情報も世界中に届くようになりました。ただ、ネットは便利ですし、その恩恵もたくさん受けていますが、私の作品はどうやっても体験しないと絶対わかりません(笑)。

また「インターネットは便利だけど、必ずしもコミュニケーションの質を良くしたとは思えない」とも。フィジカルな感覚を信頼し、体験によって自然なコミュニケーションを誘発するレアンドロらしい意見です。

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イベント情報

『レアンドロ・エルリッヒ ―ありきたりの?』

2014年5月3日(土・祝)~8月31日(日)
会場:石川県 金沢21世紀美術館 展覧会ゾーン
時間:10:00~18:00(金・土曜日は20:00まで)
休場日:月曜(休日の場合その直後の平日。8月11日は開場)
料金:一般1,000円 大学生800円 小中高生400円 65歳以上800円

プロフィール

レアンドロ・エルリッヒ

1973年ブエノスアイレス(アルゼンチン)生まれ、モンテビデオ(ウルグアイ)在住。2000年の『ホイットニービエンナーレ』をはじめ、2001年、2005年の『ヴェネチア・ビエンナーレ』、サンパウロ、リバプール、イスタンブールといった多くの国際展に出展。世代や国境を超えて人々が共有できる体験の場を創造してきた。日本国内では美術館のみならず、『大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ』『瀬戸内国際芸術祭』などでも作品を発表。本展は、日本におけるエルリッヒ初の個展となる。

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