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音楽を、やめた人と続けた人 第6話:愛の爆心地から運命の丘へと向かうサードアルバム『Ground Disco』

連載『音楽を、やめた人と続けた人』  〜PaperBagLunchbox 空白の5年とその後〜 第6話:愛の爆心地から運命の丘へと向かうサードアルバム『Ground Disco』をdel.icio.usに追加 このエントリーをはてなブックマークに追加 連載『音楽を、やめた人と続けた人』  〜PaperBagLunchbox 空白の5年とその後〜 第6話:愛の爆心地から運命の丘へと向かうサードアルバム『Ground Disco』をlivedoorクリップに追加 (2011/01/12)

そして、アルバムのリード曲としてPVも制作された"watching you"。せっかくなのでぜひ一度この曲を聴いてみてもらいたい。

恒松のアレンジやキーボードサウンドが特筆されがちなPBLだが、このバンドの肝は、リズム隊の二人と言って過言ではない。楽曲を支える役割を担いながら、耳に残る印象的なフレーズを連発し、主演のごとく歌い上げる能力をもった個性的なリズム隊だ。とくに倉地の生み出すベースラインのインパクトは、PBLのサウンドを決定付けている。もう一方、ドラム伊藤の魅力は、ナカノに負けないほど情感豊かな演奏をするところだろう。とくに盛り上がりにかけての爆発力。その情熱的なエネルギーがバンドサウンドの基盤にあるから、ナカノの歌がより高みへといけるのだ。

ファーストアルバム期のPBLは、このリズム隊二人が楽曲を引っ張り、恒松は音響的なキーボードで世界観を構築する、という図式が多かった。恒松は口ずさめるようなフレーズより、「浮遊感」という言葉に象徴される雰囲気やムードを曲に与え、曲の情景を演出していった。そうやって恒松が、個性的すぎる他3人の接着剤としてバンドを機能させていたのだ。ステージ上で異彩を放ち、聴衆の目を奪うイケメンキャラの恒松だが、実は縁の下の力持ちでもあるのだから、カッコいい(ズルい!)。

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ところがサードアルバムに至って、こうしたバランスに変化が生まれた。リズム隊のレベルアップやシンクの導入もあって、恒松が明確なメロディーラインを紡ぎ出し、曲を印象づける重要なテーマフレーズを次々と生み出しているのだ。端的に言えば、そうした変化によって、PBLの曲は非常に「わかりやすく・外向き」になった。耳に残るキャッチーなメロディーが小気味よく配置され、あっという間に曲が終わったように感じるほど、聴き手に時間の存在を忘れさせる。この"watching you"も、そうしたPBLの新しい魅力が凝縮された1曲だった。

PBLの第二幕を語る上でもう1つの大きな変化は、ナカノヨウスケがボーカリストとして、作詞家として、より高みへ昇ったことにあるだろう。曲の冒頭、恒松の強烈なシンセサウンドが鳴り止んだ後、ナカノがバンドに先立って独唱するシーン。その艶やかな声の響きを聴けば、ナカノヨウスケというボーカリストの魅力を感じ取ってもらえるはずだ。

そして、こうした歌の成長を促したのも、加藤のディレクションの妙だった。周囲の理解を超えるほど、声の鳴りにこだわったのだ。何度か歌わせては、「今日はダメだからもう帰れ」と言う。それでも結局、当初予定していた4日間ではOKテイクを録れなかった。

加藤:"watching you"と"Ground Disco"の他に、"キスレイン"と"運命の丘"の4曲がどうしても録れなくて、ツアーの合間に2日間レコーディングスタジオを追加して。でも、絶対にこの2日じゃ終わらないと思ってたの。そしたら何と、1日で4曲全部録れてしまった(笑)。ツアーで驚くくらい成長してたんです。

ナカノ:さっき(前話)でも話した通り、ツアーでお客さんの空気をつかめるようになったり、加藤さんからも「今みたいのがいい状態の声だよ」って教えてもらって、色々なことが分かるようになったんです。ツアーも好調で、そのいい空気のまま追加レコーディングで歌えたっていうのも大きかった。

