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早く人間になりたい Neat's(26歳女子)

第4話:「死ぬほど生きたい」と決めたから

痛々しいのにほっとけない、一人の女性のもがき

「人は変わることができる」「人は根本的には変わらない」。どちらも言われるけれど、要はその気持ちがホンモノか? ということに尽きるのだろう。私個人の実感を述べるなら、20代も後半に差しかかって、自分を変えることが大変になってきた。社会人になって、およそ5年。社会のルールに慣れ、根拠のない自信を持ち腐れていた学生時代を、苦く、懐かしむことも増えた。だけど一方で、積み上げた社会経験に身動きを奪われて、現実的な問題をかたづけるだけで1日が終わってしまったり、思いも時間も費やして頑張っているつもりなのになぜか幸せじゃなかったり、「あれ、私ってなんのために生きているんだろう?」 と突然ハッとして、号泣したりすることもあるのだった。

きっと誰だって毎日楽しく生きていたい。だけど、そうも言っていられないのはなぜなんだろうか? 『早く人間になりたい Neat's(26歳女子)』の連載を前任者から引き継ぐことになり、タイトルを少し、「痛々しいな」と思ったのと同時に、人ごとと思えないようなヒリヒリ感に心を絡めとられてしまったのは、同じ20代後半の女性として、連載のタイトル通り「早く人間になりたい」と言い放った主人公が、ちぢこまった自分の視野を広げてくれる予感がしたからなのかもしれない。

2011年、一人の女性ミュージシャン・新津由衣が、過去の華々しい経歴を捨てて「Neat's」というDIYのプロジェクトを始めた(詳しくは、この連載を振り返っていただきたい)。その心境を追いかけるのが、本連載の目的である。

しかし、いわゆる「アーティストドキュメンタリー」が成功者を物語の前提にしているのに対して、Neat'sが紡ぐのは、今を生きる一人の女の子の葛藤物語である。いやもちろん、彼女の職業はアーティストだ。しかしアーティストである前に、人間としてどう生きるか? という人間の最もコアな疑問に真剣に向き合い、前進と退行を繰り返す彼女のもがきようは、成功物語からはほど遠く、滑稽なほど生々しい。

3年前の涙を笑い飛ばすつぶやき、嘘か誠か?

これまでの取材では、自分の人生や人間性を肯定するために、都合の良い理屈を並べ、最もなりたくなかった人間になっていたことに気づいた彼女の自己崩壊の姿が露になった。そこで彼女の口から出たのが、「人間になりたい」という言葉。それから自分をさらけ出し、裸の自分から人生を再生するためのプロジェクト「Neat's」の半年間を追った。そして3年の時が経ち、Neat'sは今も、活動を止めることなく続いている。つまり彼女は20代後半の、自分の人生を決定付け、将来の選択肢が少なくなっていくデリケートな時期を、このプロジェクトに捧げたことになる。そのことに微塵の後悔もないのか? 今の自分をどう思っているんだろうか? 彼女は、自身が思う「人間」になることができたのか? それを知るため取材の準備をしている最中、彼女はTwitter(@Niitsuyui)で衝撃のつぶやきを発した。

 

(この連載記事を読み直して)久々に読んだらおもしろーい。3年前のニーツ始めたての私ですが、いろいろと別人だ!ww」(Twitterより)

 

「ww」……! 時には涙も交えたこれまでの切実なやりとりを、そうあっけらかんと笑ってのける彼女に目眩を覚えつつも、その発言は嘘か誠か? また今までのように、変わったふりをして、自分を納得させようとしているだけなのではなかろうか? そんな憶測で頭がグルグルになりながらも、とにかくすべては話を聞かなければ始まらないと、彼女に会いに行った。

Neat's

「落ちるとこまで落ちて、Neat'sを辞めたくなっちゃったんです」

 

---

—この前Twitterを見てたら、過去の自分とまるで別人になったとおっしゃっていましたよね。

Neat's:うん、記事として面白かった! だけどもうね、あの頃の私じゃないし、脱皮しました。

—あのときは、自分の本当の気持ちを包み隠していたりとか、自分自身に対して嘘をついちゃっていたりしたことが辛かった時期ですよね。それを、今は客観的に、しかも笑いながら見られるってこと?

Neat's:もちろん、悩んでる気持ちや痛みはわかります。でも、何で泣いてるんだろ? そんな悩まなくて良くない? って、今は思うかな。だからこういう子が目の前にいたらサポートしてあげたいなと思うし、もうちょっと心が柔らかくなるように話しをしてあげたい。だけど、その子が同じ私とはちょっと思いづらくて。

—もう別人ぐらいの感覚なんですね。でも、当時はかなり悩んでたわけですよね?

Neat's:そう。そのときは心が敏感すぎて、どんなことでもいちいちトゲが刺さって。自信もないから、自分のことを隠したり、かっこつけないと周りに太刀打ちできなかったんです。あの連載の取材でいろいろ紐解かれて「私、鎧をまとってたんだ!」と気がついて泣いてましたけど、今改めて読んでみると、ああやって泣いてもまだ鎧だらけじゃんと思った。でも今は、当時から比べると洗濯前と洗濯後ぐらいの違いがありますね。

—なぜ、あの暗闇の状態から、気持ちが解放されていったんですかね?

Neat's:解放というか、暗闇が、行くとこまで行ったんでしょうね。あれからの活動で、いろいろ自分のサイトだけでCDの販売したりキャパオーバーというか、頭も身体も結果もついていかないし、「これ、やっている意味あるのか?」みたいにNeat'sの活動自体を疑ったんですよね。落ちるとこまで落ちて、Neat'sを辞めたくなっちゃったんです。

—そんな時期があったんですか!

Neat's:もう、叫びたいほど全然うまくいかなくて……。「うまくいかない→自分を見つめ直す」みたいなことを何回繰り返してるんだろうってどんどん自分を追いつめていきました。第3話(「大いなる『ごっこ』の勧め」)のインタビューで、あたかも光が見えたような終わり方をしたり、セカンドアルバムの『MODERN TIMES』(2013年1月リリース)も満足したふりをしてたけど、やっぱりまだ完全な脱皮状態までは行けてなくて、作っても作っても、空虚でした。

—そうやって思いつめたあげく、辞めたくなったのはいつ頃ですか?

Neat's:去年の2~4月。『MODERN TIMES』を出して、さあまた次の作品って思ったらポカーンてしちゃって、何を作っていいか全くわからなかった。それで、「もう辞めます」って。たぶん、自分が根本的に「いいな」と思うものとか、単純に「ワクワクするじゃん、これ」みたいな気持ちを置いてきぼりにして突っ走ってきちゃったのが爆発しちゃったんですよね。

「全部自分でやってみる!」と決めたはいいものの、地道な挨拶回りに、ラジオ局への突撃プロモーション、1000日間も欠かさず自室から放送した『Neat'sTV』(YouTubeを使ったNeat'sの公式TV)の更新……。私自身、Neat'sのこうした努力を目の当たりにしながら、「アーティストだから、努力して当然でしょ」と、遠巻きに見ていた。でも、一人の女の子が、何の後ろ盾もなく、未来の保障も成功も約束されない中で、その身ひとつで「何かを成し遂げたい」と奮闘している。認めてもらいたくて、がむしゃらに頑張る中で、「本当に好きなもの」を見失って、生きづらくなってしまった経験は、社会に出たての20代を経験した者なら、誰でもぶつかったことのある壁なんじゃないか? そうやって、一人の身近な女の子として彼女を想像した途端、私は彼女と、少しずつ距離感を縮めていった。

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