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あの人の音楽が生まれる部屋 Vol.7:Jazztronik

レコード会社の人間と偽り
葉加瀬太郎にデモテープを手渡し

KORG

大学を卒業すると同時にJazztronikの活動を開始した野崎さんですが、実は大学を卒業するまで将来のことは何も考えていなかったようです。その後Jazztronikがデビューを飾ることになるレーベルのFlower Recordsからコンピレーションアルバムへの誘いはあったものの、音楽活動と並行して子どもに音楽を教えるアルバイトをしていました。そんなミュージシャン駆け出しの時期に大きな転機となったのが、中学生の頃に野崎さんを音楽の道へと導いてくれた、葉加瀬太郎さんとの再会でした。

野崎:就職先は探さなかったのに、音楽業界に何とか入り込みたいとは思っていました。でも、音楽大学を出たからといって音楽業界にコネがあったわけでもないので、曲を作ってはレコード会社にデモテープを送る日々。でも、ちゃんと聴いてもらえているかも分からないし、手応えもなく悩んでいた頃に、ブルーノート東京で葉加瀬太郎さんの公演情報を見つけたんです。「これは葉加瀬さんに直接デモテープを持って行くしかない!」と思い、レコード会社の人間だと嘘をついて葉加瀬さんを呼んでもらい、「聴いてください!」ってデモテープを渡したんです。そうしたら数日後に葉加瀬さんから電話がかかってきて、「君、面白そうだから来週からウチに来てよ」と言われ、葉加瀬さんの仕事を手伝ううちに、音楽業界の人と知り合うようになりました。

幼い頃からの憧れを実現した
架空のサウンドトラック『Cinematic』

Jazztronikの機材

まるで奇跡のような葉加瀬太郎さんとの巡り合わせで、野崎さんの生活は一変します。葉加瀬さんのアシスタントをこなしながらもJazztronikのデビューアルバム『numero uno』を制作するとヨーロッパで人気を博し、それを聴いた大沢伸一さんがJazztronikを気に入って一緒に仕事をするようになり……。不安で一杯だった駆け出しの時期を抜け出してからというもの、今にいたるまでノンストップで多忙な生活を続けているとのこと。そんなJazztronikの最新アルバム『Cinamatic』は、架空のサウンドトラックをイメージしたコンセプトアルバム。実は野崎さん、映画音楽には幼い頃から憧れを持っていたようです。

野崎:映画音楽は僕が音楽を始めようと思う前から、ずっと頭のどこかにありました。家族が映画好きで、小さい頃からよく映画館に行っていたので、映画の世界に憧れを持っていたんです。だからといって俳優になりたかったわけではなく、何かしらの裏方として関わりたいなと。映画音楽っていろんなタイプの音楽が1本の映画の中で流れるし、それでいてストーリー性もあるじゃないですか。そういった映画音楽ならではの多様さが好きでした。だから学校で作曲の勉強をするうちに、いつか映画音楽のようなものを作りたいと、漠然と思っていました。

『Cinematic』はこれまでのJazztronikのトレードマークでもあったクラブジャズやハウスミュージックなどの打ち込みのサウンドから一転して、生楽器による大編成楽団をフィーチャー。印象的なメロディーが耳に残るピアノソロからスタイリッシュなモンドミュージック、さらにはタンゴまで、野崎さんの雑食性を見事に映し出した、これまでにないテイストの音楽を聴かせてくれます。

野崎:大楽団をフィーチャーしたのは、ドラマ音楽などの劇伴は打ち込みで作ることも多いので、今は打ち込み以外のことをやりたいモードだったことも大きいです。それに映画音楽って、本来なら脚本やテイストなどいろいろな要素が関わってくるので、その中で純粋に自分が作りたいと思う映画音楽をやるのは難しいですよね。ですから、『Cinematic』は自分が影響を受けた映画の音楽をイメージした作品なんです。例えば“Caranvan”は映画『ロシュフォールの恋人たち』を、“Manon And Giorgia”なら映画『愛と宿命の泉』と『黄金の七人』で登場するヒロインの名前をモチーフにしていますね。

「本当の表現欲求」を満たさないと
音楽をやってきた意味がない

野崎良太(Jazztronik)

野崎さんは今後『Cinematic』をシリーズ化して、自分の好きな映画からインスピレーションを受けた映画音楽をどんどん制作していくとのこと。その他にも楽器演奏に長けたプレイヤーを集め、コンピューターと人力演奏の有機的な融合を実験する新たな活動など、最近の野崎さんの活動からはどこか振り切った印象を受けます。

野崎:僕は今38歳なんですけど、「何かもういいや」って思うんです(笑)。なぜそう思うかというと、もちろんリリースしたCDを買ってもらえたら嬉しいのですが、音楽ってもはや、自分のやりたいことを曲げてまで、多くの人に聴いてもらえることを追究する必要はないと思っていて。それよりも自分が音楽を始めるきっかけになった「本当の表現欲求」を満たせていないと、ここまで音楽をやってきた意味がないなと。Jazztronikを始めたときにやりたかった音楽は『Cinematic』のようなものだったんですけど、当時の僕にはこういう音楽をやる技量がなかった。というのも、若い頃は、いいメロディーを思い付いても、そこから発展させることができないんですよ。いいメロディーというのは、歌いやすいものだけでなく、複雑でも不思議と耳に入ってくるものもあって、後者のほうは最近になってようやく作れるようになってきたんです。それと、僕のプロフィールには、ダンスミュージックやブラジルなどのさまざま音楽ジャンルが書かれているんですけど、未だに実現できていないキーワードが映画音楽だったんです。それを実現できたという意味でも、このアルバムは自分のデビュー作とも共通する雰囲気があると思っています。

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