ツアーに出てバンドが急成長するという話はままあることなのだが、ナカノはまさにこのツアーで脱皮を繰り返した。"watching you"では、その結晶ともいえる素晴らしい歌を聴くことができるはずだ。しかもこの歌、レコーディングでよくある修正や歌い直しを一切していない、完全な一発録りだというから驚きだ。

リード曲"watching you"の次曲は、PBL史上他に類がないほどポップな仕上がりをみせた"キスレイン"だ。直訳すれば「キスの雨」。曲の明るさ同様、<贈るよ 最高のキスを おくれよ 君のキスも>と歌うナカノの歌詞も、これまでになく浮ついていてドキドキする。

ナカノ:「キスをー!!!」って熱唱しちゃう歌(笑)。こういう歌を歌ってお客さんが喜んでくれたら、俺無敵だなーって。すごく開けてる歌で、スケールの大きいロックバンドにしかやれないような曲だと思う。

恒松:俺は、ギターで考えたベタベタなパワーコードのフレーズをそのままキーボードで弾いてる(笑)。

伊藤:この曲はね、今までやったことないくらい定番ロックなリズムパターンで、最初はノリが全然つかめなかった。

加藤:そう、最初はただの産業ロックだった(笑)。入口が産業ロックなのはいいんだけど、そのままだとただのつまらない音楽で終わってしまうから、出口ではまったく違う景色がみえるようにしたいと思って、レコーディングをしながら色々試したの。終盤にかけてどんどん展開していく部分はもう、俺が考えた英詞とメロディーをようちゃんに歌ってもらって、ようやくゴールした曲だった。

 

PBLにとってチャレンジングな曲に続くのは、これまでのナカノ本来の世界観が100%溢れ出た"VELVET"。<それでも心がうずくなら この命 世界に差し出す覚悟をきめろ>というナカノの独唱から始まるこの曲は、挫折の泥沼のなかで、何とか前を向こうともがき叫ぶ歌だ。激しくも悲哀に満ちた美しい曲でもある。

恒松:ナカノくんの歌がとにかくすごくてコントロールルームで聴いてる側はみんな、その強烈なエネルギーに冒されてグデーとなってた(笑)。ファーストの頃ってこういう曲ばかりだったんだろうなって。でも、出来上がってから聴くとスゲー好き。

ナカノ:確かにこの曲は、昔のPBLを愛してくれてる人たちが一番求めてる曲だと思う。ちょうキツい時期に作った曲で、その当時自分がやりたかったこととか、苦しかった気持ちとか、全て素直に出てる曲。それをみんなが「いい曲だからやろう」って言ってくれたのが、俺はすごく嬉しくて。でもまさか、みんなグデってるなんて思わなかった!! 全然理解できない!(笑)

と笑うナカノだが、こうしたナカノの暗部を描いた楽曲の存在に、加藤は頭を悩ませていた。12曲をどのように並べれば、アルバムとしてベストな抑揚を奏でるのか、答えが出なかったのだ。

加藤:この曲と"帰れない街"は、「もう勘弁してください…」ってこっちから止めるほどナカノの暗さが全開になってるんだけど、それをアルバムのどこに置いたらいいのかすごい悩んだんだよね。離すのもおかしいけど、並べるともう、現実に戻ってこれないくらいのパワーを持ってるし。それで、「A面/B面に分ければいいんだ!」って思いついたの。


そうした加藤の思惑を大いに賞賛したくなるのが、A面の最後に配置された"月のまばたき"の存在である。

前曲"VELVET"の強烈なリフレインを浴び続けたあと、スピーカーから静かに波の音が流れ出し、ハッと我に返る。そうして現実に引き戻されたところに、ナカノが優しい声で弾語りを始める。さっきまであんなに苦しく歌っていた男が、こんなにも優しい声で、優しい歌を歌うのか。自分の心に安らぎと平穏が戻ってくるのが手に取るように分かる。アルバムを流れで聴く喜びを噛み締められた一幕だった。

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