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今さら人に聞けない、写真再入門 Vol.2 龍馬の秘密も暴く? 初期写真の魅力を高橋久美子と探る

今さら人に聞けない、写真再入門 Vol.2 龍馬の秘密も暴く? 初期写真の魅力を高橋久美子と探る

内田伸一
撮影:相良博昭

幕末~明治の写真師列伝——絵師出身のアイデアマン・下岡蓮杖

続いては「日本人写真師」に迫ります。先ほどの薩摩藩のように、写真術は軍事やビジネスにもつながるため、幕末までは機密的に研究が行われていたと推測されています。対して開国後の日本に誕生した日本人の写真師たちによる写真館は、写真がより身近になる下地を作り、日本の写真が海外へ広がるきっかけにもなりました。彼らは外国人に写真術を学び、1860年代に相次いで写真館を開業します。

三井:日本初の写真スタジオは、アメリカ人の商人であり写真家、オリン・フリーマンが横浜に開いたもの。そこで鵜飼玉川(うかい ぎょくせん / 日本初の商業写真家)が学び、やがて自ら東京で写真館を始めます。続いて下岡蓮杖(しもおか れんじょう)が横浜で、上野彦馬(うえの ひこま)が長崎で開業します。いずれも日本最初期の写真家たちですね。

高橋:私、『没後百年 日本写真の開拓者 下岡蓮杖』展(東京都写真美術館、2014年)を観に行きました。彼はもともと画家だったんですよね。

下岡蓮杖『(糸つむぎ)』鶏卵紙に手彩色 1863-1876年頃 東京都写真美術館蔵
下岡蓮杖『(糸つむぎ)』鶏卵紙に手彩色 1863-1876年頃 東京都写真美術館蔵

下岡蓮杖は、絵の師匠の使いで訪れた旗本屋敷で、ダゲレオタイプ写真に出会って驚嘆したといわれ、一転して写真を志し、紆余曲折の末に1862年に写真館を開きました。外国人向けの記念写真や美人画風写真のほか、日本の暮らしを伝える写真も手がけます。

三井:蓮杖は絵筆では実現できない写真の表現力に惹かれ、その道に進んだのではないでしょうか。そんな彼の写真は画面が絵画的に構成されていたりして、今見ても「お、格好いい」と思わせるものがあります。

高橋:私、下岡蓮杖のそこが好きなんです。当時の写真は記録を超えて、アートとしても撮られたり、見られたりという感じもあったんでしょうか?

三井:当時、写真は依頼を受けた専門家が撮るもので、今のように細分化していませんでした。でも現代の目で見ると、美術や報道に近い特徴を感じる写真もある、ということですね。ただ、そういう点では、僕は内田九一(うちだ くいち)も構図作りに長けていたと思っています。明治天皇の写真が有名で、歌舞伎の写真も多く手がけた人。没後に彼をモデルにした歌舞伎『魁写真鏡俳優画』も生まれたくらいです。32歳没で、短命だったのが残念。

高橋:内田さんは、大久保利通や桂小五郎を撮っていて、坂本龍馬の奥さん・おりょう(楢崎龍)といわれる女性の写真も残していますよね。

内田九一『長崎港』 明治5(1872)年 アルビューメン・プリント
内田九一『長崎港』 明治5(1872)年 アルビューメン・プリント

三井:一方で、下岡蓮杖はすごいアイデアマンで新しいモノ好き。彼は92歳まで生き、コーヒー、ビリヤード、牛乳屋、乗り合い馬車などの事業にも関わったんです。他方、晩年は絵画に立ち戻った人でもありました。

自作カメラなど機材にこだわり、書物も残した理系写真師・上野彦馬

さて、もう一人の写真師・上野彦馬は、下岡蓮杖とは色々な意味で対照的。坂本龍馬、高杉晋作、桂小五郎、中岡慎太郎など幕末の志士を多く撮影したことでも知られます。化学者として長崎の医学伝習所で働いていたときに写真を知り、技術的関心と共にアプローチしていきます。

三井:彦馬は出発点が化学なので、やはり技術的なところで、非常にクリアで丁寧な画像を追究した写真に見受けられます。

高橋:たしかに家族がほのぼの写る、とかじゃないですね。みんな真正面を向いて「決めてる」感じ。

三井:そこも理系っぽいというか、自由な逸脱はあまり許さず、バシっと定型に決めたがる写真。そこが格好いいと言う人も、または味気ないとも言う人もいるかもしれません。

上野彦馬『題不詳(田崎道孝像)』 明治4(1871)年 アンブロタイプ
上野彦馬『題不詳(田崎道孝像)』 明治4(1871)年 アンブロタイプ

そんな彦馬の写真研究は、自らカメラを作る挑戦から始まったとか。感光材に用いる薬品なども研究しますが、当初、成果は充分満足のいくものではありませんでした。転機は、スイス人カメラマン、ピエール・ロシエとの出会い。

三井:ロシエの機材を借りて撮ったら、超簡単にいい写真が撮れたようで。「結局、機材なんじゃない?」となったんでしょうか(笑)。結局ロシエを通じて機材一式を買い取るんですが、それが150両の大金。一緒に研究していた津藩(三重県)士に工面してもらい、上手くいきました。ただ、その報告に行くと、今度は「いいねぇ、キミ、うちの藩で働きなさい」と故郷の長崎を離れざるを得なくなってしまう。でもそこで、写真技術も含めた化学書『舎密局必携』を執筆し、帰郷後に写真館を開くんです。

高橋:写真術の書物も残したんですね。さすが理系。下岡蓮杖も上野彦馬も、それぞれの生き様、人柄もすべて写真に出ている気がして、興味深いです。

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インフォメーション

東京都写真美術館(2016年秋リニューアルオープン予定)

書籍情報

『下岡蓮杖: 日本写真の開拓者 (Shimooka Renjo: A Pioneer of Japanese Photography)』
『下岡蓮杖: 日本写真の開拓者 (Shimooka Renjo: A Pioneer of Japanese Photography)』

2014年3月13日(木)発売
価格:3,024円(税込)
発行:国書刊行会

『思いつつ、嘆きつつ、走りつつ、』
高橋久美子
『思いつつ、嘆きつつ、走りつつ、』

2013年2月20日(水)発売
価格:1,296円(税込)
発行:毎日新聞社

連載情報

相撲情報マガジンTSUNA

「高橋久美子のどすこいコラム」連載中

プロフィール

作家・作詞家。ロックバンド・チャットモンチーのドラム・作詞家として活躍後、作家に。ももいろクローバーZやSCANDALなどへの作詞提供も話題となる。近著に『ヒトノユメと高橋久美子が行く!』、エッセイ集『思いつつ、嘆きつつ、走りつつ、』(毎日新聞社)など。

高橋久美子(たかはし くみこ)

三井圭司(みつい けいし)

東京都写真美術館学芸員。19世紀写真史を専門に研究し、手掛けた展覧会には、『夜明けまえ 知られざる日本写真開拓史』(2007年より4回シリーズ、美術館リニューアル後に総集編を開催予定)、『没後百年 日本写真の開拓者 下岡蓮杖』(2014年)などがある。

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