『音楽を、やめた人と続けた人』

『音楽を、やめた人と続けた人』〜PaperBagLunchbox 空白の5年とその後〜 第6話:愛の爆心地から運命の丘へと向かうサードアルバム『Ground Disco』

音楽を、やめた人と続けた人 第6話:愛の爆心地から運命の丘へと向かうサードアルバム『Ground Disco』

連載『音楽を、やめた人と続けた人』  〜PaperBagLunchbox 空白の5年とその後〜 第6話:愛の爆心地から運命の丘へと向かうサードアルバム『Ground Disco』をdel.icio.usに追加 このエントリーをはてなブックマークに追加 連載『音楽を、やめた人と続けた人』  〜PaperBagLunchbox 空白の5年とその後〜 第6話:愛の爆心地から運命の丘へと向かうサードアルバム『Ground Disco』をlivedoorクリップに追加 (2011/01/12)

伊藤のドラムカウントがB面の始まりを告げる。勢い良く加速を続けていく"明け星"は、前向きな勢いと情熱的な躍動感が聴き手の心を奮い立たせるPBL流のエモーショナルロックだ。暗闇に閉ざされていた夜が明けていく、その光の先にある新しい世界の幕開け。ワクワクして、嬉しそうに歌うナカノヨウスケの声と、その情景を描き切った恒松の音響世界に心が躍る。

ナカノ:その当時続いていた苦しい状況のなかで、それでも「イエーィ!!」って前を向いてる曲を作りたくて。こういう歌詞はこれまで書いたことがなかったけど、キラキラしててすごい好きなんです。

ナカノヨウスケというボーカリストは、自己の内面にある感情を伝えることにかけて、デビュー当時から天才的な能力を発揮していた。そしてその才能は、心の暗闇を表現する場合にしか力を発揮しないのかといえば、決してそんなことはなかったのだ。ワクワクして興奮が収まらない、楽しくて、嬉しくて、喜びに溢れている、そういう前向きな種を植え付けることもできたのだ。アルバム12曲を、十二面相のように歌い分けたナカノの魅力が分かりやすく表出した一曲だった。

そしてその次に流れてくのは、PBLのデビュー曲(05年9月発表)であり、代表曲の一つでもある"オレンジ"の2011年バージョンだ。ぼく個人も大好きだったこの曲は、この5年を経て様変わりしている。第二幕に至ったPBLの変化が最も分かりやすく聴き取れるトラックだ。

まず、恒松によるシンクが大々的に導入されたことによって、"オレンジ"は完全なるダンスミュージックへと昇華された。きらびやかな音色や流れるような打ち込み、空間と楽曲を見事に牛耳るサウンド展開など、実に見事なアレンジを施している。

恒松:このバージョンになってから、ライブでも"オレンジ"が武器になり始めたんです。もともとお客さんを自然と笑顔にさせられる曲だったけど、以前は演奏の問題もあって、お客さんを踊らせられなかった。でもこのバージョンになってから、高揚感を感じてもらえるようになったみたいで。この曲ってもともとダンスミュージックだから、このバージョンがこの曲の正しいあり方だったのかもしれない。

こうしてPBL唯一無二のキラーチューンは再び命を注ぎ込まれたわけだが、ナカノの歌も、この5年の変化をしっかりと体現してる。

ナカノ:これは歌い方も分かりやすく変えました。ファーストの頃は、切羽詰まっている感じが美徳になっていたけど、今はもうそうじゃないから。力を抜いて、自由になったバンドの空気が出てると思います。

このサードアルバムは、楽曲的にもアレンジ的にもバラエティ豊かなアルバムに仕上がっている。しかし一方で、音楽性が多岐にわたるアルバムというのは、軸がブレているように受け取られることもある。このアルバムが、弾語りもあればダンストラックもあり、ギターロック、ポップスなどジャンルを横断しながらも作品として力強い軸を持ち得たのは、ジャンルを横断しながらもアルバムの司会者で居続けられた、ナカノヨウスケの表現力によるところが大きいのかもしれない。

”オレンジ”の流れを引き継ぐように、"マイムを踊れ"もシンクを押し出したダンサブルでムードのある楽曲で、"オレンジ"同様に恒松のキーボードによる大胆なアレンジが施されている。

この曲と次の"ストップ"は、歌のメロディーラインがこれまでになくキャッチーで、PBLの「ポップス=大衆性」への気概がうかがえる一幕になっている。大きな舞台を目指すバンドとして、PBLがこうした「分かりやすさ」へ挑戦する姿はとても頼もしく、この先のPBLの音楽を占う上で重要な2曲だ。

当然ながらほとんどのバンドは、バンドとしての成功を目指して「分かりやすさ」への挑戦を行う。その一方で、その「分かりやすさ」こそバンドの個性を殺す元凶にもなるわけだが、前述の通りPBLは、サウンドの大部分を恒松に委ねたことによって、サウンドとしての個性を見事に確立してみせた。その上でさらに、プロデューサーである加藤が楽曲に見事な奥行きを与えていた。

加藤:"ストップ"の、ギターやシンセがガンガン攻めるイントロとか、全体的な歌メロとは分かりやすくてすごくいいんだけど、それだけだとつまらない。それで"ストップ"は、そういう分かりやすい時間軸と、それとは全く別物の時間軸が絡み合うようにしたの。だから、間奏部分では別の世界が浮き立っては消えていくし、基本はギターロックなのに、曲の最後はトラディショナルな世界観へ移行してて、マンドリンまで入ってる。そういう感じで、レコーディングとしては一番トライして、曲の構成や歌詞まで随分いじった。これぞまさに、プロデューサー強権発動って感じ(笑)。

こうして今回のアルバムには、短期間にも関わらず、細部に至るまでリスナーの意識を刺激する演出が施されている。

恒松:そうやってレコーディング中にアレンジを考えていったのは今回が初めてだったけど、すごい良い勉強になった。あと俺は仕事を発注されると燃えるタイプだから、みんなから出てきたアイディアを形にするのがスゲー楽しかったな。

加藤:今回は俺が仕切らないと絶対に間に合わないから仕方ないけど、とにかく「レコーディングって自由なんだよ」ってことは伝えられたと思う。こういう現場を経験したら次はバンドだけでもできるようになるし、だから、次の作品が今から楽しみなんだよね。

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