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今さら人に聞けない、写真再入門 Vol.2 龍馬の秘密も暴く? 初期写真の魅力を高橋久美子と探る

今さら人に聞けない、写真再入門 Vol.2 龍馬の秘密も暴く? 初期写真の魅力を高橋久美子と探る

内田伸一
撮影:相良博昭

初期写真の体験講座——写真の原点「カメラ・オブスクラ」を被る!

ここで体験型授業(?)に移り、初期写真の仕組みを教えてもらうことに。現れたのは、ふつうの段ボール箱の中央に虫眼鏡を取り付けたものです。そこにトレーシングペーパーを貼ったもう1つの箱を重ね、頭からかぶります。

東京都写真美術館のスクールプログラムで使われている段ボールカメラ(写真家・佐藤時啓さんの考案)
東京都写真美術館のスクールプログラムで使われている段ボールカメラ(写真家・佐藤時啓さんの考案)

高橋:おぉ、「NO MORE 映画泥棒」の人みたい!

三井:でしょ? こうして被って、あとは重ねた箱をずらしてピントを合わせる……ぜひやってみてください。

高橋:わ~、ちゃんと画像が、窓の外を走ってる電車が見える! 上下左右が逆になるんですね。

三井:これが写真の原理です。箱の中が「暗室」で、そこに虫眼鏡を通して光が入る。それがトレーシングペーパーに投影される仕組みですが、光はレンズに入ってきた角度から曲がれないので、上下左右が反転するんです。あと被写界深度(ピントの合う範囲)がすごく狭くて、つまりピントが合うところとぼやけるところの差が強調されます。画像としてはそこが格好いいでしょう?

高橋久美子

高橋:うんうん。こうして見ると、ふつうの景色も別世界、ドラマチックに感じますね。見たいもの、残したいものをくっきり撮れて、見たくないものはピントを合わなくていいというか……これも肉眼との大きな違いなのかな。

遠い目で先を見つめる坂本龍馬の有名な肖像は、「質の悪い複製写真」の特徴だった?

続いて取り出されたのは、下岡蓮杖や上野彦馬の時代の印画紙「鶏卵紙」です。文字通り、卵の白身で紙をコーティングしたもの。紙繊維の上に卵の透明な層を作ることで、その上に塗る薬品(硝酸銀)を発色させる画像が、よりクリアに見えます。

高橋:ははぁ~白身ですか……。でも、卵って腐ったりしないんですか?

三井:薬品が入ってますし、卵は少量で乾いてますから大丈夫。なお、この時代の「ネガ」にあたるものは、ガラス板に画像を焼き付けるガラス湿版。当時はこれで原板を作り、そこから鶏卵紙にプリントしました。さらに、プリントに顔料で色を付けたものなども登場します。見る側にとって、文字通り写るものが色付く感じがありますね。

東京都写真美術館のワークショップで制作された鶏卵紙のプリント
東京都写真美術館のワークショップで制作された鶏卵紙のプリント

高橋:当たり前だけど「昔の時代にも色があったんだな」っていう、リアリティーが湧きますね。場合によっては色があるほうが、レトロとか地味とかいう「脚色」がされないとも感じます。

一方で、このガラス湿版そのものを鑑賞することもできます。三井さんが見せてくれたのは、小さな桐箱に収められた年代物の「ガラス写真」。透明から薄いアイボリーに向かうグラデーションによるネガ像なので、裏に濃色の紙などを入れるだけで、ポジ像がくっきり浮かび上がります。

三井:ところでこの写真、左に座っている人に見覚えありませんか?

高橋:ん……あっ三井さん? めっちゃ似てる!

三井:曾祖父です(笑)。ケースに記述があり「明治27年5月18日 三井和平 36歳」とあります。ちなみに僕は今45歳。

三井学芸員の曾祖父が写る、明治時代の「ガラス写真」
三井学芸員の曾祖父が写る、明治時代の「ガラス写真」

高橋:曾お祖父さんが自分より年下のときの姿が、こんなリアルに見られるなんて……何とロマンチック。

三井:僕はこの曾祖父に会ったことはありません。それでも、写真1枚で「こんなに自分と似てるのか!」とわかる。絵画じゃここまでインパクトはなかったと思います。顔だけでなく、指先の感じまで似てるっていう(苦笑)。

高橋:それは親近感も湧きますねぇ。やっぱり写真はすごい。こうして世代の離れた子孫にまで、自分の存在を伝えることができるんですから……。

さらに三井さんは、ネガ原板として使うガラス湿版も見せてくれました。また、感光紙の上に直接、葉っぱや切り紙(ネガでも可)を乗せて焼き付ける「日光写真」も体験。写真は光だけでなく影の部分も重要だと教えてくれます。

 

三井:龍馬の写真は、海の向こうを見るような遠い眼差しで知られますが、それは質の低い複製写真に見られる特徴なんです。じつは原板のガラス湿版には瞳も綺麗に写っています。同じ写真もよく調べると……という例で、そういうことが結構あります。僕ら研究者は、資料にない部分を妄想するのも仕事のうちですが(笑)、逸話や想像だけでなく「写真そのものを見る」ことがやっぱり大切です。

高橋:日光写真は自分でもやってみたい! 昔の写真師も今の私みたいに、「へぇ~面白い!」「こんなんあるんだ?」って感じで、いろんなことをやってみたんでしょうね。

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インフォメーション

東京都写真美術館(2016年秋リニューアルオープン予定)

書籍情報

『下岡蓮杖: 日本写真の開拓者 (Shimooka Renjo: A Pioneer of Japanese Photography)』
『下岡蓮杖: 日本写真の開拓者 (Shimooka Renjo: A Pioneer of Japanese Photography)』

2014年3月13日(木)発売
価格:3,024円(税込)
発行:国書刊行会

『思いつつ、嘆きつつ、走りつつ、』
高橋久美子
『思いつつ、嘆きつつ、走りつつ、』

2013年2月20日(水)発売
価格:1,296円(税込)
発行:毎日新聞社

連載情報

相撲情報マガジンTSUNA

「高橋久美子のどすこいコラム」連載中

プロフィール

作家・作詞家。ロックバンド・チャットモンチーのドラム・作詞家として活躍後、作家に。ももいろクローバーZやSCANDALなどへの作詞提供も話題となる。近著に『ヒトノユメと高橋久美子が行く!』、エッセイ集『思いつつ、嘆きつつ、走りつつ、』(毎日新聞社)など。

高橋久美子(たかはし くみこ)

三井圭司(みつい けいし)

東京都写真美術館学芸員。19世紀写真史を専門に研究し、手掛けた展覧会には、『夜明けまえ 知られざる日本写真開拓史』(2007年より4回シリーズ、美術館リニューアル後に総集編を開催予定)、『没後百年 日本写真の開拓者 下岡蓮杖』(2014年)などがある。

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